覚悟の証明、最初の一歩
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窓の隙間から射す朝日を浴びて自然と目が覚める。柔らかいベッドは十分な睡眠を提供してくれたようだ。寝起きで凝り固まった体を解しながら準備を整え、朝食を取る為食堂へと向かう。
食堂の扉を潜ると、そこには五人全員が揃っていた。律儀にも一つのテーブルを五人で囲っている。俺は全員に向けて挨拶の言葉を発し、反応を窺う。各自、思い思いに挨拶を返してくれる。
あのトランシスですら蚊の鳴くような声だったが、短く「おはよ」と言った。
俺が席に着くと、キャシーが見計らったかのように注文を聞きに来る。この宿は珍しく、朝食を数種類の中から選ぶ事が出来るのだ。因みに、俺が頼んだのはサンドイッチセットで、複数の具材と厚切りベーコンが挟まれた特製サンドイッチに、旬のキノコを使ったキノコスープ、そして欠かせないのがキャシー特製ピクルスの三点セットだ。
どうやら他の連中は、注文は済ませてあるが、俺の事を待っていたようで、これから食事らしい。大丈夫、俺は指定の時間より早く来たので遅刻ではない。
王子は話し出すタイミングを見計らっていたようで、朝食の注文を済ませた所で話しかけてきた。
「リックさんに言われた通り、昨日はあれからトランシスと話し合いました」
話の切り出し方はシンプルに直球、きっと答えが出たのだろう。
「それで、結論はでたか?」
俺のシンプルな質問に、周囲も固唾を飲んで見守る。
「私達は攻略者として、今回のダンジョン攻略に挑みたいと思います」
王子は覚悟の篭った瞳を向けて、出した答えを話す。どうやら俺が伝えたかった事に気が付いたようだ。昨日までの王子とトランシスは、飽くまでも第三王子とそのお付人としてダンジョン攻略に挑もうとしていた。しかし、ダンジョンはそんな甘い所ではない。ダンジョンに潜ることが許されるのは、自ら攻略する意思が有るものだけ、人に頼ることを前提にしている者など連れて行っても不和しか産まないのだ。
生活の為、ダンジョンに潜って素材を集め、又魔導具や魔導器を求める者を、探索者と称する。しかし、ダンジョンに潜るのは探索者だけではない、王族、貴族、商人、鍛冶屋に漁師、様々な人が各々の目的でダンジョンに挑む。そういった者たちを攻略者と呼ぶのだ。そこに自分の意思がない者が入る余地はない。
「そうか、それでは我々一同、全力で力をお貸ししましょう」
俺の答えを聞いて、王子やトランシスだけではなく、他のメンバーも安堵する。特に見習い探索者二人組はお人好しがバレバレだ。正直王子達だけで答えに辿り着くことなど無理だろう。それ故に先達者が手を引いてあげた事は想像に難くない。
取り敢えずの問題をクリアした俺達は、キャシーが運んできてくれた食事に感謝を込めて頂いた。これから数日、下手すれば一月は保存食生活だ。当分食べる事が出来ないだろうまともな食事を確り味わって食べる。
朝食を終えた俺達は、当初の予定通り最後の荷物確認をして、出発に備える。
今回、六人の人間が一月以上食つなぐために必要な物資は膨大だ。その為、事前にお嬢に頼んでおいた旅の仲間に荷物を持ってもらう事になる。その旅の仲間と言うのが、鹿馬と呼ばれる鹿と馬を掛け合わせて品種改良された動物である。大きさは騎馬より小さく、鹿より大きい。力も強く、複雑な地形も難なく進む。それに周囲の危険を感知する能力にも秀でており、頭も良いので非常に頼りになる。特に森林が続くダンジョンでは必須の仲間と言えよう。
今回用意してもらった鹿馬の数は六頭、一人一頭の計算だ。それでも持っていける荷物はかなり厳選しなければならないので、ダンジョン攻略がいかに難しいかが分かるだろう。
お嬢に準備してもらったリストと、昨日買い足した物資をチェックしながら鹿馬に荷物を積んでいく。特に予備の武器は直ぐにでも取り出せる場所に配置するのが重要だ。使い慣れた得物が一番だが、ダンジョンの中ではなにが起こるか分からない。必要以上に備えるに越したことは無いのだ。
一人一人が何処に何を積まれているのか確り把握しながら荷物の積み込みを終えた。最後に自らの準備を済ませて完了だ。
出発の前に宿を引き払い、キャシーに挨拶を済ませる。
「頑張って来てね」
「おう、戻ってきたらまたよろしくな」
攻略者を見送る者は、長々と別れの挨拶をしない。危険を伴う場所に向かう人間に深い情を抱かないためだ。みながそれを理解しているので、簡単に別れを済ませると俺達は出発した。
集落の中には、既に仕事を始めている人たちの活気でにぎわっている。そんな中を、各自が担当する鹿馬を引いて進む。ダンジョンを進む時は隊列によっては一人が複数の鹿馬を引くこともあるが、それ以外の場では自分の鹿馬は自分で世話をするのが決まりだ。
ダンジョンへ続く道がある集落の門を潜ると、そこから先はゲートまで一直線だ。昨日王子達に時間を与えたので、説明が不足しているところを移動の間に済ませる。一応、初攻略である王子とトランシスには、それぞれルーシェとアルをサポートとして割り当ててある。ただ、状況しだいでは臨機応変に動くことを求められるので、どこまで対応できるかが今回の攻略の鍵になるだろう。
事前に出来る事は極力しておきたいので、本来であれば普通に進むところを、今回はダンジョン内での隊列を意識して向かうことにした。
「ダンジョンに入る前に、何通りか隊列の練習をしておきたい。基本は俺が先頭で、最後尾はセシルで後方を警戒、俺の後ろにはルーシェ、コニー、トランシス、アルの順番で進む。この時、鹿馬を引くのはトランシスとコニーだ。戦闘時は即座に手綱を放していい、こいつらは賢いから勝手に安全なところに避難するからな」
「リックさん、この隊列の理由を聞きたいっす」
多分全員が抱いているだろう疑問をアルが最初に投げかけてくる。勿論この隊列には意味がある。
「勿論だ。まず先頭の俺は、案内兼前衛、初攻略の二人を真ん中に配置して、その前後を補佐する者で挟む、そして最後尾には索敵能力の高いセシルが適任だ。森の中は狭い所も多いので、基本この陣形になる」
俺の説明を聞いて、皆理解を示してくれる。もっとも、一人不満を持っている者もいるようだ。
「なぜ私が殿下よりも後ろなのだ?」
本来、護衛であるトランシスには、王子の後ろに付くのが不満なのだろう。まあ、この程度は許容範囲だ。
「幾つか理由はあるが、まずお前たちに付けた補佐役のポジションがその一つだ。最後尾のセシルとアルは普段から連携を取っているから、咄嗟の対応を求められた場合、互いを補い合う事が出来る。それと三人目と四人目では、四人目の方が危険だからだ。不測の事態に、四人目はどうしても鹿馬を引いている分他の人と距離が出来る。だから咄嗟に守るのに一手遅れる恐れがある。そして最後に、ダンジョンの中で最も安全な場所は俺の近くだからだ」
トランシスは理由を聞いて一応の納得はしたようだ。最も、最後の理由には不満がある事に、口には出さないが顔に出ている。しかし、これは嘘偽りなく事実だ。正直、奥の階層で俺から逸れた人は誰であれ生き残ることは難しいだろう。唯一可能性があるのはセシルくらいなものだ。森の中で敵は息を殺して潜んでいる。索敵能力がない者が生き残れるほど甘い環境では無い。
「嗚呼それと、森の中での戦闘は連携が難しい。だから六人での連携は不可能と考えた方がいい。そこで、戦闘時にはアルとセシルでペア、コニー、トランシス、ルーシェでトリオ、そして俺が単独で動く。一応指示は出すが、各々自分の身を優先して戦ってくれ。それとコニーは極力火の魔術は控える様に、敵を倒せても森が火事になれば蒸し焼きになる恐れがあるからな」
戦闘時の対応の仕方に、こんどはルーシェが不満を抱く。
「リックは一人で大丈夫なのですか?」
「それは問題ない。過去に一人で戦った経験がある。それに、即席のペアで連携など足を引っ張りあうのが落ちだ」
「……わかりました。その言葉を信じます」
未だ不満は残るようだが、ルーシェも一応納得してくれた。実際、自由に動けた方が守るにしろ攻めるにしろやりやすい。森に慣れている人間と慣れない人間では動きが全く違うのだ。
その後も、予測される状況の対応方法や幾つかの隊列を試しているうちに、今回の目的地であるダンジョンのゲートが前方に見えてきた。
ゲートの風貌は、何処のダンジョンも大差ない。過去に降り注いだ隕石の破片が複数寄り集まって浮き上がり、円の形を形成している。その円の中には、本来なら見えるはずのない光景が広がっている。
実際、この場所は割と開けていて、ゲートの周辺には木など生えてはいないが、ゲートの先に見える光景は、鬱蒼と生い茂る森を映し出している。
ゲートの周辺には、モンスターが這い出てこないように常時監視者が立っている。滅多にモンスターが出てくることは無いが、放置する事も出来ないので、その場所を統治している者には、ゲートの周辺に一定の戦力を確保しておくことが義務付けられている。ただ、大陸北部は人類の勢力圏ではないので、稀に強力なモンスターが出てきて、それを排除するために多大な犠牲を払っているのが人類の現状だ。
俺達の他にも、ダンジョンに挑む者達が周囲には数組見て取れる。少数で低層に挑む軽装の者達から、大人数を揃えて本格的に奥を目指す者達など、攻略する理由は様々だ。ダンジョンに入る際には、『前に入った者達から一定の時間を空ける』という暗黙の了解がある。それに、同時に潜ってもお互いに不利益にしかならないので、皆好んで別の攻略者と同じタイミングで入ろうとはしない。
俺達は入場待ちしている攻略者達の列に並ぶ。入場待ちしている攻略者もそれほど多くは無いので、自分たちの番が回ってくるのに、それ程時間は掛からないだろう。俺は待っている間、メンバーの様子を見る。王子とトランシスには先にダンジョンの情報を記した書類を渡してあるので、それを仲良く見ている。変に緊張していないなら問題ないだろう。
見習い探索者の二人は、流石場慣れしているだけ在るのかとても落ち着いていて、仲良く二人でお喋りしている。この二人の心配はするだけ無駄だろう。
そして俺の隣では、ルーシェが自分の鹿馬を可愛がっている。鹿馬の方も満更でも無いようで、大人しく撫でられていた。本来鹿馬は人の言うことを聞くように育てられるが、気位が高い個体が多いので、必要以上に人と馴れ合おうとはしない。そういった意味では珍しい光景だ。
周囲も大人しいもので、何事も無く俺達の入場の番が回って来た。
「それじゃあ皆行こうか。入ったら一度右に避けるから付いて来て」
みんなに一声かけて、先陣を切ってダンジョンに潜る。ゲートを潜るときの、独特の感覚を肌で感じながら、潜り抜ける。俺に続いて荷物を積んでいる鹿馬も引き入れる。その後もメンバーが先に決めておいた順番で問題なくゲートを潜った。
一度メンバーを右に寄せて、初攻略の二人に羅針盤の確認をしてもらう。
「左手の甲に羅針盤が現れたと思うが、一度確認してみてくれ」
そうして未経験者であった二人は左手に浮かんだ羅針盤を確認する。片方の針は左を指し示す。そしてもう片方の針は、真っ直ぐ正面の方向を指し示していた。
「羅針盤の見方は理解しているな?」
「はい、左を指しているのが入口、正面を指しているのが出口ですね?」
「正解だ。万が一にもないとは思うが、もし全員と逸れた場合は、羅針盤を頼りにダンジョンからの脱出を図ってくれ」
本来そんな状況に追い込まれたら、生きて帰ることは不可能だろうが、一応先達者としての役目を果たさねばならない。これは初めてダンジョンに挑む時に、誰もが言われる言葉でもある。一種の様式美だ。
そしてもう一つ大切なことが有る。森林を歩くのなら必須とも言える魔術具がある。今回のダンジョン攻略の依頼が来た段階で、真っ先にお嬢に頼んでおいた代物だ。これが無ければ数日として攻略も頓挫してしまうだろうそれは、ヒル避けの魔術具だ。森の中を歩くのにヒル避けは必須、これが無ければ数分歩いただけでたちまちヒルに噛まれる。種類によっては毒を持っている者もいるので油断ならないのだ。
俺達は全員の魔術具の発動を確認した後、出発する。
「それじゃあ出発しようか。基本的には俺が歩いた場所を、後から付いて来てくれ」
俺は全員が頷くのを確認すると、敢えてゲートの裏側を通って、先陣を切って歩き出した。
書き溜めしたものを吐き出すだけなのでどのタイミングで投稿すればいいのか少し悩みます。




