かくれんぼが大好きな天の川
すっかり秋も深まり、夜空の透明感がいっそう増したある晩のことです。
ココアちゃんは、いつもより少し早くパジャマに着替え、窓辺に腰掛けていました。
今夜の手元には、小さなタッパーに入った手作りのマシュマロがあります。
お砂糖とゼラチンをふんわり泡立てて作ったマシュマロは、まるで小さな雲のカケラのように柔らかく、表面には白い粉砂糖が優しくまぶされていました。
「今夜は風が少し冷たいけれど、お空の星たちがとってもくっきり見える」
ココアちゃんが息を吹きかけると、窓ガラスが少しだけ白く曇りました。
その曇りを小さな指先で拭うと、夜空の向こうから黄金色の三日月がスルスルと降りてきます。
「ウララ〜! ココアちゃん、こんばんは! 今夜はとっても空気が澄んでいて、遠くまで見渡せる最高の夜だよ!」
三日月の上に立ったモコが、フワフワの手を大きく振っています。
モコの真っ白な体は、今夜の清らかな星空の光を浴びて、どこか真珠のように優しく輝いて見えました。
「こんばんは、モコちゃん! 風が少し冷たいから、今日はあたたかい格好をしてきたの」
ココアちゃんは、パジャマの上に羽織ったピンクのカーディガンをぎゅっと抱きしめながら、軽やかに三日月ブランコへと飛び乗りました。
「わあ、ココアちゃん、その手に持っているフカフカしたものはなあに? まるでぼくの仲間みたいに柔らかそう!」
モコが目を輝かせて覗き込んできます。
「これはね、お家で作ってきたマシュマロだよ。モコちゃんみたいに真っ白でフワフワなの。はい、召し上がれ!」
ココアちゃんがタッパーの蓋を開けてひとつ手渡すと、モコは両手で包み込むようにしてマシュマロを受け取り、大切そうにお口へ運戯ました。
「んん〜っ! お口の中でフワッと消えて、優しい甘さが広がるよ! ぼく、このお菓子だ〜い好き!」
モコのお顔が幸せそうにほころび、ほっぺたがピンク色に染まります。
二人は甘いマシュマロを味わいながら、三日月に揺られて夜空の高くへと昇っていきました。
「ねえ、モコちゃん。今夜は星がたくさん見えて綺麗だけれど、なんだか天の川が見当たらないわ。いつもなら、お空の真ん中に白い光の川が流れているのに……」
ココアちゃんが夜空を見上げて不思議そうに首を傾げました。
いつもなら、無数の小さな星たちが集まって、大きな川のように光り輝いているはずの天の川が、どこにも見当たらないのです。
「あはは! ココアちゃん、実はね、天の川はなくなっちゃったわけじゃないんだよ。天の川はね、時々『かくれんぼ』をするのが大好きなんだ!」
「えっ、かくれんぼ!? 川が? どうやって隠れるの?」
「ふふふ、天の川を創っている星たちはね、いたずらっ子ばかりなんだ。暗い雲の陰に隠れたり、星くずのモヤの中に身を潜めたりして、ぼくたちが探しに来るのを待っているんだよ。よし、今夜は天の川を探す大冒険に出発だ!」
モコが「出発進行〜!」と声を上げると、三日月ブランコはグンとスピードを上げ、夜空の奥深くへと進み始めました。
夜風がココアちゃんの髪を優しくなでていきます。
二人は周りの暗闇に目を凝らしながら、天の川の形跡を探しました。
「あっちの黒い雲のうしろかな? ううん、ちがう……あそこはただの雨雲さんね」
「こっちの大きな星の影はどうかな? ……あ、これもちがうや。ここは赤ん坊星のお昼寝ベッドだ」
なかなか天の川は見つかりません。
夜空は広大で、隠れられる場所が無限にあります。
「う〜ん、困ったな……天の川の星たちは、一度隠れるとなかなか出てきてくれないんだ」
モコが困ったように頭をかきました。
その時、ココアちゃんは名案を思いつきました。
「そうだ! モコちゃん、天の川の星たちは、甘いものが大好きだったよね?」
「うん! 甘い匂いがすると、すぐに集まってくるよ!」
「じゃあ、このマシュマロの魔法を使ってみよう!」
ココアちゃんはタッパーから残りのマシュマロをひとつ取り出すと、それを指先で小さく千切って、三日月の上から夜空の闇に向かってパラパラと撒きました。
そして、モコの『ひみつのポケット』に入っていた「星くずシュガー」を少しだけ分けてもらい、マシュマロの上にふりかけたのです。
すると、粉砂糖と星くずが混ざり合い、甘く香ばしい香りがフワリと夜空全体に広がっていきました。
「お〜い! 天の川の星たち〜! 美味しくてフワフワのマシュマロがあるよ〜!」
ココアちゃんとモコが声を揃えて叫ぶと——
シュワシュワシュワ……!
遠くの暗闇の中で、微かな光の粒がパチパチと弾け始めました。
そして次の瞬間、暗い雲の隙間や、大きな星の影から、無数の小さな光の粒が一斉に飛び出してきたのです。
「わあぁぁ……!」
飛び出した星たちは、甘い香りに導かれるように、ココアちゃんたちの周りに集まってきました。
ひとつひとつの星はとても小さいけれど、何千、何万という星たちが集まると、それはまるで眩しい光の帯のようになり、夜空を横切る大きな大きな「光の川」へと姿を変えました。
「みーつけた! 天の川さん!」
モコが嬉しそうに叫ぶと、天の川の星たちは「見つかっちゃった!」と言わんばかりに、チカチカと楽しそうに点滅しました。
天の川は、三日月ブランコのすぐ足元を優しく流れています。
その輝きは、まるで水晶の細工のように美しく、川の表面からは青や銀、淡い紫色の光がゆらゆらと立ち上っていました。
「すごい……! こんなに近くで天の川を見たのは初めて!」
ココアちゃんが感無量で吐息をもらすと、天の川の星たちは、お礼にとココアちゃんとモコの周りを優しく包み込み、光の渦を描いてクルクルと踊ってみせました。
「ふふっ、天の川さんも、ココアちゃんのマシュマロと『かくれんぼ』ができて、とっても楽しかったみたいだね」
「うん! 見つけられて本当に良かった。夜空には、探せば探すほど、素敵な秘密が隠れているんだね」
川のせせらぎのような光の瞬きと、甘いマシュマロの香りに包まれて、二人はいつまでも夜空の真ん中で輝く天の川を眺めていました。
どんなに広い夜空でも、仲良しの友達と一緒なら、どんな宝物だって見つけられる——そんな温かい気持ちが、ココアちゃんとモコの胸いっぱいに広がる秋の夜でした。




