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移動の速度、印象の違い

評価して下さった方有難うございます。

作者のやる気も俄然上がりました。

これからも引き続きこの作品をよろしくお願いします。

 出発の準備を済ませ、ここから数十分と掛からないゲートに向かって俺達は出発する。


 昨日はあれから微妙な空気の中、必死に話題を探したが何も見つからず、当たり障りのない会話を続けて交代の時まで時間を潰した。その間もお嬢からの念話は途切れることは無く、愚痴が四割、日常の話題が三割、ルーシェの話で三割くらいの割合で話をした。ルーシェの状況や、どういった態度だったか、どんな話をしたのか、久しぶりに見た印象はどうだったかと、色々と聞かれたが、そんなに心配なら他の人員をよこせと言いたい。最後には泣かせるなよと忠告まで頂いた。いったい俺が何をしたと言うのだろうか。


 それは兎も角、本日の目標は第二階層を抜けて、第三階層にまで到達する事だ。ここから先のモンスターは爬虫類系も含まれるので、油断する事はできない。ただ第二階層には小型の物しか出ないので、注意しつつも早々に通過する事でリスクを減らせるだろう。


 出発から少ししてゲートが見えてきた。ゲートの先に見える光景は、今居る森とは比較にならない程の木々が生い茂っている。


「あれが次の階層ですか。……確かに木々が密集してますね」


「まあな、今でこそ複数のルートが確保されているが、発見当初は道すらなかったらしい」


 ダンジョンにも人の軌跡は残る。第二階層の道はその証拠と言えよう。


「いつ戦闘が開始されてもいいように、心構えだけはしといてくれ」


「わかりました」


 王子も昨日の夜と顔つきが違う。何かしら吹っ切れたのだろう。


 幸い、ゲートの周囲には他の攻略者は居ないようなので、間を置かずしてゲートを潜る事が出来た。


ゲートを潜ったさきで、昨日話していた隊列に切り替える。鹿馬全てアルに引いてもらうのだが、囲まれるアルを見るとなんだか様になっている。この姿で行商人をやっていると聞いたら信じてしまいそうだ。


「なんだかアルってば行商人みたいね」


 どうやら俺と同じ感想を抱いた者がいたらしい。最も、アルも相方に言われるとは思ってもみなかっただろう。


「その時はセシルに会計を任せるっす」


 これでセシルも行商人一行の仲間入りだ。本人も満更でも無いようで、「任せなさい!」なんて言ってる。この二人が揃っていれば何処でも生きていけそうだな。


 新たな隊列で細い道を進む、両脇にそびえる木々の枝葉が空を覆い、薄暗い狭い道は圧迫感があり、長時間滞在すると精神的な疲労が無視できない状態になってしまう。この第二階層は環境が本当に厄介である。


「それにしても本当に視界の確保ができませんね」


「ですね。これだけ木々が密集していると気配も読み難いです」


 女性陣二人の意見に他のメンバーも頷く。説明を聞いただけでは、知識として理解していても、実際に体験してみると想像とは違っている事は儘ある。特に、ここ程木々の密集した場所は俺達の住むカラマロ大陸にはどこにも存在しない。初めて見る光景に戸惑いを覚えるのも仕方がない。


 皆が周囲の状況に慣れるまでしばらく待つ。多少時間を置けば気持ちも落ち着くだろう。皆が落ち着きを取り戻した所で先を促し出発するに至った。


 そこからしばらく進んで行くと、前方右側の藪から複数の気配を感じる。


「早速、お客さんだ。戦闘準備だ、相手をおびき出す」


 俺の掛け声を聞いたメンバーは即座に戦闘態勢をとる。皆の準備が整ったことを確認した後、俺は藪に向かって粉末の入った割れやすい小瓶を投げ入れた。


 小瓶が割れる音と共に、細かい粒子の粒が周囲に四散する。しばらく待っていると藪の中から全長3メートル程の蛇が五匹這い出てきた。この階層には広く分布する小型の蛇のタキーダバイパーだ。毒はないが、顎には鋭い牙が複数生えていて、噛まれると酷い出血をする。さらにその長い体で締め上げ、大量出血させて得物を仕留める厄介な相手だ。


「この五匹で全部だ。打ち合わせ通りに動け!」


 事前に決めていたのは、メインで戦うのは王子達三人。俺は遊撃に回り、アル達は荷物の護衛。五匹は少し多いが、俺が牽制すれば有利に戦えるだろう。


「【滾る熱水 膨張持って 彼の地支配し 我が道開け】ウォーターボム」


 先手は定石通り、王子の魔術からだ。一定の範囲に膨張した水の衝撃を与える。ただ、周囲は白く染まり、ムワッとした空気が場を支配するので、速攻で攻めるには向かない。


「トラン!」


「はいっ、【逆巻く暴風 渦巻 吹き荒べ】ストロングウィンド」


 どうやら王子の魔術で残った白煙を、トランシスの魔術で吹き飛ばし、相手に猶予を与えない作戦のようだ。すでにルーシェは魔術の射線から外れた軌道で敵に接近している。トランシスが起こした強風で敵は前進できず、逆にルーシェには追い風になっている。


 王子の魔術のダメージとトランシスの魔術の強風で動けない敵は、素早く動き、手数の多いルーシェに抗う力は微塵も残ってはいないようで、瞬く間にその命を散らせていった。


 広範囲に効果を及ぼす魔術は強力で戦いでは重宝する。もしそんな相手を敵に回す場合、相当用心しなければならない。実際以前戦った盗賊の中にも魔術師がいて、非常に苦戦したことを覚えている。


 三人の連携はなかなかのもので、援護の必要も無かったようだ。モンスターを倒して三人は此方に戻って来た。


「三人とも流石っすね」


「お見事でした。それにコニーさんの魔術、初めて見ました」


「あはは、ありがとう。あれは私のオリジナルだからね」


 王子が使った魔術は火の魔力も併用したものだろう。水魔術だけでも同じ現象は起こせるだろうが、詠唱は長くなり、使用する魔力の量も遥かに増すだろう。ダブルの魔術師ならではの魔術と言える。


「三人だけでも安定して戦えるな、残りの魔力は大丈夫か?」


 今回は魔術を併用した戦いだった故に苦戦することなく敵を倒せたが、魔力が切れた時に戦えるかが重要だ。


「消費した魔力は大したことないです。私もトランも魔力量は多いので」


 この二人、最初のポンコツ具合で低く見がちだが、実力は確かなものを持っているようだ。


「分かった。それでも魔力量が半分を切ったら教えてくれ」


 魔力の残量が三割を切ると、思考力の低下や肉体的疲労が早くなったりと、デメリットがある。計画的に使用しないといざと言うとき動けない事もあるのだ。


 その後も散発的に敵と遭遇するが、三人は危なげなく敵を排除していった。今では戦闘中に遊びを挟む程の余裕がある。彼らの戦闘を観察して、大体の実力は把握した。この調子なら守護者との戦闘にもギリギリ付いてこられるだろう。


 既に昼時は過ぎているが、個々で保存食を食べる事によって空腹を紛らわし先を急ぐ、この視界の悪い場所から早く抜け出したいのも有るが、出来るだけ距離を稼いでおきたい思惑もある。皆には少し無理をさせてしまうが、ここは我慢してもらしかないだろう。


 満足な休憩もない強行軍で皆にも疲労が見えるが、各自の頑張りの甲斐もあって、午後も1刻ほど過ぎたあたりで第二階層の出口ゲートに辿り着いた。


「本当に半日で着いたっす。こんなにゲートの間隔が短い所は初めてっす」


「ああ、俺もここより短い所は知らないな。このダンジョンが寂れてないのは、この厄介な環境下であっても、半日で通り抜けられるって利点があるからだな。正直この階層で野営なんてしたくない」


「確かに私もここでの野営なんて考えたくないですね」


 ダンジョンにも人気、不人気がある。人気があるダンジョンとは利益が出るダンジョンである。逆に攻略が困難で、かつ金にならない所は自然と寂れていく。


 人の入らないダンジョンを保有する領地は家計が火の車になりやすい。一定の戦力を維持しなければならないのに収入が見込めないのだから金が出ていく一方で生活が苦しいらしい。国によっては政治犯の貴族を転封して力を削ぎ、飼殺す為に使われていたりする。そこに住む人にとってはたまったものでは無い。


 このダンジョンは難易度こそ高いが、高額で取引される物が取れるので、ある程度の実力者には割と人気がある。こういったダンジョンがあると、多額の税収が見込めるので国も豊かになる。そういった意味ではこのダンジョンはイリス王国にとって欠かせない物だろう。


 もし、この第二階層を抜けるのに一日以上かかるようなら、このダンジョンはそれ程人が寄り付くことは無かっただろう。


「次の階層はかなり広く、場所が確保できる。そこで一旦休憩しよう」


 これ以上の疲労を溜めると集中力に欠ける恐れがある。ここまで無理をした分長めに休息を取りたい。


 ゲートを潜ると、そこには巨大な樹木が乱立する森の中に出た。一本一本が、人が何人も手を繋がないと囲えない程大きな巨木。樹齢は優に500年は超えているだろう。その背丈も非常に大きく、上を見上げれば遥か高い位置に枝葉が伸びている。木の根も下に伸びているのか、地表からは確認することができないが、歩くのを邪魔する事は無いようだ。


「これは……想像以上に大きいですね」


「これ程巨大な一本木だと丈夫な船が作れそうですね」


「実際、ここの木を持ち出す計画があったが、第二階層を突破できずに頓挫した話がある」


 ルーシェが言ったように、ここの木を使えば頑丈な船を造る事ができる。商船、軍船、用途は様々だが、ダンジョンから齎される資源の一つとして回収できれば、売り先に困ることは無いだろう。しかし、巨木を運び出す程の道を開拓することが出来なかった。それに道の開拓従事者が野営中にモンスターに襲われて全滅し、かなりの負債を抱えて頓挫したと聞いたことがある。


「確かに、今日抜けてきた場所を運ぶのは大変だね」


「ダンジョンの最下層、そこで収納魔導具が出たら実現できるかもな?」


 ほぼ現実不可能な方法だが、それを手に入れたものがいれば、ここの木の伐採を独占出来るだろう。


「それを売ったほうが儲かりそうですね」


 身も蓋もないが否定できない意見だ。


 雑談を交えながら少し先の開けた場所に移動する。圧迫感のある空間から解放された為か、皆の顔にも心なしか余裕が見える。辿り着いた広場では少し長めの休息をとる。視界が開けており、敵の察知するにも幾分か余裕があるので、全員まとめて休憩に入る。最も、この階層からは匂いに反応するモンスターも出てくるので、紅茶やコーヒーを淹れる事はできない。水出しの香りの少ない茶とドライフルーツをお茶うけに休息を取る。


「ここから先は隊列を戻す。ただ、ここからは大型のモンスターも出るので注意してくれ」


「了解っす。連携はどうするっすか?」


 比較的、場所の確保が容易であるので、全員での戦闘が安全を確保する上でも重要になってくるだろう。


「メインはコニー達トリオで、俺とアルが遊撃、セシルは全体の支援だ。いけるか?」


「大丈夫っす!」


「問題ありません」


 王子達に、相手に合わせる事を求めても不安が残るが、アルとセシルなら普段から他の人と組んで攻略する事もあるから、安心して任せられる。


 大型のモンスターは、急所に攻撃しないと有効な一撃を入れるのは難しい。王子達に意識を向ける敵に、死角から俺の精密な攻撃やアルの高火力で攻めるのが効果的だ。そこにセシルの支援があれば、安定した討伐が可能だろう。ある意味このパーティーは安定した力を発揮できる。


 十分な休息を取った後、俺たちは出口を目指して出発した。


 改めて周囲の光景を観察すると、周囲はダンジョンの中だと忘れてしまいそうになる程穏やかな空気が流れている。大型のモンスターになるほど群れることは少なくなり、又自分の縄張りの範囲も広大になる。実際、小型のモンスターが生息する階層よりも、大型が蔓延る階層の方がモンスターと出くわす可能性は低い。結果、一匹の生息領域当たりの面積が広く、非適性の小動物を見かけることもあるくらいだ。


 足元も確りした大地で歩くのが非常に楽だ。必然、歩く速度も上がるが、決して油断は許されない。他の森に比べ視界が確保できても、大きな木々は大型のモンスターすら隠してしまう。木々の裏側で息を潜め、後ろから襲われたらたまったのもではない。


 第二階層では多少強引に突き進んだのだから、今日は無理に先を急ぐ必要は無いだろう。俺たちは安全第一で次の出口に向かって進んでいった。




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