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夕暮れの空、山頂の語り

 この白亜の宮殿での休暇も残すところあと一日、正確には明日の朝方には船に乗って島を出ないといけないので、残り半日もない。


 綺麗な海を見て回ったり、島の中を探検したり、水遊びに全力をだしたりと、非常に充実した休暇を過ごす事が出来た。


 今晩は、そんな休暇を締めくくるように、眺めの良い場所で俺達だけで食事をする事になっている。相変わらず普通の貴族とは違ったお嬢の行動だが、流石に使用人達も慣れたようで、お好きにどうぞと言った感じだ。事前に必要な物だけ頼んでおいて、それを持って外食する。外食と言うか野外食だ。


 準備してもらった食材を俺の収納の魔導具に入れて、馬に跨って出発する。


 使用人達にはこの島の中心にある丘で食事を取ると言ってあるが、今日は普通の人には味わえないちょっとした催しを準備してあるのだ。


「馬はこの辺りに繋いでおけば大丈夫そうね」


「ああ、周囲からは見えないし、枯れ草と水を置いておけば大人しくしているだろう」


 俺達は人気のない所まで来ると、馬から降りて木に手綱を括りつける。


「それじゃあ呼び出すから、二人は少し離れてくれ」


 二人が離れたのを確認すると、俺は能力を使って配下の虫を呼び出す。今回呼び出すのは俺が移動の時に頼っているリンドとその同種のドラゴンフライ達だ。


 休暇中は基本的にお嬢達と移動していたのでリンドを呼び出したのは久しぶりと言っても過言ではない。これ程呼び出すのに期間が空くなど滅多に無いので、久しぶりに俺の姿を見たリンドは頭を擦り付けるように甘えてくる。ただその凹凸のある擦り付けは結構痛い。


「この子達も久しぶり見るわ」


「そうなのですか? 私は初めて見ました」


 確かお嬢は以前屋敷を抜け出すときに一度乗った事があったはずだ。それに引き換え、ルーシェに俺の能力を見せたことは殆どない。一応、商会の中で誰が俺の配下なのか把握はしているが、見た目は人間と変わりないので、こういった虫を見るのは初めてだろう。


 最初はその見た目に拒否感を感じないか不安だったが、何かが彼女の中の琴線に触れたのか、微細な体毛が生える胴体を優しく撫でている。……ルーシェの守備範囲は広いようだ。


 若干トリップしかけているルーシェを引き戻して、騎乗時の注意事項などを説明する。この時、お嬢も久しぶりなので、一緒に説明を聞いて貰う。流石に空から落ちるのは勘弁願いたい。


 一通り、説明をしたところで、俺達は早速出発する。今日の目的地はこの周辺の島の中で最も高い山の頂上だ。


「それじゃあ出発するぞ。くれぐれもはしゃぎ過ぎて落ちないように」


「大丈夫よ」


「分かりました」


 二人の返事を聞いたところで、リンド達に指示を出して大空へと舞い上がる。冬場の飛行だと体温保持の為の対策が必須だが、夏場であれば多少のことは問題ない。


 既にその姿を地平の彼方に隠している太陽に向かって、俺達はぐんぐん上昇する。一度は姿を隠した太陽だが、高度を上げると再びその姿が露になる。


 遥か上空から見る夕日も中々幻想的で美しい。


 二人の様子を見ると、その光景に目を奪われているようだ。


 暫く綺麗な夕日を堪能した処で、俺達は今日の目的地である山の頂上の上空に到着した。俺は一度停止して、二人に向けて下降する旨を伝える。二人とも了承の合図を返したのを確認した処で、俺はゆっくり着陸するようにリンド達に指示を出した。







「空の移動とは凄い物ですね!」


 少し興奮気味のルーシェが着陸後第一声これだ。普通の人ではまず味わう事の出来ない感覚に快感を覚えたようだ。


「本当ね。前はこれ程高くまで飛ばなかったから楽しかったわ」


 屋敷から抜け出したのは今よりもかなり若い頃で、俺も能力の使い方を覚えたばかりだったのであまり無理はできなかったのだ。


「俺の旅では欠かせない相棒だからな」


 俺はリンドの身体を撫でて、帰りも頼むと一言添えて一度戻ってもらう。


 二人の興奮が冷めるのを待って、早速夕食の準備に入る。


 今日のご飯はそれ程手の掛からない簡単メニューなので準備は直ぐに終わる。まずは大きな鍋にチーズを入れて火に掛ける。後は事前に串に刺して下拵えを終えている食材を並べて、パンを添えたら完成だ。所謂チーズフォンデュである。


 飲み物には少し上等なワインを用意した。前回の失敗から学んで、俺はそれを水で割って飲む。この島の水は美味しいので、ワインの味わいを損なうことなく割る事が出来るので有難い。


「ふふふ、焚火で食事だなんて、本当に久しぶりだわ」


 お嬢様であるが故、どんな時でも一定以上の品位を求められるお嬢はこういった事に立ち会うことは無い。仮に馬車で移動する時も、お付の従者達が準備をするので、彼女は馬車の中や、用意された天幕の中で待つ事になる。調理している所を見る事など、滅多に無いだろう。


「はい、焚火での食事はダンジョンに潜った時くらいですね」


「そうよ。森への遠征でも天幕で冷えた食事だもの、味気ないわ」


「ああ、そう言えば帰ったら丁度そんな時期になるのか」


「そうね。リオも参加するの?」


「ああ、俺はカクトゥス西側で参加するつもりだ」


 今俺達が話している森への遠征とは、大陸北部半分を占めるモンスターの領域への進軍の事を指す。年に一度、周辺国と協力してモンスターの領域を少しずつ削り取っているのだ。最も、それはオマケで、日々増え続けるモンスターの数を減らすのが主な目的となる。これを怠ると、森からモンスターの出没が増えて、領民への被害が出る。それに周囲と協力して遠征する事で、少しでもリスクを減らす事、又貴重な魔石の大量確保にも繋がる一大事業でもある。


 この時ばかりは探索者もダンジョンではなくこの遠征に参加する。これによって探索者達は纏まった収入を得る事が出来、領地は安全と貴重な素材を確保でき、懐が温かくなった探索者が町でお金を落とすので、経済も活性化する正に一石三鳥の一大事業なのだ。


「そういえば昨年は参加されませんでしたね?」


「ああ、その時は薬師としての活動に重点を置いていたからな」


 あの時は丁度、薬師としての仕事を一時中断して、お嬢からの依頼を熟していたので、どうしても時間を確保できなかったのだ。確かその問題を持ち込んだのは、どこかの盆暗貴族の次男坊だったはず、今は犯罪奴隷だったかな?


「はあ、休暇も今日で終わりなのね……、リオこのまま駈け落ちしない?」


「ごふっ、ごほっ」


 お嬢の言葉にワインを飲んでいたルーシェが咳き込む。結構ガチの咳き込み方だ。


「な、何を言っているのですか! けほけほ」


 息を整えた処で、ルーシェは突っ込む。まだ喉に違和感があるのかいつもより声が粗い。


「冗談よ。そんなに慌てないでちょうだい。……それよりも大丈夫?」


 お嬢的には冗談のつもりだったのだろうが、割と本気で返すルーシェに慌てて否定した。


 お嬢の言葉を聞いて落ち着きを取り戻して来たのか、ルーシェは一度大きく深呼吸をして高ぶった感情を落ち着ける。いつも冷静なルーシェにしては珍しい反応だ。


「まあまあ、二人とも落ち着け。お嬢も休暇が終わるのが名残惜しい故の言葉だろ。俺もこれでまた二人と別れないといけないと思うと本当に名残惜しいよ」


 俺の言葉に、ルーシェはハッとした顔をした後、神妙な顔をする。一応俺達は公に袂を分かった関係だ。俺の追放劇から三年、こうして会えたのもお嬢が本格的に領地運営に携わる節目の時期だからこそ、こうして時間を確保できたのだ。次にこうして時間を確保できるのは何時になるかは分からない。


「そうね。でも以前より間隔が空くことは無いと思うわよ」


「ん? そうなのか?」


「ええ、私も色々動かないといけないし、外出も増えるから割と時間の確保は出来るのよ」


「でも他の従者もいますよ?」


 当然、お嬢の従者はルーシェ以外にも居る。彼女の疑問は当然のものだ。


「その従者なのだけど、一度根本的に見直しが必要だと思うのよね」


「「ああ……」」


 お嬢の言葉に二人して納得してしまう。正直なところ、今彼女に付いている従者は、今後の活動において頼りない。本来であれば一人一人が各部署のトップとして頭角を現すような人材でなければ、お嬢を支えるのは不可能だろう。


 しかし、現状では野心家のメルクリオに、事なかれ主義のオルテンシアにメランザナ。そして何を考えているか分からないジンコと、頼りない従者ばかりだ。それ故にルーシェが苦労しているとも言える。


「本当はリオを戻したいのだけど、まだまだ頑張って貰わないと困るし、人材の確保って大変よね」


 現状、お嬢が持つ情報源は商会と専属密偵である俺からのものに偏っている。今後更に商会を拡大していけば、それだけで十分な情報のやりとりが出来るのだろうが、それはもう少し先の話だ。現状他領、他国への牽制に仕える情報を調べるのは俺の役目になっているのだ。


「いっそ伯爵位を与えても問題ないくらいの功績を上げてくれると有難いわ」


 なんとも無茶を言ってくれる。伯爵位を与えるなど、領地存続に関わるような状況で功を上げるか、よほど領地の利益になる事を成し遂げるかする必要がある。それに、どんなに功績を上げても周囲の貴族はそれを邪魔しにくるだろう。


「エルフとの交易で十分功績はありますから、後はタイミングの問題なのだけどね」


「確かに十分な功績ですね。ですが、今後の牽制の為にも、武功を上げてもらうのが一番ですね」


 何故か二人の間で俺の将来設計が組み立てられていく。こういった時は下手に口を挟むとハードルが上がるので俺は大人しく飯をつつく。蒸し牡蠣にチーズを絡めて食べるのが、非常に美味なのだ。魚介とチーズの相性のよさは、今回の休暇で知った大きな収穫である。


 俺が食事に集中している間に、二人は子供の数で言い争っている。彼女達はいったい何処で話が脱線したのだろう。


 ただ恐ろしいのは、彼女達が話している事は、若者が語る夢ではなく、将来つかみ取るまでの道筋なのだ。実際、俺の追放を計画した時もこんな感じだったことを覚えている。


 彼女達の会話の流れからして、俺はいずれ武功を上げないといけないようだ。もう少し自己鍛錬に時間を割こうと思う。


 そこから更に二人は子供の教育方針にまで話を発展させていたので、流石に行きすぎだと思い会話を止める。


「まあ二人とも落ち着いて、流石にそれは話が飛躍し過ぎだ。取り敢えず、今後の方針だけ決めればいいんじゃないか?」


 俺の言葉に、流石に先走り過ぎた自覚があるのか、二人は顔を赤くして俯く。


 俺としては男冥利に尽きるとだけ言っておこう。









 その後、今後の行動方針をざっくり決めた。二人は話に夢中になっていたが、ちゃっかり食事は済ませているあたり、本当に強かだと思う。


 食後はフルーツカクテルを飲んで、三人並んで座り、綺麗な星空を見上げている。このカクテル、メイドさんに教えてもらったミックスジュースをワインで割ったオリジナルブレンドだ。


「あー、美味しかったわ。外で食べるご飯って一割増しで美味しいのよね」


「そうですね。それにリオの料理の腕も良いです」


「次までに更にレパートリーを増やしておくよ」


 このゆったり流れる時間の中で、俺達は雑談を楽しむ。


 この数日間、俺達は会えなかった期間を埋めるかのように全力で楽しんだ。


 俺も、覚悟を決めていたとはいえ、二人と別れて活動するのは心細い時もある。実際、不意に寂しくなった時は徐にお嬢に念話を送ったりもする。それでも、俺はお嬢が愛するフェロ公爵領の為に頑張って来た。俺が頑張れる理由はこの二人が居るからだろう。


 俺は徐に二人を抱き寄せて——。


「また三人で一緒に来ような」


 密着した二人が、小さく頷くのを感じた。





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