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島の工芸2、別れの会

「流石、エルフの技術はどれも高いですね」


「ありがとうございます。そう言って頂けると我々も誇らしいです」


 レイラの工房を後にした俺達は、続いて陶芸工房、織物工房、御香工房を見学して回った。どの工房でも並々ならぬ高い技術が見て取れる。陶芸工房で作っている壺は、まさか梅干し専用の壺だとは思いもしなかった。年間生産の9割が梅干し壺だと聞いた時の衝撃はちょっとしたものだった。


 他にも、織物工房では、その繊細な裁縫技術に加えて、布を織る技術が卓越していた。それ故にエルフが織る布はきめ細かく、肌触りもよい。その高い技術で紡ぎだされる織物製品は、他の物とは比較にならない程、品質の高い……下着となる。何故か彼らは下着を織ることに命を懸けており、他の物を織ることはないそうだ。意味が分からない。


 そして最も為になったのは、御香工房で学んだことだ。御香とは、香料を含む草花、及び生物を乾燥させた物が使われる。その材料には、薬に使われる物も多く使われていた。特にその技術は、俺の煙薬の物と非常に類似している。物によっては香料と煙色料の違いくらいしかない物もあった。


 こうなると、もう俺は止まることは出来なかった。工房長と御香について色々と語り合い。俺の持つ煙薬についても意見交換を交わしあった。お互いに求める効果に差異はあれど、方向性は同じである。イッカをほったらかしにして議論にのめり込んでしまった。


 そして、その甲斐あって、互いに新しい発想に辿り着いたのは正に僥倖。既存の薬にも新しく手を加える案が次々と思い浮かぶ。


 しかし、楽しい時間というものは過ぎ去るのが早い物で、あっと言う間にモンコネ達との約束の時間になってしまった。正直イッカに止められなければ、約束をすっぽかしていたかもしれない。


 名残惜しくはあったが、イッカに説得され、また今度意見交換する事になった。流石に明日出発するモンコネ達との約束を蔑ろにするわけにはいかない。


 そんなこんなでやって来たのが、モンコネ達がいつも酒を飲んでいる酒場である。とは言っても、酒を提供する場所がここしかないだけなのだ。それでもエルフ達は交易に来る商船の人たちの為に店を開いてくれているのである。


「兄さん、こっちだこっち!」


 店に入ると、こちらを呼ぶ声が聞こえた。店で一番奥の席に座る男、モンコネである。


「すみません、少し遅れました。お待たせしてしまいましたか?」


「なーに、こっちも今揃ったとこさ、さあ兄さんグラスを持ってくれ」


 俺は促されるままに席に座り、グラスを握る。目の前のテーブルには様々な料理が並んでいて美味しそうだ。空腹を我慢しながら乾杯の音頭を待つ。


「よーし、全員揃ったな。グラスを持てー。ここで兄さんから乾杯前の挨拶を貰うぞー。ササ、兄さん一言どうぞ」


 何の打ち合わせも無く、いきなり此方に話を振ってくるモンコネ、せめて先に一言欲しかったよ。促されるままに席を立たされる。……仕方ない、ここはビシッと決めるか。


「えー、では僭越ながら私の方から一言、今回の旅では大きな問題も無く、退屈な安全な旅ができました。これも皆の力あっての事です。次に共に旅する時はスリルと冒険を一緒に楽しみましょう! 乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 俺がグラスを掲げると共に、皆も乾杯の声と共にグラスを突き上げる。海の男たちの掛け声はなんとも迫力があり、空気が震える。各々近くの人たちとグラスを打ち鳴らし、豪快に酒を煽る。彼らの飲みっぷりは相変わらずだ。


「兄さん、じゃんじゃん飯も食ってくださいよ」


「ええ、食べていますよ。この貝の酒蒸しってのが、とっても美味しいです」


「おお、流石兄さん、分かってるじゃないですか。これがまた酒に合うんですよ」


 今俺達が食べているのが、二枚貝を酒で蒸しあげた料理だ。焼いたり煮たりして食べるよりも、身が確りしているのに、旨味を凝縮していて非常に美味しい。


 他にも、魚の蒸し料理や、酸味の利いた味付けがされている『ナマコ』と呼ばれる海の珍味を食べた。食感も面白くて、食べていて飽きがこない。


 その他にも、海のゲテモノと言われるような生き物が、油煮になっていて、一部の人が罰ゲームと称して食べさせられていた。ただ、その後かきこむように食べていたので、俺も少し興味がでた。相当美味しかったらしい。


 皆の酒が進むにつれて、騒がしさに拍車がかかる。飲み会が始まった時は大人しく座っていた人達も、乱れに乱れて騒いでいる。一番酷いのは、着ている服を全部脱ぎ捨てて、裸踊りを披露している者までいる。全く隠さないのは裸踊りと言っていいのか疑問だ。


 飲み会に参加している人とは一通り挨拶を終わらせた頃には、既に飲み会も佳境に入っていた。人によっては飲み過ぎて潰れている。至る所に空の酒瓶が転がり、食べ物は全て食い尽くされていた。まだ口にしていない料理もあったのに残念で仕方がない。


「うえーい、兄さん楽しんでますかー!」


 既に出来上がっているモンコネが絡んでくる。


「モンコネさん、こんなに飲んで明日の出航に支障はないのですか?」


「だいじょーぶですよっ。海の男はこれしきどうってことないでーす」


 結構な酔いっぷりだ。この人達は加減して飲むことをしないので、本当に潰れるまで飲み続ける。


「うははは、兄さんには感謝してるんですよ。あのままだったらウチの連中は海に出られずに家族を養えなかった」


「いえ、こうして私も船に乗せてもらったのでギブアンドテイクですよ」


「それでも、俺達は……、感謝……して……zzz」


 モンコネはかなりのハイペースで飲み続けていたからか、会話の途中で睡魔に負けてしまったらしい。残りの水夫達も似たようなもので、殆どお開きの状態だ。


 挨拶回りを終わらせたら、何時の間にか飲み会が終わっていた。


 仕方が無いので給仕の人に後を任せて、俺はお暇する事にした。明日の朝、見送りの時に最後の挨拶ができるだろう。


 俺は酒場を出るときに、もう一度中を見渡すと、そこは一言で表すなら死屍累々と言えるような状況だった。酷いものである。


 何故、俺が知り合った海の男達は、酒を飲む時に歯止めが利かなくなるのだろう。それは偶々なのか、それとも海の男の特性なのか、疑問が残る。まあ、解決したい疑問でもないので構わないだろう。


 俺は屋敷に戻ると、風呂を頂いて直ぐに部屋に入った。事前に今晩の夕食は共にできない事を伝えておいたので、問題ない。途中でイッカとすれ違い、ラブラの容態を聞いたが、至って安定しているので、アイシャも薬院の方に帰って行ったようだ。流石に連日付きっ切りは体力的にもつらかったのだろう。


 イッカも今日は直ぐに寝ると言って部屋へ戻って行ったので、俺もその流れで自分の部屋へと入ったのだ。


 部屋に入り、寝るには少し早い時間だったので、アイシャに渡す為の資料作りの続きをしていた時、お嬢からの連絡が入った。


『リオ、今良いかしら?』


『ああ、大丈夫だ。何か進展があったか?』


『ええ、色々予定を詰めてきたわよ』


 俺が渡した情報を纏め、整理して、実行可能な形に落とし込む。この作業をいつもお嬢とルーシェが行っているのだから、頭が下がる思いだ。


 今回決まった事は、昨日話していた商会所有の船での探索が決定した事と、その結果次第でどのように動くかの方針決定。それと引き続き、海流の調査を続けることが決まったそうだ。


 船の出発は一週間後で、探索隊ではあるが、ある程度の交易品を乗せたいのでその選別を任された。これは明日イッカに聞くことにする。


 それに随伴する人選も決まったようで、俺の配下の虫人と、商会の中でも信用が置ける口の堅い者を選別したらしい。そんな貴重な人材をこちらに回してしまって大丈夫なのか聞いてみたが、事が事なので、手抜きは一切無しらしい。その分、ルーシェの負担が大きく、学園生活も後わずかなのに、仕事漬けだとボヤいていたらしい。本当、すまんと思う。


 一応、今日作っておいた目印のブイの話もしておいた。こちらの思惑通りであれば一月後にはフェロ公爵領近海で発見される見込みだ。一緒に乗せている虫達に座標を報告させれば、南下する海流のルートが割り出せる。こういった時虫達は優秀だ。種類によっては、特化した能力を持ち、今回頼んだ虫達は、自分の居場所を正確に把握する能力を持った者達を配置したのだ。もしかしたら探索隊と途中ですれ違うかもしれない。


『後はもう少し詳しい話が出てくれば御の字ね』


『そうだな……、こちらも成功を前提に行動するから、少しでも成功率を上げたい所だな』


『当然よ。大切な人材を導入するのだから成功してもらわないと困るわ』


『一応、此方でも情報収集は続けるが、そちらでも何か分かったら教えてくれ』


『ええ、分かったわ。あと二日もあれば港町からの情報も上がってくるから待っていてね』


 他領に比べ裕福なフェロ公爵領だが、領内全てに通信の魔術具が行き渡っているわけではないので情報の伝達には時間が掛かる。特に、大きな成果の出ていなかった港町への魔術具の設置は後回しになっていたので、どうしても時間が掛かってしまうのだ。


 取り敢えず、今やれることは遣ったので、今後は状況の変化に合わせて動けるように心構えはして待機しておこう。


 お嬢の方も、今は準備が整うのを待つ状態なので、慌てても仕方がない。それにお嬢は学園の卒業に向けて色々と準備をしないといけないらしいので、それもあって更に忙しいそうだ。彼女達の仕事を増やす事に定評のある俺としては、頑張ってくださいと一言添えておこう。


 この後は、お嬢の愚痴を聞くことに徹して、彼女が満足するまで付き合った。


 昔から、この役目だけは変わらないと思う。




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