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企画立案は大変です

数話間章を投稿します。

「これはダメね」


 今声を上げたのは、未だに幼さを残しつつも、ここ最近手足がすらりと伸びて大人の女性に近づきつつあるこのフェロ公爵領の唯一の跡継ぎであるフランシア・ディ・フェロ公爵令嬢だった。


 輝くようなブロンドの髪を揺らしながら、その顔には怒りとも戸惑いとも言えるような表情を浮かべている。


「どうかされましたか?」


 そんな彼女に声を掛けたのは、フランシアよりも一回り小さく、おかっぱ頭の黒髪の女性——いや、女の子と言った方が相応しい容姿をしたルーシェ・ルスクリタである。


 フランシアと同い年の彼女ではあるが、比べてしまえばより幼く見える。ただ、それは見た目だけの話で、精神的な成熟でいえばフランシアよりも遥かに進んでいるといえよう。


「商人たちよ」


「ああ、学園祭での提携の話ですね」


 現在、フランシア達が通っている中等学園では学園祭の催しの準備が行われている。三日間に渡って行われる大掛かりな学園祭だ。


 各クラスがそれぞれの出し物で来園者を楽しませるため、又その出費を抑える為に外部の商会と提携、又は支援を受けてその準備をするのだが、フランシアにはその商会に大きな不満を覚えている。


「ええ、どの商会も他組織の息がかかった者たちばかり、将来的にこのフェロ公爵領の政治に口を出して来そうな処ばかりなのよね」


 そう、このフェロ公爵領の次期当主がほぼ確定しているフランシアには、純粋な商売だけでなく、フェロ公爵領の今後を左右しかねない政治施行に影響を及ぼせるように、多領や他国の息が掛かった商人達が押し寄せてきたのだ。


 元々武功にて今の地位を獲得したフェロ公爵家は、こういった伝手が他に比べて少ない。


 当然、長く続くフェロ公爵領である為、ある程度信用できる商会などもいるが、そういった中にも他国の間者が紛れていたり、他の組織の勢いに押されていたりと完全に信用しきれないのだ。


「しかし、商会と提携しないとなると他との出し物に差が出来てしまいます。次期領主としては小さいながらも汚点になってしまいますよ?」


 学園の催し物とは言え、次期フェロ公爵のクラスの出し物が他に劣るようでは今後の領地運営の力を疑われる事になる。飽くまでも学園での出し物だと言えばそれまでだが、人がその話を聞いた時にどういった想像をするかはある程度予想出来る。それに、たとえ学園での出し物であっても、それを盛り上げれば次期当主としての実力を見せ示めるには十分なのだ。又、その逆も然りと言えよう。


「そうね、当然私のクラスの出し物が貧相なものになるなど在り得ないわ。でも、将来の不安を抱えるようなことになってはいけないのよ」


 フランシアの言うように、今回学園祭で成功を収めても、最終的に領地運営の邪魔になる存在を許すわけにはいかない。他の学生と違い、フランシアにとってはこの学園祭は手段であって目的ではないのだ。


「そうですね……そうなると他のクラスとは違ったアプローチが必要になりますね。それこそ誰も想像しないような催し物を開催するか、誰も見たことが無い驚きの新商品などお金が掛からなくても話題に富んだものが必要になります」


「そうなのよね……こんな時はリオに相談しましょう。何かアイディアを持ってるかも」


「確かにリオであれば何か隠してそうですね。名案かと存じます」


「それじゃあ早速リオを呼びましょうか。シェリラ、リオを呼んできて」


「畏まりました」


 フランシアの命令で、部屋に待機していたメイドがその命を実行するべく部屋から出ていく。


 フランシアの専属メイドとしてルーシェが居るのだが、本格的にその任についたのはこの春からである。彼女は優秀だが、未だにメイドとしての仕事に不慣れなのでそれを補佐する為にフェロ公爵家からも世話役のメイドが待機しているのだ。


 それから暫くして扉がノックされ、リオックの到着を告げられる。彼は丁寧なお辞儀をして入室してきた。


「お嬢様がお呼びと聞き参りました。私に何か御用でしょうか?」


「ええ、少し相談したいことがあるの、……悪いけどシェリラは出てってちょうだい。用事があれば呼ぶから」


「……畏まりました。御用があればお呼びください」


 そうしてシェリラは一礼して部屋を出ていく。


 彼女はフランシアが小さなころから世話をしてくれたメイドだが、飽くまでもフェロ公爵に仕える者だ。主はフランシアではなくフェロ公爵になる。自分達が持つ秘密を聞かれてしまえば、それは間違いなくフランシアの母親であるティターニアの耳に入るだろう。


 リオックがフランシアの従者に着いたのは生まれた家とタイミングによるところが大きいが、今ではもっとも信頼する人の一人であることは間違いない。少なくともフランシアにとっては代わりなどいない存在だ。


 シェリラが部屋を出て、その気配が離れて行くのを待ってからフランシアは口を開いた。


「リオ、よく来てくれたわ。少し相談したい事があるのよ」


「相談ですか? お嬢様にしては珍しいですね。どういった事でしょうか?」


 そうしてフランシアは先程までルーシェと話していた事をリオックにも相談する。昔はリオックももっと砕けた話し方をしてくれたのだが、今では従者として相応しい対応をする為に丁寧な話し方をする。そのことにフランシアは少し不満を抱いているのだが、それはまた別の話だ。


「なるほど、確かに現在提携を持ちかけてきた商会は、お嬢様に相応しいものはありませんでしたね」


「そこで何か案が無いかの相談なのよ」


「リオなら何か名案を思い浮かぶと思ったのです」


 二人の言い分からも、この二人のリオックに寄せる信頼は大きい。実際、以前はフランシアではなく、リオックがリーダーとなってまとめ役をしていた。今でこそ、フランシアが次期当主として活動するに当たりフランシア自身が仕切るのだが、だからと言ってリオックの才がなくなったわけではない。彼にも又、人を引き付ける魅力があるのだ。


「……そうですね。それならいっその事、お嬢様が商会を立ち上げては如何ですか?」


 そんなリオックの提案にフランシアとルーシェは驚きの表情を現す。確かに自分たちで商会を立ち上げれば、これ程信用できる商会もないだろう。自分達が管理するのであれば、都合が悪い人を内に入れないようにできる。それに自分たちの意向を確りと聞かせる事が出来る。


 ただし、それは言う程簡単な事ではない。まず、働く為の人材を確保しなければならない。それに商会とするのであれば、商品やそのノウハウを持った者も必要になっている。更に最も重要なのが資金である。


 どれだけ優秀な人を集めても、資金がなければ商会を動かす事が出来ない。いくらフランシアが公爵令嬢と言っても、自身が動かせるお金とはそれ程大きくは無い。それに本業は学生なのだから、商会にかかりきりにもなれないのだ。


「元手がないわ。それにそんな人材を確保する時間も今は無いのよ」


「はい、学園祭まで残り一月です。仮に、今から商会を立ち上げても、学園祭に提供できる商品の準備も難しいと思います」


 彼女達の意見も最もである。現在欲しているのは、学園祭で提携できる商会なのだ。今から立ち上げて、その準備を進めるには余りにも時間が足りない。そう、資金も人材も時間も足りないのだ。


「はい。しかし、それについては私の方に少し伝手があります」


 リオックの言葉に二人は再び驚きの表情をする。基本的に彼女達は主と従者という関係以上に、幼馴染といった関係でもある。それこそ幼少の頃から一緒に過ごす時間は非常に長い。特に、親たちの思惑もあり、殆ど四六時中一緒にいたのだ。リオックが自分たちの知らない間に伝手を作っていて驚かずにはいられない。


「いつの間にそんな伝手を作っていたのよ?」


「リオは私達の知らない所で遊んでいるのですか?」


 リオックは二人から疑いを孕んだ視線を向けられる。彼女達はリオックが自分達に言えないような事をしているのではないかと怪しんでいる。


「……他の人なら兎も角、二人なら気が付きそうなものですが……。虫人達に行商をさせているのですよ。彼らにも生活がありますし、私もお小遣い程度に稼ぐつもりで投資したのです」


 こうしてリオックの言い分を聞くと、二人は納得のいった顔で頷いた。現状、リオックの能力について知っているのはこの二人だけだ。他の幼馴染にも教えていない程の徹底ぶり。そこには明確な線引きをしているリオックである。


 他の従者はフランシアの従者として仕えてはいるが、やはり各家の影響を強く受けている。昔幼馴染7人だけの秘密と言って共有した秘密も、瞬く間に他の従者達の家には知られてしまった。尤も、その秘密というのは、子供たちだけで屋敷を抜け出した時の話だ。当然その秘密は各家からフェロ公爵であるティターニアの元に上げられ、フランシアはこっぴどく怒られ、その従者——当時は唯の幼馴染も大きな叱責をうけたのだ。


 子供にしては綿密な計画を経て実行された屋敷からの脱走に大人たちは気が付いておらず、告げ口が無ければ知られることは無かっただろう。それ故に、フランシアは誰が告げ口をしたのかを強く追及し、幼い子供も自分より立場が上の物から言い寄られれば、簡単に告げ口したことを自白した。ある意味、この時からフランシアの中で従者達の優先度が決まったのかもしれない。現に、この部屋に居るのは当時告げ口しなかった者達だけなのだから。


 リオックやルーシェに関しても、その影響は強く受けていて、他に秘密にしている事もこの三人は共有する事が多い。当然、女性特有の話であればリオックの耳に入ることは無いが、それでも他の人との信頼度で言えば天と地ほどの差がある。他の従者達がこの事に気が付いているは分からないが、一部のメガネを除いてそれとなく感じ取っている節はある。その原因が何であったのかを理解しているのかは別として。


「確かに、……彼らなら可能かもしれないわね」


「はい。それに行商とは言え、販路を持っているのも大きいですね」


「ええ、幸い行商で店舗を持つのには問題無いほどの資金は確保してあります。それに、信用のおける人材に関しても探らせていたので、商会の体を成すのにそれ程時間はかからないでしょう。最悪、学園祭までは虫人だけでも対応は可能です」


 リオックの言い分には十分な実現性があると感じ取ったフランシア。ルーシェも既存の商会と提携するよりは先々までの事を考えれば悪くない案だと思案する。


「それで、その行商ではどんな商品を取り扱っているの?」


 これから立ち上げる商会の商品が気になるのは当然だろう。既存の組織が扱っている商品では、商会として立ち上げてもその大きな勢力と渡り合って行くには規模が物を言う。名前も売れていない新規の商会では勝負するのも難しい。


 そんな思いがあったフランシアだが、リオックの次の言葉でその口元には笑みを浮べた。


「お二人も使っている美容品ですよ」





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