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休息の一時、次の展開

筋トレの為にアプリを入れてから一週間。一度も起動することがない……

 一回目の探索を終えて、俺達は拠点に戻って来た。残念ながら守護者を見つけることは出来ず、予定の三日が過ぎたので物資の補充の為に戻った。拠点へのモンスターの襲撃も無く、鹿馬達も元気そうにしている。


 トランシスの怪我も治療後一晩で回復し、探索には問題なく参加できたので完璧な治療だったと言えよう。回復後、「あれは治療ではない、拷問だ」なんて小さな声でボヤいていたとか。否定はしない。


 王子も最初は治療風景を見ていたのだが、途中から耐えられなくなったのか、何処かへ姿を晦ましていた。それに「私は骨折だけはしない」なんて言っていたから膝を抱えて震えていた所を発見したので危機意識が確りして良い事だ。


 そしてダンジョンに潜って今日で九日目だ。連日の探索で疲労が溜まっているので今日は一日休みとしたのである。皆、一見元気そうにしているが、動きに切れが無い。それに探索中に注意力が散漫になっている事も所々見て取れた。特にセシルの集中力が欠けるのはパーティー全体の安全性に直結するので無視できないのである。


「リオ、紅茶のお替りは如何ですか?」


「ん? ああ、もらうよ」


 何故か俺はルーシェに世話をされながら寛いでいる。


 他のメンバーは近場を散策すると言って出かけて行った。あまり王子が目の届かない所に行かれるのは困るが、この周辺は念入りに安全を確認しているので、余り口うるさくしても仕方がない。


「……リオはどうお考えですか?」


「なにがだ?」


 ルーシェの突然の疑問が何に対してなのか、心当たりが有り過ぎて判断が付かない。


「今回の守護者討伐は上手くいくでしょうか?」


「……ああ、それは問題無いだろう。効率的に動けば月に一匹くらい守護者は見つかる物だ」


 どうやら今回の依頼について不安があるらしい。確かに守護者討伐は、攻略者の目的の中でも一般的で、また難しい課題でもある。実際に守護者討伐を成功させる攻略者は全体の半分にも満たない。それに今回の様に、魔導具の中でも希少価値の高い物を狙って出すのは相当難易度が高い。


「それでも都合よく高ランクの魔導具が出るでしょうか?」


「それはあまり心配していない。寧ろ守護者を討伐できるかが重要だ」


 このダンジョンの特徴として、深い階層と高ランクの魔導具が比例している。それ故に多くの攻略者が挑むと言っても過言ではない。唯でさえ攻略のしにくい階層や、不快感を覚える階層がある中で、深く潜れば享受できる利益が手に入る見込みが十分にある。だから、この階層で守護者を倒す事が出来れば、目的のランクの魔導具は手に入るとみて間違いない。


「皆さん優秀な方ばかりですから、油断さえしなければ大丈夫なのでは?」


「この階層で守護者を討伐する時の平均人数は20人。それも経験豊富なメンバーで構成されたパーティーで、だ」


「それは……倒せるのですか……?」


 確かに、これだけを聞けば、今回のパーティーメンバーで守護者を倒すなど不可能に思える。ただ、このパーティーには、突出した力を持ったものが複数居る。王子やルーシェの魔術然り、セシルの感知能力然り、それをこの地の高低差のある地形に当てはめれば十分な勝算が見込める。


「条件しだいだな。最悪、俺の手札を切ればどうとでもなる」


「できれば、リオの能力無しで倒したい所ですが……。いずれにしろ、守護者を見つけなければ始まらないですね」


「だなー、兎に角今日は確り休むこと、ルーシェも確り疲れを癒せよ~」


 脱力し、半ば寝転がる姿勢を取りながら紅茶を飲む。


 どの道今抱える不安はどれだけ思考を重ねても解決することは無い。それに守護者といってもピンからキリまである。基本的にその階層に存在するモンスターに由来した者が守護者となる事が多いが、その強さは様々である。基本的に奥深くの階層に潜るほど強くなるのだが、その強さの方向性は様々で、腕力が強い者、知力が高い者、魔力が高い者、頑丈な鎧に守られている者、など守護者によって特色が異なる。


「ハァ。もう、だらしないですよ。私だけ心配しているのがバカらしくなります」


「やれる準備は全て行っているんだ。あと俺達に出来る事と言ったら常に万全の状態を保つ事だけさ」


「それもそうですね。余りリオの薬に頼りたくないですしね」


「……あれ?ばれてた?」


 俺提供のスペシャルドリンクの効能は劇的な効果こそないが、探索を無事に熟す手助けになった事には変わりないだろう。体力、精神力共に高めてくれて、その持続時間も大幅に延びる。身体の動きそのものも良くなり、即時対応を求められた時の思考速度も加速する。現在このパーティーに最も不足している所を補うのに打って付だ。


「体の調子は良くなるのですが……、無理やり動かされているみたいで、気分の良い物では無いですからね……」


「そうか、ただ足りない物を手っ取り早く補うには薬が一番なんだがな。何方にしろ、実力不足を補う何かは必要さ」


 各々の戦闘能力は高いが、攻略者として持続的に一定の集中力を維持する力は彼らにはまだない。斑が激しいと言うべきだろうか、一度集中すると高い能力を発揮するが、それを持続させる力に乏しい。そこを栄養剤で補っているのだが、ルーシェはナチュラリストなのかもしれない。


「そうですね……、自分の実力不足を棚に上げて言うべき事ではありませんでした」


「難しく考えすぎだ。それじゃ休息にならないだろ」


 ルーシェは普段から全力でワーカーホリックである為、休日の使い方が下手くそである。何故か彼女は休日に疲労を溜める傾向がある。だから俺の世話をさせて、彼女が疲労を溜めないように協力しているのだ。俺も楽が出来て一石二鳥。


「ん~はぁー。こう連日野営が続くと身体が凝って仕方ないな」


 大きく伸びをして体のコリを解す。この階層の土は比較的柔らかいのが救いだが、流石に野営が続くと色々と疲れがでてくるものである。久しぶりにフカフカのベッドで寝たいが、流石にみなが我慢しているこの状況では文句も言えない。


「リオ、お疲れですね。なんでしたら肩でも揉んで差し上げましょうか?」


 俺は折角の申し出なので、素直にその提案を受けることにした。


「そうか、それじゃお願いしようかな」


 俺がお願いするとルーシェが背に回って肩に手を添える。


「それでは、いきますね」


 ルーシェの添えられた手から肩にゆっくりと力が加わる。筋肉を解すように、優しくゆっくりと、ツボを的確に捉え、子気味良い刺激を加えてくれる。無理やり筋肉を解すのではなく、血行を促進するかのように徐々に力を籠め、バランスよく解していく。


「おお、上手いな……あ~そこそこ。おお、いいわぁ~」


「シアが仕事で疲れた時は、何時もマッサージをしていますから」


 どうやらルーシェはお嬢に頻繁にマッサージをしているらしい。デスクワークに日々追われ、肩凝りが常習化しているお嬢はルーシェのマッサージ無しには仕事もままならないらしい。(ルーシェ談)


 実際、ルーシェのその筋肉を解す技術は非常に優れており、自分の凝り固まった筋肉が徐々に解れていくのを実感できる。それこそ、思わず声が漏れてしまうほど気持ちがいい。


 俺はその余りの気持ちよさに、肩揉みだけではなく、背中に腰、足や腕と、結局全身をマッサージしてもらった。ルーシェは軽い体重をカバーするかのように、手だけでなく肘や膝まで使って巧みなマッサージを施してくれた。終わったころには全身の筋肉が解れ、非常に心地よかった。これぞ正しい休暇の過ごし方と言えるかもしれない。余りの気持ちよさに少し居眠りしてしまったのは仕方がないと思う。


 マッサージ後は身体が水分を欲する物らしく、それを先読みしたルーシェが紅茶を用意してくれていた。こういった心配りが出来る所は、流石本職がメイドというだけはある。従者としての仕事から離れて二年と少し、今の俺では彼女ほど気の回る対応は出来ないだろう。


 マッサージを堪能し、十分すぎる程リラックスした状態で紅茶を飲んでいると、他のメンバーと散策に出掛けていたセシルが一人で此方に遣って来た。


「リックさんー、ルーシェさんー、こっち来てください!」


 俺達がのんびりだらけて居ると、セシルが大きな声で俺達を呼ぶ。ここがモンスター蔓延るダンジョンの中だと自覚しているのだろうか。それとも、それを忘れさせてしまうくらい興奮する何かがあったのかもしれない。


「セシルさん何かありましたか?」


「少し落ち着け、そんな大声だしているとモンスターが寄ってくるぞ」


 セシルは両手を口にあてて、『やっちまった』って顔をする。一応俺の確認している範囲ではモンスターは確認できないが、周囲は山に囲まれているから意外と反響する。少し警戒を強めておく必要がありそうだ。


「すっすみません! 私ったら興奮してつい大声を出して!」


「セシルさん、声を抑えましょう。一度落ち着いてください」


 謝罪の言葉まで大声をだすなどいったい彼女に何があったのだろう。お腹が空いて変なキノコでも食べたのかもしれない。


「セシル、いったい何があった? 変な物でも拾い食いしたか?」


「ちっ違います。そうじゃないんです。大変なんですよ!」


「リックも煽らないで下さい」


 流石に悪乗りが過ぎたのか俺までルーシェに怒られてしまった。それにしても何をこんなにセシルは騒いでいるのだろうか。それに他のメンバーはどうしたのだろう。


「良いですか。落ち着いて最初から説明してください」


 ルーシェはセシルを落ち着かせるために紅茶を淹れて渡す。彼女の淹れた紅茶は、確かに気持ちを落ち着かせるのには最適だろう。勧められるままに紅茶を口にしたセシルは、小さく溜息を吐いて心を落ち着かせる。


 一度心を落ち着かせれば、冷静な判断ができる何時ものセシルに戻った。残りの紅茶も全て飲み干し、彼女は俺達の目を見据えて簡潔に起こった出来事を告げた。


「近くの峡谷にて守護者を発見しました」


「「はい?」」


 どうやら休暇はここまでのようだ。




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