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自己の紹介、覚悟の証明

第二章ではリオックはリックと言う名の偽名を使います。キャラも違ってきます。第二章の方が長いのでリオックを忘れてしまいそうになります。

「勿論、迷惑を掛けた方への謝罪だ」


 俺の言葉を聞いた面々は、各々違った反応を示す。見習い探索者二人とルーシェは納得のいった顔をし、王子は困惑気味、お付人は怒りの形相だ。こいつは本当に救いようがないかもしれない。


「貴様! 殿下に頭を下げろと言うのか!」


 根本的な原因である彼は、先程の俺の話を聞いていなかったのだろう。若しくは理解する頭がないのだろう。


「そうだ、それが嫌ならダンジョン攻略は諦めろ」


「貴様にそれを決める権限はない!」


 只管に食って掛かるこの男の相手をするのもいい加減、嫌になって来た。


「そうだ、殿下と貴様を止める権限は俺には無い。しかし、残りのメンバーに関しては、俺の判断で参加を取りやめる権限を依頼主から貰っている。俺にはフランシア様から、彼らの命を守る様に言付かっている。貴様らが死ぬのは勝手だが、我々を巻き込まないでもらおう」


 正直、これは微妙なところだ。確かに俺の判断である程度の采配は許されているが、流石にダンジョン攻略を中止してしまっては、そもそも依頼が遂行できない。いざとなれば本当にこの男を排除して、王子には薬を盛って強行する手段もあるのだが、流石にそれは最後の手段としたい。


 俺の言葉を聞いて、次の言葉に詰まっているお付人は無視して王子に判断を委ねるのが最良だろう。


「殿下、己の部下の不始末。如何様にされますか?」


 少し汚い聞き方だが、これが最も受け入れやすいだろう。結局この王子も自分のプライドを捨てきれない小さな男でしかないのだから。


「分かりました。謝罪します。すみませんがお店の方を呼んで頂けませんか?」


 こうして王子が頭を下げたことによって、お付人も嫌々ながらも謝罪した。勿論他のメンバーも頭を下げたが、こちらは素直なものである。そもそも喧嘩していた理由も聞いていないのに、嫌々ながらも頭を下げているあたり、自分に非がある自覚はあるのだろう。


 これで一応体裁は整った。いくら王子側に非があろうとも、権力があれば平民の女子一人どうとでも出来る。ここは確り何方に非があるのか明確にしておかなければ、後からキャシーに何をされるか分かったものでは無い。流石に他国の貴族が居るなかで非を認めてしまえば、あとから如何こうする事も無いだろうと言う打算もある。それとラクスもこれで幾分か楽になるだろう。感謝してほしい。


 それに王子も、ここでダンジョン攻略が頓挫することを避けねば、自分に残された未来が明るくないことくらいの自覚はあるようだ。


 俺はキャシーにお湯を頼み、ルーシェに目配せをして、お茶を用意させる。これ以上のいざこざは勘弁してほしい。


 各自に飲み物が行き渡ったところで、俺は改めて話を切り出した。


「さて、互いの認識不足も補え、又憂いも無くなったところで、ダンジョンの攻略について話したいのだが、よろしいだろうか?」


 一つの机を囲むように座った面々一人一人を確認して、約一名以外が納得をした所で話を進める。


「まずは互いの事を知る為にも、自己紹介をしよう。本来は殿下に先陣を切って頂くところだが、ここは先達者である俺から勧めさせていただく。後に続く人もそれを参考にしてもらいたい」


 どこからも否定のことばが出ない事を確認した所で、俺は明かせる範囲で自分の事を話す。


「まず名前は先程も言ったがリックだ。普段は各地を回ってダンジョン攻略をしている。今回は昔縁があったフランシア様からの依頼でこちらに参加することに成った。また、今回のパーティーのリーダーを務めさせていただく。得物はナイフをメインに使用していて、魔術に関しては一切使えない。その代わり、多少薬の知識があるので、怪我などの対処は任せてほしい。以上だ」


 俺の話を聞いた者は、大きく分けて二つの反応を示す。一つは驚きを示している者、もう一つは軽蔑を示す者だ。当然こうなると突っかかって来る者が現れるのはある意味必然かもしれない。


「はっ、魔術も使えない無能かよ」


 先程自分がいいようにあしらわれた事を棚に上げて、お付人は悪態をつく。当然その反応を予想していたので、冷静かつ皮肉を込めて答えてやる。


「そうだな、俺は魔術も使えない無能だよ。その無能でも、魔術を使える者を完封できるくらいには強いと自負している」


 俺の切り返しに、顔を歪ませながらも男は黙ってしまった。周囲はそんな状況に苦笑い気味だが、その雰囲気を払拭するかのように王子が率先して自己紹介を始めた。


「それでは次は私の番でいいかな? 私はアコニット・ド・イリス。この国の第三王子という立場だが気軽にコニーとでも呼んでくれ。得物は杖を使っていて、魔術主体で戦う。使える属性は火と水だ。魔力も人よりは多いので魔力切れの心配はあまりない。ダンジョンの攻略はこれが初めてになる。みんなの力を借りたい、よろしく頼む」


 優男イケメンで赤く鮮やかな髪で、身長は平均と言った所だろう。王子らしくない態度のくせにプライドが捨てきれない中途半端な男だ。取り敢えず合格としておこう。


 王子が自己紹介を終えると、お付人に視線を送る。流石に王子に促されては、黙んまりもできないのか、渋々ながら話し出した。


「トランシス・マルテシアだ。普段は第三王子殿下の護衛をしている。得物は片手剣と盾だ。風の魔術を防御主体で使う。ふん」


 最後の「ふん」が何なのか分からないが、これで自己紹介は終わりの様だ。ただ確認をしておかなければならない事もある。


「その風の魔術は詠唱しての発動か? それとも魔術具を通しての発動かどっちだ?」


 俺の質問に思いっきり顔を顰めるも、周囲の雰囲気からか渋々答える。俺だってお前と話がしたいわけではないのだよ。


「魔術具を通して発動する」


 端的かつ短く答えるトランシス。


ここで一つ魔術の特性について話をする。本来魔術は詠唱をもって現象を具現化するのだが、ここに一つ抜け道がある。それが魔術具を使った発動だ。それもただ魔術具を使うだけではなく、魔術具が起こす現象と合う魔力をもって発動する事で、本来よりも早く魔術を行使する事が出来るのだ。彼の場合は元々、風属性に適性があり、その上で風の障壁を展開する魔術具を所有している。これは矢が飛んでくるのを認識してから発動して十分間に合う速度である。ある意味要人を守るのには打って付けの能力だ。


 権力者二人の自己紹介が終わったところで、次に見習い探索者の方を見る。どちらが先でも良かったのだが、男の方が先に話し始めた。


「自分はアルビニオンっす。アルって呼んで欲しいっす。普段はこっちのセシルと一緒にフェロ公爵領で見習い探索者として修業してるっす。得物は両手剣を使って、魔術は土属性を使うっす。皆の足を引っ張らないように頑張るっす」


 喋り方は軽いが、平均よりも少し高めの身長に、平均より多少良い体つき、そして平均よりは良いツラを持っている。こいつの事はアバゥブアベレージと呼ぼう。女の子とペアを組んでの活動。もしかしたらこういった人間が勝ち組と呼ばれる者達なのかもしれない。


 これに続いたのが見習い探索者の片割れの女の子だ。


「次は私ですね。名前はセシルティアって言います。先程アルが言ったように、二人でペアを組んで活動しています。私の事も気軽にセシルとお呼びください。得物は弓が得意で、風の魔術と併用して戦います。支援攻撃はお任せください。人よりも索敵が得意なので頑張ります!」


 少し背は低めだが、顔立ちは悪くなく、可愛い。無駄な肉も付いていなくて、服の外からでも分かるしなやかな筋肉。正直、この二人は予想以上に期待が出来る人材だ。


 そして最後に残ったのが、いつも余計な事をお嬢に話すルーシェだ。


「最後に私ですね。ルーシェ・ルスクリタと申します。普段はフランシア様の従者をしております。殿下とは学園の同期としてお世話になっております。得意な得物は刺突剣で、戦闘スタイルは二本の剣を使った戦い方になります。魔術は光属性少々嗜んでおります」


 ルーシェは本来、光と闇の魔術を行使できるのだが、どちらも使い手が少ないうえにダブルと言うことで、普段は光属性のみ使える事にしている。闇の魔法ってどんな物が有るのか正直よく知らないので、戦力としては考えなくていいだろう。


 全体的にトランシスのせいで、予想よりも酷い状況かと思われたが、先に貰った資料よりも二人の見習い探索者のポテンシャルの高さに、それほど悲観するほどでもない状況に少し安堵する。流石今回態々選ばれただけのことはあると感心するくらいだ。


「さて、これで一通りの自己紹介は終わったな。何か質問が有るものが居たら挙手してくれ」


 俺の問いかけに、セシルがおずおずと手を上げる。


「あの、リックさんはどんなダンジョンに潜ったことが有るのですか?」


 セシルの質問に対して、皆の視線が俺に集まる。確かにこの中で最もダンジョン攻略の経験が多い人間の実力がどれ程なのか気にならない人はいないだろう。


「そうだな……。例を上げれば切りがないが、今回攻略するダンジョンにも、以前潜ったことが有る。その時は第八階層まで進んだな」


 俺の言葉に、アルとセシル、そして何故かルーシェまで驚いた顔をしている。二人の反応は良く予習をしていると褒める事が出来るが、何故本来知っているはずの情報を聞いてルーシェが驚いているのかが気になる所だ。因みに、コニーとトランシスには最初から期待していないので、特に思うところはない。


 流石に周囲の反応が気になったのか、半分空気とかしていたコニーが疑問を提示する。


「皆何故驚いているのだい? フランシア様の紹介された人が優秀なのは良い事じゃないのかい?」


 少しずれた質問だが、この際仕方がないだろう。


「今ここのダンジョンの公式最高到達階層は、第七階層なのです。だから第八階層まで進んだと聞いて驚いて……」


「確か第七階層は入口のゲートから、2000キロ圏内には出口のゲートが無いって話っす。現在も探索中だって話を聞いたっすけど、地形が複雑で先に進めないって話っす。リックさんは発見したっすか?」


 二人の言葉を聞いて、コニーも此方に視線を向ける。ダンジョンの攻略に対しての報告義務は本来存在しない。ダンジョンを保有する国が、情報そのものに懸賞金を掛けるなどした場合、報告が上がってくることが有る。公式の記録とはそういった国が把握している範囲の事を指す。だから、敢えて報告しない事で、情報を独占する探索者は少なくない。ただ、人に話したところで、信用されない事もまた事実だ。こんな感じに。


「はっ、どうせ法螺ふいてんだろ。証拠は有るのかよ? 証拠!」


 本来、ダンジョンの到達階層に関しては、探索者同士でも相当信頼を置いていないと話すことは無い。先程の様に証拠の提示を求められたところで、証明する物を出すことが難しい事に起因する。それ故、到達階層を話すときは、あくまでも目安程度に扱われるものだ。


「証拠など無い。到達階層とはあくまで目安として扱うものだ。それに今回はどれだけ深く潜っても第五階層が限界だろう。そこまでの情報は一般的に出回っているから各自で予習しといてくれ」


 一々トランシスの絡みに反応していられないので、適当に受け流す。これはコニーの宿題にしよう。


「話は変わるが、物資の管理は誰が受け持っている?」


「フランシア様が手配されたものは私が管理しています」


 どうやら先に頼んでおいたものを、お嬢はきちんと用意してくれていたようだ。ルーシェから物資の一覧を見せてもらい、漏れが無いかを確認する。一通り一覧に漏れが無いのを確認したら、後は現物と照らし合わせるのと、現状で足りていない物を買い足すくらいだ。


「よし、それじゃあこの後は各自、自分の武器の確認をした後自由だ。悪いがルーシェは俺と一緒に足りない物の買い出しに付き合ってくれ。それと明日は朝から出発前の最終確認をするので朝食後集合だ。それじゃあ解散!ああ、それとコニーは少し話がある少し残ってくれ」


 俺の掛け声と共に各々動き出す。俺はコニーに近づいて小声で話しかける。


「コニー。これは殿下としてではなく、コニー個人への宿題だ。明日の朝までにトランシスに最低限の協調性を叩きこめ。このままならトランシスはダンジョン攻略に連れて行けない」


 俺の声に帯びた真摯な感情を読み取ったのか、コニーも真剣な顔になる。


「それは私でないといけないのかい?」


「現状、トランシスの存在を必要としているのはコニーしかいない。他のメンバーにとっては必要のない人間だ。むしろ足枷にすらなる。だからお前しかいない」


 何も厳しい事を言っているわけではない。あくまでも人としての最低限の協調性を求めているだけだ。


「言っておくが、明日の朝だけ態度を改めても駄目だ。もしダンジョンの中で自分勝手に行動するようなら、俺の判断で始末する。よく考えてトランシスと話し合ってみてくれ」


 突き放すような言葉になってしまうが、彼の行動の責任の一端には王子の存在を否定できない。ダンジョンの中は治外法権である。立場も権力も存在しない、唯殺すか殺されるかの世界なのだ。甘い覚悟で臨まれてはコニー自身の命にもかかわるので手を抜けないのだ。


 俺は念を押すように相手の目を正面から捉え、一つ頷いてその場を離れた。




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