表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海神の国 アシハラ  作者: KDM
王国編
8/14

砦の落日


 シラナミ砦の中央広場。

 そこは今や戦場の真っただ中だった。

 砦の門は破られ、城壁の一部も崩壊している。

 ヒノモト軍は雪崩のように流れ込み、アシハラ兵は最後の防衛線を築いていた。

 血の匂い。

 土煙。

 怒号。

 剣戟の音。

 すべてが混ざり合い、まるで世界そのものが壊れていくようだった。

「盾を前へ!」

 イズモが叫ぶ。

 残った兵たちが盾を重ねる。

 その直後、ヒノモト兵の突撃がぶつかった。

 ドォン!

 激しい衝撃。

 何人もの兵士が吹き飛ぶ。

 だが防衛線は崩れない。

「押し返せ!」

 ナギも剣を振るった。

 敵兵の槍を弾く。

 踏み込む。

 斬る。

 また次の敵。

 腕は重く、肩は悲鳴を上げていた。

 しかし立ち止まれない。

 ここで崩れれば全て終わる。

 その時だった。

 人波が割れた。

 ヒノモト兵たちが道を開ける。

 そしてその奥から一人の男が歩いてきた。

 黒い鎧。

 赤い軍旗。

 鋭い目。

 タケルだった。

 周囲の兵士たちが自然と距離を取る。

 それだけで彼が特別な存在だと分かった。

 ナギも前へ出る。

 広場の喧騒が遠のいたような気がした。

 互いの視線がぶつかる。

「お前がアシハラの王子か」

 タケルが言った。

「お前がタケルだな」

 短い沈黙。

 風が吹く。

 砦の旗が揺れる。

「降伏しろ」

 タケルは静かに言った。

「これ以上死者を増やす必要はない」

「断る」

 ナギは即答した。

「ならば」

 タケルが剣を抜く。

 鋼が光を反射した。

「戦場で決着をつけよう」

 次の瞬間。

 二人は同時に踏み込んだ。

 ガキィィン!!

 剣が激突する。

 火花が散った。

 ナギは驚く。

 重い。

 信じられないほど重い。

 一撃ごとに腕が痺れる。

 タケルは力任せではない。

 無駄がない。

 研ぎ澄まされた動きだった。

 再び斬撃。

 ナギは受け流す。

 横薙ぎ。

 しゃがんで避ける。

 反撃。

 だがタケルは簡単に防いだ。

 まるで先を読まれているようだった。

「まだ若いな」

 タケルが言う。

「だが強い」

 その言葉に嘲笑はなかった。

 本心だった。

 だからこそナギは悔しかった。

 認められている。

 それでも届かない。

 実力の差を感じてしまう。

 ガン!

 剣が弾かれる。

 ナギは後退した。

 息が荒い。

 だがタケルも追撃してこない。

「なぜ戦う?」

 突然タケルが尋ねた。

「国のためだ!」

「国のためか」

 タケルは小さく笑った。

「私も同じだ」

 ナギは一瞬言葉を失う。

 敵だと思っていた。

 侵略者だと思っていた。

 しかし目の前の男もまた、自らの国を背負っている。

 それが分かった。

 だからこそ恐ろしかった。

 悪人ではない。

 信念を持つ敵なのだ。

 その時だった。

 遠くから角笛が鳴った。

 ブオォォォォ!!

 ヒノモト軍の伝令が駆け込んでくる。

「将軍!」

 タケルが振り向く。

「どうした」

「北方で反乱です! 従属国の一つが兵を挙げました!」

 周囲がざわつく。

 タケルの表情が初めて変わった。

 反乱。

 ヒノモトにとって見過ごせない問題だった。

 もし放置すれば連合全体が揺らぐ。

 タケルはしばらく考え込んだ。

 そして剣を納める。

「退却だ」

 副官が驚く。

「しかし将軍!」

「命令だ」

 低い声だった。

 逆らえる者はいない。

 太鼓が鳴る。

 撤退の合図だった。

 ヒノモト兵たちが次々と後退を始める。

 アシハラ兵たちは信じられなかった。

「助かったのか……?」

 イズモが呟く。

 ナギはタケルを見つめる。

 敵将もこちらを見ていた。

「王子ナギ」

 タケルが言う。

「次に会う時は決着をつける」

 そう言い残し、馬へ乗る。

 やがて赤旗の軍勢は東へ去っていった。

 夕日が山々を染めている。

 砦は守られた。

 しかし勝利ではなかった。

 兵士たちの多くが倒れ、城壁は崩れ、門も失われた。

 そしてナギは知っていた。

 タケルは本気ではなかった。

 本気で砦を落とすつもりなら、もっと多くの兵を失っていただろう。

 今回は運良く反乱が起きただけだ。

 次はない。

 夜。

 砦の上でナギは一人空を見上げていた。

 星々が輝いている。

 するとイズモが隣に立った。

「何を考えているのですか」

「タケルのことだ」

 ナギは答えた。

「敵なのに……なぜか分かる気がした」

 イズモは静かに頷く。

「将軍とはそういうものです」

 しばらく沈黙が続く。

 そしてナギは遠く東を見つめた。

 戦いは終わっていない。

 むしろこれからだ。

 ヒノモトは再び来る。

 それも今度はさらに大軍で。

 その時、王都からの早馬が砦へ到着した。

 伝令は息を切らしている。

「王子!」

「どうした!」

 伝令の顔は青ざめていた。

「王都で異変が……!」

 ナギの表情が変わる。

「何があった」

 伝令は震える声で答えた。

「王が倒れました」

 夜風が止まったような気がした。

 アシハラ王国に、新たな危機が迫っていた。

第九話へ続く――

お気に入り登録よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ