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不測の事態、病魔の特定

 大規模討伐二日目、今日は朝から忙しく、夜間勤務の者達から引き継ぐと同時に再び大量の患者を診る事になった。


 基本的に大規模討伐は日中に行われるが、モンスター共は夜間にも襲ってくるのでそれに対処した者が運ばれてくることが有る。それは守りを固めている分、日中に比べて数は少ないがそれでもゼロには成らない。


 それに、大規模討伐ではモンスターの領域に多人数ではあれ、その領域に奥深くに入り込む為夜間の襲撃も非常に多い。


 そういった事情もあり、リオック達が夜間勤務の者達と交代する時もかなりの患者が治療を待っている状態だった。


 ただ、そんな忙しい状況でも、二日目ともなると治療院の者達も慣れたもので昨日よりも効率よく患者の治療を行っていく。そんな忙しなくも昨日程の緊張感がなくなった治療の現場に一つの騒ぎが齎された。


「原因不明ですか?」


「ええ、昨日まではちょっとした麻痺症状だったらしです。しかし、今日になってその症状が進行して今では話す事もままならないとの事です」


「それは穏やかでは無いですね」


「そうなのよね。しかも症状の重軽症は兎も角、結構な人数が同じ症状を見せているのよ」


 昼時に交代で休憩を取っている時に、クレンマとベレンシーが伴ってリオックの下に来て、何事だろうと話を聞いた結果この様な話になった。


「そうですか。しかし、現状ギリギリで保っている戦線でその情報が出回ったら混乱は確実でしょうね」


「ああ、それはですね——」


 リオックの言葉に、現在の戦況も含めてクレンマが持っている情報を開示してくれた。


 現在、状況を鑑みて大規模討伐はある程度消極的な行動しか行えていないらしいが、それでもなんとか戦線を維持しているらしい。


 それで、謎の麻痺症状なのだが、最初の患者が現れたのが昨日リオック達は常に運び込まれる患者に追われ始めた時、謎の病状を患った患者が運び込まれて来た。


最初は簡易治療所にて治療を受けて、初期症状は軽い物だったので薬の投与だけされて症状の経過を観察する事になった。しかし、部分的な麻痺を訴えていたが、治療の甲斐無く効果が無かった。それどころか麻痺していた部分が拡大しており、再度治療を行ったのだが改善がみられる様子がなく、昨夜こちらの治療院へと移されたらしい。


しかし、治療院に移した処でその対処方法がみつかることはなく、現在も時間の経過と共に症状は悪化する一方らしい。


現在、最も症状の重い者は呂律が回らず食事も満足に取れないので喉を通してチューブを繋いで、流動食を直接流し込んでいるような状態だ。


更に、この麻痺に掛った者は痰が溜まりやすく、頻繁に様子を見ないと窒息してしまう恐れもあり、貴重な人手も取られ、それが忙しさに拍車をかけているらしい。どこも人手が足りていない今の状況でこれ以上人手が取られると、組織的な対応が不可能になってしまうので、各部署からこの麻痺症状への対処方法の確立を急かされているが、まるで治療の目途が立っていないのでその意見が聞きたくてリオックを探していたようだ。


 現在、この症状については緘口令が敷かれ、この事について知っているのは極一部の人に限られるが、患者の数が増える一方なので何時情報が洩れても可笑しくない状況だ。そういった観点でも現状の早急な脱却が必要なのだろう。


「それでね、さっき私も診察したのだけどサッパリ分からなかったわ。だから貴方にも診てもらおうと思って探してたのよ」


「はあ、私がですか?」


「そうよ、貴方の様に各地を回って治療している人なら、私達の知らない知識も一杯持ってるでしょ?」


 どうやら彼らはなんとか対処しようとした結果リオックに声を掛けたらしい。因みに、この時隣でケイトも一緒に話を聞いていたのだが、彼女は食事の手を止めることなく只管口へと食事を運び、リオックの物まで手を付けていた。彼女の神経は大樹よりも太いのかもしれない。


「成程、それで私の意見を聞きたいと……。勿論構いませんが、病名が分かるとはかぎりませんよ?」


「はい、それでも今の我々ではどうにもならないので小さなことでも気が付いたら教えて頂きたいのです」


 どうやらクレンマもベレンシーも手詰まりで何でもいいので新しい発見が欲しいようだ。二人は何処か追い込まれているように見える。これは相当周囲からの圧力が強いようだ。どの部署も人手が足りずに精神的に余裕がない中での不測の事態に焦りが有るのかもしれない。


 確かにこれ以上兵士の数が減ると戦線が崩壊するのは素人目に見ても理解できる。昨日の段階で運び込まれた患者の数を考えれば、現在戦線を支えている兵士の数は当初予定した数の半数近い。現状持ちこたえられている事が奇跡と言っても過言では無いのだ。


「分かりました。一度私も診察してみましょう」


 危険を減らす為に医療関係での参加をしたのに、戦線が崩壊されてしまっては洒落にならない。それに後方とはいってもレイラも戦場には居るのでできるだけ早急に対処したい処だ。








「彼は今朝方症状が出たそうよ。現在左脚全体が麻痺しているらしいわ」


 二人に連れられ、麻痺患者のみ集められている部屋へと案内される。そこは治療院の一角にある少し広めの部屋なのだが、そこには数十人の患者が所狭しと並べられていた。


 リオックが案内された患者は比較的症状が軽い者のようで、左脚が動かないのを除けば至って健康に見えた。


「またですかい……」


 その患者はクレンマとベレンシーの後ろに控えるリオックを見ると、少しげんなりした顔をした。


「ごめんなさいね。何度も同じ事聞かれていると思うけどもう一度お願いするわ。今度は広い見識を持った人だから何か対処方法が見つかるかもしれないの、これで最後だからおねがいね」


 そんな辟易した顔をする兵士に、ベレンシーはその手を取って優しく語り掛ける。その行為に兵士の男は頬をそめて視線をそらして答えた。


「し、しかたねぇ。これが最後だからな。早く治療方法をみつけてくれよ」


 兵士の男はぶっきらぼうに答えるも、満更でも無い顔をする。ベレンシーは美人なのでこういった時彼女はその力を最大限利用する。なんだかんだ彼女は強かだ。


「初めまして、私はリオックと申します。診察するに当たり幾つか質問します。何度も同じような質問をされたと思いますがもう一度詳しくお願いします」


「おう、よろしく頼むぜ先生」


 それからリオックは幾つかの質問を兵士の男に投げかけたが、彼はその質問に素直に答えてくれた。最初こそ辟易した感情を隠しもしなかったが、治療法の分からない病に侵されたのは心的負担も大きいのだろう。その表情からは何処かすがるような想いを感じた。


「最後にもう一度お伺いします。症状の自覚をしたのは今朝の目覚めと同時、その後直ぐに医師の診断を受けて、その時はまだ太腿に感覚は残っていたがこの治療院へ移送されている間に太腿までその感覚が無くなったと言う事ですね?」


「ああ、間違いない。運ばれている時は気が付かなかったが、ここに到着した時には太腿に感覚がなかった。ほんと訳分かんねーよ」


「そうですか……それでは一度触診してみますね」


「おうよ」


 兵士の男は椅子に座った状態なので、片足を椅子の高さと同じ台に乗せて太腿から順に膝、脹脛、足首、爪先へと筋肉、筋、関節とくまなく確認するが、麻痺の症状としては少し違和感を覚えた。


 麻痺の症状とは、基本的に神経、又は筋肉組織の損傷によっておこる。戦闘においては麻痺とは、殆どが神経に作用して動きを阻害する物が使われるのだが、どちらにしても起こり得る共通の症状として筋肉の収縮現象がある。


 だが、彼の筋肉は完全に力が抜けており、全く収縮現象が見られなかった。一部には昨日まで激しい戦闘を行った為に筋肉の凝りは診られたが、動かせない事を除けば至って健康的な状態だと感じた。


「ありがとうございます。次は少し刺激を与えてみるので、そのまま動かないでください」


「おう。何かわかったかい?」


「そうですね。麻痺症状として違和感を感じますが、まだ原因は分かりませんね」


「そうかい……」


 リオックの答えに、兵士の男だけでなく、診察を見ていたクレンマやベレンシーも落胆の色を落とす。


「まあ、諦めるには早いですよ。まだ診察の途中です」


 リオックは出来るだけ暗くならないように気負付けながら答えを返す。これは治療を行う者として患者を不安にさせない為の配慮だ。治療の場で嘘はご法度だが、態々患者の不安を煽る様な事も無い。治療とは、それを行う者と行われる者が互いに協力しあって初めて最大の効果を発揮する。


 だからこそ、患者が積極的に治療に協力してくれるように場を整えるのだ。そういった観点では露骨に感情を見せて患者に不安を与えるクレンマやベレンシーの態度はあまり褒められたものでは無い。


「兎に角、診察を続けますね。今度は少し手荒な方法ですが我慢してください」


「お、おう」


 リオックが悪戯小僧のような笑みを浮べながら告げると、兵士の男は少し顔を引きつらせながら答えた。リオックがセリフと共に取り出した木の棒で掌を子気味良い音を立てて叩いた仕草に、これから自分に行われる事を想像したようだ。


「あはは、そんなに怯えなくても痛みはないですよ」


「そ、そうだよな! ……因みに何するんだ?」


 努めて明るく振舞う兵士の男性も、自分が何をされるのか不安なようだ。


「まあまあ、見ていてください」


 リオックは不敵な笑みを消すことなく兵士の男の横に陣取る。そんな姿に、兵士の男だけでなくクレンマやベレンシーまで怪訝な顔をして事の成り行きを見守る。


「いきますよ」


 リオックは掛け声と共に木の棒を兵士の男の膝と脛の間にある窪みへと打ち付けた。


「うおっ!?」「「!?」」


 それと同時に兵士の男の足が蹴り上げる様に撥ねた。そのを見て三者三葉の反応をしめすが、リオックはそれには反応を示さず、至って冷静に思案する。


 最初、リオックは麻痺患者だと聞いて診察していたが、確認した限りで彼の身体に麻痺の症状は見られない。少なくとも、一般的な麻痺症状にある筋肉の裂傷や神経への影響は見られない。


 当然、リオックの知らない麻痺症状の可能性もあるが、これまでこのような症状の麻痺を見たことも聞いたことも無い。


「ふむ、もう少し詳しく調べたいので衣類を脱ぎましょう。ケイトさん、彼を持ち上げてください」


「了解です!」「えっちょっ!?」


 リオックは相手の了承も得ることなく強引にそのズボンをひん剥いた。





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