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レイラの忠告、レイラの気持ち

予約投稿ミスしたので本日二話上げます。

「これで増血薬の完成となります。何かご質問はありますか?」


 大規模討伐前日、昨日の段階で契約を結んだリオックは、既定の薬を作り終えた後ベレンシー達に増血薬の製造方法を伝授していた。


 薬の作成に必要な材料は午前中のうちにレイラに採取をお願いしていた物が届いたので練習も含め、かなりの数を確保できる見込みだ。


「質問が無いようなので実際に作って頂きましょう。作成中に不明点があればいつでもお申し付けください」


 ベレンシーを含めた薬師達は、各々調薬に取り掛かる。彼らにとっては初めての薬になるが、そこは流石と言うべきだろうか、聞いたばかりの薬の作成にも関わらず迷いなく調薬していく。


 特にベレンシーの調薬は初めてとは思えない程迷いの無い動きに、リオックも驚きを隠せなかった。


「——出来たわ。リオックさん確認して頂いても良いかしら?」


「ええ、——はい、素晴らしい出来ですね。問題ありません」


 その後も、他の薬師達も次々と増血薬を完成させていき、どれも問題ないものばかりだった。


 これは薬師達が優秀だというのは間違いないが、ベレッザ商会と提携して広めている薬は、その伝授方法まで確りとマニュアル化されているので、誰にでも理解できるように整えられている。これも、彼らが早く薬の作成ができた一つの要因だろう。


「はい、皆さんどれも問題ないですね」


「そう、このまま作成して良いかしら?」


「そうですね。一応検品は此方でしますので、皆さんは作成していってください」


「分かったわ。それじゃあ皆、調薬を始めて頂戴」


 ベレンシーの掛け声で薬師達は自分の作業場に戻って次々と増血薬を完成させていった。


 最初はリオックも確り確認作業をしていたが、薬師達が二回三回と調薬を成功させると、次第に簡単に確認するに留め、自らも薬の作成に加わった。


それもこれも、誰一人不備を出さないので、時間を掛けて確認するよりも自分も作業に加わった方が効率的だと判断したからだ。


 その後、それ程時間を掛けずに予定していた数を作り終え、全員で検品を行ったが不良品は一つも発見されなかった。


「凄いわ。もう全部作り終わっちゃったのね」


「元々それ程数を必要とする物でもありませんからね」


「そうね……。でも、丁度いいわ。——皆、お疲れ様。本番は明日からだから今日は確り休んで英気を養ってね。今日はこれでお終いにするわ」


 昨日、一昨日と続いて、今日も予定よりも早く作業が進んだ為に、仕事を早めに切り上げる事となった。ある意味、この業種としては考えられない事に薬師達は喜び半分、驚き半分といった表情を浮かべるが、部屋を立ち去る頃には皆嬉しそうにしていた。


 明日からは例年よりもハードな大規模討伐になると思われるので、ベレンシーの皆への配慮もあるのかもしれない。


 各場所に薬を配り人員を残し、残りの人は仕事を切り上げ退室した。その中にはリオックの姿も有り、少し早めの夕食を取る事にした。








「ああ、居ました。リオックさんお客様がお見えですよ」


 リオックが夕食を食べていると、寮長から来客を告げられた。


「お客様ですか?」


「ええ、とってもきれいな女性よ。リオックさんも隅に置けないわね」


 寮長は肘でリオックを小突きながら「うふふ」と笑いながら揶揄う。その表情は悪戯が成功した子供のように無邪気な物だった。


「えーっと、身に覚えは無いのですが、一応確認してきます」


 このまま揶揄われ続けるのも納得がいかないので、リオックは夕食の残りを掻きこんで早々に寮長が案内した客人の元へと向かう。


 そして寮長が客人を案内した客間に待っていたのは、ここ数日毎日顔を合わせているレイラであった。


「ああ、客人ってレイラだったか、どうかしたのか?」


「……ん」


 ソファーに座っていた彼女は、扉の方に視線だけ向けて小さく頷く。


「……リオだけ?」


「ん? ああ、後で寮長がお茶を持ってきてくれるみたいだぞ」


「……そう」


 その後、レイラの正面にリオックが座るのと同時に部屋の扉がノックされて寮長がお茶を持って入って来た。


「失礼しますね。リオックさんのお知り合いでしたか?」


「ええ、私の友人です。あ、態々ありがとうございます」


 リオックは寮長に飲み物のお礼を言う。レイラもそれに習って小さく頭を下げた。


「いえいえ、お気になさらないでください。——でも部屋への連れ込みは禁止ですよリオックさん」


 寮長はいつも通り微笑をたたえているが、その笑顔からは逆らう事を許さないような圧力を感じた。


「え、ええ、心得ています」


「うふふ、それじゃあごゆっくりどうぞ」


 寮長は口元に手を当てて去り際にウィンクをリオックに飛ばして部屋から出て行った。彼女は寮のルールに厳しい割に、ゴシックネタには目が無いようだ。色々と謎を秘める寮長である。


「それで、レイラがここに来るって事は人に聞かれたくない話か?」


「……多分」


 寮長を見送って気お取り直してレイラの訪問について尋ねると、その返答はなんとも曖昧な物だった。


「そうか、何があった?」


「……森に不審な人」


「不審……人物か? まあ、これだけ人が集まれば少なからずそんな人も出て来るだろ」


 大規模討伐が行われるのに合わせて、この町には多くの人が集まっている。特に探索者など、身元がはっきりしない者も多いので、不審者といって逐一調べていてはどれだけ人手があっても足りないのだ。


「……沢山」


「沢山ね……森のどの辺りだ?」


「……南西に広く」


 ここ最近、レイラとの会話にも慣れてきたリオックは、情報量の少ない言葉からも、的確にその内容を読み取る力を身に着けつつあった。


「成程ね……」


 レイラが示した方向は、人の支配権から外れた魔が蔓延る領域だ。そんな所であるからこそ怪しい者達が活動するには打って付けだ。大きなリスクはあるが、人から姿を隠すには絶好の場所だろう。


 リオックは徐に小さな虫達を呼び出して解き放った。その小さな虫達は建物の隙間から屋外へ向かい、レイラの示した方向へと飛んでいく。


「……虫?」


 そんなリオックの姿に、レイラは不思議そうに問いを投げた。


「ああ、あれは俺の力だ。俺は魔術が仕えない代わりに虫を使役してるんだ」


「……ダンジョン産まれ?」


 なにげなくリオックはレイラの疑問に答えたが、その返しはかなり真実に迫るものだった。


「いや、産まれたのはダンジョンの外だぞ。まあ当たったのはどうかしらないが……。レイラは何か知っているのか?」


「……ん、少し」


 人の世界では、魔術が仕えない人間が産まれる理由は解明されていない。それ故に権力者の間では差別の対象になる事もある。リオック自身、ある程度の推測と魔術以上の能力を手に入れたこと自体は悲観してはいないが、自分の力の証明ができるのであれば知りたいと考えるのも素直な想いだ。


「そうか……、まあ、それは今度聞く事にしよう。今はその不審な人についてだ。何かそいつらの特徴はなかったか?」


「……探索者風」


「お、おう……他に何か特徴はあるか?」


「……ん、コレ」


 レイラは、少し考える素振りを見せてから胸の谷間から小さな紙切れを取り出した。


「何だこれ?」


 レイラから受け取った紙には、一見取り留めの無い事が書かれている様に見えるが、見る人が見ればそれが符合を使った物だと分かるだろう。ただ、それが解っても内容が読める訳ではない。


 しかし、この符号にリオックは見覚えがあった。


「ディエース教の連中か……」


 それは、ここ最近探っていたディエース教の裏の者達が使う符合に類似したものだった。


 リオックは、アルテミシア王国でお嬢達と別れた後、ディエース教の影響が強いミスカンティス聖国の周辺国家で情報収集をしていた。その時に、怪しい動きをしているディエース教の信者を調べている時に何度かその符合による暗号を目にすることが有ったのだ。


「……分かった?」


「ああ、レイラお手柄だ。少なくとも相手が誰かは分かったよ。それにしてもどうやって手に入れたんだ?」


 ディエース教の裏を担う連中も馬鹿では無い。そんな簡単に暗号で書かれた物を他人の手に渡る様にはしない。


「……鳥、落とした」


「あー、伝書鳥か。流石だな」


 彼女の狩猟能力は知っている。以前一緒に狩りに行った時もその力の片鱗を見せてもらった。あの時は止まった的だったが、彼女に掛かれば飛んでいる的でも問題なく撃ち抜けるのだろう。


「……ん」


 レイラは何処か誇らしく返事を返した。彼女の「ん」には様々な感情が盛り込まれているが、今のリオックであればその内側を読み取ることも出来るようになった。


「何にしてもこれは貴重な情報だよ。俺一人なら見落としていた可能性が高い。レイラが居てくれて本当に助かったよ」


「……うん」


 リオックにしては珍しく素直な気持ちでお礼を返した。実際、リオックはこの時点で他勢力からの妨害はそれ程考慮していなかった。これはリオックの怠慢もあるが、医療関係で参加すると決めた時から町の中しか警戒していなかった。


 その見落としをレイラが補ってくれたのだから、感謝の気持ちも素直に口を突く。


 そして、リオックが素直な感情を見せる時、普段の少しつり上がった目元も柔らかくなり、女性であれば見惚れても仕方がない程の美男子の姿を見せるのだ。


 リオックのこういった姿は、ある程度深い関わりを持たないと見る事は出来ず、普段の少しきつめな表情も合わさってそのギャップは凶器となって女性の心を穿つ。


 そんなリオックの姿にレイラも例に漏れず頬を朱に染めた。


「しかし、そうなるとレイラの安全が心配だな。大規模討伐ではレイラは何処に配属されるんだ?」


「……ん、後方」


「そうか、でも油断するなよ。まあもしもの時は俺が助けてやる」


「……ん、ありがと。大丈夫」


 優秀な狩り人であるレイラを心配してくれる人などここ数十年誰も居なかった。そんな中、リオックがその身を案じてくれたことは素直に嬉しく、久しく感じ無かった感情が心を満たした。


 それは、感情の波が乏しい彼女だからこそ、この時のリオックの言葉は純粋に心に響いた。


 最初はただの興味本位だった。


 そのうち共に過ごす時間を楽しく感じた。


 別れの時は悲しく、寂しさを覚えた。


 だからこそ再開の約束を交わし、それを実現する為に準備を整えた。


 そして再開した時は純粋に嬉しかった。


 だからこそ——。


「リオ。私頑張るね」


 満面の笑みでレイラは答えた。









 因みに、二人の会話を盗み聞きしようとしたゴシップ大好きな女性陣には、Gアタックの洗礼をお見舞いされた。



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