表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/84

一つの終り、次の未来

ブックマーク、評価、有難うございます。

「リオ、次はこの店に入りましょう」


 今、俺はルーシェと共に王都にある色々な店が立ち並ぶエリアに来ている。ダンジョンの中で約束した美味い飯を食べさせてくれると言われたのでノコノコとやって来たのだが、先程からルーシェの買い物に付き合わされている。最初は夕食にはまだ早いと、簡単な買い物に付き合うだけの話だったが、先程から色々な店を梯子している。今入ろうとしているお店は可愛い小物が人気のアクセサリーショップだ。


「これとこれ、何方が良いと思いますか?」


「ルーシェには此方の色が、良くお似合いだと思いますよ」


 俺はそう言ってサファイアが埋め込まれたネックレスを宛がう。白く細いその首に輝くローズカットされたサファイアが美しく輝く。ルーシェの美しい黒髪にはやはりこの色が良く似合う。

 

 俺の答えは間違ってはいなかったようで、彼女の顔も満更でも無いご様子。流石に俺の収入で買ってやることができるほどお安い物では無いが、そこは子爵家令嬢。家の付けで買えるのでお金には困らない。


 俺達がこうして安穏と買い物をしていられるのも、王子達とのダンジョン攻略が成功を収めたからに他ならない。


 あの後、俺達は順調にダンジョンから帰還を果たし、キャシーの宿で盛大にお祝いをした。最初は俺達の帰還が予定以上に早かったので、何かアクシデントがあったのではないかと心配していたが、王子の持つ杖を見て驚きと共に納得した顔をしていた。


 当初心配していたディエース教の襲撃だったが、お嬢が先に大本を潰してくれていたお陰で、現地に残っていた状況の把握もできていない下っ端を処理するだけで済んだ。やはり、今回の襲撃を画策したのは、ミスカンティス聖国の手の者であり、この国で司教を務めていた男であった。しかも、この国の公爵の位を持った男であり。この国へのディエース教の浸透は既に深刻な域にまで来ているのかもしれない。これは今後の王子の働きに期待するしかない。


 キャシーの宿屋で一晩明かした後は、王子達は報告のために一度イリス王国の王都に立ち寄るらしい。事と次第によっては、そのまま学園を退学して王太子就任の準備に入るかもしれないと言っていた。勿論、トランシスもそれに付いて行くので、彼らとはここでお別れをした。


 アルとセシルはフェロ公爵家への報告があるので領地へ帰って行った。今回はお嬢主導での依頼だったが、資金はフェロ公爵家から出しているので、その説明責任があるとか言っていた。俺はこの時、何となくだが領主様には俺の事はバレているのではないかと漠然と感じた。多分間違ってないと思う。


 そして残された俺とルーシェだったのだが、彼女の誘いもあって王都へとやって来たのだ。最も、ここはオスマントス王国の王都ではない。そこには少なからず俺の顔を知っている人もいるので油断できないが、このカルド王国の王都であれば、余程の事が無い限り知り合いと出会うことは無い。


 機嫌を良くしたルーシェを伴い、店を冷やかしながら通りを歩く。彼女も普段のお役目から離れて気分転換をする事も大切だと思う。彼女は他の従者達とは違って、お嬢の側近に相応しい情報を開示されている。その苦労は他のメンバーとは比較できない程大きなものだったのだと、傍を離れたからこそ理解できる。もしかしたら彼女は何のしがらみも無く買い物する事すら初めての経験なのかもしれない。


「ルーシェ、次は何処へ向かいますか?」


「はい、そろそろ今日予約を取っておいたレストランに向かいましょうか」


 立ち並ぶ店を粗方覗き終わった辺りで、約束の美味しい料理が食べられるレストランへと向かう事になった。


 このカルド王国と言う国は、周囲を列強国に囲まれた小国群の中でも最も政治的立場が難しいとされる国の一つだ。東、南、北にオスマントス王国、ネスポロ王国、カワトゥス王国と大国に隣接し、西には小国群が乱立している。それに、周辺の資源は粗方大国に抑えられているので、自国の産業そのものも乏しく、生き残るのに非常に困難な国だと言われていた。


 しかし、前国王のカリスマ性と卓越したバランス感覚で、自国に他とは並び立つ事の無い付加価値を持つことに成功したのである。その付加価値と言うのが『食』である。世界各地から優秀な料理人を集め、研鑽し、高めた。他国に比べて遥か先に行くその料理の技術は、世界各国から注目を浴びるほどである。


 こうして前国王は、国其の物の名を高めて、他国に侵略する事を躊躇させるに至ったのだ。今ではカルドを攻めれば大陸の西側が敵に回るとまで言われる程である。真意は定かではないが、それが現在の周辺国の認識だ。


「ここが私のおすすめのお店ですよ」


 ルーシェの案内の元、やって来たのは一軒のレストランだった。特別豪華と言えるほどでもないし、寂れているわけでも無い。レストランと言われて思い浮かべる極々標準的な造りをした佇まいだ。


「こう言っては何ですが、至って普通のレストランですね」


「はい、それがここの店主の狙いだそうですから」


 何か普通と言われる佇まいに拘りでもあるのだろう。好みは人それぞれだと言うし、料理を提供する者として何か想うところが有るのだろう。


 レストランの扉を開けてルーシェを招き入れる。店内はブラックオークを基準とした内装で、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「いらっしゃいませ。ご予約を頂いていたルーシェ様とそのお連れ様でよろしいですか?」


「ええ、そうです。席への案内をお願いしますね」


 そうして店員に案内された先は、洒落た中庭が眺められる個室だった。丸い石を敷き詰め、そこに描かれている模様が不思議と品格を醸し出す。そこには余計な物は無く、洗練された美を感じ取れた。


「へぇ、これは凄いですね。今までに感じた事の無い美しさです」


「リオにも分かりますか。ここより遠い島国の文化だそうですよ」


 このレストランは中庭も含めてウンデフィーノと言われる島国の文化で、『和』と呼ばれる物をコンセプトに造られているらしい。俺達の住むカラマロ大陸からは半年は船旅をしないといけないほど遠く離れていて、他の文化圏とも大きく離れているから、独自の文化が育まれ、物珍しいものが多いらしい。


 そこにあるテーブルも不思議なもので、床に穴が掘られて、その中にテーブルが設置されている。テーブルの高さは40センチ程しかないが、足を下に降ろせるので座るには困らない。


「このテーブルも面白いですね。珍しい作りです」


「ここは、他では見られない物が沢山ありますから。お料理もこの和と言われる文化に沿った物なのですよ」


 独自に形成された文化が生み出した料理が食べられる店。流石、食の国カルド王国と言うべきか。


「今回は複数の味が楽しめる会席料理を予約してあります。楽しんでくださいね」


 ルーシェから感じられる自信に期待が高まる。彼女が勧める料理なのだから、元より美味しいことは分かっていたが、ここまで期待させられると、どんなものが出てくるのか楽しみで仕方ない。


 俺達は他愛無い話をしながら料理の到着を待つ。普段口数が少ない二人でも、これほど話題に困らない空間に居れば、話が尽きることは無かった。


「失礼します。お料理の先付をお持ちしました」


 そう言って並べられたのは、幾つかの小さな小鉢に入った料理だった。一つ一つの量は少なく、何方かと言えば肴として食べる類のものだと思う。こうしてみると、少し格式の高い料理なのかもしれない。


「すまないが、こういった料理は初めてなのだ。マナーとして外せないことが有れば教えて欲しい」


 こういった時は素直に聞くのが一番手っ取り早くて、恥じを掻かずに済むものだ。


「正式なものですと複雑ですが、最低限であれば、料理を手前からお食べ下さい。食べる途中もお料理を崩さない事を意識して頂ければマナーとして十分かと思われます」


 俺の持論で、マナーとは最低限美味しく食べる為の作法だと思っている。やはり美味しい物には、それに合わせた所作と言うものが有るものだ。


 先程給仕の人に聞いたマナーを意識しながら、料理を口に運ぶ。どれも薄味をしているが、味に奥行きがあり、複数の旨味が重なり合って感じられる。先付とは前菜みたいなものだろう。この後の料理に期待が膨らむ一品だ。


「どうですか? 私が知る中で特に美味しい料理なのですが……」


「ええ、美味しいですよ。この後の料理も気になります」


 俺の返事に満足したのかルーシェはハニカム。彼女が見せるその笑顔は非常に美しい。滅多に笑うことは無いが、不意に見せる笑顔で心揺さぶられる男性は少なくは無いだろう。


 先付を皮切りに、お吸い物、お造り、煮物、焼き物、揚げ物、蒸し物と次々と料理が出てくる。見たことが有るような料理から、今まで想像もできなかった料理まで、様々な味が楽しめた。


 それにこの料理は味だけでなく、その見た目も、その匂いまで料理の一部として組み立て、高い完成度を発揮している。俺も少しは自分で料理をするようになって、味の改良など考えたこともあったが、これ程までに高い完成度を誇る料理は今までに見たことが無かった。


「はふぅ、凄いですよルーシェ。こんな食事は始めてですよ」


「ふふふ、喜んでもらえて嬉しいです。ここに人をお誘いしたのはリオが初めてですからね」


「それは光栄だね。ここで君と食事ができたこと、本当に嬉しく思うよ」


「これでダンジョンでの借りは返しましたからね」


 責任感の強いルーシェはダンジョンで俺に怪我を負わせてしまったことを、未だに気にしている様だ。ここの食事でその区切りとできるのならそれでいいだろう。俺にとっては美味しい食事をルーシェと共にしただけだ。


「ええ、十分すぎるくらいですよ。それに久しぶりにルーシェと二人で取る食事も楽しいですしね」


 なんだかんだ久しぶりの再会でも、二人で話をする時間はあまり無かった。こうしてゆっくり話が出来たのは良かった。ルーシェ達も、もうすぐ学園を卒業になる。そうなると今後は領地運営の為の活動が忙しくなるだろう。俺の活動も少しでもその手助けになればいいと思う。


「……それで、リオはこの後どうするのですか?」


「そうだなぁ……春過ぎまで大陸を離れようと考えているよ」


 薬師として新しい技術に触れる為に、各島で独自の技術を発展させているサルディーナ諸島を回る予定でいるのだ。定期便がクリサンテモ王国から出ているので移動には困らない。


 それに冬場でないと潮の流れで行けない島もあるので、この季節は丁度いい。


「そうですか、シアは来年の夏季に入る前に、現地でアルテミシア王国の貴族との会談と数日ですが休暇の予定が有ります」


「へぇ、確か三年毎に行う会談でしたよね。それにお嬢がいくのですか……」


「? いつもの会談で、契約の延長を行うだけになると思いますよ」


 確かに何事も無ければ確認事項と再契約で済む話だろう。しかい、世代が変わる瞬間だと相手が何か仕掛けてくる可能性もある。実際、次代の公爵として内外に示すには丁度いい案件ではあるのだろが、確か会談を行う貴族はミスカンティス聖国寄りの貴族だったはず。少し注意を促しておいた方がいいだろう。


 どちらにしろ、会談終わりに時間があるから、そこで会いに来いという命令のようだ。別に命令でなくても会いには行くが、他の従者の事もあるので気軽にできることではない。その当りも理由を作っておくと言っていたので、俺は大人しく頷いておくことにした。


 食事も終わり、お互い満足いくまで会話を楽しんだ頃には、既に夜も遅い時間になっていた。楽しい時間とは不思議なほど過ぎ去るのが早い。そろそろ俺達もお別れの時間だ。宿も別々に取ってあり、明日も別々の時間にここを離れる。これも極力俺達の関わりを誤魔化す為でもある。今日は態々変装していたのである。


「次にお会いできるのは来年の夏ですね。怪我などしてはいけませんよ」


「大丈夫ですよ。あ、そうだこれをルーシェに渡そうと思っていたのです」


 俺は懐から取り出した長方形の箱を彼女の前に置く。


「なんですか? これは」


「この先ルーシェには必要だと思ったので準備しておきました」


 ルーシェが開封の許可を求めたので一つ頷く。箱の中から出てきたのは青白く光る細長い筒の様な物。


「万年筆、ですか……、しかもこれはミスリル銀……」


「はい、ここ二年プレゼントを貰ってばかりでしたからね。そのお返しも兼ねて用意していたのですよ」


 実は俺がフェロ公爵領を離れてから直ぐは、ベレッザ商会も各地に支店を出していた訳では無いので、お嬢との物資のやり取りも最低限に抑えていた。それに俺は手持ちの資金が乏しかったので、プレゼントを贈る余裕も無かったのである。


 そこで今回は、今までの分と頑張ったルーシェの為に、プレゼントを用意した。それがこの万年筆なのである。以前治療した鍛冶師の親父さんにミスリル鉱石を融通してそのお礼代わりに作って貰っていたものだ。今ではお嬢以上に書類仕事の多いルーシェには疲れにくい道具で仕事をしてもらいたかったのである。


「もう、不意打ちはずるいです……」


 ルーシェは小声で何かを呟いている。もしかしてデザインが気に入らなかったのだろうか。流石に不安になる。


「気に入って貰えなかったかな?」


「いえ、有難うございます。大切に使わせて頂きますね」


 どうやら大丈夫だったらしい。気を使わせたかとも思ったが、その笑顔は本当に喜んでいる時の笑顔なので間違いないだろう。


 それから俺はルーシェを泊っている宿の近くまで送り、言葉少なく分かれた。夜とは言っても誰が見ているか分かったものでは無いので要注意だ。年若い娘に変な噂が立っても困る。


 明日からまた一人での旅だと思うと心の隅に少し物寂しい思いもあるが、次に会える時が決まっているので、以前ほどその思いは強くない。それに、お嬢へのプレゼントも決めなければならない。


 取り敢えず、これにて今回の依頼は終了だ。



挿絵(By みてみん)




これにて第二章は終了です。

あと数話閑話が入ります。

本文最後の地図は、この話の舞台になっている大陸の地図になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ