放課後の一時
紆余曲折経てやっと放課後になったのだが、まさか放課後になっても心休まる時がないとは思っても見なかった。いや、冷静に考えればこの状況になる事は考えられたはずなのだが、先のアンダーマン事件のせいで思考が上手く働いてくれなかったのかもしれない。
何せ、フィリアさんに下着の山を返してもらう様に渡した後、リリスがソニアさんのクラスで下着の件について口を滑らせてしまったのだ。……まあ、あの時は途中で行方を暗ました俺にも問題があるのだから、強く彼女の事を責める訳にはいかないのだが。
「なに呆けているの、シンヤ君。やっぱり、お姉さんの下着が欲しくなった?」
「いえ、お気持ちだけで結構です」
ほんと、我がご自慢のネオジウム製の理性はよく働いてくれているよ。
今も、両腕から伝わる幸せの感触と言う名の攻撃を受けているにも関わらず、未だに崩れないんだから。
「そうですよ、ソニア。シンヤが欲しいのは私の下着なんですから」
「いや待てリリス。それも違うからな」
「そうよリリス。あなたの貧相なそれを包む物とか、シンヤ君はおろか誰も欲しがらないよ」
お願いだから、俺を挟んで口喧嘩を始めるのはやめていただけませんかね。
あとリリス。ソニアさんに貧乳であることを指摘されたからと言って、更に押し付けるのはやめて。そんな事をしたら、ソニアさんまで対抗しちゃうから。
「そんなことあるはずがないです。シンヤはこんな私の胸でも愛してくれるって言いましたから」
「……そんなこと、言った覚えないのだが」
え、本当だよね。記憶にございませんが。
「その言葉がリップサービスであることをなぜ気づかないのかしらね。シンヤ君は私の胸に御執心なのよ。あの時だって、激しかったんだから」
「往来の方々に勘違いさせるような言い方をしないでください。いまのは違いますから! 彼女が大げさに言っているだけですからね!!」
すれ違った女性二人に伝える。
今のソニアさんの発言で盛大なる勘違いをなされたお二方は「まぁ」とか「いいなぁ」と両隣にいる二人に向けて羨望と嫉妬が入り混じった複雑な表情を見せる。
そんな見知らぬ二人の反応を見たソニアさんは何を思ったのか。
「かれ凄いのよ。あなた方も一緒にどうかしら?」
「いやいや、どうかしらじゃないから。わざとだよな、今の明らかにわざとだよな」
ほら、今の言葉で拍車がかってしまったじゃないか。
あの二人、明らかに俺の下半身に視線を移したよな。移した直後、生唾を飲んだのもちゃんと聞こえているからな。
「ソニアさん、これ以上事を荒立てると今日の所はお引き取り願いますよ」
「……だって。ごめんね、お二人とも。また機会があったら一緒にしようね」
だから、言った傍から。あなた方も元気よく「はい!」と答えないでください。
この国の女性って全員レベルが高すぎるから、そんな風に喜ばれたら流されてしまいそうになるじゃないか。
「で、ソニア先生。いつまで一緒にいるおつもりですか。記憶が正しければ、あなたの屋敷は私の屋敷の反対側だと思いますが」
「なによ、弟子の癖につれない言い方をするわね。あんな凄い事を毎日やってもらっているなんてずるいじゃない。私も一緒に混ぜなさいよね」
「ま、毎日なんてしていません! そりゃあ、シンヤが良ければ毎日したいですけど」
いや、無理。
無理だからね、毎日とか。あなたは俺のアマルガム性の理性を粉砕させるおつもりか。
そろそろ、危ないからね。まだ、それほど日が経っていないのに破裂寸前なんですから。
あまり考えたくないけど、ばれずに解消する手段もかんがえなくてはいけないな。……あまり気が進まないが、未来の俺から連絡が来たら相談してみるか。
「そんな事よりお二人とも。練習はしなくていいのか? ほら、DP戦もそうだけど、もう少しで発表考査もあるんだろ。DP戦もいいが、まずは目先の事に集中した方がいいと思うのだが」
「私は大丈夫よ。何せ、現プティーズの一人だしね」
確かに、プティーズとしての活動などを見た事がないから忘れていたが、この人は一応リリスが目指しているプティーズの一人、つまりプロ中のプロであった。言わぬが花であったらしい。
「リリスは大丈夫? あなた、未だに動きと魔法の連動性に難があるそうじゃない。私の真似なんかやめて、違う方法を考えるべきじゃないかしら」
私の真似?
「今度はちゃんとやって見せます。何せ、あれから六ミリも大きくなったんですから。もう、昔の私と思わないでください」
「それは楽しみにしているわね。DP戦もあっさり負けてしまうようだったら、面白みに欠けるものね」
いい具合に士気が上がったのは喜ばしいところであるが、お二方。
ここがどこだか、忘れてはいないですよね。 人が往来する場所で目立つ行動は少し控えて欲しいよね。完全に目立ってしまっているし。
「とりあえず、どこかに寄りませんか?」
好奇心の眼差しから逃れる為に、近場に合った喫茶店を指差して寄り道を提案する事にした。
――***――
入室するなり、待っていましたと言わんばかりに数名の女性が「いらっしゃいませー」と御出迎えしてくれる。
「三名様ですね。禁煙席でよろしいでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
「畏まりました、三名者もお入りです」
うむ、はきはきして大変よろしい。好印象が持てる接客力ですな。
入ってきたのが男の俺だと分かってわざと胸元のボタンを外さなければ、更に印象がよくなったんだが。
「シンヤ、ああいうコスチュームが好みなの?」
「……は? リリス、いきなり何を言っているんだ」
「だって、鼻の下が伸びていたから」
マジで。慌てて鼻を押さえて確認するが……。
鼻の下が伸びているのを確認する方法ってあるのか?
「ふふ、シンヤ君。そうやって大げさに反応すると、リリスの言った事が本当だったと証明しているわよ」
「なっ!? カマを掛けたのかリリス」
「かけなくても、見れば分かるから。シンヤ、少し見過ぎだよ」
そうだったのか!?
俺、知らない間に視線を送っていたのかよ。
やばい。段々とこの世界のエロ識に染まりつつあるぞ。
「前々から思ったけど、制服が好きなの? 屋敷のメイドの皆の事もマジマジと見ていた時があるし」
「人を制服フェチ見たいに言わないで。……ま、まぁ。色んな服を着た女性を見るのは眼福であることは否定しないのだが」
「それ、好きと言っているようなもんじゃない」
「違う。だからと言って、エロ目線で見ている訳じゃない。そう、見ていないから!」
「私がメイド服を着ても、同じことが言える?」
リ、リリスのメイド姿、だと。
クスハさんやイリスさんと同様のメイド服姿のリリスを思い浮かべる。
……それは大変結構なお点前で。できれば、一度でいいからツンデレメイドさんってち・が・うから! なに、願望を漏らしているの俺は。今日、クスハさんが同行していなくて助かった。今の心の叫びを聞かれたら、何をされるか分かったものじゃないからな。
「……うん。可愛いと思うよ」
「それ、質問の返事になっていないんだけど」
「大丈夫。決してエロ目線で見ないから」
……あれ? なんか不機嫌になってしまったぞ。
「シンヤ君。それじゃあ、リリスに魅力がないと言っているようなものよ」
「え、そうだったの!? 悪い、リリス。そんな事を言うつもりじゃなかったんだ」
「……分かっているわよ、そんなこと。良いから、さっさと席に着いて注文をするわよ」
不機嫌になっていらっしゃる。
こりゃあ、どこかでご機嫌取りをしないといけないな。
「所で、シンヤ君。私がメイド服を着たらうれしい?」
「あなたの場合、着た瞬間にご奉仕しますと言って襲ってきそうだな」
「そんなこと言わないよ。どっちかと言うとあなたのピーをピーにピーしてくださいって言うだけだから」
「自分でピーって誤魔化すぐらいなら、言わなければいいのに。さて、さっさと席に着こう。先に座ったリリスが睨んでいる事だし」
――***――
「あら、いらっしゃいませ。ソニアちゃん」
俺達がメニュー表とにらめっこしている間に、一人の女性が人数分の水が入ったグラスを持ってきてくれる。
ソニアさんも水を持ってきた女性が知り合いと分かったのか、慌てて席から立ち上がり彼女が持ってきてくれた水を受け取る。
「ありがとね、ソニアちゃん」
「いいえ、これぐらい。じゃなくてユメさん。お医者様から安静にしてくださいと言われたじゃないですか。もう、あなただけの体じゃないのですから」
「そうなんだけどね。働き詰の毎日だったから、体を動かしていないと落ち着かないのよ。大丈夫、この子の負担にさせるような仕事は全部若い子に任せているから」
愛おしそうに自らのお腹を擦る女性を見て察する。
そうか、この女性はお腹に新しい命を宿しているのか。
俺達の視線に気づいたのか、女性は俺達の方へと歩み寄り注文票を片手に聞いてくる。
「ごめんなさいね、お客様。注文はもう決まったかしら。……あら? あなたもしかして、男の人?」
「あ、はい。工藤伸哉です。分け合って、彼女――リリス・シルフィードさんのお屋敷でお世話になっております」
「リリス・シルフィードです。ソニア先生からお噂はかねがね。以後、お見知りおきを」
「あらあら、これはご丁寧に。ユメ・エクサライドよ。今後もうちの店を御贔屓にしてくれるとうれしいわ。それで、注文は決まったかしら?」
と、言われても未だに注文は決まっていない。お金はこの前、ギルドでの仕事で手に入れたから少しぐらい高くなっても構わないのだが、いかんせん参考写真がないので想像しづらい。
「なにか、おすすめとかあります? できれば、軽く軽食もつまみたいので」
「でしたら、日替わりスティックにしましょうか。それと飲み物でよければ……。いかがでしょう?」
「じゃあ、それを頂きます。リリスとソニアさんは?」
二人とも特に考えていなかったらしく、俺と同じものを注文する。どちらかと言うと、色んな物を注文して様子を伺いたかったのだが。
「承りました。日替わりスティック三とドリンク三ですね。少々お待ちください」
注文を受けたユメさんは早足で厨房に入り――。
「お待たせいたしました。日替わりスティック三とドリンク三です」
「はやっ!? え、え!? いま頼んだばかりだよね。時間にして、一分も経っていないぞ!」
「それが当店の売りですので」
売りってあんた……。
明らかに物理法則をすっ飛ばしたよね、この状況。
これも魔法の恩恵による芸当の一つなのだろうか。
「まあまあ、シンヤ君。直ぐになれるから気にしない方がいいよ。それより、早く食べないと覚めちゃうよ」
慣れるかなこれ……。
あ、意外と美味しい。このスティック。




