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島への到着、昼の酒場

ご飯が美味しい季節です。太ります。

 朝、目を覚ますと船が大きく揺れるのを感じた。


 服を着替え、身だしなみを整えてから甲板まで出ると、昨日は感じなかった潮風を肌に浴びて、東から射す太陽を前方に捉えながら船が進む。


 どうやら凪は終わり、無事に船は目的地に向かって進んでいる様だ。船の上では、昨日までのダラケ振りなど想像させない程、水夫達が忙しなく動き回っている。この切り替えの早さも海の男ならではなのだろう。


「よお、旦那。おはようさん」


 水夫の格好をした男が挨拶してくる。昨日散々俺の体力を消耗させた男だ。


「おはようございます。無事に出発できたみたいですね」


「おうよ、この調子なら昼前には到着する予定だぜ」


 ようやく一月掛かった船旅も終わりを迎えるときが来たようだ。思い返せば毎日が同じような風景に、同じような生活リズム。特段変わった事も無く、毎日が退屈との闘いの日々。食事も似たような物しか出てこず、暖かい湯もない。この生活ともおさらばできると思うだけで胸が高鳴る。普段なら新天地に到着する事に喜ぶのだが、流石にこれだけ過酷な生活を続けると、現状からの脱却を喜んでしまっても仕方ないだろう。


 最も、このカラに滞在する日数はそれ程長くは無いだろうから、結局またここと似たような生活に戻る事になるのだが、それは今考える必要は無いだろう。


 船長と別れてこの船最後の食事を取る。この味気ない食事も最後だと思うと、一味違うように感じる。ああ、早く新鮮な野菜が食べたい。


 食事を終えて、水夫達の邪魔にならない場所で、のんびりコーヒーを飲みながら到着を待つ。既に見張り台からは小さく目的地であるカラの島が見えているらしい。


 普段サルディーナ諸島群に向かうとなると、まずはカラの島に向かうことが殆どである。ここは、全ての島の中で最も大きな港町を持っている島で、サルディーナ諸島群の中で、最も多くの人と物資が集まる場所である。


実際、百を超える島々で成り立つサルディーナ諸島群を一つ一つ回って買い付けるのは現実的ではない。その為、島々を回る商船と、外との交易を行う商船でこの島々の貿易は成り立っている。


 多少風はあるものの、季節の割には陽気な天気に、少し睡魔に誘われながら到着を待つ。


「メインマストを畳めー。着岸の準備をしろ!」


 船長の指示の元、水夫達が忙しなく動き回り、到着に備える。俺も荷物は既に纏め終わっているので、邪魔にならない所で彼らが働くのを眺める。流石熟練の水夫達は、無駄のない動きでテキパキと働き、瞬く間に港への着岸を果たした。


 これから彼らは運んできた荷を下ろすのに忙しくなるだろう。俺は最後に船長に挨拶をする為に彼に会いに行く。俺が船長を探していると、水夫の格好をした男が話しかけてきた。


「おう、旦那。お疲れさん。無事に港に到着だ」


 そう、この船の船長、キャピタノである。


「ええ、長らくお世話になりました。次の機会が有ればまたお願いします」


「おう、こちらこそありがとな。次来るときは暖かい時に来いよ。快適な旅を提供するぜ」


 確かに冬の船旅は非常に辛かった。次は水浴びが気持ちいい季節にするのも悪くないかもしれない。船長に挨拶を済ませ、仲良くなった水夫達とも挨拶を交わして船を降りる。


 船を降りた先は、沢山の船が並ぶハーバーの一角だった。その数は百を超えて、大陸と諸島群の物資の運搬の動脈となるに相応しい光景が広がっていた。


 数々の船が並ぶハーバーを抜けた先には、幾つかに分かれた区画が立ち並ぶ、一つは船から下した荷を置いておく倉庫が立ち並ぶ区画。もう一つはその船を動かしている人員を支える宿や酒場、娼館が立ち並ぶ区画。そして、多くの物資が売り買いされている巨大な市場が広がる区画と分かれている。特にこの市場は、個人的な買い物から、商会としての買い物まで対応できる巨大マーケットだ。


 俺の用があるのは、宿や酒場が立ち並ぶ区画である。市場にも興味はあるが、そちらは時間が余ったら向かう程度で構わない。


 今回、このサルディーナ諸島群に来た目的は、人間とは違った文化を持ち、薬学に深い知識を持つエルフと言われる種族に会う為に()って来たのである。大陸にもエルフと会う事が出来る場所はあるのだが、特定の団体としか接点を持たない、閉鎖的な文化を持つため、俺のような旅の薬師が話を聞くことはできない。それに比べて、このサルディーナ諸島群に住んでいるエルフは、冬季限定とはいえ種族関係なく交流があるので、俺のような個人でも話を聞く事が出来るのである。


 今俺が向かっているのは、そのエルフが住む島へ荷物を届ける商会を探す為に、情報が手に入りそうな水夫が集まる酒場だ。基本的に自分が行きたい島へ向かう船を探すのに使われるのが酒場である。そこで自分が行きたい船の関係者なり、その船が停泊している場所を教えてもらって交渉する事になる。


 酒場も沢山あって一見どれが良いのか分からない。実際俺のような素人には、何を基準にすればいいのかなんて分からない。事前に船長達からお勧めの酒場を聞いておいたのは正解だった。


 今俺の目の前に建っている建物、『ウブリアコーネ』という酒場が船長達お勧めしてくれた場所だ。


 場所は俺達が到着した港から少し離れていた。なぜならば、ここの酒場はサルディーナ諸島群を回る船乗りが良く使う場所で、交易に来た外からのお客さんではなく、地元の船乗りたちが集まっているらしい。


 実際、交易の為の商船が停泊する港と、サルディーナ諸島群を回る商船の港は別々に分かれている。掛かる税や、荷物の検査の厳しさなども違ってくるらしい。又、お互いに縄張り意識が有るのか、相手のテリトリーには滅多に入って行くことは無いのだとか。


 どこの世界にも独特の風習とは有るものだと思いながら、俺は酒場の中へと足を向ける。


 簡素な両開きの扉を開いて入ると、正面にはカウンターがあり、その両サイドに並ぶようにテーブル席が設置されている。昼時だからなのか、酒だけではなく昼食を取りに来ている者もいる様で、店内は活気づいているようだ。


 賑わう店内を真っ直ぐカウンターに向かって進む。空いている席に座り、店内を見渡す。客の大半は船乗り関係の人達ばかりだが、所々に職人と思われる人も混ざっている。長旅をする上で、船のメンテナンスは欠かせないから、そういった職人も一定数港には必要なのだろう。


 俺が店内を見回していると、カウンターの奥から店主と思われる男が話しかけてきた。


「兄ちゃん、飯かい? 酒かい? 船かい? 女かい?」


「ご飯と船の紹介をお願いします」


 酒場の店主は一種のインフォメーションだ。客の求める者を紹介してその仲介料をとる。


「今日の飯は、シーフードライスだ。船はどこを探している?」


「ではそれを一つ。船は、エルフが住む島に行く船を紹介してください」


「はいよ。エルフの島って言うと、ウルメ島だな。えぇ~っと……」


 どうやらエルフが住む島の名前はウルメと言うらしい。そういった情報すら持っていなかったので非常に助かる。


 店主は周囲を見渡す。それ程間を置かずして、目的の人を見つけたのか、一人の男に声を掛けた。


「おい、モンコネ。お前さんに客だ! ……後は自分で交渉しな」


 そう言って店主は奥へと入って行く。仲介料は食事の支払いと一緒にすればいいだろう。


「なんだい兄さん。あんたが俺に用があるって?」


「ええ、ウルメ島に行きたいので乗船させてもらえる船を探しています」


 モンコネと呼ばれた男は、細身でお世辞にも健康的な身体とは言い難い。髪もボサボサで顔色もあまりよろしくない。単純に疲労が溜まっているだけではなさそうだ。


「確かにウチの商船はウルメに行く予定だ。ただ、今はその目途が立たない」


「何か問題でもあったのですか?」


 確かに彼の姿を見れば、何となくだが察することはできる。見ただけでは詳しくは分からないが、大体何が問題なのかも検討がついてはいる。


「ウチの船員の半分近くが、疲労が回復しなくてね。かく言う俺もそうなんだがな」


「ではその原因の治療を対価に、ウルメまで運ぶっていうのはどうでしょうか?」


 船乗りに稀に起こる病気、壊血病などではなく、もっと単純で、即効性が確立されている治療法がある。元々は西の方の漁師がよく掛かる類の物だったのだが、海とは不思議な物で、極稀に普段と違う現象が起こることが有る。海流の突然変化や、漁獲の大幅な変動。最も遠い地から流れてくるゴミ。そういった意味では何が起こるか分からない世界なのだ。


「へぇ、兄さんお医者さんなのかい?」


「医者ではないですが、薬師をしております。貴方の症状にも思い当たる所がありますよ」


 モンコネは俺の目を真っ直ぐ見据える。騒がしい店内の中、ここだけが違う空気を纏っているかのようだ。彼の目線を正面から受け止めて見据える。しばらくすると——。


「かっかっか、これは面白そうな兄さんだ。俺の名前はモンコネ。商船の船長をしている。先程の話是非のらせてもろう」


「私の名前はリオック、旅の薬師です。こちらこそよろしくお願いしますね」


 お互いに固い握手を交わす。取り敢えずの話はついた所で注文していた料理が出てきた。店主に料理と仲介料を払い食事をする。モンコネには申し訳ないがその間酒でも飲んで待っていてもらう。病の治療の話など、食事の最中にするものでは無いので、当たり障りのない話をする。ここまでの船旅の話をしつつ、大陸との交易をしている商船と、サルディーナ諸島群を回る商船の違いについて探ったが、何処も似たり寄ったりだという印象を覚えるのみだった。


 食事が終わり、彼の仲間が滞在している宿があるのでそこに案内してもらう。彼らの商会が所有している宿屋らしく、本来船から離れることは無い船乗り達だが、病気が予想以上に酷く、安静にさせる為にそちらに移っているらしい。


 何はともあれ、モンコネ含めて全員治療するだけだ。


 さあ、ここからは薬師の仕事だ!





作者はパソコンと睨めっこの日々を卒業して運動しております。

作業時間は減っているのに、以前立てた予定とほぼ同じ、寧ろ少し早い。なぜだ?

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