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事のあらまし、裏の存在

予約投稿に失敗したので本日二話投稿します。

 麻痺患者騒動から三日、大規模討伐が始まって五日が経った。


 あの後、各自が迅速に動いた結果、現在麻痺患者は急速な回復へと向かっている。特に、症状が軽かった者は翌日には戦線復帰が可能なほど回復を見せた。最も症状が重く、話す事もままならなかった患者も、現在多少の不自由こそあれ順調に回復へと向かっている。


 あの後、クレマンが騎士団のトップに進言して、病気の正体とその感染源の確認が早急に行われた。


 幸いと言うべきか、兵士の数に対して防具が大量に余っていたので数個解体する許可は直ぐに下りて、専門の職人に分解させたところ、兵士達の身体から見つかったヒルがブーツやグローブの中に仕込まれていたことが判明した。


 しかも、ご丁寧にも一部の内皮は乾燥させず、寧ろ湿り気を持たせてヒルを長く生き延びさせる工夫が施されていたことが発覚した。


 こうなってくると最早故意に行われている事だと上層部も判断して、兵士に病気への対処を素早く広めたらしい。


 因みに、この病気への対処方法なのだが、至ってシンプルでブーツやグローブを塩で清めるといった方法が取られた。このヒルは乾燥に弱いので塩で水分を抜かれると簡単に死滅する事が分かったのだ。


 だが、それでも軍事物資でもある塩を惜しげもなく導入した軍部の決断に驚いたものだが、ベレンシー曰くどこぞの商会がここ近年安く大量に売ってくれるようになったからこその決断だと言っていた。なんと、その商会の名前はベレッザ商会である。


「リオックさん、お疲れ様です!」


「ええ、ケイトさんお疲れ様です。大規模討伐もそろそろ落ち着いて来たみたいですね」


「はい! 患者さんも少なくなって良かったです!」


 この三日間、運び込まれる患者を只管治療していったのだが、日を追うごとにその数は減少していった。


 今では適度に後退で休憩を取る事も可能となり、昼食もゆっくり取る事が出来る。


「リオックさん、今よろしいですか?」


「はい、どうされましたか?」


 昼食も取って、ケイトと楽しく談笑しているとクレンマから声が掛かった。


「ええ、あの後の事を少しお話しようかと思いまして」


 あの後とは、麻痺患者が続出した事の話だろう。クレンマはその後各部署と事の確認を行ってある程度の内情を聞いているようだ。


「そんな事を部外者の私に話しても構わないのですか?」


「構わないさ。君も今回の事の当事者の一人だと考えている。事のあらましくらいは知っておくべき出だろう」


 それからクレンマは俺達が麻痺患者の対応に追われている時の事と、ここ三日間に判明したことを簡単に話してくれた。


 まず、リオックが立てた予測は概ね間違っていなかった。クレンマから事のあらましを聞いた軍部が素早く装備の浄化し、それ以降麻痺を訴える兵士は現れていない。それに、一部の探索者が個人的に持っていたヒル避けの魔術具を借りて安全に対処できたのが大きかったらしい。


 それと、今回防具を購入した先が判明した。


 これらの装備を揃えたのは、とある国に本店を構える大規模な商会だった。この、とある国とは宗教の影響を色濃く受ける国なのだが、今回の大規模討伐に当たって遠方から態々売り込みに来たらしい。しかも、防具を運んでくる手間を考えれば在り得ない程安く提供されたそうだ。しかも、契約の内容に防具の搬入は順次行われることが記載されており、ヒルが死滅するリスクを減らしている。だが、残念ながらこの商会は既に町から姿を消しており、現段階で足取りを追うのは難しいとの事だ。


 これらの事から、今回の事は人為的に意図されて行われたと断定できるが、相手の目的は未だ不明。これ以上の捜査は大規模討伐と並行して行うのは不可能なので後日に回さられるようだ。


 ただ、進展したこともあった。今回の騒動の原因となったヒルについて詳しい者が現れ、その者から聞いた話を基に対処方を簡略化させたことも事態が早急に落ち着く要因となったのは間違いない。


 ただ、このような状況だから、このヒルについて詳しい人は一時拘束されることになったようだが、この町へ越してきて長く、兵士の中にも顔見知りもいて、本人が協力的であることもあってそれ程大きな問題にはなっていないようだ。


「現在、判明しているのはここまでです。ただ、これ以上の捜査は大規模討伐終了後となりそうですね」


「そうですか。取り敢えず状況が落ち着いたのは好ましいですね。後はこれ以上問題が起こらない事を願うばかりですね」


「ええ、その通りですね」


 リオックの言いようにクレンマは苦笑いを浮かべる。


彼もこれ以上の問題は望む処ではないのだろう。実際、この様な問題が起こる前から彼は精神的な余裕が無いのだからこれ以上心労が祟れば彼が倒れてしまうかもしれない。ただ、全てが悪い事ばかりでなく、今回の事を体験した為かクレンマがここ数日で一皮むけたように見えた。


 その後、クレンマは仕事が残っていると言ってこの場を去って行ったが、その姿は数日前とは違って頼もしく思えた。


「最初はどうなるかと思いましたけど何とかなって良かったですね!」


「ええ、ですが残り日数も気を抜かずに頑張りましょう」


「はい! 頑張ります!」


 その後、午後からの治療もこれといった問題が起こる事無くこの日の職務は終わり、数日振りに確りと休息ができると皆喜んで帰って行った。








『——。以上が現時点で判明している事です』


『ご苦労さん。引き続き監視を頼む。それと並行して計画の進行もな』


『御意』


『あ、あとあっちはどうなってる?』


『順調です。討伐拠点西方30キロ地点に集めてあります』


『そうか、状況次第でぶつける相手が変わるから準備だけはしておいてくれ』


『御意』


「はてさて、どんな意図があるのやら」


 日付も変わり、月明かりも無い闇夜が支配する森の中にリオックの姿があった。


 勤務を終えて仮眠を得た後、森で暗躍する不審者達の動きが活発的となった報告を受けて自らの目で確認するために足を運んだのだった。


「あれが不審者か……」


 リオックの前方300メートル先の少し開けた場所に何人かの人影が集まっていた。光の無い環境では詳しい姿まで確認するのは難しいが、かなりの人数が集まっているのが見て取れる。それに彼らの希薄な気配から、裏の世界で生きる者達であることが分かる。


「さて、目的が何か分かれば良いんだが……」


「……ん。斥候」


「——!?」


 独り言の小さな呟きにまさかの返事が帰ってきて、思わず声が出そうになるのをなんとか押しとどめる事が出来た。


「……ん?」


「レイラ……か?」


「……そう」


「なんでここに?」


 声の犯人はレイラであった。振り向いた先には、暗闇の中でもその美しさを主張する彼女の髪が美しく艶めいている。


 リオックは紛い也にも密偵としての活動をする為、隠密能力、索敵能力共に一般の人に比べて遥かに高い実力を持っている。しかし、そのリオックを用意に発見し、その気配を背後に立たれても感じ取る事が出来ないほど隠す事に長けたレイラの技術は、それらの遥か上を行っていると言っても過言ではない。


「……リオが居た」


「俺を見つけたからここに来たと?」


「……そう」


「そ、そうか」


 誰にも見つからないように移動してきたのに、そんなリオックを見つけたから追いかけてきたと言われてしまっては流石のリオックも自信を消失してしまう。最も、優秀な狩人であるレイラにとっては、リオックの隠密能力など児戯に等しいのだ。


「まあ良い……それで、斥候とは何のことだ?」


「……ん、本体が居る」


「見たのか?」


「……ん、コレ」


 レイラが手渡して来たのは以前にも見たことが有るような幾つかの小さな紙切れだった。そこには、相変わらず符号による暗号が並んでいたのだが、それを読み解いてみた処大規模討伐に参加している者達の情報と本体と言われる者達の所在が書かれていた。


 これらの情報から判断するに、何らかの理由で彼らはこの大規模討伐へ介入する隙を伺っている様に見える。


 大規模討伐で起こった麻痺騒動に、彼らが使っているこの符号、それに大胆にもかなりの数の裏の人間を動員できる組織力から考えて十中八九今回裏に居るのはミスカンティス聖国——いや、ディエース教だと判断して間違いないだろう。


 だが、彼らの目的が分からない。大規模討伐が行われる事など、各国の主要人物であれば知っていて当然のことだ。そんな場所に大量の軍隊を送り込んでも、批難こそされど得る物が有るとは思えない。


「……いや、だからこそ兵の弱体化を狙った。……恩の押し売りか?」


 ディエース教はこれまでも大陸の東へと精力を伸ばすべく色々と画策してきた。リオックはそれらを偶然必然に関わらず阻止している。今回彼らの取った方法は聊か強引と感じるが、この大規模討伐は大陸東側の大掛かりなイベントとも言える。そこに介入した事実を持って大陸東への勢力拡大の足掛かりとして考えている可能性は低くない。それに町一つ危険に陥っている所に救助の名目で介入して、恩を売ったと言う事実を作っておけば列強国も強くは出られない。


 完全なマッチポンプだが、これはそれなりに有効な手である事も事実。いくら露骨な売り込みで、強引に介入してこようとも、救助した事実さえ作ってしまえば幾らでも言い訳は立つ。


「……ん、失敗?」


「ん? ああ、予想が正しければ彼らの思惑は外れただろうな」


 本来なら、麻痺の患者は更に増大して戦線を維持できない程に兵の数を減らせる算段だったのだろうが、レイラに渡された紙切れを見る限り、彼らの計画は大きく狂っている事が窺える。


 これはリオックが麻痺の原因を早急に突き留めて、迅速に対処へ行動を移したのが大きいだろう。元々、兵の動員数も規定に達していないのだから、今回彼らの作戦が成功する見込みは大きかったからこそ万全を期して裏の人間も多人数動員してきたとしたら辻褄は合う。


「ただ、狂信者共は何をしでかすか分からないから監視の継続は必要だな。レイラもそれとなく気にしておいてくれ」


「……分かった」


 彼らの狂信っぷりは常軌を逸している。任務遂行の為なら周囲への配慮など考えずに行動する連中だからこそ、町一つ灰に帰す行動をとって来ても可笑しくないから油断ならないのだ。


「まあ、そうならないように対策はとるがな」


「……ん、ぶつける?」


「あれ? バレてる?」


「……ん、少ない」


 実は、物資に人員ともに足りていないと聞いた時に保険をかけておいたのだが、レイラにはどうやらそれが見抜かれていたらしい。本当は物資不足を引き起こしたトリシアンにでも擦り付けるつもりだったが、こうなれば彼らに押し付けても問題ないだろう。元々モンスターと戦う事を目的として来たのだから文句は無い筈だ。寧ろ感謝してほしい。


「流石だな。ま、既に本体の方にも監視は放ったから相手次第だな」


「……ん」


 大方の方向性が決まったところで、相手方も各所に散会していったので監視の為に一人一人に虫を付けたので何か動きがあれば分かるだろう。


 その後、レイラに付き合って探索者が拠点にしている場所に移動してこの数日の出来事を話した後解散となった。その時、話に出たことなのだが、今回の討伐では探索者達の尽力が非常に大きかったらしい。特に、兵士の中に麻痺症状が現れだしてからの戦線維持に大活躍したのだとか。


 ただ、レイラは自分の活躍はさらりと流すように話すのだが、状況から判断して最も活躍したのは彼女で間違い。どうやら今回戦線を維持できたのは彼女の尽力があったからこそのようだ。




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