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材料の仕入、島の工芸

「よし、経過は良好。問題ないですね」


 ラブラが着床を助ける薬を服用してから三日目、彼女の容態は落ち着いていて、至って良好……元気すぎるくらいだ。


「これで私は子を産めるのですか?」


「ええ、そうですよ。今後はアイシャさんに相談しながら経過を診て下さい」


 俺の言葉に、ラブラとイッカは喜び合う。アイシャも俺が教えたことを忠実に熟し、現在は初期の妊婦への対応は完璧である。今後は、この後の対応方法について学んでいく事になる。恐らく一月も有れば十分だろう。現在、空いた時間に情報を文字に書き起こしている。それが終わるのもあと数日と掛からないだろう。


 一応、今日一杯アイシャには経過を診てもらう。俺は明日帰るモンコネ達と今晩は飲む約束をしているので、ここはアイシャを頼らせてもらおう。本来なら、ここまで安定を見せたのなら問題はないのだが、この集落で初めての事で少し神経質になっているのか、単純に心配性なのか、アイシャがどうしても今日一杯、経過観察をしたいと言ったので任せることにしたのだ。


 俺は二人に挨拶をして部屋を出る。今日は夜まで暇なので、未だに見て回れていない集落や港の方を見て回る予定だ。


「リオックさん、準備はよろしいですか?」


「ええ、大丈夫です。それでは行きましょうか」


 今日、俺の案内をしてくれるのは、……イッカである。そう、本来なら奥さんの近くに居たいであろうイッカなのだ。この三日、経過観察を理由にラブラに張り付いていたのだが、流石に四六時中張り付かれるのに疲れたのか、ラブラ本人から部屋への入室を禁止されたのだ。あの時のイッカの顔と言ったら、思わず吹き出しそうになった程だ。イケメンの変顔は面白い。


 まずはエルフが得意とする工芸品を製作する工房の見学だ。これには色々種類があるが、御香、陶器、ガラス細工、織物などが有名処だ。特に興味があるのが繊細に作りこまれるガラス細工だ。エルフが作った薬瓶に入れた薬は、通常の瓶に入れたものよりも長持ちする事は有名である。その秘密の一端でも知る事が出来れば、今後の薬師としての活動に役立つのではないかという思いがあるのだ。


 そういう訳で、今日最初に向かうのはガラス工房である。こんな早朝に行って、炉に火が入っているのか疑問だが、イッカが言うには問題無いらしいので、最初に向かうことにしたのだ。


 この狭い集落であれば工房までの距離など、たいしたことないと思っていたが、意外にもガラス工房は集落から離れた場所にあるらしい。なんでも炉を扱う施設はダンジョンの近くに建っているらしい。燃料となる木材の供給源がダンジョンなので、必然的にそうなったらしい。それにガラスの材料もダンジョンの中から採掘しているので、ダンジョン近くが最も効率が良かったらしい。


 集落からは徒歩で一時間程かかるが、普段の移動距離を考えれば、それ程気になる事でも無い。


 それに、その時間を使って、今後島で浮き上がる問題について、イッカには色々と助言しておいた。人口の増加に伴う食糧の問題、仕事に外との係わりなど、島の未来を考えるのであれば、避けては通れない様々な問題。


 そんなこんなで、話に花を咲かせていると、あっという間にガラス工房に到着した。


「ここがガラス工房ですよ。……中に人は居るみたいなので入りましょうか」


 そう言ってイッカは勝手に工房の中に入って行く。そう、この島のエルフ達は人の家にも結構勝手に入って行く。家に鍵を掛ける事は無いし、留守の家なら勝手に入って待っているなど当たり前のことだ。最初は結構面食らった。


「レイラさん、いらっしゃいますか?」


 イッカが工房の中に声を掛けてから、暫らくすると返事が返って来た。


「……居る」


 工房の奥から聞こえてきたのは、何一つ無駄な情報が無い、完結された答えだった。


 そして奥から出てきたエルフ、ここの主にしてガラス作りを任されている女性、レイラの登場である。見た目は20代前半、この集落のエルフは30代くらいに見える人が多いので珍しく思う。少なくともラブラに次いで若いだろう。髪は金髪をミディアムにして、スタイルも非常に良い。ただ、なんだか眠そうな顔をしている。顔が整っているからこそ、その眠そうな顔つきは際立つ。しかし、それを補って美しい。流石エルフと言った所だろう。


「お邪魔します」


「……うん」


「お忙しい所申し訳ありません。今日はこちらのリオックさんの案内で参ったのです。工房の方を少し見学させてもらっても構いませんか?」


「……いい。でも、むり」


 謎々なのか、工房見学は良いらしいが、それは無理らしい。


「何か問題でも有りましたか?」


「……すな、ない」


「砂……ああ、材料が無いのですね?」


「……そう」


 どうやら謎々ではなく、単純に材料切れのようだ。寧ろガラスとは砂から作られているのだと初めて知った。砂ならダンジョンではなく、この島の海岸にもあるのだが、それではガラスにはならないのだろう。でなければ態々ダンジョンに潜ったりはしない。


「リオックさん、すみません。そういう事なのでガラス工房の見学は今度にしましょう」


「うーん、レイラさん材料の採取には時間が掛かるのでしょうか?」


「……すぐ」


 どうやらダンジョンに入って、それ程時間の掛からない場所に材料は有るようだ。それならいっそ取りに行くのもありだ。


「イッカさん、材料が直ぐに採取できるのなら取りに行ってきてもいいですか?」


「え!? 大丈夫ですか? それほど強くないとはいってもモンスターも出ますよ?」


「大丈夫です。モンスターとはそれなりに戦えますから。レイラさんには案内を頼みたいのですが、宜しいですか?」


「……いい」


 と、言うことで俺達は急遽ダンジョンに潜る事になった。大きな荷車とズタ袋、それに採取用のスコップを準備してダンジョンに向かう。何故かレイラは一つ一つの動作がワンテンポ遅いので、殆どの荷物は俺とイッカで準備する事になった。


 工房からダンジョンまでの距離はそれ程離れていないので直ぐについた。この前見た通り、平原型のダンジョンなのだが、砂の採取が可能なのか疑問が残る。


 早速とばかりダンジョンに入ると、レイラにある程度の方向を聞いて突き進む。因みに、ポジションは俺が前衛、イッカがポーターでレイラが荷物だ。レイラは歩く速度が遅いので歩かせると余計に時間が掛かりそうな気がしたのだ。イッカには頑張ってもらおう。


 そしてダンジョンを散策するのだが、目的の材料は直ぐに見つかった。寧ろゲートを潜った先で、直ぐに視界に入って来た白い砂場、歩いて10分も掛からないだろう距離にそれはあった。


「予想以上に近いですね」


「ええ、この階層にはこういった砂場が至る所に有るのですよ。後はそこかしこに10センチほどの穴が空いています。あ、それと稀に「ファー」と奇妙な叫び声が聞こえるくらいですかね」


「それはモンスターの鳴き声ではないのですか?」


「この階層ではそのような鳴き声のモンスターは見たことないですね……そういえば誰の声なのでしょうか? ……不思議ですね」


 不思議、で終わらせて良いのかイッカ。


 兎に角、謎の叫び声が聞こえるのは不安だが、採取場所も近いので直ぐに終わらせて帰れば問題ないだろう。それにエルフ達が普段肉を取る為に潜っているのだからそれほど危険なわけでもないだろう。


 砂場に辿り着くと、俺達はズタ袋の中に砂を入れていく。最初スコップを入れるときに不自然なほど均された砂場だったが、気にしたら負けだと思った。何故だろう。


 持って来たズタ袋、全てに砂を入れ終えると、荷車を押してダンジョンを出る。帰りは俺も後ろから荷車を押して運ぶのを手伝う。これ程ひらけた場所であれば、奇襲を受ける事も無いし、何故か警戒している事が馬鹿らしくなってきていたのは内緒だ。


 俺達は何の問題も無くダンジョンを出て、工房へと戻る。往復、作業時間合わせても一時間も掛からずに採取は完了してしまった。普段採取している割には砂場の砂がそれほど減っていなとは思ったが、誰かが補充しているのだろう。そういう事にしよう。


 工房へ戻ってきて、ガラス製造の準備を始めるレイラ。俺達はそれを横から見学する。炉に火を入れて、燃料を供給する。罐の中には先程取って来た砂が入っていて、炉の熱で段々赤みを帯びてくる。


 30分もすると炉の熱は最高潮に達し、罐の中も赤く、ドロドロした物で満たされた。レイラはその赤く熱せられた液状の元砂に、中が空洞になった鉄の棒を差し込んで適量を絡めとる。


 彼女はそれを口に付けて、息を吹き込みゆっくりと回す。先端に付いた液状化した砂は次第に形を得て固まり、見慣れた瓶製品へと姿を変えていった。


 未だ赤々としているその姿だが、次第にそれも落ち着き、普段見ている姿と同じ透明な瓶へと変わった。


「……はい」


 始めるときも突然だったが、完成する時も突然だった。レイラは完成品を次々と作り上げる。彼女の作っている姿を見て、その造形する技術もさることながら、吹き込む息に微量の魔力が混じっているのが分かる。しかも、その繊細にコントロールされた魔力は、瓶全体に馴染んでいることが見て取れる。


「その微量な魔力が、薬の効果を高めているのですか?」


「……そう」


「私が聞いた話では、万遍無く魔力を馴染ませることで、瓶内部の魔力圧を高め、保存性を高めているようですよ」


 イッカの説明は分かりやすいな。正直レイラの二文字返事では内容を把握しきれない。


「これは私でも作れますかね?」


「……やる?」


「良いのですか?」


「……いい」


 レイラに許可を貰った俺は、エルフの特産であるガラス細工の一部を体験出来る事になった。簡単に一連の流れを説明するなら、鉄パイプに熱した液体(砂)を少量絡めとる、続いて回転を加えながら適度な大きさに膨らませる。そして最後に型に宛がい、一気にふくらませる。この時、瓶全体に魔力を満たすことが重要になる。瓶内部に均一に効果を発揮するように、繊細な魔力操作を求められる。


 魔力を馴染ませるように、回しながら膨らませる処までは上手くできた。しかし、型にはめ込み形状を変える時の複雑な魔力操作は非常に難しい。それまで均一に巡っていた魔力は、瓶の形状を形成する時に偏ってしまい、完全に失敗作になってしまった。


「……だめ」


「ええ、これは難しいですね。私には無理そうです」


「エルフのガラス職人は一人前になるのに50年は掛かると言われていますからね。人の身では難しいかもしれません」


 流石エルフ、一つの技術を極めるまでの期間が異常に長い。確かに一つの事を極める初期の基準が、人間の一生に匹敵するのであれば、エルフの作り出す物が高品質である事にも納得できる。


「こういったことは人には向きませんね。出来る方に任せます」


 流石に50年も修行をしていられない。いや、この先俺の寿命は50年もないだろう。事実上習得は不可能だ。


「そうですね。それにレイラさん程の腕になるには更に50年は必要ですからね。彼女は天才です」


 どうやら、このレベルの品質を出すには更なる時間が必要なようだ。確かに俺が大陸で見たことのあるエルフの品よりも高品質だった。そう考えるとレイラの作るガラス細工はエルフの中でも上位に位置しているのだろう。


「……任せて」


 おお! 初めて三文字を喋ったぞ……。いや、そこじゃない。本人が任せろと言っているのだから、そこは素直に任せよう。取り敢えず幾つか在庫を作ってもらおう。


 その後も、彼女がガラス細工を作る所を見学して、様々な物を作り出す彼女の腕に驚愕した。彼女の技術は、薬瓶に留まらず、様々な物を作り出した。特に、薬剤を直接体の中に送り込む機材が有ることには驚いた。他にも、ガラス製品は腐食に強い性質を利用した製品が多数存在し、柄にもなく色々と注文してしまった。


 ガラス工房でかなりの時間過ごしてしまった。他にも回りたい所が有ったので、レイラに礼を言って工房を後にする。注文した品は、後日レイラが届けてくれるらしいので、それは楽しみに待たせてもらう。


 さて、次は何を見に行こうか。




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