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憤怒を背負う者  作者: 縁側×野良猫


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2/10

第2話 鎮怒と、背中に宿る誓い

力が消えたあとに残るのは、痛みと、仲間の手だった。


遺跡都市《眠る巨壁(スリープウォール)》。


その名の意味を、六人は街道の先に姿を現した巨大な城壁を見た瞬間に理解した。


地平を塞ぐように、壁が横たわっている。


一枚ではない。


外側の城壁。その奥に、さらに高い壁。その向こうにも、崩れかけた塔と城壁の上端が幾重にも重なって見える。長い年月に削られ、ところどころが崩落しているにもかかわらず、その規模だけは少しも損なわれていなかった。


近づくにつれ、街道にも変化が現れた。


土の下から古い石畳が覗き始め、やがて道そのものが石へ変わる。だが、敷き詰められた石の半分近くは砂に埋まり、割れ目から伸びた草が風に揺れていた。


六人の足音だけが、その上を進んでいく。


グラードは歩きながら、無意識に左腕を動かした。


鈍い痛みが返ってくる。


《鎮怒》。


《憤怒護界》を使ったあとに訪れる、強い消耗。


先ほどまでの戦闘で負った傷はセラの治療を受けている。それでも、身体の奥へ沈んだ重さまでは消えていなかった。


一歩ごとに、重装金属鎧が普段より重く感じられる。


「……でっか」


ノクスが呟いた。


ヴェルナが杖を肩に預けたまま、城壁を見上げる。


「でかいだけなら、まだいいんだけどね」


「何かある?」


「あるから嫌なのよ」


ヴェルナの紫の瞳が細くなる。


「この、生きてる感じ」


六人は、巨大な外壁の切れ目へ近づいていた。


かつて門だったのだろう。左右には太い石柱が残り、その上に渡されていたはずの構造物は半ば崩れ落ちている。


だが、その表面には無数の線が走っていた。


文字。


そして紋様。


風雨に晒され、石そのものが摩耗しているというのに、その線だけは不自然なほど鮮明だった。


アルマが立ち止まった。


「待って」


全員が止まる。


アルマは壁際へ寄り、刻まれた紋様を指先でなぞった。


「防衛紋」


リオンが剣の柄へ手を置く。


「まだ動くのか?」


「動く」


アルマが指を離した。


その直後。


触れていた場所を中心に、ごく淡い光が走った。


一瞬だけ。


だが、確かに光った。


ノクスの耳がぴくりと動く。


「何百年前の遺跡なんだよ、ここ」


「古代文明はそういうことをするのよ」


ヴェルナが肩をすくめる。


「作った人間がいなくなっても、命令だけは残る。忘れられても、壊れるまで働き続ける」


石壁の隙間を風が抜けた。


低い音がした。


唸り声にも似ていた。


セラがグラードの横へ並ぶ。


「グラード」


「ん?」


「《鎮怒》、さっきより重くなってない?」


グラードは少しだけ左肩を回した。


痛む。


「……まだ残ってる。だが、歩ける」


「歩けるかどうかを聞いてるんじゃないの」


セラは彼を見上げた。


「止まるべきときに、止まれるかって聞いてるの」


「……分かってる」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶん?」


声が低くなった。


ノクスが、そっと一歩離れる。


ヴェルナも何も言わず距離を取った。


リオンだけが平然としている。


「怒らせるな。機兵より面倒だ」


「聞こえてるわよ、リオン」


「聞こえるように言った」


グラードは小さく息を吐いた。


身体は重い。


だが、進める。


それなら進む。


アルマが遺跡の奥へ視線を向けた。


「ここから隊形を組む。グラードが前。リオンは半歩後ろ。ノクスは先行して左右の死角を確認。私とヴェルナは後方。セラは中衛」


「了解」


リオンが答え、グラードの横を通り過ぎる際に言った。


「余計な無茶はするな。今日は俺が線を引く」


グラードは眉を上げる。


「お前が言うか」


「言う」


即答だった。


ノクスが笑いを噛み殺し、そのまま先へ走った。


六人は《眠る巨壁》の内側へ入った。


外から見た以上に、そこは巨大だった。


城壁の内側には幅の広い石造りの街路が伸び、その両側には崩れた建物が並んでいる。壁だけを残したもの。屋根が落ち、内部まで砂に埋もれたもの。二階部分が街路へ崩れ、瓦礫の山になっているもの。


都市だった痕跡だけが残っている。


だが、人の気配はない。


聞こえるのは六人の足音と、どこか遠くを抜ける風の音だけだった。


グラードは前を歩く。


左手にはタワーシールド。


右手には特注のメイス。


普段なら、盾の重さなど意識もしない。


今日は違った。


左腕の奥に残る《鎮怒》の鈍痛が、盾の重量を一歩ごとに伝えてくる。


先行していたノクスが、崩れた石柱の陰でしゃがみ込んだ。


片手を上げる。


全員が止まった。


ノクスは地面を指差している。


砂の上に、複数の跡が残っていた。


人の靴跡。


それも新しい。


さらに、その横。


石畳の砂を深く押し潰した、大きな窪みが一定の間隔で続いている。


「足跡……新しい」


ノクスが立ち上がる。


「人間のと――重いのが混じってる」


「重い?」


セラが眉をひそめた。


「金属だと思う。何かでかいのが歩いた跡」


アルマがしゃがみ込み、窪みを調べる。


「古いものじゃない」


「誰か先に入ってるってこと?」


ヴェルナが周囲を見回す。


「それと、何かが動いてる」


アルマが立ち上がった。


直後だった。


壁面の防衛紋が光った。


一つ。


二つ。


三つ。


街路の奥へ向かって、次々と淡い光が灯っていく。


まるで。


眠っていたものが、順番に目を開いていくように。


アルマが弓を取った。


「来る」


地面が震えた。


ゴゴゴ……。


石と石が擦れ合う低い音が、街路の奥から響く。


ヴェルナが杖を構える。


「起動するわ」


石床の一部が割れた。


砂と石片を押し退けながら、巨大な影がせり上がってくる。


最初に見えたのは頭部だった。


人の顔を模したものではない。石と金属を組み合わせただけの無骨な形状。その中央を、細い青白い光帯が横切っている。


続いて肩。


胴。


巨大な腕。


胸部では青白い魔力核が、心臓のように明滅していた。


古代守護機兵。


グラードよりさらに大きい。


ノクスが一言だけ漏らした。


「……でかい」


「さっきも聞いた」


ヴェルナが返す。


「だって、でかいもんはでかいだろ」


アルマは二人の会話を無視して機兵を観察していた。


「典型的な防衛個体。たぶん侵入者排除型」


青白い光帯が動いた。


六人をなぞる。


そして止まる。


グラードの上で。


「来る!」


巨体が動いた。


一歩。


石床が震える。


二歩目で速度が上がった。


見た目に反して速い。


グラードは盾を前へ出した。


「下がれ」


仲間へ告げると同時に、機兵が右腕を振り上げる。


拳というより岩塊だった。


正面からまともに受ければ、いくらグラードでもただでは済まない。


左足を半歩引く。


腰を落とす。


盾を真正面には向けない。


わずかに角度をつけ、衝撃を外へ逃がす。


機兵の拳が迫る。


グラードは呼吸を止めなかった。


衝撃が来る瞬間に息を吐く。


ドンッ!


金属と石がぶつかる音が、街路を走った。


衝撃が左腕を抜け、肩へ突き刺さる。


グラードは腰をひねる。


受け止めるのではなく、流す。


拳が盾の表面を滑った。


だが――。


「……っ!」


殺し切れない。


身体が押された。


左足が石床を削る。


一歩には届かない。


それでも、確かに後退した。


普段ならあり得ない。


《鎮怒》。


身体が、まだ戻っていない。


機兵は止まらなかった。


左脚を踏み込み、体勢を立て直すより早く二撃目を振り下ろしてくる。


「グラード、二撃目!」


アルマの声。


盾を上げる。


角度を変える。


拳が迫る。


その瞬間。


――木が、砕ける音がした。


一瞬。


目の前の遺跡が消えた。


熱い。


炎。


煙。


幼いグラードは、燃える村の中に立っていた。


今よりずっと小さな身体。


角もまだ短い。


手にしているのは、金属のタワーシールドではない。


ひび割れた木盾だった。


背後で子供が泣いている。


小さな手が、グラードの腰布を掴んで離さない。


遠くで誰かが叫んでいた。


逃げろ、と。


だが、その声は炎に飲まれていく。


目の前には剣を持った人間の傭兵。


男は笑っていた。


獲物を見る目だった。


「どけ、化け物」


怖かった。


木盾が震えている。


いや。


震えていたのは、自分の手だった。


膝も震えていた。


逃げたかった。


それでも。


背中には、もっと小さな者たちがいた。


グラードは唇を噛んだ。


「……守る」


剣が振り下ろされた。


木盾が砕けた。


――ドンッ!


現在が戻った。


守護機兵の拳がタワーシールドを叩いている。


グラードの腕に激痛が走った。


今度は流し切れなかった。


膝が沈む。


石床に亀裂が走る。


それでも。


盾は落とさない。


グラードは右足を踏み込み、身体を押し戻した。


「ヴェルナ!」


アルマが叫ぶ。


「分かってる!」


杖の先端に青白い光が集まる。


「《穿雷》!」


雷撃が街路を走った。


機兵の胸部へ直撃する。


魔力核が激しく明滅した。


機兵の動きが止まる。


一瞬。


「ノクス!」


「はいよ!」


ノクスが瓦礫を蹴った。


真正面からは行かない。


機兵の視界から外れるように側面へ回り、膝裏の関節へ双短剣を叩き込む。


キィン!


火花。


刃が弾かれた。


「硬っ!」


光帯が動く。


ノクスを捉えた。


巨腕が横へ振られる。


「ノクス!」


リオンの声。


だが、ノクスはすでに動いていた。


身を低くして腕の下へ潜り込み、そのまま瓦礫の陰へ転がる。


巨腕が崩れかけた石壁へ叩きつけられた。


石片が弾ける。


「生きてる!」


「ならいい」


リオンの声は変わらない。


アルマが矢をつがえる。


「核の反応、雷撃の直後だけ鈍る!」


矢が飛ぶ。


青白い核の縁へ命中。


火花が散った。


アルマの目が細くなる。


「でも復帰が速すぎる。古代型の反応じゃない」


「どういうこと?」


セラが聞く。


「誰かが手を入れてる可能性がある」


「誰が?」


「あと!」


ヴェルナが再び杖を構えた。


「今考えてる暇ない!」


守護機兵が身体の向きを変えた。


今度はグラードではない。


後衛。


ヴェルナとアルマ。


その間にいるセラ。


「行かせるか」


グラードが踏み込む。


だが。


身体が重い。


一瞬だけ遅れた。


その横を、リオンが抜けた。


大げさな構えはない。


剣の柄に触れたまま、機兵との間合いへ入る。


一歩。


いや。


半歩。


呼吸が消える。


抜刀は最小。


振りも最小。


刃が走った。


音はなかった。


機兵の右腕が、一拍遅れてずれた。


落ちる。


ガラン――!


石と金属の腕が街路へ転がった。


ノクスが目を見開いた。


「……音、しなかったぞ」


アルマが小さく息を吐く。


「《無音一閃流》」


リオンは刃についた微かな粉塵を払い、静かに納めた。


「――零に帰す」


だが。


機兵は止まらなかった。


片腕を失ったまま、後衛へ向かう。


「まだ動く!」


セラの声が響いた。


グラードは盾を握り直す。


左腕が痛む。


呼吸も重い。


《鎮怒》が、身体の奥に沈んでいる。


リオンが振り返らずに言った。


「今日は俺が線を引くと言った」


「分かってる」


「なら休め」


「だが、あいつはお前を抜ける」


「抜かせない」


「万一がある」


リオンが、ほんの少しだけ声を低くした。


「お前な」


グラードは答えなかった。


機兵を見る。


その向こうに、仲間がいる。


胸の奥で熱が生まれた。


怒り。


だが、目の前の機兵を憎んでいるわけではない。


壊したいわけでもない。


ただ。


失いたくない。


それだけだった。


盾を持ち上げる。


セラが気づいた。


「グラード、駄目!」


「……まだいける」


「いけるかどうかじゃない!」


グラードは答えなかった。


機兵が踏み込む。


グラードも出る。


今度は盾を傾けない。


真正面。


受ける。


――木盾が砕けた。


また、あの日の音がした。


燃える村。


幼い自分。


腕から血を流し、それでも立っている。


背中には、泣いている子供たち。


そして。


そっと、背中へ手が触れた。


粗い布を巻いた手だった。


村で一番年老いた、物静かなオーガの女。


「お前は、守る子だね」


穏やかな声だった。


だが、その言葉は鋼のように胸へ残った。


幼いグラードは振り返らない。


前だけを見た。


再び傭兵が剣を上げる。


盾はもう、半分しか残っていない。


怖い。


痛い。


逃げたい。


それでも。


背中には、守るものがいる。


幼いグラードは盾の残骸を握り締めた。


「ここは――」


現在。


守護機兵の拳が迫る。


グラードはタワーシールドを石床へ食い込ませた。


左足を引かない。


腰を落とす。


背中から脚までを一本の支柱にする。


光が走った。


盾。


鎧。


そしてメイスへ。


胸の奥に沈んでいた熱が、爆発するのではなく、身体の中心へ集まっていく。


敵を壊すためではない。


背後へ届かせないために。


「――《憤怒護界》」


光が爆ぜた。


守護機兵の拳が盾へ激突する。


轟音。


砂塵が舞う。


石床が砕ける。


だが。


今度は退かない。


一歩も。


グラードの奥で、幼い声と現在の声が重なった。


「ここは――通さない!」


盾を押し出す。


機兵の上体がわずかに浮いた。


それだけでいい。


右足を踏み込む。


腰を回す。


メイスを大きく振りかぶらない。


近すぎる。


ここでは、それでは遅い。


肘を畳み、肩を引く。


機兵の胸部が開いた瞬間。


足から生まれた力を腰へ通し、背中から肩、腕へ。


全身の重量を短い軌道へ乗せる。


特注メイスが胸部へ叩き込まれた。


轟音。


青白い魔力核に亀裂が走る。


「今!」


アルマの声。


矢が飛ぶ。


亀裂へ突き刺さる。


ノクスが死角から滑り込み、先ほど弾かれた関節ではなく、破損した装甲の隙間へ刃を差し込んだ。


ヴェルナの杖が輝く。


「もう一発――《穿雷》!」


雷撃。


核の光が大きく揺らぐ。


最後にリオンが入った。


半歩。


一閃。


亀裂が走った。


そして。


青白い光が砕けた。


守護機兵の巨体が傾く。


「右へ!」


アルマが叫ぶ。


グラードは盾を引き、倒れてくる機兵と仲間の間へ入った。


巨体の進路を盾の縁でずらす。


機兵は六人から外れた場所へ倒れ込んだ。


轟音が遺跡を揺らす。


砂埃が噴き上がった。


それきり。


動かない。


静寂が戻った。


グラードの盾に浮かんでいた光が、ゆっくり薄れていく。


胸の奥にあった熱も沈んだ。


代わりに。


重い。


身体そのものが地面へ引かれるような感覚が襲ってきた。


「……っ」


膝が揺れた。


《鎮怒》。


今度は、先ほどより深い。


セラがすぐに駆け寄る。


「だから言ったでしょう!」


グラードは盾を杖代わりにして、どうにか立ったまま息を整えた。


「……倒れてない」


「そういう問題じゃない!」


「問題だろ」


「違う!」


怒られた。


グラードは黙った。


ノクスが背後へ回り、さりげなく身体を支えられる位置へ入る。


「背中、任せろ」


「……すまん」


「そういう時くらい、素直でいいって」


その間に、アルマは倒れた守護機兵の胸部へ近づいていた。


砕けた魔力核の欠片を拾い上げる。


淡い青白い光が、内部でまだ弱く明滅している。


ヴェルナも横から覗き込んだ。


「どう?」


アルマは答えない。


欠片を裏返す。


表面に刻まれた細かな術式を追う。


やがて、その表情が変わった。


「……おかしい」


リオンが振り向く。


「何がだ」


「起動条件が書き換えられてる」


ヴェルナの表情から、先ほどまでの軽さが消えた。


アルマが欠片を示す。


「元の防衛命令の上に、別の命令が重ねられてる。自然に壊れたんじゃない」


「つまり」


ヴェルナが低く言う。


「誰かがここを、現役の罠に戻してる」


風が通り抜けた。


古代文字の刻まれた壁面から、また低い唸りが響く。


リオンの手が剣の柄へ戻った。


「敵がいる」


「いる」


アルマが頷く。


「しかも、ここへ来た痕跡が新しい」


グラードは息を整えながら、先ほどノクスが見つけた人間の足跡を見た。


あれは過去のものではない。


誰かが。


この遺跡にいる。


そのとき。


遺跡の奥で、地面が鳴った。


ゴゴ……。


一度。


間を置いて。


ゴゴゴゴ……。


今度は複数の音が重なっていた。


ノクスの耳が立つ。


笑みが消える。


「……一体じゃない」


全員が奥を見る。


「三」


ノクスが耳を澄ませる。


「いや。もっといる」


セラが青ざめた。


「さっきので終わりじゃないの……?」


ヴェルナが乾いた笑いを漏らす。


「古代遺跡って、そういうところよね」


「嬉しそうに言うなよ」


「嬉しくないわよ」


街路の奥。


崩れた建物の向こうで、青白い光が一つ灯った。


さらに一つ。


その奥にも。


魔力核。


守護機兵が、次々と起動している。


グラードは盾を持ち上げようとした。


腕が動かない。


いや。


動く。


だが、遅い。


《鎮怒》が深すぎる。


それでも、前へ出ようとする。


一歩。


その前を。


誰かが横切った。


リオンだった。


剣士はグラードより半歩。


そして、もう半歩前へ出た。


完全に。


グラードの前へ。


「お前は息を整えろ」


グラードは何も言わない。


リオンは振り返らない。


ただ、剣へ手を添えている。


「線は俺が引く」


奥から重い足音が近づく。


一つではない。


石床を踏むたび、遺跡全体が低く震える。


リオンの背中を、グラードは見ていた。


いつも。


自分が仲間へ向けてきた背中。


燃える村で。


幼い自分が、子供たちへ向けていた背中。


あの日。


老婆の手が置かれた場所に、遠い熱が残っている気がした。


守るために、立つ。


守るために、退かない。


それだけだと思っていた。


だが。


今、自分の前には別の背中がある。


リオンが静かに言った。


「――次は守る番だ」


グラードはしばらく、その背中を見ていた。


盾を握る手から、ゆっくり力を抜く。


そして。


「……頼む」


短い言葉だった。


それで十分だった。


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