お月さまのほほえみチョコレート
天の川とのかくれんぼから数日が過ぎた頃、夜空には少しずつ変化が訪れていました。
ココアちゃんがお部屋の窓から見上げるお月さまは、以前よりも少しだけふっくらと丸みを帯び、やわらかな黄金色の光を静かに街へ注ぎ込んでいます。
その夜、ココアちゃんが用意していたのは、おうちで丁寧に作った「ホットチョコレート」でした。
小さめの魔法瓶に注がれた濃厚なチョコレートには、ほんのりシナモンの香りとあたたかなミルクが溶け込んでいます。
さらに、小さな容器には、小さく刻んだナッツとアーモンドスライスをたっぷり詰めて持ってきました。
「今夜は風が冷たいから、モコちゃんとあたたかいチョコレートを飲めたらいいな……」
ココアちゃんが魔法瓶をギュッと抱きしめていると、窓の外から「フワフワ、スルスル」と優しい音を立てて、少しふっくらした三日月が降りてきました。
「ウララ〜! ココアちゃん、こんばんは!」
三日月の上から顔を出したのは、いつものようにフワフワと白いモコです。
でも、今夜のモコはなんだか少しだけ不思議な様子でした。頭のてっぺんの小さなフックが、クルクルと時計回りに回っています。
「こんばんは、モコちゃん! ん? なんだか頭の先が忙しそうに動いているね?」
「えへへ、気づいちゃった? 実はね、お月さまが少しずつ大きくなると、ぼくの頭もウキウキして踊りだしちゃうんだよ! 今夜のお月さまはね、とっても『甘い気分』なんだ!」
「お月さまが甘い気分?」
ココアちゃんが首を傾げながら三日月ブランコへ飛び乗ると、モコはニッコリ微笑んで、自分のお腹にある『ひみつのポケット』をごそごそと探し始めました。
「そう! お月さまはね、丸くなっていく途中で、時々お空に甘い魔法をかけるんだ。見ててね!」
モコがポケットから取り出したのは、小さな銀色のスプーンでした。
そのスプーンの先は、星の形にくり抜かれています。
モコは三日月の腰かけているフチのあたりを、そのスプーンでチョンチョンとやさしく叩きました。
すると、どうでしょう!
三日月の黄金色の表面から、まるでとろりとしたハチミツのように、甘くて光るシロップがポタリ、ポタリと滴り落ちてきたのです。
「わあ……! お月さまから、甘い蜜が落ちてくる!」
「これはね、『月のほほえみシロップ』だよ! お月さまが幸せな気持ちになるとこぼれる、特別な甘みなんだ」
ココアちゃんは急いで魔法瓶の蓋を開け、持ってきていたホットチョコレートの中に、その光るシロップを数滴垂らしてみました。
そして、仕上げに刻んだナッツとアーモンドをパラパラと振りかけます。
シロップが温かいチョコレートに溶け込むと、モワモワッと甘く芳醇な香りが立ち上り、カップの表面に小さな小さな輝く星の形が浮かび上がりました。
「さあ、モコちゃん! 一緒に飲もう!」
ココアちゃんが魔法瓶のコップに注いでモコに渡すと、モコは両手で大切に抱えて、フーフーと息を吹きかけながらゴクリと一口飲みました。
「ん〜〜〜っ! あったかくて、とろけるようにおいしい! お腹の底から、ポカポカの太陽が生まれたみたい!」
モコのお顔はあまりの美味しさにふにゃりと柔らかくなり、体全体が「ぽわん」と一回り大きく膨らみました。
ココアちゃんも一口飲んでみると、濃厚なチョコレートの風味の中に、月のシロップの優しく上品な甘さが重なり合い、胸の奥まで温かい幸せで満たされていきます。
カリカリとしたナッツの食感も最高のアクセントです。
「本当に美味しい……! なんだか、お月さまに『いつもありがとう』って言われているみたいな気分」
「ふふっ、お月さまもね、ココアちゃんとぼくが仲良く笑っているのを見るのが大好きなんだよ。ふたりが笑うと、お月さまも嬉しくなって、もっとあたたかく光るんだ」
モコがそう言うと、ふたりが乗っている三日月が「ゆら〜り、ゆら〜り」と心地よく揺れ、まるで子守唄を歌うようにやさしい黄金色の光でふたりを包み込みました。
見上げれば、夜空に浮かぶ星たちも、甘いホットチョコレートの香りに誘われて、いつもより少しだけ優しく点滅しています。
「ねえ、モコちゃん。お月さまが満月になる頃には、どんな素晴らしいことが起きるのかな?」
「それはね……満月の日だけ開く、とっておきの秘密があるんだよ。でも、それはもう少しお預け!」
モコはいたずらっぽくウインクしてみせました。
冷たい夜風のなか、あたたかいホットチョコレートと月のほほえみシロップの甘さに包まれて、ココアちゃんとモコは夜遅くまで、未来の楽しい約束をいくつも交わすのでした。




