封印の島
王都の港で見た青白い閃光。
その光はほんの一瞬だった。
だがナギの脳裏から消えることはなかった。
翌朝、王宮では緊急会議が開かれていた。
集まったのは将軍ヤシロ、神官長ヒメカ、イズモ、そしてセイランの使者シオン。
重苦しい空気が流れている。
「昨夜の光について説明してもらおう。」
ヤシロが言った。
シオンは静かに頷く。
「まず最初に伝えておく。」
彼の声はいつになく真剣だった。
「君たちが知る神話は、全て作り話ではない。」
誰も口を挟まない。
「三百年前、我々の祖先はある存在を封印した。」
ナギが尋ねる。
「ある存在?」
シオンは少し迷った。
だがやがて言う。
「海神だ。」
部屋が静まり返った。
海神。
アシハラではワタツミとして信仰される存在。
海を守る神。
漁師たちの守護神。
だがシオンは首を振った。
「君たちの神話に語られる海神ではない。」
そして低い声で続けた。
「本物だ。」
◇
数千年前。
まだセイラン帝国すら存在しない時代。
海の底から巨大な存在が現れたという。
嵐を呼び。
津波を起こし。
都市を飲み込んだ。
人々はそれを神と呼び、恐れた。
やがて古代の王たちは力を合わせ、その存在を封印した。
封印の場所は東の果て。
現在のアシハラとヒノモトの間にある海域だった。
「だから我々の祖先はこの地へ来た。」
シオンが言う。
「封印を守るためだ。」
ナギは信じられなかった。
だが地下神殿の秘密。
父王の失踪。
昨夜の光。
すべてが一つに繋がっていく。
「父上もそれを知ったのか。」
シオンは頷く。
「そして封印を調べに向かった。」
◇
その時だった。
王宮の外が騒がしくなる。
兵士が飛び込んできた。
「大変です!」
「何事だ!」
「東から船が来ました!」
ナギたちは急いで港へ向かった。
岸には一隻の高速船が停泊している。
船から降りてきた男を見て、イズモが驚いた。
「ヒノモト兵!?」
兵士たちが剣を抜く。
だが男は武器を持っていなかった。
両手を上げる。
「待ってくれ!」
息を切らしながら叫ぶ。
「私は使者だ!」
ナギが前へ出る。
「誰の使者だ。」
男は答えた。
「将軍タケル様の。」
周囲がざわつく。
敵国の総大将。
その名が出るだけで空気が張り詰める。
男は懐から巻物を取り出した。
「王子ナギに渡せと命じられた。」
ナギは受け取る。
慎重に開く。
そこには短い文章が書かれていた。
---
王子ナギへ
もし海で青い光を見たなら、戦争を忘れろ。
我らは騙されていた。
封印が破られようとしている。
三日後、北海の無人島で会いたい。
来るかどうかはお前が決めろ。
タケル
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全員が言葉を失った。
「罠かもしれません。」
イズモが言う。
「その可能性は高い。」
ヤシロも頷く。
だがシオンだけは違った。
「いや。」
全員が彼を見る。
「タケルも真実に辿り着いたのだろう。」
◇
その夜。
ナギは一人で王宮の塔にいた。
星空を見上げる。
考えがまとまらない。
父は行方不明。
ヒノモトは敵。
だがその敵から協力を求められている。
その時だった。
突然、海の方角が青く光った。
昨日よりも強い。
そして長い。
海面そのものが発光しているようだった。
人々の悲鳴が聞こえる。
鐘が鳴る。
ゴーン!
ゴーン!
ゴーン!
ナギは城壁へ走った。
港の人々も海を見ている。
そして誰もが凍りついた。
海の中央。
青い光の中から。
巨大な黒い影が浮かび上がっていた。
山のような大きさ。
信じられないほど巨大な何か。
その輪郭だけで船より大きい。
「まさか……。」
シオンの顔から血の気が引く。
「封印が……。」
影がゆっくり動く。
海面が波打つ。
遠く離れているはずなのに港まで揺れが伝わる。
そして次の瞬間。
影の中で二つの光が開いた。
目だった。
巨大な目が海の底からこちらを見ていた。
人々は恐怖で声も出せない。
神話の存在。
伝説の怪物。
それが今、現実になろうとしていた。
ナギは剣を握る。
だが分かっていた。
こんな相手に剣など意味がない。
そして初めて理解する。
タケルが言った意味を。
アシハラとヒノモトの戦争は、もう終わりにしなければならない。
本当の戦いが始まるのだから。
第十三話へ続く――




