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命の水、攻略の確認

ブックマーク、評価有難うございます。

作者の励みになります。

「っはー、生き返るっすー!」


 冷たい水が頭上から激しく流れ落ちる。澄み渡った水を全身に浴びて火照った体を冷ます。


「こんなにも水浴びが嬉しかったことは、今までに一度たりともなかったよ」


 王子であるコニーも、周囲の目など気にする事も無く豪快に水浴びをする。


「……帰りもあそこを通らないといけないのか」


「「「いうな!(っす!)(よ!)」」」


 今は聞きたくない言葉をトランシスが呟く。極力考えないようにしているのに、全く困ったお付人だ。


「コニー、お前が王として就任したらイリス王国軍の訓練に第四階層の行軍を提案する。勿論近衛もだ」


 俺の慈愛に満ちた提案に各々違う反応を示す。アルは面白そうに笑い。王子は悪い笑みを浮かべる。この中で一人だけ顔が引きつっているのがトランシスだ。王子のお付人も将来は近衛に入る事になるだろう。是非率先して訓練に参加してほしい。


 俺達がこんなくだらない話に花を咲かせていられるのも、ある意味今回の攻略で最も、劣悪な環境を潜り抜ける事が出来たからに他ならない。


 今朝は腰の重いメンバーを動かすことに大変苦労した。









「おい、お前ら、何をしている?」


 出発の準備を終えて、後はゲートを潜るだけと成った所で、皆の足が地面に張り付いたかのように動かなくなった。昨日の記憶がよみがえって来たのだろう。


 最も、皆の気持ちも理解できないわけではない。第四階層は少し他の階層と趣が違う。その最大の差異は、一度もモンスターと戦闘する事無く出口のゲートに辿り着くことが出来る事だろう。第四階層の環境は大きく二つに分かれる。それは水辺と陸地だ。第四階層に住むモンスターは水の中にしかいないので、水辺に近寄らない限りモンスターと出くわすことは無い。それ故に、最も安全な階層として知られている。


 ただ、その環境がその先の攻略を阻害してくる。先にも述べたように湿度が異常なほど高いのだ。しかもこの異界は年中暑い。最も気温の低かった時でさえ30℃はあったと言われている。この日の気温は大体35℃前後だっただろう。ただし、体感温度はその比ではない。湿度が高いと言ったが、それを数字に表せば100%と表記するのが正解だろう。


 この驚異的な環境のせいで、ただ居るだけで死ぬほど暑い。しかも汗は全く蒸発しないので体温が下がることは無い。俺達が進む時は、首に氷を詰めた布を巻いて、強制的に体温を下げた。背中は常に結露した水で濡れていて、そのほかの部位も服が汗を吸いこむ限界を容易に超えるのでつねに濡れネズミ状態。


 はっきり言ってこの環境は体験してみない事には、理解する事が出来ないだろう。その為にも昨日は彼らを先に行かせたのだから。


 それに、今は魔術具の効果で避けられているが、この階層はモンスターと出くわすリスクは低いが、何処へ行ってもヒルが存在するので、ヒル避けが無ければ瞬く間に足にヒルが吸い付くだろう。今回の攻略で最も必要な道具と言っても過言ではない


 第四階層を移動している時は本当にひどかった。誰一人、口を開く者はおらず、人と鹿馬の足音が六つ響くだけ、本来なら周囲の警戒をしなければならないのだが、誰一人周囲の警戒をする気力もなく、死んだ目をしながら只管歩き続けた。


 永遠にも思える時間をなんとか耐え抜いて、ゲートが目視できた時には皆が本気で駆け出しそうになった。ただそんな元気は誰一人持ち合わせてはいなかったが。それでも、ゴールが見える状況というものは精神的に変わってくるもので、心なしか歩く速度は速くなった。


 そしてゲートを潜った時には、皆が皆、声にならない叫び声を上げたのは仕方が無いだろう。








 そこから今俺達が居る水浴び場に移動して、全身に纏わりつく不快感を洗い流している最中なのである。


「それにしても、モンスター避けの魔術具置いてあるとは驚きっす」


「確かに、しかし其のお陰で私達はこうして水浴びが出来るのだから、本当に有難いです」


 この第五階層は高低差のある山脈型の森林だ。所々に小さな水辺が存在し、その中の一つにこのダンジョンの利益の一部からこの場所にモンスターを気にすることなく水浴びが出来る場所が設けられている。


 元々は熟練の攻略者が個人的に持ち込んだものを寄付したらしい。そして魔術具が設置されてからの攻略者達が齎す利益が、それまでの利益の倍近くに跳ね上がったことから、一部の商人が投資の意味で魔術具の維持にかかる魔石の支援を始めたのが、常習化してここの魔術具は何時でも誰もが使えるようになった。


 それからこのダンジョン周辺の集落が活気づいて発展してきた歴史を持つ。これも地域活性の方法の一つだろう。


「リックさんの傷も完全に塞がってるっすね」


「ん? ああ、もう怪我の影響はない。心配かけたな」


 俺が負った傷は既に完治目前だ。第四階層を進んでいる時は、恐ろしく痒くなったが、清潔感を取り戻した今は何の問題も無い。


「それにしても治りが早いですね? 何か特別な薬でも使ったのですか?」


「ああ、皆と合流する前に優秀な旅の薬師と知り合ってな。そこで少し薬を分けてもらったんだ」


「凄い薬師さんもいるんっすね」


 アルの言葉に気分も良くなる。何かあった時は格安で薬を譲ってやろう。


 水浴びをして身も心もスッキリした所で、ついでに汚れた衣服も綺麗にして、水浴び場より少し離れた所に野営の準備をする。女性陣は未だ水浴びから戻って来てないが、女性が身を綺麗にするのには時間が掛かるものだろう。


 取り急ぎ、食料が腐らないように煙で再び燻す必要がある。これを行うたびにただでさえ美味しくない味が落ちるのだが、食料を失ってしまうよりはマシだろう。


 今晩の夕食分を除き燻す。今度環境に左右されない保存食が作れないか、お嬢に研究してもらうのも悪くないかもしれない。フェロ公爵領が抱える人材は優秀な者達が多い。一度確り検討してみよう。


 昨夜は夕食の準備を全て俺が執り行ったので、今晩の準備はアルに一任する。


 この第五階層は真っ直ぐ聳え立つ針葉樹林が乱立する階層だ。食料が乏しい山間部の高所にしては比較的モンスターの出現頻度は低い。特にこのゲート付近の山は他の場所より標高が高く、滅多にお目に掛かることは無い。そういった意味では比較的安全な場所なのだが、ここに生息するモンスターは油断ならない物が多い。毒を持つ大型の虫に水辺に潜む大型爬虫類、それに周囲の景色に体色を溶け込ませる物や、胴体の直径が人の子供ほどある巨大な蛇。


 特に水辺周辺は注意が必要で、無警戒に近づけば一瞬のうちにその命を落としてしまうだろう。


 当初の予定では第四階層より奥での守護者討伐が依頼の条件の一つだった。これには元々第四階層は選択肢に無かったし、他のメンバーも今なら二つ返事に第四階層での討伐は拒否するだろう。そうなってくると探索のメインとなるのはこの第五階層になる。


 ここはゲート間の距離を直線で見ればそれほど離れてはいない。それこそ第四階層と大差ないだろう。しかし高低差があり、実際はその数倍の時間が必要になる。その為、ダンジョン攻略者が多く滞在しているとも言える。


 そう考えると、ゲート間のフィールドで守護者を探すのは得策ではない。人の居ない場所を考えると、ルートから大きく外れた場所ほどその可能性は高まる。それに拠点を決めて周辺を探索する場合、荷物を最低限の物にする為に連れ歩く鹿馬は一匹、残りの鹿馬は拠点に待機させる事になる。リスクを下げる為に荷の半分は他の鹿馬に取り付けたまま、モンスターが襲ってきても逃げられるように縛り付けずに放し飼いだ。


 俺は第五階層の地図を広げながら、拠点に適した地形を探す。目的の階層に到着したら、拠点を設けてそこを中心に探索を行うのが最も効率がいい。


「何を見ていらっしゃるのですか?」


 地図に視線を落としていた俺の後ろから声を掛けてきたのは、水浴びを済ませたルーシェだった。


 髪から雫を滴らせ、鎧を外し、少し薄着をしているルーシェがそこには立っていた。汗に濡れた彼女も綺麗だったが、身を整えた彼女は本当にきれいだと思う。


「この階層の地形を調べていた。だが地図の精度が良くない、幸いここはこの辺りでは一番の高所だから、明日朝日が昇ったら目視で確認する」


「それでしたらフランシア様から預かった地図を持っています」


 そう言って彼女が荷物から取り出したのは筒に入っている、紙の媒体に記されたこのダンジョンの地図だった。精度も確かで、筒に入ってた為に湿気の影響も無い。自分の領地でもない場所のダンジョンの地図を持っているなど、お嬢は何処から手に入れたのだろうか。


「よくこんな地図が手に入ったな?」


「……フランシア様には優秀な部下がいますからね」


 流石と言うべきか、これ程の地図が有るのなら俺にも回してほしいのだが、今度交渉してみても良いかもしれない。


 地図を確認すると、ゲート間の場所以外にも、更にその外側まで詳細に記されていた。何故か見覚えのある地形がいくつもあるが、兎に角この地図なら拠点の候補を探し出すことも可能だろう。


 地図から導き出される情報からよさそうな場所は絞り出せたが、俺一人では何か見落とす可能性がある。ここは誰かの意見を聞きたい所だ。このメンバーの中で最も相応しい人物……セシルに聞くのが良いかもしれない。戦闘でも地形を読み解くことに長けているし、女性ならではの視点と言うのは馬鹿にできない。


「セシル、少しいいか?」


 アルが料理する姿を眺めていたセシルを呼びつける。何度か手伝おうとしていたので丁度よかった。


「何か用ですか?」


 セシルが料理に手を出す前に此方に呼べたのは幸いだった。彼女の後ろではアルが親指を立てて此方を讃えてくる。我々の想いは一緒だ。


「拠点の場所を検討している。何か意見を聞かせてくれ」


「わー凄い地図ですね。んーこっちの山岳部が良いと思います」


 セシルが選んだのは俺が選んだ予定地の一つにある、一つ横の山だった。


「理由を聞いてもいいか?」


「リックさんの選んだ場所はどこも切り立った山の上ですが、私達がこの拠点に滞在する時間は短いです。下手に匂いを残すよりも、鹿馬の逃げ場として考えていた方がもしもの時は荷物を失う可能性が低いと思います」


 成る程、できるだけモンスターから襲われる可能性を下げる為に厳しい環境を選んだが、モンスターは俺達が不在のうちに襲ってくることを前提に鹿馬の逃げ場の事も考えたのか、それにセシルが選んだ場所も十分な安全は確保できている。


「成る程、理にかなってるな。それじゃあ拠点は此処にしよう。この距離だと一日も有れば移動できそうだ」


 俺の言葉に嬉しそうに頷くセシル。うちの軍師は優秀で頼もしい。


「ご飯できたっすよー」


 拠点とする場所が決まったところで、夕食の知らせが来た。


 食事の後は明日の予定と拠点の設営場所、その後の行動の方針を話し合った後、見張りと休息組に分かれて明日へ備える。ここからは運しだいだ。幸運の女神に巡り合うことを願おう。





アオリ釣りに行く準備を整えて天気予報を確認したらガッツリ雨の風強め。最近こんな事ばかりです。

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