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宴会の夜、レイラの武勇

 大規模討伐は上々の結果に終わり、現在打ち上げという名の大宴会が町中で行われている。


 参加した兵士に探索者、それらを支えた町の者達が一緒になって騒ぎ立てている。当然リオックの姿もその中にあった。


「いやー、リオックさん! 本当にお疲れ様でした! レイラさんもお疲れ様です!」


「……ん」


 この町限定だが、何時もの顔ぶれと言っても過言ではないだろう三人が顔を突き合わせながら楽しく食事をしている。因みに、この三人の中で酒を飲んでいるのはレイラだけなのだが、周囲の空気に引っ張られているのかケイトが一番酔っ払いの様に見えた。


「お二人共お疲れ様でした。何とか乗り切る事が出来ましたね」


 まだ数日入院患者の世話や雑務が残ってはいるが、取り敢えず一区切りついたことで一種の解放感を感じる。ここ数日の慣れない忙しさは自覚しないまま疲労を蓄積していたことが分かる。大規模討伐の終了宣言を聞くとともに身体全体に疲労が押し寄せたのを感じたのだ。


 今この時ばかりは周囲の喧騒も心地よく感じる。周囲の人達も楽しそうに騒いでおり、互いの無事を称え合い、上げた功績を競い合っている。


「それにしても! 聞きましたよレイラさん! 凄い大活躍らしいじゃないですか!」


「……ん?」


「そんな事無いですよ! キルスコアがダントツ一位じゃないですか!」


 ケイトは興奮して前のめりになって話す。若干鼻の穴が膨らんでいるのが可笑しくて笑いをこらえつつも気になる言葉を尋ねた。


「ふふ、ケイトさん、キルスコアとは何ですか?」


「あ、キルスコアとはですね、大規模討伐の功績を公平に審査するための魔術具ですよ。詳しくはしりませんが、一定範囲内の戦闘記録を付ける魔術具らしいです」


 どうやら外部から多くの人を招く大規模討伐でその活躍を公正に評価するために導入されているらしい。五年ほど前から大きな街の大規模討伐で導入されて一定の評価を得ていたのだが、その魔術具を作るのに必要なクリスタルの値段が高くて規模の小さい町や村では導入を見送っていたのだが、去年大量にクリスタルが世に出回りだしてそれまでよりも安く手に入るように成り、国が金額の一部を保証する政策もあって今回の大規模討伐から参加する町村は全体で導入することを決めたのだ。


「そのような便利な物があるのですね。それで、レイラさんのスコアはどうでしたか?」


「……ん?」


 あ、これはレイラもキルスコアなんてもの知らない反応だな。


 彼女には無理をしないように言っておいたので後方から援護程度に攻撃していた(レイラ談)。適度に戦線が崩壊しないように、陣形の薄い処や疲労で本来の力を発揮できない者達を援護していたらしい。


 レイラの射程がどれ程の物なのか知らないが、話を聞いている限りでは今回戦場になった範囲はカバーできていたようだ。森の中では射線が十分に確保できずに十全な援護をできなかったらしいが、それでも彼女に助けられた人の数は両手の指の数では済まないだろう。


「なんと! レイラさんのキルスコアは唯一三桁に到達したんですよ! しかも援護数も二桁半ばで此方もトップです!」


 ケイトは興奮冷めやまぬ面持ちでレイラの戦績を告げる。


「成程、それは凄いですね」


 リオックは同意の意思を示すが、それがどれ程凄い事なのかは分からない。戦場の話は人伝に聞いてはいたが、聞く限りでは自分でも十分に対処可能な範囲だと判断していた。そのような状況で優主な狩人であるレイラなら当然の結果だと思う反面、他の兵士や探索者を情けないとも感じていた。最も、兵士の戦闘方法は隊列を組んだ物なので一概に判断はできないが、それでも対処の仕方が稚拙だと感じた。まあ、指揮官が変わってからはその動きは変わったようだが、それでも多くの数を減らした状態で本来の組織的な戦闘は難しかったようで消極的な戦闘しかできていなかったと聞いている。


これは邪推かもしれないが、最初の指揮官はディエース教と繋がりがあるのではないかと疑ってしまう。少なくともこの元指揮官、ディエース教の作戦に利する事をしているのだ。最も、それはグラスファマの仕事なので、彼がその辺りも調べてくれる事を祈ろう。


「ですよね! だからレイラさんは表彰されるらしいですよ! それに恩賞も授与されるそうです!」


「……ん、辞退済」


「え? ええええええぇぇぇぇぇぇ!? どうしてですか!?」


 レイラがなんてことない様に事の表彰や恩賞を辞退したことを告げた。


 兵士や探索者の中で特に活躍した者達には特別な報酬が支払われる。それは貴金属といったものから、土地や権利、町の重役ポジションなど様々だ。


 だが、これらは優秀な人材を町に縛り付ける為の物でもあり、元よりその町で生活していた者であれば何の問題も無く受け取るのだが、他から大規模討伐の為に参加している探索者達には一つの町に縛り付けられることを良しとせず辞退する者も多い。


 これが大きな街であれば、そう言った事への配慮もあって貴金属や希少な魔導具などで済まされるのだが、人材乏しい町のよう規模ではどうにか繋げとめようと色々画策してくる。こういった時は下手に条件の変更を求めるよりもきっぱり辞退することで明確な意思表示ができ、下手な重しを付けられずに済む。この場合は適当に金で事を済ませて終わらせることが多い。探索者の中には最初から金を提示してほしいと言うものも居るが、これも町という小さな組織が生き残るための一種の生存競争の中で培ってきた手法の一つなのだ。


 実際、全ての探索者が辞退するのではなく、ある程度歳を得て落ち着く場所を探していた者達からしたら有難い申し出でもある。探索者は夢を追い求めるが、加齢と共に現実を見るように成れば落ち着いて暮らせる家とそこそこの仕事があれば十分と言う者も居るのだ。


 ただ、今回レイラはリオックと共に旅をすることが決まっている。元々小さな島で刺激の少ない生活を送って来たレイラにとって安定した生活など惹かれる事は無い。これが仮にリオックも共にとの条件が有れば爪の先程度悩む事もあったかもしれないが、今回彼女は恩賞の話をされた時に鮸膠も無く断ったらしい。


「そうなんですか……でもこの辺りにはダンジョンも無いですから探索者の方には人気がないから仕方ありませんね……」


 珍しく萎んだ声で落ち込みを見せるケイトだが、彼女自身この地に探索者が留まらない理由は理解しているようだ。いくらモンスターの領域と隣接しているとは言っても、ダンジョンほどモンスターと遭遇する事は無いので、この地で探索者が生活するには何処かの組織と契約をして仕事が貰えないと生活の糧を得る事が出来ない。


「でもレイラさんが辞退されたのなら他の方に回されるのではないですか?」


「どうでしょうか? 他の方のスコアは似たり寄ったりなので大々的に表彰される人はいないと思いますよ」


 今回の大規模討伐はイレギュラーが多かったので兵士の中にはそれ程スコアを伸ばせた人はいなかったらしい。


 基本的にハイスコアをたたき出したのは探索者が多く、兵士が抜けた穴を埋めていた人達のスコアは伸びたのだが、その数字は全体的に伸びたので誰か特定を表彰することは無いだろうと言うのがケイトの予測だ。


 上位に位置する探索者の中にはケイトの知り合いも多く、その者達から聞いた話なので信憑性も高そうだ。


「あれ? 先生じゃないですかい。それにケイトちゃんも! えっ!? 眠り姫がなんでここに!?」


 突然声を掛けてきたのは、一般的な探索者が身に着ける服装をした粗野な男だった。片手に松葉杖をついて歩いてくる姿には見覚えがあった。


 彼は一昨日足の骨折で治療院に運び込まれた患者で、リオックとケイトが治療した男だった。彼はこの町に拠点を持つ珍しい探索者で、大規模討伐でも探索者のまとめ役をしていた一人だ。


「あ! ギンさんも打ち上げですか?」


「お、おうよ。それでよ、なんで眠り姫が一緒に居んだ?」


「それは彼女が私の仲間からですよ。それよりその眠り姫とは何ですか?」


 ギンと呼ばれた探索者の口から出た言葉は、何を指し示しているのか分からなくもないが、なんとも安直なその呼び名には眉を寄せざるお得ない。探索者とは往々にして優秀な者に二つ名を付けたがるものだが、それにしても吹き姫は安直すぎるではないだろうか。


「いやね。姫さん警戒に立ってるときに居眠りしてよ。それにその場の指揮官が文句を言おうとした時に真っ先に遠くのモンスターに反応して撃退しちまうもんだから何も言えなくなっちまってそのままそれが二つ名になったのよ」


「……んっ」


 レイラは抗議の声を上げているが、それがギンに届く事は無かった。それに皆の視線が自分に集まっているのに気が付いたのか、少し頬を染めて視線を逸らす。


 なんとも間抜けな理由から付いた二つ名だろうか、彼女の実力は本物だから二つ名が付く事に驚きは無いが、かつて居眠りをして二つ名が付いた者がいただろうか。


 しかもそれが今後一緒に旅する同行者と考えると……夜番はこれまで通り虫達を頼る事にしよう。


 視線をそらし続けるレイラを横目に、先程の話をギンに聞いてみる事にした。


「ギンさん、今回の討伐は探索者のスコアが良かったみたいですが何方か表彰される人はいますか?」


「いや、姫さんが辞退したから誰もいない筈だぞ。まあ結構な数金一封が出るみたいだがな」


 やはりスコアの平均が高くなるとその分条件は厳しくなるようだが、ある意味探索者達にとっては金一封の方が喜ばれるだろう。


 その後、ギンは討伐時のレイラの武勇伝を楽しそうに話してくれた。レイラは自分の事はさらりと流すので、こうやって人からその話を聞けるのは有難かった。


 ギンの話で特に気になったのは、やはり彼女の美貌に引き寄せられた男共の末路だろう。最初は女と侮って少し脅しを掛ければ言う事を聞くと勘違いした者達が股間を潰された。因みにこれが大規模討伐最初の怪我人らしい。続いて戦闘のどさくさに紛れて彼女の美しい身体に触れようとした者達は、レイラが繰り出す吹屋の余波で吹き飛ばされて多くの打撲を作り出した。そして、彼女が寝ているテントに侵入した者達の末路は悲惨だった。大規模討伐二日目の朝、日が昇り始めた頃に一つの悲鳴と共にその惨劇は衆人に晒される事となった。


 朝、とある探索者が起きて早朝の清い空気を胸いっぱいに吸い込んでいる時に、陣地の片隅にそれは在った。


 森の木々に天地を逆に抱き着くように縛られた男達。その全てのズボンが摺り上げられ、醜いものを覆い隠すかのように色とりどりの花々が添えられていた。


 それを見た探索者の悲鳴は人を集め、その騒ぎで起きだして来たレイラの姿もそこにあったらしい。そして、偶然近くに居た者がレイラの零した言葉を拾った。


「……自信作」


 これ以降、レイラにちょっかいを出す探索者は居なくなり、畏怖の視線を集めた。ただ、女性探索者達からは尊敬の念を集めて一部からはお姉様と呼ばれているらしい。


 他にも、レイラの武勇伝を聞きながら、大規模討伐の打ち上げは皆楽しく過ごす事が出来た。


 そして、リオックはレイラを怒らせないようにしようと心に強く誓ったのだった。




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