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突然の再会、レイラの目的

 ケイトに誘われ、やって来た酒場で待っていたのは、いつか見たエルフのレイラだった。以前と変わらず眠そうな目元をして、よく見ると背中には見覚えのある鉄パイプを背負っていた。


「……久しぶり」


「え、ええ、お久しぶりですねレイラさん」


 来る気はなかった酒場だが、ケイトが約束をしているのがエルフと聞いて興味をそそられ、来てみればそこで待っていたのは見知った人だった。人ではなくエルフだが。


「あれ? お二人はお知り合いだったのですか!?」


 当然、これから紹介しようと思っていた相手が知り合いとなれば、ケイトの驚きも当然だろう。それが人の前に現れる事が滅多に無いエルフとなればその驚きも一入だ。


「はい。以前私がお世話になった方です。一緒にダンジョンへ潜った事もありますよ」


「……そう」


「わー、リオックさんは顔が広いんですね!」


 ケイトは尊敬のまなざしをリオックに向けるが、これは本当に偶然なのでそれ程眩しい目で見られると少し居心地が悪い。


「……座る」


「え? ああ、そうですね。それでは失礼しますね」


 レイラに席を勧められるままに、リオックとケイトが席に座ったところで、丁度給仕の女性が注文していた物を持って来たので、ケイトのキラキラした視線が外れたことにリオックは安堵する。根拠のない尊敬とは意外と居心地が悪いものだ。


 取り敢えず仕切り直しに三人で乾杯をして、運ばれて来た料理を口にする。先程夕食を食べたばかりなので酒の肴になる軽い物ばかりなので軽く摘まむには最適だ。


「それにしてもお二人がお知り合いだなんて驚きました! 本当はリオックさんをビックリさせてあげたかったんですけどねー」


 ケイトは少し残念そうにそんな事を言うが、リオックとしては十分驚いた。寧ろ知らないエルフと顔を合わせるよりもよほど驚いただろう。


「いえ、十分驚きましたよ。……処で、レイラさんは何故此方に? 工房の方はよろしいのですか?」


 レイラと言えば、島で唯一のガラス工房を任されている女性だ。ベレッザ商会との取引が始まり、今まで以上に忙しくなる筈の彼女の工房で彼女が居ないとなれば色々と問題が出てくる。彼女の作り出す瓶は代用の利かない品なのだ。


「……会いに、来た」


「え?」


 レイラの予想外の回答。リオックは素で答えてしまった。


「ああ! もしかしてレイラさんが会いたい人ってリオックさんの事だったんですか!?」


「……そう」


 分かりにくいが、若干照れているのか少し頬を染めて答えるレイラ。ただしリオックの頭の中には疑問が渦巻いている。会いに来てくれた事は嬉しいが、彼女が島から離れる事に対する問題は小さくない。それにリオックがこのトトンに来ることなど、レイラは知る筈がないからだ。


「私に、ですか? 何か急な用事でしょうか?」


「……一緒」


 彼女の返答から正しく理解するのは難しいが、何か特別に用事があった訳では無いようだ。


「あ! もしかしてレイラさんが一緒に旅する人ってリオックさんの事ですか?!」


「……そう」


 リオックがレイラの真意を導き出そうと頑張っていると、ケイトがその答えを教えてくれる。


 その後もケイトの通訳を介して、レイラがこのトトンに遣って来た理由が分かった。


 結論から言ってしまえば、おそらくレイラはリオックと行動を共にする為に島を飛び出して来た。おそらくと言うのも、ケイトの通訳を返しての会話なので若干確証に不安があるからだ。


 ただ、彼女の通訳が正しければ、レイラは後任にガラス工房を任せて来たらしい。リオックが島へ訪れた時は後任など見たことも無かったが、彼女の後継者として修業を積んでいた者が何人か居たらしく、その一人に島のガラス工房を譲って来たとの事だ。


 更に驚いたことに、彼女はフランシアやルーシェから直接リオックの居場所を聞いてこのトトンにやって来たらしい。一応ベレッザ商会と言う繋がりや、リオックの報告でレイラの存在を教えていたのだが、顔合わせはともかく、ある意味機密情報であるリオックの居場所を話すまでの仲になっていたことに驚きを隠せなかった。勿論この場で機密を話す事は出来ないが、レイラはかなりの情報を得ているように見て取れたのはリオックの勘違いでは無いだろう。


「そういう事ですか……処で、レイラさんは此方に見えられたと言う事は大規模討伐にご参加されるのですか?」


「……そう。……リオも?」


「参加しますよ。ですが私は医療方面での参加になるので戦場には直接赴く予定はないです」


「……そう」


「そうですよねー。レイラさんは探し人と一緒に参加すると仰ってましたし、その探し人がリオックさんだとすると討伐参加はお一人になってしまいますよね……」


 初めて見る元気のないケイトの受け答えだったが、レイラはリオックと共に大規模討伐に参加するつもりでトトンにやって来たらしい。ただ、彼女には医療関係の知識はないので参加するとなれば当然戦場に赴く事になる。そうなると、既に医療従事者としての参加が決まっているリオックとは共にできない。こうなるとレイラは誰か他の仲間を探すか、一人で参加する事になるのでケイトはそれを心配しているのだ。


「……問題、ない」


「でもお一人では危険ですよ?!」


「……よゆー」


「確かにレイラさんがお強いのは知っていますが、それでも心配です! そうですよね! リオックさん!」


「ええ、まあ、無理をしないか心配ですね」


「……ありがと」


 再び頬を染めるレイラに、何故か酒を飲んでいないケイトだが、酔っ払いの絡み酒の様に絡んでいた。今では最初に座った席から離れて、レイラの隣に寄り添ってベタベタしている。


 彼女は、レイラがパーティーを組まずに大規模討伐に参加する事に不満が有るようだ。ただ、リオックはそれ自体心配していない。それはリオックがレイラの精密遠距離攻撃能力を知っていて、更には移動する時の身体運びも素人の物でないと知っているからだ。


 それよりもリオックとしてはレイラが自分を追いかけてきた事に対して気になっていた。彼も人の心の機微に疎い訳では無いのでレイラが何故この場所に来たのかは検討が付いているとはいえ、どこでそんなフラグを立てたのか思い当たる節が無かったからであった。


 最も、どんなにレイラの顔を見つめても、元々感情の機微を表情人出すような人では無いので、それを読み取ることは適わなかった。取り敢えず、今夜あたりにでもお嬢に報告と確認を取ろうと心に決めて、この思考は一度区切りをつける事にした。


 そうなると先程までは気にしていなかったことが気になるようになる。


 この場所は、言ってしまえばハンターと言う荒くれものが大勢集まる場所である。そんな中で、男であるリオックが居るとはいえ、愛嬌のあるケイトや、エルフという珍しい種族かつ信じられない程の美人であるレイラが居るこの場所に誰一人として絡んでこない事に違和感を覚えたのだ。


 そう思ってリオックが周囲を見回してみると、いくつもの視線は感じられたものの、リオックが顔を向けると視線を逸らす人ばかりであった。しかも、一瞬だけ目が合った人の瞳には、恐れ、欲望、願望、など様々な感情が見て取れた。そう、まるで手に入れたくても届かない何かを欲しているような視線だった。


「どうかされましたか?」


「あ、いや、二人のような美人さんが居るのに、誰も話しかけてこないのは珍しいと思いまして」


 ケイトの疑問に素直に答えたリオック。それに頬を赤く染めながらも返された答えは予想外の物だった。


「ああ、……それはこの前絡んできたハンターさんをレイラさんが再起不能にしてしまいましたからね……」


「……ん?」


 何だか言いずらそうなケイトだったが、レイラはまるで気にしていないように小首をかしげるのみだった。


 最も、この答えだけである程度のいきさつが予測できたリオックにとってはこれ以上掘り下げる必要がある内容ではないと判断してこの話はここまでとした。


「と、とにかく、レイラさんも大規模討伐の間はこの町に滞在すると言う事ですよね?」


「……そう」


「でしたら、時間がある時は食事をご一緒しましょう。最も、どの程度忙しいのか分かりませんから時間が取れる時だけと言う事になりますが」


「……分かった」


 リオック提案に、レイラは小さく首を縦に振る。実際、大規模討伐への参加が初めてのリオックには、医療方面の仕事量を図り切れていない故の曖昧な言葉だった。


「そうですねー。最初の方は忙しいらしいですが、後半は大体落ち着くので時間が取れるみたいですよ!」


「そうなのですか? では、後半はある程度時間を確保できそうですね」


「……ここに、居る」


「レイラさんはこの町に来てから、夕食はこの酒場で取ってるんですよ!」


 なんとも頼もしい通訳である。正直、リオックもレイラの話をここまで読み取れる自信はない。旅の話を聞くうえで、これ程相応しくない話し相手は居ないのではないかと心の片隅で思っていたリオックだったが、ケイトを見ているとそれは自分の気配り不足なのだと思いしらされる。……多分。


 その後は、リオックがウルメの島を離れてからの事や、レイラが旅した時の話で盛り上がった。ケイトは当然の様にレイラの会話内容を通訳してくれて、少しだがリオックもレイラとの会話方法がつかめてきた辺りで、夜も大分更けり解散の流れとなった。


「レイラさんがお泊りしている宿は何方ですか?」


「……そこ」


 言葉少なくレイラが指さした先には、一軒の宿屋が見えた。活気ある場所に看板を構えているだけあってそこそこ立派な宿だった。レイラとの会話ではこういった挙動を見逃さない事も重要だ。今回は指を指すという分かりやすい動きだが、目の開き具合、首の傾け方、口元の僅かな動きなどを観察すると、彼女は割と感情豊かだと分かる。……相当集中力を必要とするが不可能ではない。


「帰りは同じ方向ですね。すぐそこですが送りましょう」


「……うん」


 こうしてレイラを宿へとお送り、リオックはケイトと共に寮へと帰って行った。寮の住人は二十四時間出入りが自由だ。異性の連れ込みは禁止されているのに、変なところで自由が利く。


「それじゃあリオックさん! おやすみなさい!」


「はい、また明日よろしくお願いします。おやすみなさい」


 互いの部屋へと向かう廊下でケイトとは別れ、真っ直ぐに部屋へと向かう。


 取り敢えず、今夜はお嬢にレイラについて聞かねばならない。部屋着へと着替え、ベッドに寝っ転がったところで、リオックは習慣化されたお嬢への連絡をする。


『お嬢、今いいか——』


 その後、逆に問い詰められて寝不足になったのは言うまでもない。





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