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戦の前準備、高みの戦闘

 俺達はセシルに導かれるままに進む。天幕を張ってある場所からそれ程離れていない場所に三人は居た。皆崖の下を覗き込むように地べたにうつ伏せになり、頭だけを出した状態で下を観察している。


 俺達の接近に気が付いたアルが、此方に振り向いて手招きする。俺はアルの横まで行き、同じように寝そべって崖の下を覗き込む。


「あれっす。あそこっす。あそこに居るの守護者じゃないっすか?」


「ああ、間違いないな。守護者……あれは、リザードマンか……?」


 そこに居たのは体長3メートル強、尻尾まで含めた全長だと6メートル程あるトカゲの顔を持った巨大な男……リザードマンだった。体つきは非常にガッシリしていて、その手には巨大な剣が握られている。その巨大な身体から齎される膂力は想像するに難くない。さらに全身硬い鱗に覆われていて、並みの攻撃なら傷一つ付けることは出来ない。幸い、その身から感じる魔力はそれ程多くはなく、又周囲の状況から知性もそれほど高くはない様に思える。完全なる近接戦士型で、パワーファイターだろう。


 V字型に切り立つ峡谷の底に仁王立ちし、その背後には宝箱を守る様に隠している。どの道守護者を倒さなければ、宝箱は開けることは出来ないのであまり意味はないが、雰囲気はでている。


「結構深い谷底だな。どうやってみつけた?」


「みんなで散策している時に、地の底から響くような声が聞こえたっす」


「ああ、それでこの峡谷を見つけて、覗き込んだらあいつが居たのですよ」


 苦労して遠くを探していたら近くに居たなんて、いったいどんな灯台元暗しだろうか。しかも相手は此方に気が付いていない上に、地形的アドバンテージは此方にある。しかも相手はその特性上この場所から遠くへ移動する事はできない。


「どうしますか?」


 今は何も準備ができていないので一旦引かざるを得ない。引き続きアルとトランシスに監視を頼んで、一度拠点まで戻る。この様な最良の条件が揃っているのだから、確り準備を整えてから挑みたい。


 これは先程セシルが落ち着きなく騒いでいたのも分かると言うものだ。俺も自分自身、かなりの好条件に興奮を覚えている。一度心を落ち着かせてから話し合いを始めようと思う。


 ルーシェの茶を淹れてもらい。一口飲んで心を落ち着かせる。


「さて、先程セシルが興奮していた理由は分かった」


「ですよね! ……それでどうやって倒しますか?」


「そうだな。基本は事前に決めていた陣形を使う」


「何か違うこともするのかい?」


 かなりこちらに有利な条件が整っている、更に準備をする時間まであるのだ。存分に事前準備をしてから挑んでも問題無いだろう。


 守護者がリザードマンだったことは、此方(こちら)にとっても都合が良かった。強さの基準はまさにその身体能力なのだが、爬虫類系に属するリザードマンは例に漏れず冷気に弱い。相手の体温を奪えば、少人数でも対応できるだけの条件を揃える事が出来るだろう。


 現状俺達のパーティーで冷気を出す方法を持っているのは王子の魔術と俺が持っている魔術具に風の魔術を併用すれば可能だ。


 守護者との戦闘開始時間を早朝夜明けと定めて、それまでに相手の体温を奪う様に魔術を使用する人間の選出と、それに合わせた休息の設定、および食事の準備など、誰がどの様に動くかを事細かく決めて一覧を作り出した。


 これによって、此方のコンディションは抜群、相手のコンディションは低迷した状態で勝負を仕掛けられる。


「これ以上ない状況の確立ですね」


「だな、一旦二人を呼び戻して情報を共有しよう」


 行動方針が決まれば、後は実行するのみ。合流した二人に説明した後は各々決められた事を熟していく。今回の行動計画を決めるうえで最も困ったことは食事を作れるのが俺とアルしかいなかった事である。決戦前で活力の出る物を食べたい所だが、仕事の割り振りを考えるとどうしても俺達の時間を確保する事が出来なかった。


 そんな時、意外にも実力を発揮したのがトランシスだった。手持ちの保存食と、周辺に生えていた野草を使って瞬く間に料理を完成させたのである。出来上がりは少し無骨だったが、味は良く、イリス王国軍の独自の味付けなのだとか、取り敢えず自分が料理出来る事を黙っていたことはこの後確りケリをつけるとして、これで問題無く守護者との戦闘に備える事が出来る。


 夜間只管魔術で冷気を送り続けている作戦だが、夜の灯りでは変化を観察しにくかったが、ルーシェが魔術で確認してくれた時には、体表に霜が降り、体が震えていたと教えてくれた。


 これで準備は整った。俺達は指定された自分のポジションに着くと何時でも動けるように準備する。


 初手はパーティーの中でも強力な魔術が使える王子とルーシェが峡谷の両側に待機して上級魔術で攻撃する。開始の合図は朝日が守護者に当たるのと同時。守護者が朝日に目がくらんだ瞬間を狙う。


 すでに山裾から顔を出している太陽は、俺達に戦闘開始の合図をもたらした。


「【氷塊浮かぶ 湖底の深水 彼の者捉えて 凍てつく霊廟 最古の墓所へ 誘い導け】グレイシャーコフィン」


「【双子の星 双生の光 寄り添い 繋ぐ 束ねの 絆】ダブルライトスリング 」


 当たれば相手の動きを奪う王子の魔術と、挟まれた空間は否応なく切り裂くルーシェの魔術、二つの魔術は寸分たがわず狙い通りに守護者へと迫る。朝日が目に入り、視界が確保できない相手であれば確実に当たる。


 そう思われたが、流石守護者、着弾の寸前に身体を捻り、両側から迫る魔術を避ける。ただし、完全に避けきれはしなかったようで、右足を王子の魔術で凍らせ、左腕をルーシェの魔術で奪う事が出来た。


「いくっすー」


 魔術の後は前衛の仕事だ。アルはその大きな剣を峡谷の高低差を利用して叩きつけた。


ガキン!ギギギギギ


 しかし、その硬い鱗は容易にその攻撃を受け止める。その隙だらけのアルを目掛けて守護者はその手に持つ巨大な大剣を振りかざす。その巨体から生み出される膂力は、当たれば助かる余地すら残さず我々の命を奪うだろう。


 最も、セシルがそれを許すことは無い。風の魔術も併用した彼女の矢は、守護者の目に向けて容赦なく降り注ぐ。守護者はその巨大な大剣を盾の様に構えて矢の雨をやり過ごすが、アルを追撃することは阻止できた。


 このパーティーで物理火力最強の、アルの最大威力の一撃が通用しない鱗の鎧など、もはや攻撃するだけ無駄に思える。即座に思考を切り替え、最も柔らかそうな所を探す。すると俺はルーシェが奪った左腕の傷口に目が留まった。その傷口は焼き爛れ、血こそ噴出してないが、かなりの重傷だ。それに脈動する筋肉がその柔らかさを教えてくれる。そして、そっと毒を塗布したナイフを突き立てた。


「グギャアアアアアア」


 俺の突き立てたナイフは思いの外効いたようで、守護者はでたらめに大剣を振り回す。単調な攻撃だが、当たればただでは済まない攻撃に一度距離をとる。そう何度も傷口への攻撃が通るとは思えないので、何か有効打を考えなければならない。


 ルーシェは魔力的に先程の魔術をもう一度使うのは不可能だろう。王子はまだ魔術が使えるが、決定打に欠ける。このままだと薬でチマチマ削っていくしかないか、と思案していた所で、魔術を発動させてトランシスが突っ込んできた。


「うおおおお、【渦巻く烈風 加速し 集い 螺旋となれ】スパイラルウィンド」


 トランシスが放った魔術は真っ直ぐ王子が凍らせた守護者の右足へと向かう。しかし、魔術一つでどうにかなる程守護者は脆くない。このまま魔術が当たったところで凍った表面に傷がつくくらいだ。


「【渦巻く烈風 加速し 集い 螺旋となれ】スパイラルウィンド、いっけええええ」


 その直後に聞こえてきたのが、セシルの詠唱と、空気を切り裂く鋭い音。その刹那、トランシスの魔術とセシルの魔術が重なり、数倍の規模に膨れ上がった。更にその中心には、セシルが普段使っている矢よりも、鏃が鋭く、太い矢がその魔術の中心で高速で回転する。


 セシルが放った矢は見事に守護者の右足に着弾。その矢は二つの魔術によって通常の矢とは違う。まさに高速弾頭と言っても過言ではない代物だった。高速で着弾した質量に然しもの守護者も一溜りもなかった。右足は太股の付け根から吹き飛び、もはや真面に立っていられないようだ。


 流れは完全に此方に傾き、王子の魔術を中心に、牽制と急所への攻撃を繰り返し、攻め続けた。片腕、片足、さらに体力まで低下させられた状態では守護者と言えど、それほど長くはもたなかった。彼の力を十全に発揮できたであろう大剣が、身体の一部を欠損した彼にとっては足枷となっていたことも一つの要因だ。


 巨大な尻尾から繰り出される攻撃は、当たればただでは済まない程の重量を思わせる重い音がする。しかし、その尻尾が当たる軌道になると、アルが巧みに足場を操り、全ての軌道を反らす。アルはこういった小技も得意としている様だ。


 俺も負けじと攻撃を加えていたのだが、ナイフ使いの攻撃など、大局の決まった戦いでは余り意味をなさない。相手に攻撃をさせないように牽制しているのが関の山だった。


 最後は、トランシスの口から脳天に抜ける一撃が決め手となった。


 その命を終わらせた守護者は大きな音を響かせながら地に倒れ伏す。そしてその身体は少しずつ魔力となって周辺に散り始める。どんな守護者も例外は無く、死ねばその身体は魔力へと戻るのだ。


 こうして俺達は見事守護者討伐を成し遂げたのである。王子はまだ実感が無いのか、茫然と立ち尽くしている。トランシスはトドメを刺しただけ在り、実感が湧いているのだろう。小さくガッツポーズをしているのを見逃さない。アルとセシルも抱き合って喜んでいるし、ルーシェもなんだか嬉しそうだ。


「コニー、消える前に宝箱を回収した方がいいぞ」


 未だに茫然としている王子に、先を促す。実際守護者を倒した後に宝箱に手を出さずにいると、そのうち守護者と同じように魔力へと変わって消えて無くなってしまうのだ。


 慌てた王子が宝箱に近づき、その重々しい蓋に手をかける。ゆっくりと開いて行く蓋の隙間から見えてきたのは、先端に球体の石が取り付けられた杖のようなものだった。見た目はそれ程派手なものでは無いが、これが杖であるなら魔導器なのだろう。


「鑑定書は?」


「ここに持っています」


 鑑定書とは、魔導具や魔導器の性能を調べる為の一種の使い捨ての魔術具である。調べたいものに張り付け、魔力を流すとその道具類の性能が記されるのだ。


 鑑定書に記されたのは名前と簡単な性能だけだった。名前は『爆塵(ばくじん)魔杖(まじょう)』その性能は杖の先より魔力の塊を射出する物だった。ただその魔力、着弾と同時に爆発をするらしい。さらに込めた魔力の量で爆発の規模が変わるらしいので、魔力バカの王子が使えば相当な軍事力となる。ランクも他の王太子候補が持つ物より上のBランク。この時点で実質王太子は決まった。後は王子が無事に学園を卒業できればだが、目下安全にダンジョンを抜ける事が先決だろう。


「おめでとう。これで王太子の座はコニー君の物だ。最もまだ油断はできないけどね」


「ありがとう。そうだね、油断はできないね……」


 皆が思い思いの祝福の言葉を王子に送る。何はともあれ、見事に守護者を倒せた結果は重畳。しかも当初予定していた日数を遥かに短縮している上に、目標ランクの魔導器。今夜お嬢に報告する時は相当驚くだろう。少し楽しみだ。


 ダンジョンの外に潜んでいたディエース教の暗部達は一応お嬢の手の者が始末したらしい。最も、俺の依頼は高ランクの魔導具か魔導器の入手と無事にダンジョンを出る事なので、その後の始末はお嬢にお任せだ。


 兎に角、俺は自分の仕事に集中しよう。この先迎えるであろう王子様の試練はまた別の話だ。


 今はそれよりも皆に言っておかなければ成らないことが有る。これを怠ったがために全てを無に帰した者達も少なくないのだ。だからこの言葉をもって守護者討伐の締めとしよう。


「良いか皆、ダンジョン攻略は帰るまでが攻略だ!」


 俺は決め顔でそう皆に告げた。




第二章も佳境です。

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