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海神の国 アシハラ  作者: KDM
王国編
4/14

東の峠の戦い


 王都へ戻る途中、ナギたちは襲撃を受けた村へ向かった。

 そこは東の山脈へ続く峠道の入り口にある小さな集落だった。

 しかし、到着した彼らの目に飛び込んできたのは無惨な光景だった。

 家々は焼け落ち、黒煙がまだ空へ昇っている。

 倒れた柵。

 踏み荒らされた畑。

 泣き声を上げる子供たち。

 負傷者の手当てをする村人たち。

 ナギは言葉を失った。

「これが……ヒノモトの仕業なのか」

 村長が悔しそうに頷く。

「赤い旗でした。突然現れ、食料と馬を奪って去っていったのです」

 その時、見張りが叫んだ。

「敵だ! 敵が戻ってきたぞ!」

 全員が峠の方を振り向いた。

 木々の間から現れたのは二十騎ほどの兵士だった。

 赤い旗が風にはためく。

 彼らは村がどれほど混乱しているか確かめるために戻ってきたのだろう。

 護衛隊長のイズモが剣を抜いた。

「王子、下がってください!」

 だがナギは首を振った。

「いや、ここで逃げれば村はまた襲われる」

 腰の剣を抜く。

 初めて本当の戦いが始まろうとしていた。

 敵兵たちは馬を駆り、一気に突撃してきた。

 地面が震える。

 蹄の音が近づく。

 ドドドドドッ――!

「槍を構えろ!」

 イズモの号令が飛ぶ。

 アシハラ兵たちは長槍を前へ向けた。

 先頭の騎兵が迫る。

 そして激突した。

 ガンッ!

 一人の騎兵が槍に弾かれ落馬する。

 しかし後続がすぐに押し寄せた。

 剣と槍がぶつかり合う。

 金属音が辺りに響いた。

 ナギの前にも敵兵が現れる。

「ガキが王子か!」

 敵兵の剣が振り下ろされた。

 ナギは必死に受け止める。

 衝撃で腕が痺れた。

 重い。

 訓練とはまるで違う。

 相手は本気で命を奪いに来ている。

 敵が再び剣を振り上げる。

 その瞬間。

 ナギは一歩踏み込み、相手の脇へ剣を叩きつけた。

 敵兵は悲鳴を上げて倒れる。

 ナギの呼吸が荒くなる。

 初めて人を傷つけたのだ。

 だが考える暇はなかった。

「右から回り込まれるぞ!」

 イズモが叫ぶ。

 敵は数で勝っていた。

 少しずつアシハラ兵を包囲し始める。

 その時だった。

 山の斜面から鋭い笛の音が響いた。

 ピィィィッ――!

 次の瞬間。

 無数の矢が森の中から飛び出した。

 ヒュン! ヒュン! ヒュン!

 敵兵たちが驚いて叫ぶ。

「伏兵だ!」

 矢は正確に敵騎兵へ突き刺さる。

 馬が暴れ、隊列が崩れた。

 森から現れたのは峠を守る山人たちだった。

 狩人たちが弓を構えている。

「今だ!」

 ナギは叫んだ。

 アシハラ兵が一斉に前進する。

 崩れた敵陣へ突撃した。

 激しい戦いは数分で決着した。

 敵は死者を残しながら山の向こうへ撤退していく。

 村には歓声が上がった。

 しかしナギの顔は晴れなかった。

 戦場には傷ついた仲間たちが横たわっている。

 イズモも肩から血を流していた。

「勝ったのに……」

 ナギが呟く。

 イズモは苦笑した。

「戦とはそういうものです」

 夕日が山々を赤く染める。

 その色はヒノモトの旗によく似ていた。

 そして遥か東。

 ヒノモト連合の本陣では、若き将軍タケルが報告を聞いていた。

「偵察隊が敗れました」

「そうか」

 タケルは驚きもしない。

 地図の上で指を滑らせる。

 その指先はアシハラ王都を指していた。

「だが相手の力は分かった」

 彼は静かに立ち上がる。

「次は偵察ではない」

 幕舎の外には数千の兵士たちが並んでいた。

 無数の赤旗が風に揺れる。

「アシハラ征伐を開始する」

 その言葉とともに、戦の火は小競り合いから国家同士の戦争へと変わった。

 知らぬ者はいなかった。

 大きな嵐が、もう目の前まで来ていることを

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