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海神の国 アシハラ  作者: KDM
国内編
12/14

封印の島

王都の港で見た青白い閃光。

 その光はほんの一瞬だった。

 だがナギの脳裏から消えることはなかった。

 翌朝、王宮では緊急会議が開かれていた。

 集まったのは将軍ヤシロ、神官長ヒメカ、イズモ、そしてセイランの使者シオン。

 重苦しい空気が流れている。

「昨夜の光について説明してもらおう。」

 ヤシロが言った。

 シオンは静かに頷く。

「まず最初に伝えておく。」

 彼の声はいつになく真剣だった。

「君たちが知る神話は、全て作り話ではない。」

 誰も口を挟まない。

「三百年前、我々の祖先はある存在を封印した。」

 ナギが尋ねる。

「ある存在?」

 シオンは少し迷った。

 だがやがて言う。

「海神だ。」

 部屋が静まり返った。

 海神。

 アシハラではワタツミとして信仰される存在。

 海を守る神。

 漁師たちの守護神。

 だがシオンは首を振った。

「君たちの神話に語られる海神ではない。」

 そして低い声で続けた。

「本物だ。」

 ◇

 数千年前。

 まだセイラン帝国すら存在しない時代。

 海の底から巨大な存在が現れたという。

 嵐を呼び。

 津波を起こし。

 都市を飲み込んだ。

 人々はそれを神と呼び、恐れた。

 やがて古代の王たちは力を合わせ、その存在を封印した。

 封印の場所は東の果て。

 現在のアシハラとヒノモトの間にある海域だった。

「だから我々の祖先はこの地へ来た。」

 シオンが言う。

「封印を守るためだ。」

 ナギは信じられなかった。

 だが地下神殿の秘密。

 父王の失踪。

 昨夜の光。

 すべてが一つに繋がっていく。

「父上もそれを知ったのか。」

 シオンは頷く。

「そして封印を調べに向かった。」

 ◇

 その時だった。

 王宮の外が騒がしくなる。

 兵士が飛び込んできた。

「大変です!」

「何事だ!」

「東から船が来ました!」

 ナギたちは急いで港へ向かった。

 岸には一隻の高速船が停泊している。

 船から降りてきた男を見て、イズモが驚いた。

「ヒノモト兵!?」

 兵士たちが剣を抜く。

 だが男は武器を持っていなかった。

 両手を上げる。

「待ってくれ!」

 息を切らしながら叫ぶ。

「私は使者だ!」

 ナギが前へ出る。

「誰の使者だ。」

 男は答えた。

「将軍タケル様の。」

 周囲がざわつく。

 敵国の総大将。

 その名が出るだけで空気が張り詰める。

 男は懐から巻物を取り出した。

「王子ナギに渡せと命じられた。」

 ナギは受け取る。

 慎重に開く。

 そこには短い文章が書かれていた。

 ---

 王子ナギへ

 もし海で青い光を見たなら、戦争を忘れろ。

 我らは騙されていた。

 封印が破られようとしている。

 三日後、北海の無人島で会いたい。

 来るかどうかはお前が決めろ。

           タケル

 ---

 全員が言葉を失った。

「罠かもしれません。」

 イズモが言う。

「その可能性は高い。」

 ヤシロも頷く。

 だがシオンだけは違った。

「いや。」

 全員が彼を見る。

「タケルも真実に辿り着いたのだろう。」

 ◇

 その夜。

 ナギは一人で王宮の塔にいた。

 星空を見上げる。

 考えがまとまらない。

 父は行方不明。

 ヒノモトは敵。

 だがその敵から協力を求められている。

 その時だった。

 突然、海の方角が青く光った。

 昨日よりも強い。

 そして長い。

 海面そのものが発光しているようだった。

 人々の悲鳴が聞こえる。

 鐘が鳴る。

 ゴーン!

 ゴーン!

 ゴーン!

 ナギは城壁へ走った。

 港の人々も海を見ている。

 そして誰もが凍りついた。

 海の中央。

 青い光の中から。

 巨大な黒い影が浮かび上がっていた。

 山のような大きさ。

 信じられないほど巨大な何か。

 その輪郭だけで船より大きい。

「まさか……。」

 シオンの顔から血の気が引く。

「封印が……。」

 影がゆっくり動く。

 海面が波打つ。

 遠く離れているはずなのに港まで揺れが伝わる。

 そして次の瞬間。

 影の中で二つの光が開いた。

 目だった。

 巨大な目が海の底からこちらを見ていた。

 人々は恐怖で声も出せない。

 神話の存在。

 伝説の怪物。

 それが今、現実になろうとしていた。

 ナギは剣を握る。

 だが分かっていた。

 こんな相手に剣など意味がない。

 そして初めて理解する。

 タケルが言った意味を。

 アシハラとヒノモトの戦争は、もう終わりにしなければならない。

 本当の戦いが始まるのだから。

第十三話へ続く――

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