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海神の国 アシハラ  作者: KDM
王国編
7/14

若き将軍


 夜明けの光がシラナミ砦を照らしていた。

 だがその光景は美しいものではなかった。

 砦の外には無数の赤旗。

 その数は地平線の彼方まで続いているように見える。

 ヒノモト軍。

 五千を超える大軍だった。

 砦の上に立つナギは、その圧倒的な兵力差に息を呑んだ。

「これが……敵の本隊」

 隣に立つイズモが低く言う。

「今までの戦いは前哨戦に過ぎませんでした」

 その時。

 敵陣から太鼓の音が鳴り響いた。

 ドン!

 ドドン!

 ドン!

 山々が震える。

 やがて赤旗の列が左右に分かれ、一人の騎馬武者が姿を現した。

 黒い鎧。

 黒い馬。

 風になびく赤い軍旗。

 若い。

 だがその姿には王にも似た威厳があった。

「タケルか……」

 ナギは思わず呟く。

 ヒノモト連合最強の将軍。

 その名は西の国々にまで知れ渡っていた。

 タケルは砦を見上げると、大声で叫んだ。

「アシハラの王子に告ぐ!」

 驚いたことに、その声は砦の上まで届いた。

「私はヒノモト将軍タケル!」

 兵士たちが静まり返る。

「降伏するなら命は奪わぬ! 無益な流血を避けよ!」

 砦の上がざわつく。

 だがナギは前へ出た。

「断る!」

 声を張り上げる。

「ここはアシハラの土地だ!」

 兵士たちが歓声を上げる。

「我らは最後まで戦う!」

 タケルはしばらくナギを見つめていた。

 そして小さく笑う。

「ならば力で示そう」

 その瞬間。

 剣が振り下ろされた。

「総攻撃!」

 ウォォォォォ!!

 怒号が山を揺らした。

 何千もの兵士が一斉に突撃する。

 空が黒くなるほどの矢が放たれた。

 ヒュォォォォ!!

「伏せろ!」

 矢が砦へ降り注ぐ。

 木盾に突き刺さる音。

 悲鳴。

 怒号。

 戦場が一瞬で地獄へ変わった。

 さらに投石機が動き始める。

 巨大な石が空を飛ぶ。

 ドゴォォォン!!

 砦の壁が崩れる。

 石片が飛び散る。

 兵士たちが吹き飛ばされた。

「西壁が損傷!」

「負傷者多数!」

 報告が飛び交う。

 だが攻撃は止まらない。

 今度は巨大な攻城塔が前進してきた。

 砦と同じ高さを持つ木の要塞だった。

「弓兵!」

 ナギが叫ぶ。

「火矢を放て!」

 ヒュン!

 ヒュン!

 無数の火矢が飛ぶ。

 攻城塔へ突き刺さる。

 やがて火が燃え広がった。

 黒煙が立ち昇る。

「やった!」

 兵士たちが歓声を上げる。

 しかしその直後だった。

 別方向からさらに二基の攻城塔が現れた。

「なに!?」

 タケルは最初から囮を使っていたのだ。

 攻城塔が砦へ接触する。

 ガン!!

 橋が下ろされる。

 ヒノモト兵が雪崩れ込んできた。

「敵が壁の上に!」

 ついに白兵戦が始まった。

 剣がぶつかる。

 槍が突き出される。

 兵士たちが倒れる。

 狭い城壁の上は混乱の極みだった。

 ナギも剣を抜く。

 一人の敵兵が襲いかかる。

 鋭い斬撃。

 ナギは受け流した。

 続けて反撃。

 敵兵が倒れる。

 だが次の敵。

 また次の敵。

 終わりがない。

 腕が重くなる。

 息が苦しい。

 それでも剣を振るう。

 国を守るために。

 その時だった。

 城壁の向こうで歓声が上がる。

 見ればタケル自身が前線へ出てきていた。

 黒馬から飛び降りる。

 長剣を抜く。

 その動きは信じられないほど速かった。

 一人。

 二人。

 三人。

 アシハラ兵が次々と倒される。

「化け物か……」

 イズモが呟く。

 タケルは単なる将軍ではなかった。

 自ら最前線で戦う武人だった。

 そして彼の存在そのものが兵士たちを奮い立たせていた。

 ヒノモト軍の勢いが増す。

 砦の兵たちは徐々に押し込まれていった。

 ナギは遠くからタケルを見つめる。

 不思議な感覚だった。

 憎むべき敵のはずなのに。

 なぜか目を離せない。

 まるで自分と同じものを背負っているような気がした。

 その時。

 轟音が響いた。

 ドゴォォォォン!!

 砦の正門だった。

 巨大な破城槌が門を打ち砕いたのだ。

 木片が飛び散る。

 守備兵たちの顔が青ざめる。

「門が!」

「破られた!」

 ついにヒノモト軍が砦内部へなだれ込んできた。

 戦況は最悪だった。

 ナギは剣を握りしめる。

 ここで逃げれば生き残れるかもしれない。

 だが砦は失われる。

 そして王都への道が開かれる。

 その瞬間。

 祖国の未来。

 父王の言葉。

 神託。

 すべてが脳裏をよぎった。

 ナギは剣を掲げる。

「アシハラの者たちよ!」

 兵士たちが振り返る。

「まだ終わっていない!」

 その声は戦場に響いた。

「この砦が落ちても、我らの誇りは落ちない!」

 疲れ切った兵士たちの目に再び光が宿る。

「戦え!」

 歓声が上がった。

 そして砦の中央広場で、最後の激戦が始まろうとしていた。

 一方その頃。

 敵陣の最前線では、タケルが静かにナギを見つめていた。

「面白いな……アシハラの王子」

 彼はそう呟く。

 戦いはまだ終わらない。

 むしろ今からが本番だった。

第八話へ続く――

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