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渓流の釣り、川岸の憩い

自分の趣味全開で盛り込んでおります。楽しいです。

 昨日は、コテージに到着した後も、夜遅くまで三人で語らい、夜更かしをした俺達は、次の日は遅めの起床になった。


 久しぶりに会ったお嬢は、ネタが尽きる事は無いのか、途切れることなく次々と話すことが出てくるようで、殆どお嬢の独壇場だった。


 最も、それは俺にとって苦痛ではなく、楽しそうに話すお嬢の姿に、俺も嬉しくなった。


 そう思えば、今日寝坊してしまったことも、仕方がない。それに久しぶりに熟睡できたので、今日の体調は良好だ。


「おはよう」


「おはようございます」


 俺が最初に起きだして、食前のコーヒーを飲んでいると、お嬢とルーシェが身支度を整えて起きてきた。


 俺は起きて手短に身支度を整えたので、二人が起きたのは俺よりも早かっただろう。昨日遅くまで起きていたから、殆ど寝ていないのではないだろうか。


「二人ともおはよう」


 しかし、そんな事を微塵も感じさせない程、二人は艶やかな顔をしている。二人とも久しぶりの休暇で、気分が高揚しているのかもしれない。


「リオは朝食を取りましたか?」


「いや、まだだ。二人を待っていたよ。そろそろエナ達が朝食を持ってくると思う」


 今回、俺達はバカンスに来ている。その中にはルーシェも含まれているので、他のメイドを連れてきている。


 ただ、俺とお嬢の繋がりを知られる訳にはいかないので、俺の配下の者にメイドとして働いてもらっているのだ。


 エナ他数名の虫人メイドを連れてきている。普段彼女達にはお嬢の近くで、ルーシェのサポートや、表に出せない案件の処理を任されている。


 人間形態では、平均的な人間の女性と同じような体型で、見た目はくすんだ茶髪に、特徴のない顔立ち。これによって気配を極力ひそめている非常に優秀なメイドだ。


 ただ、プライベートの彼女達は種族故か、音楽の演奏が好きで、よく騒音のクレームが出ている(虫人集落内)。演奏の腕がよければまだ良いのだが、彼女達の音感は絶望的で、聞くに堪えないのだ。


 現在は、集落内に防音効果の高いスタジオを作ったので、その中で好き勝手に楽器を演奏しているらしい。ただ、この建材が集落では準備できず、俺のポケットマネーをはたいて資材を仕入れた記憶が有る。

いや、配下の者達が快適に仕事できるのなら軽い出費だ。大切に使ってほしい。


「そう、それじゃあ座って待ちましょう。ルーシェもよ」


「……わかりました」


 ワーカーホリックのルーシェは、逐一言わないとお嬢の世話をしだす。これで逆にストレスを溜めないか心配ではあるが、バカンスに来たのだから一緒に楽しんでほしいものだ。


 程なくして、エナが朝食を運んできた。今日の朝食は、カリカリに焼かれたベーコンに、卵のムースと新鮮なサラダ。そして普段俺が食べている物とは似ても似つかない白いパンだ。


 卵のムースに、ベーコンの油を吸わせてパンに付けて食べると、驚くほど美味しい。


 この卵のムースは、作るのに卵と少量の調味料だけで作れるのだが、ムース状にかき混ぜるのに非常に労力が必要なのだ。そう、自分で作ろうとは思わない程労力がかかる。俺はそれに感謝を込めながら残さず頂く。


 お嬢とルーシェもその美味しさからか、瞬く間に朝食を食べ終えてしまった。


 エナ達は俺を世話する時は本気を出すので、どんな手間も厭わない。きっと、普段俺が居ない状態では、ここまで手の込んだものを作ったりはしないだろう。お嬢達の驚きの顔がそれを物語っている。








 朝食を取った後、俺達は早速遊びに行くことにした。


 今日は近場の渓流で遊ぶのだ。今俺達が居るコテージは、山深い源流にほど近い場所に建てられた避暑地だ。昨日の炎天下を歩いていた時とは打って変わって、この周辺は非常に涼しく過ごしやすい。


 そんな環境で、前から興味があった渓流での釣りをしてみたいと、俺の要望を聞いて貰ったのだ。


 今回使う竿は、海で釣りをしていた時とは違い、竿の先から糸を生やした一本竿だ。


 餌には疑似餌を用意してある。


 本当は、小さな虫を使うとよく釣れるらしいのだが、流石に俺はそれを躊躇した。餌である虫を針に掛ける時に、断末魔とも思える感情が伝わってくるのが俺の精神を疲弊させるのだ。


 目の前でエナが実演してくれた時に俺は諦めた。


 だから、今回は疑似餌を使った釣りを頑張る。この疑似餌は、湾曲した針に毛を生やして虫に見せるタイプの物だ。因みにお嬢とルーシェは実を取る性格なので、虫を使う事を選択した。彼女達には断末魔が聞こえないので気にならないのだろう。


 ただ、彼女達が餌となる小さな虫に針を掛ける時は、何故か満足気な思念が飛んでくることが気になった。いや、深入りはやめよう。


 俺達はそれぞれエナに教えてもらったポジションについて、糸を垂らす。俺は疑似餌を使うので特に慎重に場所選びをする。こういった渓流の魚は警戒心が強いので、人影を見せない方が良いのだ。


「それじゃあ、誰が一番多く釣れるか競争よ! ビリが一番の命令を一つ聞くの!」


 そんな事をお嬢が言いだした。餌の選択をした後でそれは狡い。


 しかし、彼女達は釣りの初心者である。海でとは言え、大物を釣った経験のある俺からしたら丁度いいハンデだ。それに初心者二人相手だから、上手く行けば同率ビリで俺が二人に命令権を手に入れる事が出来るかもしれない。


 俺は少しの思案の後、了承の意を告げる。ルーシェも問題ないようで、俺達の勝負が決まった。


「だらだらと続けてもアレだから、お昼までの制限時間を付けましょう」


「分かった。終了の時間はエナが知らせてくれ」


「畏まりました」


「それじゃあ準備はいいわね? よーい、スタート!」


 俺達はその掛け声と共に一斉に糸を垂らす。お嬢とルーシェは岩の少ない広めの場所で糸を垂らす。やはり初心者、事前の情報収集も満足に出来ていないようだ。


 こういった渓流の釣りでは、岩の下に魚が隠れている。そういった場所に、影から餌を落としてやることで魚が食いつく。俺の場合は疑似餌なので、竿や影を水面に映さないように落とすのが重要だ。


 俺は川から飛び出している岩を飛び越えて反対側へ回り、岩の陰から疑似餌を落と——。


「来たわ!」


「! 私も来ました」


 俺が疑似餌を落とす直前、お嬢とルーシェが魚を釣り上げた。サイズもなかなか立派で、食べごろサイズだ。


「リオ釣れたわよ。貴方はまだなの?」


「まだ糸を垂らしてないのですか? リオはのんびりさんですね」


 これ見よがしに此方を挑発する二人。こんなものはただのビギナーズラックだ。早々続いたりはしない。


 俺は騒々しい二人を無視して、自分の釣りに集中する。こういった釣りでは、魚は音に敏感である。あれほど騒いだらあの二人は場所を変えないと釣るのは難しいだろう。


 気を取り直した処で、俺は疑似餌を川へと投入した。この時に、疑似餌をあたかも水面で虫がもがいている様に、竿先を繊細に動かして微振動を送り続ける。


 これはもはや本物の虫と見分ける事は適わないだろう。


 その証拠に、岩の陰からゆっくりと大きな魚影が姿を現す。


 それは、先程お嬢達が釣り上げた物とは比較にならない程大きな魚影だった。


 俺は全神経を竿と同調させて、人竿一体、釣り師の極致(きょくち)へ至らんとする。緩急をつけて、水面で暴れる疑似餌にリアルを表現する。


 警戒しているのか、魚は一定の距離を開けて疑似餌を凝視している。


 どれだけの時間が経過しただろうか。俺と奴は互いに今の状況から動けずにいた。下手なアクションは疑似餌に疑いを持たせてしまう。しかし、このまま睨み合っていても、いずれ奴は何処かへ去ってしまうだろう。


 ここで、俺は一つ、大きな賭けに出る事にした。疑似餌を一度飛びたたせ、岩にぶつけてもう一度水面に落とす。即ち、この虫が飛び立とうとして失敗したのを装うのだ。


 渓流の魚に一度怪しまれた次は無い。俺は全神経を研ぎ澄まして竿先を操作した。


 疑似餌は、俺が思い描いていた通りに、一度水面から飛び立ち、岩にぶつけた後再び水面に落とす。この時、変に操作する事無く、自然に虫が落ちていくように見せる。


 再び疑似餌が水面に着水した時、状況は一瞬で全てが変わった。


「ノッタアアアア!」


 竿先が一瞬で沈み込み、竿が引っ張られてテンションが掛かる。


 この時初めて魚影の全容が見えたのだが、そのサイズは正に主と呼んで差し支えない程の大きさだった。そして、その存在感に違わぬ引きの強さ。足場の不安定な岩の上では、力強く踏ん張る事が出来ず、相手が一歩有利だ。


 しかし、ここは大物釣りの経験が生きる。


 腰を出来るだけ落とし、竿は常に相手と対角線上に来るように操作する。それ程深い川ではないので、水面に頭を出させて相手の疲労を狙う。こっちは体力には自信があるので薪る気はしない。


 相手はかなり激しく暴れるので、針が外れてしまわないか一抹の不安はあるが、自分の合わせを信じて油断なく綱引きを続ける。


「わっわっわ、リオなんか凄いわ。凄い! 大物よ!」


「あんなに大きなが、こんな小さな川に居るのですね」


「主様、玉網で支援致します」


 目立たぬように控えていたエナも、何処に持っていたのか大きな玉網を持って此方に近づいて来る。


 互いに引かぬ戦いを繰り広げたが、持久戦に持ち込んだ時点で此方のものである。正に俺の戦略の正しさが証明されたと言える。


 次第相手の勢いは弱まり、その隙を逃すことなく岸の方に寄せて、エナが持つ玉網の中へと魚を誘導して見事に大物を釣り上げた。


「……はあ、大きすぎないかしら?」


「本当ですね。私達が釣ったのが子供に見えます」


 釣り上げた魚は、正にこの辺り一帯の主としての貫禄を持った姿をしていた。


 全長は60センチを超え、体高も最大で30センチ程ある。その重さも、女性では片手で持つのが難しい程ずっしりとしている。


「これはニジマスですね。お嬢様やルーシェ様のお釣りになったヤマメとは違う種類になります」


 周囲では何か言っているが、俺は強敵との闘いをかみしめる。


 今回は激闘の末に勝ちを得たのは俺だったが、一歩間違っていれば持ってかれていた。正に紙一重の戦いだったと言えよう。しかし、俺は見事に勝ちを拾ったのだ。


 俺は自然に右腕を持ち上げ、ガッツポーズを取った。








「いやー、釣りって意外と楽しいものね」


「本当ですね。結構釣れるものですね」


「……」


 俺達は今、釣りを終えて川原で寛いでいる。先程の場所と違って、川幅が多少広く、泳ぐのに困らない程の場所が確保できる。


「ほぉら、召使い君。テキパキと動いて下さる?」


「何だかリオのこの姿も懐かしいですね」


 釣り勝負で見事最下位になった俺は、今日1日二人のお嬢様の執事として過ごす事になった。


 俺は最初に大物を釣り上げたのは良かったのだが、それから竿先はうんともすんとも動くことは無く、結局最初の一匹しか釣れなかった。


 それに比べ、お嬢とルーシェはコンスタントに魚を釣り上げた。しかも、何故か釣り上げるタイミングが二人とも同じで、サイズも殆ど同じだった。


 最終的に、釣り上げた数はお嬢、ルーシェが同率1位の12匹ずつ、俺が一匹で釣り勝負はお嬢、ルーシェの勝ちとなった。俺の一人負けである。


「お嬢様方、お飲み物をお持ちしました」


 久しぶりの従者業も中々様になっていると思う。今度従者のアルバイトでもしてみるのも良いかもしれない。


「あら、ありがとう。……あら、このジュース美味しいわね」


「本当ですね。これは……枇杷ですか。これは少しだけレモンが入っていますね。美味しいです」


「そういえば、リオは何時の間にか料理のスキルを上げているらしいわね? 今日の夕食はリオに任せようかしら」


「何なりとお任せください」


 俺の手料理くらい、幾らでも披露してやろう。それに今日の夕食は、それ程手間のかからない物ばかりだ。昨日から仕込みの指示はしてあるので、今晩は楽しい夕食がとれそうだ。


「リオの料理は美味しいので楽しみです。それはそうと、今は他に言うことは無いのですか?」


 現在、俺達は川原に居る。お嬢とルーシェはビーチチェアに寝そべって寛ぎ、俺はその二人の傍らに待機している。もっと正確に言うならば、水着を着た二人が寝そべる間の丁度頭上だ。俺の眼下には、男性であれば無意識に視線が持って行かれてしまう光景が広がっている。


俺も今年で18歳。


いいお年頃なのだ。


「それを言うならせめて褒められる体勢を取れよ」


「あら? 何か仰って?」


 俺のつぶやきも逃さず拾う。流石未来のフェロ公爵家メイド長。


「いえ、お二人共非常に魅力的ですよ」


「あら? どの辺りが魅力的か聞いてもよろしいかしら?」


「そうですね。非常に興味があります」


 今日の二人は何だか積極的だ。そうであれば俺も遠慮なく行かせてもらおう。


「畏まりました。それでは僭越ながら、私の率直な意見を申し上げます。まず、フランシアお嬢様ですが、非常にメリハリのあるプロポーションに、それを惜しげもなく主張する為に作られた水着、そこから延びる四肢は美しく、又その肌は赤子と見紛う程にハリのある肌。天女と見紛う程の美しさで——」


「ちょっ、ちょっと待って」


 どうしたのだろう。自ら求めてきたのに。


「そして、ルーシェお嬢様」


「えっ!?」


「普段から手入れの行き届いている綺麗な黒髪に、その愛らしいお顔、女性らしいそのプロポーションは、並み居る男性の視線を陰から集める程。また、その白く美しい肌は、すれ違う人を魅了すること間違いなし。主を守る為、常に自分を鍛え上げているであろうその身体に最適と言わないばかりの純白の水着が、より一層その魅力を引き立て——」


「うぅぅ……」


 興味があると言っていた割に、その純白の頬を赤く染め、下を向いてしまった。


「おや? お嬢様方、如何なさいましたか?」


 普段社交界で褒められ慣れているであろう二人が、この程度の誉め言葉でどうこうなるとは思えないのだが、結構足腰に来ているようだ。


「リ、リオの意見は分かりました。……私達以外の女性を褒めちゃ駄目よ」


「リオは見境が無いので心配です」


 何故か軽く非難されている気がする。


「なんだか身体が火照っちゃったわね。ねえ、みんなで泳ぎましょう」


「そうですね、ここの水は冷たくて気持ちよさそうです」


「さあ、リオも行くわよ!」


「いいえ、私は執事として此方でお二人の事をお待ちしております」


「執事ごっこは一時中断よ。さあ、行きましょう」


「そうですよ、リオだけ仲間外れなどできません」


 二人はそう言って俺の手を引いて川へと向かう。


 執事とかいいながら水着姿でいれば遊ぶ気満々なのはバレバレだ。


 真夏の暑い日に、川遊びは最高だ。




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