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閑話:従者の語り、会談の風景①

空気みたいな従者達にスポットを当ててみました。

 リオック、フランシア、ルーシェが山奥のコテージでバカンスを楽しんでいた頃、フランシアに仕える他の従者達は、アルテミシア王国の一角にて主の代わりに細かな内容を決める為、事務仕事に追われていた。


 ただ、当初の予定していた契約継続よりも手続きが少ないので思いの外楽である。こちらが楽な分、アルテミシア側はてんやわんやであろう。


 そんなフェロ公爵家側が集う部屋の中で、一際不機嫌な雰囲気を放っている男が居る。


 どうやら彼は、主が自分を置いて行ってしまった事を不満に思っているようだ。主不在時に力を発揮するのが執事の役目であろうに、彼はその本分を忘れてしまっているのだろう。


「オルテンシア、フランシア様からの連絡は無いのか?」


「ないですよー。まだ出発して二日じゃないですか」


 数分に一度、こうして誰かに主からの連絡が無かったか聞いてくる始末。流石に鬱陶しい。


 それもこれも、アルテミシア側が用意した貴族に問題がある。


 俺達が所属するフェロ公爵領はこの大陸の東よりだ。この西側に大きな影響を持つディエース教とは、折り合いが悪い。特に、半年前間接的にも対立してしまったので、互いに水面下では攻撃しあっている。


 そのような状況の中、交渉の席に着いたのは、ミスカンティス聖国と強い繋がりを持つ貴族だ。それも、貴族の中では一番立場の高い公爵である。


 この時点で、ある程度先が見通せる者であれば、問題が発生することは目に見えている。


 あの時の会談は本当に酷かった。いや、あれは会談とは呼べないだろう——。




※※※




 フランシア一行がアルテミシアの王城に到着して二日後、早速今回の目的である会談の席が設けられた。


 今回、フランシアはこの会談にて次期領主としての力を示し、内外にフェロ公爵領を継ぐものとしての存在感をアピールしていく事になる。ある意味彼女にとっては重要な案件だ。


 失敗が許されないが故に、殆ど成功が約束されているこの案件につく事になったのだが、若干の不安は残る。何代も前から続く契約とは言え、現状俺達の政治状況は大陸西側と良好な関係を築けているとは決して言えないからだ。


「おお、お待ちしておりましたよ。私は今回の会談を全面的に任されました。レトルー・デ・フラメ公爵だ」


「お初にお目に掛かりますわ。私、この度フェロ公爵の代理を務めます。フランシア・ディ・フェロと申します。どうぞよしなに」


 フランシア様は、見事なカーテシーにて相手と挨拶を交わす。フランシア様のその美しい姿に、相手陣営にも見とれてしまっている人もいるようだ。


「おっほん。それでは早速、会談を開始しましょうか」


「ええ、そうしましょう」


 ここまでは良かった。多少張り詰めた空気こそあったが、会談前と考えればそれ程可笑しなことではない。お互いが席に着き、いざ交渉を始めると成った所で、突然アルテミシア側の交渉人であるフラメ公爵が——。


「まどろっこしいのは無しで行きましょう。今回の契約継続の条件ですが、多少の内容変更を望みます。その変更点は、フェロ公爵領からは、今までの三倍の値段を払って頂きたい」


「……あら? それは随分な条件ではありませんこと? 理由をお聞きしても?」


 フランシア様の機嫌が、一瞬で急直下していくのが分かる。そして、目元がどうやって獲物を仕留めようか考えているものに変わる。どうやらこの喧嘩、買う事が決まったようだ。


「なに、簡単な事だ。エルフ産の製品を求める者は非常に多い。そちらに破格の値段で卸す必要が無いほどにだ。今回の条件も、今までの取引があったからこその恩情が含まれている事を感謝してもらいたいものだ」


 恩情とか言い出した。そもそもこの契約は昔のアルテミシア王から持ち掛けてきたものだ。


 大きな国土に対して、アルテミシア王国は人が住める土地が少ない。荒れた土地や、住むには不便な地形に、作物を育てるには向かない土。豊かな土地には森が広がり、開拓もなかなか進んでいない。


 そこで当時の国王が助けを求めたのが、時のフェロ公爵だった。


 長い時の中で、多少変わりはしただろうが、アルテミシア王国とフェロ公爵領の取引内容は、契約開始当初から殆ど変わることは無い。その内容を掻い摘んで説明すると——


『アルテミシアが専属で取引しているエルフ産の薬や工芸品の一部をフェロ公爵領へ輸出することを条件に、食料、日用品、嗜好品を融通する。』


——と言ったものだ。


 その結果、アルテミシア王国は過酷な時代を生き抜き、見事に西側の大国の地位を手に入れたのである。


「あら? これは異なことを、今エルフの製品は世界に溢れていますわ。(わたくし)共としては、希少価値の下がった物に大金を支払うつもりは有りませんわ。寧ろ、支払いは今までの五分の一に下げてもらう交渉をしに来ましたのよ」


 これに対して負けじとフランシア様も酷い値下げを言い渡す。この言葉に、流石にアルテミシア側は驚きを隠せなかったようだ。


 フランシア様は非常に優秀で、この三年は特に精力的に活動され、いくつもの大きな結果を残してきている。普段はそう言った事に関わることは無いのだが、今回従者の仕事の最中にそれが見られるようだ。心臓に悪いのでやめてもらいたい。


 案の定、フラメ公爵は顔を真っ赤にして憤怒を現す。


「ふざけるな! なんだ、そのふざけた値段は、そんな値段で売ってもらえると思うな!」


 他国の貴族に対する言葉遣いとは思えないもので、フラメ公爵はどなりつける。そんな彼をフランシア様は、柳がごとく右へ、左へ(ことごと)くいなしていく。


「そういわれましても、現在我らがフェロ公爵が懇意にしている商会では、それ以上に安く品質の高いエルフ産の製品を取り扱っていますの。こちらも五分の一でも十分高値を付けていますのよ? それもこれも今までの長い取引があってこその お・ん・じょ・う ですのよ」


 このお嬢様の言葉が決め手になっただろう。今にも頭の血管が千切れてしまいそうなフラメ公爵は——。


「もういい! 契約は終了だ。さっさと国へ帰れ!」


「分かりました。契約終了を受諾しますわ。交渉が終わった段階で、貴方に干渉されるいわれはないわ。事はアルテミシア王家と我がフェロ公爵家の話よ」


 確かにフランシア様の言う通り、会談が終了すれば、フラメ公爵であろうとおいそれとフェロ公爵家に意見は言えない。フランシア様は飽くまでもフェロ公爵領の代表、王家の友とも言える者たちの代表なのだ。


「ぐぬぬぬ。不愉快だ! 帰る!」


 そう捨て台詞を吐いて、荒々しく席を立ち、フラメ公爵は会議室を出て行った。彼のお付の人達も、戸惑った顔を見せながらも、その後に続いて行く。


「フランシア様宜しかったのですか?」


 誰もが予測していなかった状況に、フランシア様が最も信頼する従者のルーシェが代表して聞く。彼女は、親しい者しか居ない時は、フランシア様を『シア』と呼ぶが、こうした公式の場所では当然主を立てる。


「問題ないわ。エルフ製品の安定入手は既に確立しているのですもの。元々値切りか規模縮小の交渉が決裂したら、取引はお断りするつもりだったわ。これは公爵様と意見をすり合わせたものだから大丈夫よ。……流石にこんな風に契約終了するとは思っても無かったけど」




 ※※※




 交渉と言うより、喧嘩をしただけにも見える会談だった。


 今回、フランシア様の仕事は、この会談のみで、細かい取り決めは我々従者の仕事だ。その間、我らが主は久しぶりの休暇をゆっくり過ごす事になる。


 その世話役には、一番信頼を置いているルーシェと、彼女が立ち会えた商会関係の仕事も取り扱うメイドを連れて行った。


 実際、長年連れ立っている従者の俺達だが、仕事量はそれ程多くない。あまり頼りにされていないのだ。この事をメルクリオなどは気が付いてもいない。オルテンシアとメランザナは程よくメイド業を熟すのみだ。


 各言う俺も、求められた時のみ護衛業をするくらいだ。


 フランシア様の周囲には、俺よりも遥かに強いだろう人員がはびこっている。今回付いて行ったメイドも、俺と殆ど強さは変わらない。


 それにフランシア様が稀に不自然な動きをするから、俺が察知できない程の密偵も近くに居るみたいだし、俺の存在価値は見せ武力くらいだ。


 あ、因みに俺の名前は、ジンコ・フィアマだ。最近お嬢様に「空気みたいね」と言われたジンコさんだ。人外魔境を生き抜くには、極力存在感を抑え、風景に溶け込む。これが俺の身に着けた世渡り術なのだ。悲しくはない……ない……。


 コンッコンッコンッ


 俺達が適当に仕事を熟していると、部屋の扉がノックされ、そこから入って来たのはこの国の宰相を務めるグレント・デ・アルティンだった。


「失礼する」


「これはこれは、アルティン閣下。如何なさいましたか?」


 こういった時の対応はメルクリオが行うのだが、こいつは立場が上の者に媚びる癖がある。正直、こういった場所の対応には向いていないと思うのだが、それを言って俺が任命されても困るので黙っておく。


「ああ、今回の会談の内容について、変更を求めたい」


「と、申されますと?」


「契約終了を撤回し、契約の続行を我々アルテミシア王国は望んでいる。再度会談の席を設けてもらいたい」


 はあ、今回フランシア様は休暇を非常に楽しみにされていた。この呼び出しで、機嫌を損ねなければいいが……。


 こうして俺達の楽な仕事は終り、慌ただしい日々が始まった。





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