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海神の国 アシハラ  作者: KDM
国内編
11/14

海の彼方より来た者

王都アシハラの港は混乱に包まれていた。

 漁師たち。

 商人たち。

 兵士たち。

 誰もが水平線を見つめている。

 霧の中から現れた巨大船団。

 その数は三十隻を超えていた。

 アシハラにもヒノモトにも存在しない形の船。

 高い帆柱。

 巨大な船体。

 まるで海そのものが押し寄せてくるようだった。

 ナギは港の見張り台へ登る。

「旗は見えるか?」

 兵士が首を振った。

「見たことのない紋章です。」

 望遠鏡代わりの青銅筒を覗く。

 白い旗。

 その中央には青い円。

 まるで波を表すような紋章だった。

 その時だった。

 船団の先頭から小舟が降ろされる。

 一隻だけ。

 ゆっくり港へ向かってくる。

「交渉か……?」

 イズモが呟く。

 兵士たちは弓を構える。

 だがナギは手を挙げた。

「待て。」

 小舟は岸へ到着した。

 乗っていたのは三人。

 一人の老人。

 二人の護衛。

 驚いたことに、老人はアシハラの言葉を話した。

「久しいな。」

 誰もが顔を見合わせる。

 老人は微笑む。

「三百年ぶりだ。」

 ◇

 王宮。

 老人は客人として迎えられた。

 名をシオンという。

 年齢は七十を超えているように見えた。

 だが目は異様なほど鋭かった。

「あなた方は何者ですか。」

 ナギが尋ねる。

 シオンは静かに答える。

「我々はセイラン。」

 聞いたことのない国名だった。

「神々の海の西にある国だ。」

 その言葉にヒメカが反応した。

「まさか……。」

 シオンは頷く。

「君たちの祖先が出た場所だ。」

 部屋が静まり返る。

 地下神殿で見た地図。

 失われた大陸。

 タカマノクニ。

 全てが繋がった。

 ナギは身を乗り出す。

「ではアシハラの祖先を知っているのですか?」

 シオンの顔から笑みが消えた。

「知っている。」

 そして低い声で言った。

「だが真実は神話ほど美しくない。」

 ◇

 三百年前。

 西の大陸では巨大な帝国が栄えていた。

 その名はセイラン帝国。

 海を支配し、数え切れないほどの都市を持つ超大国だった。

 しかし繁栄の裏で争いが起きた。

 王族同士の内戦。

 貴族たちの反乱。

 そして宗教対立。

 国は二つに割れた。

「その時、二人の王子がいた。」

 シオンが語る。

「兄と弟だ。」

 兄は西へ残った。

 弟は仲間たちと共に東へ逃れた。

 その弟こそが――

「アシハラとヒノモトの祖先。」

 ナギは息を呑んだ。

 同胞どころではない。

 元は一つの王族だったのだ。

 ◇

 一方その頃。

 ヒノモト本陣。

 タケルもまた同じ報告を受けていた。

「西の船団だと?」

「はい。」

 副官が答える。

「海岸へ上陸しました。」

 タケルは立ち上がる。

 長老たちが顔を曇らせた。

「来るべき時が来たか。」

「やはり奴らだった。」

 タケルは尋ねる。

「知っているのか。」

 長老の一人が頷く。

「セイラン。」

 その名を聞いた瞬間、タケルの表情が変わった。

「まさか本当に存在したのか。」

 長老は重々しく言う。

「我らの祖先を追放した国だ。」

 ◇

 その夜。

 王都アシハラ。

 シオンはナギを港へ呼び出した。

 二人だけだった。

 月明かりが海を照らしている。

 遠くには巨大船団。

 まるで海上の都市だった。

「王子ナギ。」

「何ですか。」

 シオンは海を見つめたまま言う。

「君の父は死んでいない。」

 ナギの心臓が止まりそうになる。

「父上を知っているのか!?」

 シオンは頷いた。

「知っている。」

 そして衝撃の言葉を口にした。

「彼は我々に会いに来た。」

 ナギは言葉を失った。

「そんなはずは……。」

「いや、本当だ。」

 シオンは懐から一枚の布を取り出した。

 そこにはアシハラ王家の紋章が刺繍されていた。

 間違いない。

 父の持ち物だった。

「なぜ……。」

 シオンの表情が曇る。

「彼はある秘密を知った。」

「秘密?」

「この世界が滅びる可能性だ。」

 海風が吹く。

 ナギの背筋が寒くなる。

「何を言っている。」

 シオンはゆっくり振り返った。

 その目は真剣だった。

「アシハラとヒノモトの戦争など小さな問題だ。」

 そして水平線の彼方を指差した。

「本当の敵は今、海の向こうから近づいている。」

 その瞬間。

 遠く沖合で光が走った。

 青白い閃光。

 海面が一瞬だけ昼のように輝く。

 誰も見たことのない光だった。

 シオンは呟く。

「封印が弱まっている……。」

 ナギは理解できなかった。

 だが一つだけ確かなことがある。

 アシハラとヒノモトの戦いの裏で、さらに巨大な運命が動き始めていた。

第十二話へ続く――

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