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宿の確保、珍味の味

作者は漬物が大好きです。

この小説の中にも漬物の話を沢山入れていく予定です。

そのうち漬物の小説が書きたい。

 カタボシ島、今回俺達が途中で立ち寄る島である。この島にはもう一つ別の名前を持っていて、双子島と呼ばれることもある。カタボシ島と狭い海域を跨いでカタクチ島と呼ばれる同じような形をした島が並んだ地形をしているのである。


 今、俺達はその片方であるカタボシ島に足を踏み入れた。


「やっぱり、揺れない地面は……良い」


「兄さん、早く行きますよ」


 あの巨大魚を釣り上げてから更に三日、順調な旅路で予定より一日早く目的地にたどり着いた。


 この双子島から、一定の条件が揃うことによって、今回の最終目的地であるエルフ住まう島、ウルメに行く事が出来る。現地の人の話では、次にウルメに行けるのは今日を含めて三日後、明後日の昼頃になるらしい。


 それまではこの島にある宿で宿泊できるので、船旅に慣れていない身としては有難い。水夫達は船の方で寝起きするようだが、俺は素直に宿に部屋を取る事にした。


「いらっしゃいませ、お兄さん。お泊りですか?」


 この島で、最も大きな宿。その入口を潜ると元気のよい声が掛けられた。


「ええ、船の出発が明後日なので、今日、明日と宿をお願いします」


「はーい、よろこんでー。久しぶりのお客さんで、大歓迎だよ」


 この元気の良い娘さん。名前をペリラと言ってこの島唯一の宿の看板娘をしている。そう、宿屋はここ一つしかない。しかもお客さんも滅多に来ないので、実質父親が漁をして生計を立てているらしい。


 確かに諸島群にある小さな島の宿屋など儲かる見込みなどない。外から来る者など船乗りと相場が決まっている。そして船乗り達には船の中に自分の空間を持っているのだ。必然的にこの島に訪れる人が宿を使うことなど滅多にない。


 今までよく宿屋を経営できているものだと思ったが、彼女の幼馴染がちょくちょく宿泊しにくるらしい。近くに自分の家を持っているのにである。そこら辺の話は置いておくとしても、その頻繁に泊まりに来る幼馴染のおかげでこの宿は経営を許されているみたいだ。


 色々と突っ込みどころが多いが、無事に宿屋に泊まる事が出来れば何も文句はない。今日、明日、実質一日半ほどしかないが、楽しませてもらう事にしよう。


 宿屋に入り、荷物を降ろした後、何をするか悩んでいると、ペリラが俺の部屋に遣って来た。


「お兄さん。この後のご予定はありますか?」


「いや、特にこれと言って何もないよ」


「それじゃあ、私が島を案内してあげますよ!」


「え? 宿屋はいいのかい?」


 彼女の申し出は有難いが、仕事を放棄してまで過剰なサービスは受けられない。それ程大きな島では無いので、一人で回っても細かく見て回ることはできると思う。


「大丈夫です! 私の仕事は終わってますから!」


「そ、そうかい? それではお願いしようかな」


 もの凄くグイグイくるので、思わず許可してしまった。しかし、知らない土地で案内があるのは嬉しい。しかし、彼女は何の目的でこんなことを申し出てきたのかは分からないが、ここは好意を素直に受け取っておこう。


 ペリラに急かされるままに宿をでる。ずっと船に乗っていて身体がなまっていたので、こうして外を歩くのは悪くないものだ。日差しの柔らかい冬の空の元を、彼女の話を聞きながら練り歩く。最初こそ何処に連れていかれるのかと思っていたが、島の特産や、観光施設などを案内してくれた。特にこの島特有のフルーツがあるらしく、それを是非見せたいと、今はもう一つの方の島に向かって移動しているところだ。一見、緑豊かな場所だが、周囲には色々なフルーツが実る果樹園が、一つの島を埋め尽くすほどに乱立している。俺達が向かっているのは、その一画にある少し変わった果物が成る果樹園らしい。


「そのフルーツはそんなに美味しいのかい?」


 この島の海底には活火山があるらしく、冬場でも大地が暖かく、寒さに弱い果物でも割と年間通して収穫が見込める変わった場所なのだそうだ。その中で彼女が全力で勧める物だから、色々と期待を持ってしまう。


「えっとー、他の果物とは大きな差がありますね」


「それは楽しみですね。果物は栄養価が高いですから、薬としても使えますからね」


「あははは、見ればきっと喜んでもらえますよ! きっと……」


 色々な果樹園を素通りして、俺達は目的の場所へと遣って来た。そこは他の果樹園と同じように果物が付いた木が立ち並んでいるのだが、収穫が若干間に合ってないように見て取れる。あのままでは消費者に届くころには腐ってしまう。それとも熟すのに時間のかかる品種なのかもしれない。


 ペリラはズンズンと果樹園のなかを突き進む。周囲からは、少し酸味のきいた甘い匂いが立ち込める。


 しばらくすると、この農園の主が居るとおぼしき大きな家が見えてきた。家の殆どが倉庫のようになっている。


 ペリラはズカズカと家の中に入って行く、ここの主とは余程親密な関係なのだろう。まるで自分の家のように入って行った。


「サレハー、居るー?」


「そんな大きな声出さなくても目の前にいるでしょ」


 どうやら目的の人物は、家に入って直ぐの場所にいたらしく、彼女の大声に苦言を呈している。


「おや? 初めまして、この果樹園を管理していますサレハと申します」


「どうも初めまして、リオックです。旅の薬師をしております。この果樹園に珍しい果物があると聞いて、ペリラさんに案内してもらいました」


 なんだか強引に連れてこられた気もするが、興味はあったので良いだろう。実際外に漂っていた匂いは気になったし、今この家の中に漂っている匂いも気になる。外の物とはまた違った匂いだ。


「ああ、ペリラから……。すみません、多分ご想像していらっしゃるものとは違うと思います」


 何故か彼は申し訳なさそうにする。話を聞いてみると、彼の果樹園で作っている果物は少し特殊で、収穫後に加工しなければならないらしい。それに収穫から食べられるようになるのに、最低でも一年、商品にするには三年は待たなければならない、一種の保存食なのだとか。それに普通の果物のように甘いのではなく、寧ろ酸味が強く、人によって好みが分かれる。昔からこの島で作られてきた伝統ある食べ物で、一種のピクルスらしい。


「でも! 美味しいのよ。身体にも良いし、絶対欲しがる人はいるんだから!」


「それでも、こんなだまし討ちみたいに連れてこられてもお客さんは困るよ」


 二人で仲良く喧嘩を始めてしまったが、人をほったらかしにしないでほしいものだ。ペリラはサレハの作る商品が売れないのを気にしているらしい。元々彼は島の外に出て、大陸に留学できるほど頭が良かったが、彼女の我儘で実家の果樹園を継ぐ事になり、その商品が年々売れなくなっていることを気にしているらしい。


「とりあえず、サレハさんが作られている物を食べてみたいのですが、お一つ頂けませんか?」


 果物として食べられないのは残念だったが、ピクルス好きの俺としては、彼の作っている物に興味がある。特に、外で嗅いだ匂いの元を使っているとなると、色々と調べてみたいことが有る。


「ええ、構いませんよ。少しお待ちください」


 サレハは奥に入ってしばらくすると、一つのツボを持って帰って来た。そのツボからは強い酸味の香りを感じる。匂いを嗅いでいるだけで、涎がでてくるようだ。


「これが我が家で作っている『梅干し』って名前のピクルスです」


 蓋を開けて中を覗き込むと、そこには赤く柔らかそうな果実がゴロゴロと入っていた。見た目からは数年ももつようには見えない。寧ろ外で生っていたものより新鮮なのではないかと錯覚してしまいそうだ。


「それでは一つ失礼します」


 壺から果肉を一粒摘み上げる。その身は柔らかく、力を入れ過ぎれば崩れてしまいそうだ。先程まで漬かっていたのがはっきりわかるほど濡れていて、そこから香り立つ匂いは先程感じた物とは比べ物にならないが、なんだかお腹が空いて来るような匂いだ。


 一口で食べるには少し大きかったので、半分ほどを齧って食べる。その直後口の中に暴力的な酸味が広がる。その酸っぱさは口を強制的に窄めてしまうほどだ。しかし、ただ酸っぱいだけではなく、口の中には不思議な旨味が広がる。甘みと塩味が調和していて非常に美味しい。果物だとは思えない程、これはライスに合うと思う。その実は口の中で溶けるように無くなってしまった。


 俺がその味を堪能している姿を二人は黙って見つめてくる。そんなに視線を感じたら、味に集中できないのでやめて頂きたいものだ。


「酸味がすごいですが、非常に美味しいですね。これは栄養価が気になります」


「それは良かったです。栄養価は此方に一覧が御座います。ビタミンを中心に非常に高い数値を出していますよ」


 そう言って見せてくれた表には、確かに軒並み高い数値が記されていた。特に壊血病と言われる船乗りがよくかかる病気に対して、一日一粒の摂取で十分な予防効果がみられると分かる。これは遠方への船旅の帰還率を上げる要因になるかもしれない。それに栄養価を表記する発想も凄い、このご時世こんなことを気にする客もいなければ、売り手もいない。彼には薬師としての知識もあるのかもしれない。


 何はともあれ、これを見逃すのは惜しい。寧ろこれ程の物が周囲に広められていない事に違和感すら覚えるものだ。


「どうですか、お兄さん? とっても美味しいでしょ?」


「そうですね。味には個人差はありますが、私は好きな味です。それよりもこの栄養価に私は興味がありますね。これ程優れた物が何故広まって無いのですか?」


 俺の質問に、サレハが苦い顔をしながら答えてくれた。元々この『梅干し』はこの島の特産品として、古くから作られていたのだが、島の外の人達には馴染みが無く、それ程売れることは無かった。そこで島の人たちは生き残りをかけて、多種多様な果物を育てる事を選んだ。これについては一定の成果がでたので良かったのだが、この多様な果物を育てる事を推進していた一派が力を持ち、梅の栽培農家を次々と吸収して、自分たちの傘下に加えて勢力を伸ばして島の統治にも口を出し始めたらしい。これによって、一部の人間が利益を得て、島の中で貧富の差が顕著になり、水面下では二つの勢力に分かれて争っているらしい。


 そんな中でも、昔ながらの文化と『梅干し』の可能性を信じて、一つの産業にできないかと考えているのがサレハ達のような農家なのだとか。この『梅干し』が一つの産業として成り立てば、今仕事にあぶれる者達にも仕事が回せるし、島の政治が一つの勢力の判断で運営されることを阻止できると頑張っているらしい。


 今回、ペリラが俺をここに連れてきたのは、そもそも『梅干し』の認知度の低さが原因だと考え、外から来た人に少しでも知ってもらおうと思ったからだとか。強引なところは兎も角、発想は間違っていないと思う。実際、俺は興味を持ったのだから。


「仮に、販売路が確保できた場合、どれ程の数を出荷する事が出来ますか?」


「え? ええと、現在の生産量だと年間で30トン程可能だと思います」


 生産量が少ないと感じるが、一度衰退した文化だと考えれば仕方ないのかもしれない。これは仮に産業となるにしろ、いかに生産量を増やせるかがカギになるだろう。もう俺の頭の中では商会を介入させる気満々である。ルーシェには頑張ってもらおう。


「成る程、今度知り合いの商会にこの商品を教えたいと思うのですが、宜しいですか?」


「ええ、それは構いません。ただ外の商会の方ですと、こちらへの買い付けは出来ませんよ?」


 サルディーナ諸島群の商船は棲み分けが確りしているので、勝手に交易船が各島で商売する事を禁止している。ただ、抜け道もある。交易船がだめならサルディーナで活動する商船を丸ごと買ってしまえばいい。そうすれば色々安く済むので高い利益も見込める。


 最も、まずはこの『梅干し』の認知度を確固たるものにする為にお嬢には頑張って貰わないといけない。交易国家であるクリサンテモ王国に太いパイプを持っているフェロ公爵領だからこそ出来る事でもある。実際、船乗り病はクリサンテモ王国にとって、大きな問題の一つとして考えられている。その問題を大きく改善する方法が有るのだとすれば、彼らはそれに飛びつくだろう。


 今までこの『梅干し』が広まらず、寧ろ衰退してしまったのは、その生産の絶対量が少ない事が一つ上げられる。元々はサルディーナ諸島群の船乗り達の間で消費されていたのだと思う。ただ、彼らの縄張りは飽くまでも諸島群の中なので、長期保存が可能な梅干しでなくても、普通の果物で事足りてしまったがために、この梅干しは衰退した。昔の船乗り達はもっと遠くを目指して航海していたから、船乗り達のスタイルが変わったことも一つの要因かもしれない。


 増産の計画なんかは商会にまかせるとして、当面の資金さえあれば彼らも大丈夫だろう。ここは収納魔導具を見せても大量購入しておくべきだろう。サンプルは多い方が良しね。







「本当にこんなにも買って頂けるのですか?」


 俺の目の前に並べられた梅干しは、彼が保有する数の半分にも及ぶ。これを魔導具の中に入れたら魔導具の中が酸っぱい匂いで一杯にならないだろうか不安だ。


「ええ、知り合いにも配りたいですし、保存が効くのならお土産にもしやすいですからね」


「なんだか凄いね、サレハ」


「あ、ああ……、こんなに高く評価してもらえるとは思わなかったよ」


「これは其れだけ価値のある物ですよ。世界に広めるべき物です」


 この梅干しの価値は、世界に広がってこそ真価を発揮する。この直径3センチの一粒が、世界の距離を縮める可能性を秘めているのだ。これが出回れば遠く離れた土地の特産物が今よりも安く手に入れる事が出来るようになるかもしれない。この可能性に投資せずに何に金を使えと言うのだろうか。


「やっぱり私の勘は間違ってなかったね! リオックさんを連れてきた私のファインプレー!」


 彼女の言葉を聞いて俺達は思わず顔を見合わせてしまう。どうやらお互い想いは同じようで、苦笑いを浮かべてしまった。


 サレハもなかなか女性に振り回される性質らしい。




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