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海神の国 アシハラ  作者: KDM
国内編
10/14

神々の海

 地下神殿で見つけた古代の記録。

 そしてヒノモトの間者。

 さらに父王の謎の昏睡。

 ナギは眠ることができなかった。

 夜明け前、彼は再び地下神殿へ向かった。

 誰にも告げず、一人で。

 松明の火が石壁を照らす。

 静まり返った神殿の中で、ナギは壁の文字を読み続けていた。

 すると、ある場所で違和感に気付く。

 壁の一部だけ文字が削られていたのだ。

「誰かが消した……?」

 近づいて調べる。

 不自然な傷跡。

 何百年も前に削られたようだった。

 その時だった。

「その先は読んではなりません。」

 突然後ろから声がした。

 ナギは振り返る。

 神官長ヒメカだった。

「ヒメカ殿?」

「王家の者だけに伝わる秘密があります。」

 彼女は少し迷ったような顔をした。

「本来なら王が語るはずでした。」

 ナギは父を思い出す。

 今も眠ったままだ。

 だからこそ知る必要がある。

「教えてください。」

 長い沈黙。

 やがてヒメカは頷いた。

「ついてきてください。」

 ◇

 神殿の最奥部。

 そこには巨大な石扉があった。

 今まで見たどの扉よりも大きい。

 中央には海を象った紋章。

 ヒメカが古い鍵を差し込む。

 ゴゴゴゴ……

 石扉がゆっくり開いた。

 ナギは思わず息を呑んだ。

 その部屋は円形だった。

 中央には巨大な石の地図。

 アシハラ。

 ヒノモト。

 周辺諸国。

 すべてが刻まれている。

 しかし驚くべきはそこではなかった。

 地図の西。

 遥か海の向こう。

 知らない巨大な大陸が描かれていたのだ。

「これは……」

「失われた国です。」

 ヒメカが言った。

「神話ではタカマノクニと呼ばれています。」

 ナギは目を見開く。

 神々の住む国として伝わる場所だ。

「本当にあったのか?」

「少なくとも古代人はそう信じていました。」

 ヒメカは地図をなぞる。

「アシハラの祖先はそこから来たと記されています。」

 ナギは言葉を失う。

 神の末裔ではなく、海を渡ってきた民。

 建国神話とはまるで違う。

「そしてもう一つ。」

 ヒメカが指差した。

 そこには二本の線が描かれている。

 一つはアシハラへ。

 もう一つは東へ。

「同じ祖先を持つ別の集団が東へ向かった。」

 ナギは理解した。

「ヒノモト……。」

 ヒメカが静かに頷く。

「そうです。」

 地下神殿の空気が重くなる。

 つまりアシハラとヒノモトは敵ではなく、遠い昔に分かれた同胞だったのだ。

 ◇

 その頃。

 東のヒノモト本陣。

 タケルは神殿のような建物の中にいた。

 そこには数人の長老たちが座っている。

 彼らはヒノモト連合の最古の一族だった。

「確認できたか。」

 一人が尋ねる。

 タケルは頷く。

「アシハラの地下神殿に記録は残っていました。」

 長老たちが顔を見合わせる。

「ならば間違いない。」

「予言の日が来たのだ。」

 タケルは黙っていた。

 彼は戦士だった。

 だが今語られているのは戦争以上の話だった。

 長老が立ち上がる。

「アシハラの王家は鍵だ。」

「鍵?」

「古代の契約を解くためのな。」

 タケルの目が細くなる。

「契約とは何だ。」

 しかし長老は答えなかった。

「時が来れば分かる。」

 ◇

 三日後。

 王都アシハラ。

 王宮の鐘が鳴り響いた。

 ゴーン。

 ゴーン。

 ゴーン。

 兵士たちが慌ただしく走る。

 ナギも玉座の間へ向かった。

 そこには将軍ヤシロと神官長ヒメカがいた。

 そして王の寝室から来た医師たちも。

「何があった?」

 ナギが尋ねる。

 すると医師は震える声で答えた。

「王が……」

 ナギの胸が高鳴る。

「目を覚ましたのか!」

 だが医師の表情は暗かった。

「違います。」

 その言葉に空気が凍る。

「王が消えました。」

「……何?」

 誰も理解できなかった。

「寝室にいたはずです。」

「ですが朝になると姿がありませんでした。」

 窓も閉じている。

 警備兵も異常を見ていない。

 まるで煙のように消えたのだ。

 その時。

 一人の兵士が駆け込んできた。

「大変です!」

 息を切らしている。

「王都の港で騒ぎが!」

 ナギは走った。

 港へ向かう。

 人々が海を見ていた。

 叫び声。

 ざわめき。

 恐怖。

 そしてナギも海を見た。

 水平線の向こう。

 霧の中。

 そこには巨大な影があった。

 一隻ではない。

 二隻でもない。

 数十隻。

 見たこともない巨大船団。

 白い帆。

 黒い船体。

 どこの国のものでもない。

 誰かが震える声で呟いた。

「幽霊船だ……。」

 だがナギは違うと思った。

 あれは現実だ。

 そして直感する。

 アシハラとヒノモト。

 両国が争っている間に、第三の勢力が動き始めたのだと。

 その時、海風が吹いた。

 まるで遠い昔の神話の時代が再び目を覚ますかのように。

第十一話へ続く――

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