キラキラまぶしい、派手ですね
異世界に来たらアイテムボックスは必須だよな、と友人は言った。
この時、そう言ったジャンルは知っているものの、友人ほどはまっていなかった俺からして見れば現実と空想をごっちゃにするのはいかがであろう、と冷静にツッコミを入れた覚えがある。
だがな友人よ、お前の言うとおりだ。異世界に来たらアイテムボックスと言う名の四次元的収納箱が必要不可欠だ。
「……どうすればいいんだ、これ」
もし、そんなご都合的な道具があれば、いま抱えている下着の類を隠す事など訳がないのだから。
まいった。本気でまいってしまった。嬉しくないと言えばうそになるかも知れないが、だからと言って手放しで喜べる状況でない事は間違いない。こんな状況を見知った誰かに見られたら大変だ。
絶対に非難の眼……を向けられると言うか、むしろ逆に喜んで襲い掛かって来そうな気がする。クスハさんが見たら「溜まっているんですか?」と妖艶な笑みを浮かべて迫って来るに気がいない。何それ、逆にご褒美じゃない。……いやいや、落ち着け工藤伸哉。
ま、まずはこの下着の山をどうにかするのが先決。
どうにかしなければ……。
どうにかしなければ……。
どうにかしなければ……。
……お馴染みの能力を有していない俺にどうしろと言うんだよ。アイテムボックスって言う似非四次元ボックスがない限り、この状況を打破する事なんてムリだろ。
肝心のイーグレットさんは戦利品を片手にどこかへ消えてしまったし。認識阻害は効力を失ったようだから、誤魔化す事も難しい。逃げようにも学園の門で彼女達に出会う確率が高いから無理だし。
「……詰んだな、この状況」
打つ手が無さすぎる。
こんな時に限って新キャラは出てこないし、どうしろと言うんだよ。
「なにしてるの、シンヤ?」
「っ!?」
聞き覚えのある声が聞こえた気がする。後ろを振り向きたくないが、妙な視線が三つほど背中にザクザク刺さって心臓に悪すぎる。
まさか、対応策の一つもかんがえる事が出来ずに目撃されてしまうなんて。
「……や、やぁリリス。それに、フィリアさんとシンディーさんも」
「やぁ、じゃないわよ。今までどこ……に」
あ、視線が下着の山に向けられたね。
「シンヤ。それ、なに?」
「下着でございます」
「なんで、あなたがそんなのを持っているの?」
「迷っていましたら、頭上から降ってきたんです」
「降ってきた? 空から?」
「はい。空から下着が降って来るなんて、俺も度肝が抜かれました。あ、あはは。ほんと、この世界は常識が通じないよね。ったく」
……く、苦しい。自分で言っておきながら苦しい言い訳だ。
なんだよ、空から下着が降って来るとか。どこの空の落し物だよ。力を籠めれば渡り鳥見たいに大群になって空を駆け上がるのかよ。
「へぇ」
うわ。疑っている。疑っていらっしゃるよ。そりゃあ、突然大量の下着が降ってきたなんて、子供でも信じられないよな。
「まぁまぁ、リリス。少し落ち着こうよ。むしろ、この状況は私達にとって大歓迎だと考えるべきじゃないかな」
いつ大噴火を起こすか分からないリリス火山をフィリアさんがなだめる。
あ、あなたが女神様なのか。
「シンちゃんだって男の子だもの。きっと欲求不満だったのよ」
……訂正。その悪戯を思いついた子供の顔は女神様じゃない。
お前さんは小悪魔だ。小悪魔フィリアだ。……なんか可愛くなっちまったぞ。
「なんなら私のもいる?」
「いえ、結構です」
あからさまにスカートのすそをつまんで挑発しないでいただきたい。
第一「くれ」と言ったら、本当にくれるのか。……くれるんだろうな。そんな事になったら収集がつかなくなるから、絶対に言わないが。
「それにしても、結構な量ですね」
「で、ですね」
「……」
な、なんか物凄く見られているんですが。
……あ、まさかシンディーさん。この状況を目に焼き付けてご自身の作品に描くおつもりじゃないですよね。あ、コラ。いつの間にメモ帳なんか取り出した!? あなた、ご自身のお仕事に関しては秘密にしているんじゃなかったのかい。ばれるよ、直ぐにばれちゃうよ。
てか、デッサンするのが早いな。あと、鼻血は拭いた方がいいぞ。
「けど、少し派手すぎじゃない? これなんか、キラキラと光っているわよ。いったい、どこの誰の物かしらね」
目に着いた下着、金色の下着上下を取り出して苦笑するリリス。両隣にいるシンディーさんとフィリアさんも同様の意見なのか、リリスが取り出した金色の下着を見て「うわぁ」と引くのであった。
「ず、随分と派手ですね」
「派手にも限度があるよ。キラキラ光っているし。……ん?」
呆れるフィリアは何かに気づいたらしく、サッと金色の下着をリリスから奪い取ってしまう。
「あ、ちょっとフィリア。なにしてるのよ」
「ごめんごめん、ちょっと気になって」
「……まさか、あなたってそう言うのが好きなの?」
「ち、違うし! あんなの私の趣味じゃないし」
高々下着の色でそこまで揉める必要もなくないか。
まあ、あんなキラキラ輝く金色の下着を着て迫られたら、完全に引いてしまうかもしれないが。
「……やっぱり、これ」
持主が誰なのか分かったらしい。
それならばちょうどいい。持主さえ判明出来たなら、返す事も難しくない。
「持主が誰なのか分かったのか? それなら、それが誰のか教えてくれないか」
「……それを聞いてどうするつもり」
「どうするって……。普通に持主へ返すつもりだが」
「本当に?」
「ウソを言う理由がないのだけど。……なんで?」
「なんでって。……ほら、男が女性の下着を手にしたら、ね」
そこで、何でリリスとシンディーさんに同意を求めるんだよ。
二人とも明らかに作り笑いをして頷くだけだし。
……まあ、言いたいとしている言葉は大体理解しているのだが。ここで、素直に答えたら弄られるだけだしな。
そもそも、下着を手にして悦になる趣味は持ち合わせていないから。どうせするなら、生肌に……って、いかんいかん。直ぐにそっち方面に思考が傾くのはどうにかしないと。気を引き締めないと、直ぐにこの世界の考えに染まってしまうな。
「まあ、何が言いたいか分かりませんが。とにかく、これらを持主に返そうと思います。持主が分かっているなら、教えてくれません?」
まあ、一年の教室に行って本人たちに回収してもらえればいい話しなのだが、こんな派手な下着をつけていた人物に俺も少し興味が出てしまったらしい。あんな、布の面積が少ないパンツを自らはく奴がいるんだな。
「こ、これは……お母さんの物です」
「……ん?」
あれ? 聞き間違えたのかな。
いま、この金色の下着がフィリアさんのお母さん、ナディア・エストックさんの物だと言っていたぞ。
「せ、先生ってこんな派手なの使うのね」
「す、すごいです。ど、どこでこんなの買うのでしょうか」
教師の下着を見て明らかに引かないであげて、リリス。ほら、自分の母親の下着を持っているフィリアさんが今にも泣きだそうとしているぜ。てか、既に涙目になっているし。
シンディーさんも抱く感想が違うから。なに、興味あるの? あなたがそんな派手なのつけても……。うむ、それはそれで、クルものがあるかも知れないね。
「まあ、その。……金色も悪くないと思うぞ」
「下手な慰めはやめて。余計にみじめになるから。……お母さん、こう言う派手な奴は少し控えてってあれほど言ったのに」
小声で言ったつもりだけど、聞こえるからな。
フィリアさんも苦労しているんだな。自分の母親の下着で頭を痛める人も初めて見るが。
「……シン君。これら、私が返しておくわ。良いよね」
「それはありがたいが。……ああ、そう言う事か。では、お言葉に甘えようかな」
気を見て、母親に返すつもりなのだろう。母親のだけだと色々と気まずいと思ってか、盗まれた一年生達の下着をカモフラージュするつもりのようだ。木の葉を隠すなら森の中、なんて諺もあるから、良い作戦だろう。
「その代り、私の下着をあげるね」
「その話しは続けなくてよろしいです」
受け取った下着の山の代わりに、自分のブラを取って渡さないでくれませんかね。
ほらぁ。隣で見守っていたリリスが率先として真似しようとしているじゃないか。
シンディーさんもそんなにプルプル体を震わせながら、リリスの後に続こうとしなくていいからね。




