おばけのモコのひみつのポケット
すっかり秋の気配が混じり始めた夜。
街の屋根や公園の木々は濃い影となり、静かに眠りについていました。
ココアちゃんは、今夜もピンク色のパジャマの袖を少しだけたくしあげて、自分の部屋の窓辺に腰掛けていました。
手元には、お気に入りの小さな絵本と、今日お母さんにおねだりして買ってもらった、カラフルなキャンディの包み紙が置かれています。
「モコちゃん、今日はどんな面白いものを見せてくれるのかな……」
ココアちゃんが夜空を見上げてつぶやくと、まるでその声を合図にしたかのように、ひんやりとした優しい夜風が部屋の中に滑り込んできました。
風に乗ってやってきたのは、黄金色に輝く三日月と、その背中にちょこんと乗ったフワフワのおばけ、モコです。
「ウララ〜! ココアちゃん、こんばんは! 今夜もとっても素敵な夜空だよ!」
モコは三日月の上でぴょんぴょんと跳ねながら、嬉しそうに手を振りました。
その姿はまるで、できたての真っ白なマシュマロのようです。
「こんばんは、モコちゃん! 見て! 今日はね、フルーツ味のキャンディを持ってきたの」
「わあ、キャンディ! 赤や緑や黄色で、まるで夜空に浮かぶ小さな星たちみたいに綺麗だね!」
ココアちゃんが三日月ブランコへ飛び乗ると、二人はいつものように並んで座りました。
ゆらり、ゆらりと揺れる三日月の上で、キャンディを口に含むと、甘くて甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がります。
「ねえ、ココアちゃん。いつもココアちゃんから美味しいお菓子をもらってばかりだから、今日はぼくから、とっておきの秘密を見せてあげるね」
モコはそう言うと、満足そうに自分のフワフワとしたお腹をぽんぽんと叩きました。
「秘密? モコちゃんの秘密ってなあに?」
「フフフ……実はね、ぼくのお腹には『ひみつのポケット』があるんだよ!」
「えっ! お腹にポケットがあるの?」
ココアちゃんが驚いて目を丸くすると、モコは誇らしげに胸を張りました。
モコのお腹をよく見てみると、真っ白なフワフワの毛の間に、小さな切れ込みのようなフリルがついています。
モコがそこに小さな丸い手をすっと差し込むと、まるで柔らかい雲の中に手が吸い込まれていくようでした。
「ぼくはね、夜空を旅しながら、みんなが落とした『すてきなもの』や『宝物』をこのポケットに集めているんだ。何が出てくるか見ていてね!」
モコはゴソゴソとお腹の中を探り始めました。
お腹の中から「ジャラジャラ」「ポロンポロン」と不思議で綺麗な音が聞こえてきます。
「う〜ん、これじゃない……あ、これでもないな……あ! これだ!」
モコがポケットから最初に取り出したのは、透明な小さなガラスの瓶でした。
中には、まるで夕焼けをそのまま閉じ込めたような、あたたかい橙色に光る液体が入っています。
「わあ……綺麗! これはなあに?」
「これはね、『一番星のあくび』を集めた瓶だよ。夜が明ける直前、一番星が『ふぁ〜あ』っておっきなあくびをした時に、こぼれ落ちた光を集めたんだ。これを開けるとね……」
モコが瓶のコルクの栓をちょっぴり緩めると、中からぽかぽかとした心地よい風がふわりと溢れ出し、周りのひんやりとした夜気をやさしく包み込みました。
「すごいわ、とってもあたたかい! 心がほっとする匂いがする」
「でしょう? 寒くて眠れない夜に、これを開けるとすぐに心がポカポカして良い夢が見られるんだよ」
モコは大事そうに栓を閉めると、それをポケットに戻し、再びゴソゴソとお腹を探り始めました。
「まだまだあるよ! 次は……じゃじゃーん!」
次に飛び出してきたのは、見たこともないような細長い形をした銀色の楽器でした。
フルートのようですが、表面には小さな星の模様がたくさん刻まれています。
「これは『風の笛』。夜風のメロディを奏でる楽器なんだ」
モコがその笛にそっと息を吹き込むと、言葉では言い表せないほど美しく優しい音色が夜空に響き渡りました。
ピロリ〜ン、ポロロン……
その音色はまるで、夜空の星たちが歌っているかのようです。
音が聞こえると、周りを飛んでいた小さな星たちが楽しそうに集まってきて、笛の音に合わせてくるくると輪を描いて踊り始めました。
「なんて綺麗な音色……! モコちゃん、演奏も上手なのね!」
「えへへ、お星さまに教えてもらったんだよ。……あ、そうだ! ココアちゃんに一番見せたかったのはこれだった!」
モコは風の笛を仕舞うと、今度は両手を奥深くまで突っ込みました。
そして「うーんとこしょ!」と声を上げながら引っ張り出したのは、真っ赤なハートの形をした、大きな大きなチョコレートの鍵でした。
「わあ! ハートの形をしたチョコレートの鍵! こんなに大きなチョコレート、見たことないわ!」
その鍵は、ココアちゃんの顔と同じくらいの大きさがあり、表面は滑らかに磨かれていて、甘いココアとミルクの香りが漂っています。
鍵の先端には、黄金色のリボンが結ばれていました。
「これはね、お月さまの奥深くに隠されている『お菓子の扉』を開けるための、特別な鍵なんだ。でもね、一人じゃ大きすぎて重いし、鍵穴まで持っていけないんだよ」
モコはお腹の上で大きなチョコの鍵をかかえながら、ちょっと困ったように笑いました。
「お菓子の扉!? そこには何があるの?」
「そこにはね、世界中の甘い夢が集まってできた、お菓子の世界が広がっているんだって! チョコレートの城や、綿菓子の雲、キャンディの川があるんだよ!」
「ええっ! そんな素敵な場所があるの!?」
ココアちゃんは胸をときめかせました。
お菓子の世界なんて、まるで絵本の中のお話みたいです。
「うん! いつかココアちゃんと一緒に、そのお菓子の扉を開けに行きたいなと思って、大切にポケットにしまっていたんだ」
「モコちゃん……ありがとう! 絶対に一緒に行こうね! 私、モコちゃんのお手伝いをするわ!」
「ウララ〜! 嬉しいな! ココアちゃんと一緒なら、きっとどんな扉も開けられるよ!」
モコは大切そうにハートのチョコレートの鍵をポケットへ仕舞うと、満足そうにお腹をなでました。
モコのひみつのポケットには、夢や希望、そして大切な友達への想いがたくさん詰まっていたのです。
三日月ブランコはゆらゆらと揺れながら、甘いキャンディの香りと、星たちの優しい歌声に包まれて、夜の深みへとゆっくり進んでいくのでした。




