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地の底、仲間の負傷

ブックマーク、評価、有難うございます。


 山の頂上付近に天幕を張り、周囲の背の低い木々を集め、周囲から隠す。あまり木々の密集が少ない山なので、やりすぎては逆効果になる。違和感を出さない程度に抑えるのが重要だ。


 残念ながら昨日の時点で守護者を発見することは出来なかったので、予定通り拠点を設けてこれから周辺の探索に出る。


 作戦はこうだ、ここから半日ほど行った場所にある山の山頂から、常に高所を移動して上から守護者が居ないか探す。高所からの死角には俺の虫を放ちこっそり調べる。あまり露骨にやると怪しまれるので適度に死角の調査も必要だろう。


 高所の移動の為、モンスターからの襲撃は少ないと予想されるが、なん箇所か大きな水辺の周辺を通り抜けるので油断はできない。


 一回の探索に三日の行程を確保してあるが、この周辺であれば三回の探索で粗方確認できる。この三回で発見出来る確率は五割といった所だろうか。それでも見つからなければ虫に周囲を探索させることも考えるが、あまり虫達を導入したくはない。この階層にいるモンスターだと容易に俺の配下の虫を捕食してしまう。余り俺から距離を空けるとそのリスクが高くなる。最悪、俺達が探索する場所とは別の所を探索してもらうくらいか。


「リックさん行くっすよ」


 どうやら考え事をしていたら皆既に出発していた。


「ああ、すまん。今行く」


 俺は一度考え事を止め、皆を追いかける。この森は生息生物が巨大な物しかいないので木の陰から突然襲われる心配がない。


しかし一匹一匹の能力は高いので注意が必要だ。特に感知能力が高いモンスターが多いので、相手に先に発見されて待ち伏せや、相手の有利な地形での戦闘を強いられることもある。


大型のモンスターとの戦闘には事前準備が重要不可欠だ。状況次第では一度戻って、態勢を立て直すことも考えなければならない。


「しかし、この高低差には参りますね。移動だけで疲れてしまいます」


「確かに探索慣れしてる俺達でもきついっす」


 出発してから昼時を迎える前に皆が体力の消耗を訴える。この階層は酸素濃度が高く、疲れにくいはずなのだが、流石に険しい山道は体力を削り取ってくる。壁のような崖を上ることもあるし、不安定な足場は体力の消耗を促す。地面も枯れ葉が積もって堆積した物なので柔らかく足をとられたすい。


 体力を消耗した状態ではモンスターとの戦闘をする時に不必要な怪我を負うかもしれない。これは早めに昼の休憩を挟む必要がありそうだ。休憩の時には俺特製のスペシャルドリンクを提供しよう。


 早めの昼食を取った後、皆の気力は回復したのか順調に最初の目的地である山の頂に到達した。


「おお、これはなかなかの絶景ですね」


「凄いですね……地底湖ですか」


「わー神秘的です。近づきたくはないですけど……」


 今皆が見ているのは複数の支流が流れ込む大穴である。深さは50メートル幅は100メートルを超える巨大な穴の底には清らかな水が溜まる地底湖が存在する。流れ落ちる水がしぶきを上げて、常に七色の虹が輝いている様は、とても幻想的だ。水の叩きつけられる音が周囲には木霊しており、山の頂上に居る俺達にまで聞こえてくる。


「あの下に守護者居たりとかしないっすよね?」


「居ても、たどり着けないんじゃないか?」


 アルのセリフに的確に突っ込むトランシス。俺も以前偵察のために虫を穴の中に送り込んだことが有るが、穴の中が見えるような距離に迫った時、突然繋がりが途切れたのを感じた。結局中に何が居るのか分からないが、俺の手に負える物ではないと判断して、それ以来近づいてはいない。


「景色を楽しむのも良いが、守護者を探すのも忘れないようにな」


 皆は自分たちが何を目的にここに来たのか思い出したかのように、周囲を熱心に見渡す。


「【常陽の光 誘いの元 我の前に顕せ】ディスタントビュー」


 ルーシェが唱えた魔術は遠くを見る為のものだ。こういった時はとても頼りになる。俺達では視認できない遠くまで見渡せるのは非常に有難い。


 それからも皆で周辺を見回したが、残念ながら守護者を見つけることは出来なかった。


「ここでは見つかりませんでしたね」


「頻繁に出くわすようなものでもないからな。まだ始まったばかりさ」


 俺達は気を取り直して次の場所に向かう。次の目的地への到着予定時間は夕方日が沈むころだろう。スペシャルドリンクの効果が試される時が来た。


 一度山を下り、尾根にそって進む。切り立った地形もあるので、進むのには時間が掛かるが、安全を考えると多少時間を費やして遠回りになろうとも、結果的に早く到着する事が出来るのだ。


「っ! 前方注意してください!」


 突然セシルが注意を促す。各々武器を取り出し、ゆっくりと前進する。少しして見えてきたのは幾つもの木々がなぎ倒された跡が残っていた。


 その木々がなぎ倒された方向を見ると、体液を吹き出しながら潰れている巨大な蜘蛛が絶命していた。こいつは中型に分類されるモンスターだ。


「周辺を警戒しろ、こいつを倒したモンスターがまだ居るはずだ」


 場の空気が張り詰める。あの蜘蛛は糸を使った高い索敵能力と、固い甲殻に守られた体、そしてその巨体からは信じられない程の身体能力を有する。そんな物を相手に、これほどの事が出来るとなると、大型のモンスターか何か強力な力を持った存在か……。


 俺は周囲の警戒をしながら倒れているモンスターの観察をする。そこには違和感を覚える箇所がある。蜘蛛の胴体に不自然に凹んだ箇所がある。まるで固いもので強く強打されたような跡だ。


こんな事が出来る存在に一つ思い当たる節がある。周囲の景色に溶け込み、その長い舌を相手に打ち付けて仕留める凶悪なモンスターだ。


「敵は体色を周囲にとけっ! 上だ! 避けろっ」


 敵ついての情報を伝えようとした時に、突如木の上に赤い花が咲いた。いや、それが敵の口だと言うことは解っている。


 各自自分が居た場所から瞬時に避けるが、反応の遅れたトランシスは避けきれず盾で受ける。


「ぐわあああああ」


 それは伸縮自在な敵の舌だった。先端は非常に硬く、その舌を打ち出すように相手に叩きつける。甲殻を持ったモンスターを倒せるその威力は想像に難くない。


「トランっ!」


「後にしろ、相手から目を反らすなっ」


 奴の舌は打ち出す瞬間を見逃さなければ避ける事は可能だ。しかし、再び隠れられてはそれを察知する事も難しい。


 俺は腰の薬品ポーチから、一つの小瓶を取り出して相手に投げつける。ただ、その柔軟な皮膚に当たった小瓶は割れることは無い。


「撃ち抜けっ」


 割れないならこちらから割ってしまえばいい。この中で最も精密な攻撃が出来るのは彼女の弓以外にありはしない。


「ハッ」


 セシルが放った矢は、一直線に小瓶に向かって飛んで行った。


 見事に直撃し、小瓶から放たれた液体が敵に向かって降り注ぐ。


「カーーーーーー」


 まるで圧縮された空気が抜けるような叫び声を上げる。液体は見事に相手の体表に降り注ぎ、その皮膚を焼いた。俺が投げたのは濃縮した酸が入った液体だ。奴の体表は柔軟性があり、刃物も鈍器も効きにくいが、体表を変色させる関係上、薬品には過剰に反応する。昔その身体に消毒液が掛かっただけで皮膚が荒れて、その部分が変色しなくなったと言う。


「コニー、酸を出す魔術はあるか?」


「ありますがそれ程強い酸ではないですよ?」


「構わん、俺達が牽制するから奴にぶちあてろっ」


 王子の詠唱の時間を稼ぐために前と出る。奴は未だ木の上に張り付いているので直接ナイフを叩きこむことは出来ないが、口を開けようとしたところにナイフを投げつけるだけで奴は躊躇して攻撃できない。それに焼き爛れた皮膚には容易に攻撃が通るので、セシルの矢が次々と刺さる、


「カーー、カーーーー」


 ただ、奴も黙って遣られているつもりはないようで、詠唱を唱えていた王子に向けて舌を発射する。


「【激情なる溶水 収束持って 彼の! うおっ!」


「危ないっす!」


 ギリギリの所でアルが突き飛ばし、何とか難を逃れるが、詠唱は途中で止まってしまう。意外と賢く、自分にとって脅威と成る者が分かるのか、王子を狙うのを止めない。


 今の状況をどうやって切り抜けようかと考えていると、何時の間にか詠唱を完成させていたルーシェが魔術を発動させた。


「【双子の星 双生の光 寄り添い 繋ぐ 束ねの 絆】ダブルライトスリング 」


 そこには二つの光球が、一本の線で繋がりあって、回転しながら敵へと向かう。そして光球は敵の周囲を回り、その一本の線は敵の身体を容赦なく切り裂いていく。光球が相手の身体を通り抜けた頃には、敵は無残な薄切りの肉片に変わり果てた。


「ルーシェ……」


「どうかしましたか? 敵は倒しましたよ」


 彼女は何でもない事の様に言い放つ。そんな手札があるのなら事前に教えてほしかった。それによっては立てる作戦も変わってくる。ただ、無意識であろうドヤ顔が可愛いので許すことにする。


 それにしても先程の魔術は強力だった。あの斬撃が通りにくい肉をスライスしていく様は圧巻だった。


「おおおお、ルーシェさん凄いっす」


「完璧なタイミングでした!」


 派手な魔術の使用に二人も興奮気味だ。しかし二年前まではこんな高等魔術使えなかったのに、いつの間に使える様になったのだろう。


「発動の早い……六小節……?」


 王子はなんだか固まっている。しかし、こんな所でのんびりしている訳にはいかない。出来るだけ早くこの場から移動するのが賢明だろう。


「取り敢えず、色々聞きたいことはあるが、それは後だ。トランシスの状態を確認する。アルは鹿馬を捕まえてきてくれ」


 吹き飛ばされたトランシスは木に叩きつけられ、気を失っていた。脈は正常に触れているので生きてはいる。ただ、触診した所、盾を構えていた左腕が折れていた。この場では治療が出来ないので、素早く添え木をして即席担架で運ぶ。


「先頭はセシルで頼む。開けた場所に出たら一旦休憩だ」


 意識を取り戻さないので仕方なく担いでいるが、大の男を担架に乗せて山道を登る事が、こんなにも重労働だとは思わなかった。この階層のモンスターは気付け薬の匂いをかなりの遠距離からでも嗅ぎ取ってしまうので使えない。今度気付け薬の改良も考えてみよう。


 アルと二人で、えっちら、おっちら、トランシスを運ぶ。後ろ側を運ぶ方が重いので定期的に前後を交代するのだが、休憩をする頃には二人してヘトヘトになっていた。ただ、到着した時の達成感はなんとも言えなかった。この感覚を共有できるのはアルと俺の二人だけだろう。


「リックさん、早くトランシスさんを治療してください」


 ルーシェはもう少し俺を大切にしてくれてもいいと思う。


 流石に疲労が残る中で治療するのはリスクがあるので先に休憩をとる。そんな俺達が一息ついている時にトランシスは目を覚ました。


「う……うぅ。こ、ここは?」


「トラン大丈夫か!?」


 目を覚ましたトランシスに王子は駆け寄って、肩を掴んでゆする。怪我をした側からしたらたまったものでは無いだろう。トランシスもその例に漏れず、苦痛に顔を歪ませる。


 二人が、怪我人が出た時のお約束を済ませた所で、王子の肩を掴んで止めてやる。


「コニー揺すると傷に響く、虐めるのは元気な時にしてやれ」


「えっ!? そんなつもりでは……」


 俺の言葉に驚き、周囲から冷たい目線を向けられた王子は小さく委縮してしまう。正直、ただの冗談だったのだが、なんだかすまん。


「トランシス、この指は何本に見える?」


 目の前で指を三本立ててやる。


「三本だ。皆は無事か?」


「ああ、皆はぴんぴんしてるよ」


 それから色々と検査をしたが、左腕の骨折以外にはこれといって問題は無かった。逆に言えばダンジョンの中で骨折している事が非常にまずい状況だ。むしろあの蜘蛛の甲殻を凹ませるような攻撃を受けて、骨折で済んでいるのは奇跡なのかもしれない。盾を見た限りでは、ギリギリの所で受け流すように傷が入っていたから、実力で生き残ったとも言える。


「さて、トランシス。君には二つの選択肢をやろう。一つは、今回の攻略をリタイアして拠点で一人待機。そして、もう一つが尋常じゃない苦痛に耐えて、明日から戦線復帰だ。どちらがいい?」


 実の所、ダンジョン内で骨折する者など珍しくない。自分達よりも遥かに大きなモンスターを相手にしているのだから、骨の一本や二本折れるのは日常的だ。かくいう俺も何度か骨折を経験したころがある。その為、翌日には復帰できるほどの確かな治療方法が確立しているのだ。


「勿論、ここで降りるつもりはない。どんな苦痛も耐える」


 流石、王子のお付人で未来の近衛体長。言うことが格好良い。俺はアルとセシルに目配せをしてニヤリと笑う。俺達は素早く自分のポジションに付き、治療の準備を整える。


 さぁ、治療を始めよう。





投稿当初に予想していたよりも多くの方に読んで頂けてとても嬉しいです。

読み専三年越しの執筆活動ですが、楽しくやらせて頂いています。

三年前まで活字を読む生活すらしていなかったのに自分でもビックリ。

今後も頑張っていきますのでよろしくお願いします。

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