終わりよければ大体よし
「それでは、矢張り彼女はノイズ商会の回し者で間違いなかったのですね?」
「ええ、そうよ。あの後彼女は何かが吹っ切れたように全てを話してくれたわ」
「そうですね。許せることではありませんが、幾ばくか同情の余地はありました」
「ん? ノイズ商会の者ではなかったのですか?」
「それがね——」
そうして二人が説明してくれたのは、内容はこうだ。
彼女の名前は、ララナ・キビル。苗字があることから貴族、若しくは元貴族となる。彼女は後者で、産まれたと同時期に家が没落して貴族位を剥奪された。彼女自身は小さなころだったので、自分が貴族だと言う自覚はないらしい。
いくら没落した貴族とは言っても、普通の平民に比べれば多少裕福だったこともあり、父親の頑張りのお蔭か、人よりも余裕のある生活を幼少期は送れた。その為、彼女は色々とお洒落をすることを覚え、最終的に美容に大きな興味を持って商会を立ち上げたらしい。
ただ、彼女の家が没落したのも、資金の遣り繰りは不得手だった為で、彼女も立派に其の血を引いており、事業が軌道に乗る前に資金が底をつき、今回問題になったノイズ商会に借金をしていたらしい。
ノイズ商会にお金を借りたのは、元々近い業種故に仕事の斡旋もしてもらっていた。そのつながりでお金を借りたのだが、最終的には返済が可能な範囲を遥かに超えた多額の借金に膨れ上がってしまった。彼女の美貌は、一般の人に比べて魅力的であった為、身体を売る話も出ていた所で今回の話が舞い込んできたのだとか。
彼女は最初こそ嫌がったが、今回の事が上手く運べば、借金を帳消しにしてもえると話を持ちかけられて、この話に乗ることにしたのだそうだ。
ノイズ商会が彼女に持ちかけた話は、今回行われた学園祭でフランシアの立ち上げたベレッザ商会が提携しているクラスの商品不備を周囲に訴えると言うものだった。事前に購入したベレッザ商会の製品に仕込みをして、商品を使用した結果を周囲に知らしめるという計画だ。
実際、リオックが施した幾つもの安全策がなければ、この計画は一定の成果を上げていたであろう。しかし、事前にノイズ商会が手を出してくる事が予測できたので、複数の安全策を施していたことが功を奏した。
あの事件の後、リオックは化粧瓶に刻まれたシリアルナンバーを確認した処、仕込みがされていた化粧瓶を購入したのはノイズ商会傘下の個人商会であることが判明している。
そして彼女は計画が順調に進んでいた時は、半ば自棄になって被害者を演じていたが、俺の話によって製品の不備から、何者かの企みであることを証明し、更には計画の中に含まれていた自らの顔に出来た腫れを瞬く間に治してしまったことでどうしていいのか分からなくなった。又、元々乗り気ではなかった話なので、これ以上続ける事にも自らの呵責に負けて全てを自供したらしい。
「……こう言っては何ですが、なんとも雑な計画ですね」
「そうね。リオが割り出した化粧瓶の購入者も、優しく聞き出したらあっさり口を割ったから本当に穴だらけの計画よね」
実際、個人商会の人間が公爵家の者に問いただされたら口を割るのも仕方が無いだろう。それにその個人商会の者は、実際に新しく出回りだした商品を調査する為に購入しただけで、今回の様に使用するつもりは無かったらしい。それをノイズ商会が空瓶でも高値で買い取ってくれるというので、多少違和感を覚えたが利益が出るならと売りに出したらしい。一応口留めもされていたようだが、「このことは内密に」とただの口約束だけだったので簡単に口を割ったのだとか。
「まるで行き過ぎた子供の悪戯ですね」
「本当ね。子供の私達が言うとこれ程酷い皮肉はないわね」
確かに未だ成人を迎えていないリオック達からしても、本当に酷い計画だ。それこそもっと小さな子供でもまだマシな悪戯を思い浮かぶだろう。迷惑の度合いからいえば悪戯では済ませられないのだが。
「それで、証拠は集まったのですか?」
「そうね、今回の件では決定的な証拠になるものは無かったけど、別件でいくつか引っ張れるものがあったから、それに被せるように持って行くわ。今頃は憲兵が取り押さえている筈よ。商会長の……名前は忘れたけど、男と側近は犯罪奴隷落ち確定ね。後は後々ゆっくり余罪をさがすだけよ」
実際、証拠の品を立証することは出来なかったが、かなり確度の高い証言があるので、別件で逃れる事が出来ない状況では最終的には認める事になるだろう。こういった所は権力者に有利に出来ている。
「であれば、これでベレッザ商会のライバルと成り得る商会はこのフェロ公爵領からは居なくなったのですね」
「そうね、一応規模は小さいけど美容品を取り扱っている所はあるけれど、学園祭での評判がそれらの追随を許さないでしょうね」
フランシアはご機嫌な声色でそう告げた。
「はい。前回の評判は予想以上です。今も生産待ちで、半年先までの生産分は予約で一杯です」
初日こそ問題が起こったが、リオックの巧みな誘導と、ルーシェの印象操作でベレッザ商会の評判は上々だ。いや、当初予定していたよりも、遥かに広く知れ渡ったと言っても過言では無い。
「生産の方は現在虫人達が頑張ってくれています。現在、増産の為に新しい施設も建造中なので、後々は更に多くの商品が生産できるはずです」
美容品の生産には虫人の力が欠かせない。寧ろ現在ベレッザ商会で取り扱っている美容品の殆どは虫人達が作っている。その生産力が向上すれば、今後ベレッザ商会が拡大した時にも対応する事は可能だろう。
「そうなると今回の被害者は、そのララナと言う女性だけでしょうか? いえ、彼女は加害者の方ですか」
結果的にではあるが、ノイズ商会の思惑はベレッザ商会にとっては名前を売るのに一役買っただけで、後は殆ど自滅に近い。そう考えると被害者と呼べる者が居ないように見える。あえて挙げるのであれば、精神的ダメージと、手のひらが腫れたオルテンシアとも言える。
「そうね、彼女は微妙な立場ね。ただ、結果的にではあるけれど、彼女にも十分な利益があったと思うわよ」
「確かに、学園祭の時が嘘の様に生き生きとしていますね」
二人の言葉に、リオックが疑問符を浮べるも、二人は笑顔を浮かべて話す。
その内容は、二人が彼女から取り調べをしている時に、彼女の商会についても色々と聞いた。その内容から、彼女は美容に対してかなり深い知識を持っており、今後のベレッザ商会の活動に生かせると判断した二人は、ある提案をしたそうだ。
その提案とは、今回の騒動の罰として一定額の罰金を科す。その上で、現在の借金と罰金分の金額をベレッザ商会で肩代わりするので、今後はベレッザ商会の活動に尽力すると言うものだった。
ノイズ商会への借金は、今回の件でノイズ商会の負債として処理し、罰金分は今回の利益で賄えるものだった。
彼女も、今回自ら体験した高い技術で作られた美容品に大変興味があり、彼女にとって自らの商会とは美容に関する手段でしかなかったので、悩む素振りも見せずに即決で決まった。こういった所が彼女に商売の才能が無い所以なのかもしれないが、今後ベレッザ商会には不可欠な人になるだろうことは想像に難くない。
結局今回の騒動で、ベレッザ商会は名前を売り、多額の資金を得て、優秀な人材まで手に入れた事になる。更には商会が発展するのに障害になりそうな商会を排除する事に成功したことを考えれば、今回の学園祭は色々な意味で大成功だった。
「ただ、一つだけ誤算があったのよね」
「はい。完全に想定外でした」
「? 何かあったのですか?」
「何でもない(わ)(です)」
それから暫く、リオックに熱い視線を送るオルテンシアの姿が見て取れたとか。




