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お巡りさん、こいつが変態です

 お巡りさん、ここに変質者が!? と叫んで通報したい所であるが、今の俺はその変質者のお仲間なんだよな。……こんなこと、やるはめに陥るなんて思いもしなかったよ。

 ほんと、何でこんな事になってしまったんだろうか。


「ボケッとしないの、アンダーマン。油断したら即捕まるわよ」


 やる気のない俺を見て、注意する下着ウーマンことイーグレットさん。

 下着のみと完全に露出魔のお姿に変身なされたこの人は、眼光鋭く周囲を警戒しつつ、軽快な足取りで誰もいない廊下を闊歩する。物凄く手慣れた感じで……。

 てか、その変態ネームは決定なのね。

 今なら未遂だし、変態ウーマンの正体を取引材料として罪が軽くならないかな。


「幾ら、認識阻害の魔法で誤魔化しているとはいえ、見知った人物と出くわしたらアウトなのよ、気を付けなさい」


 泣く泣く俺までアンダーマンなんて汚名を付けられ、強制的に同行させられている最中、趣味の為に覚えた魔法、認識阻害の魔法をかけられた。イーグレットさん曰く、面識が少ない人物ならば遭遇しても特定される危険は少ないらしい。けど、逆に頻繁に会っている人物に対しては認識阻害の魔法はそれほど効果を発揮されないとのこと。


「……で、今日は誰をターゲットにするわけ?」


 どうせ、何を言っても解放されないのは目に見えている。

 ならば、適等に話しを合わせて被害を受けない様に立ち回る必要が出てくる。

 事前にターゲットが分かって居れば、回避方法の一つや二つ思い浮かぶだろうと思って聞いたのだが――。


「まだ決めていないわ」


 突発的な行動故、全くのノープランらしい。

 ……犯罪は計画的に行わないと捕まる確率が大きんだぞ!

 いや、別に犯罪を進めている訳じゃないんだよ、本当だよ。


――***――


 当てもなく廊下を歩いていると校庭を駆け出す大勢の女性を目撃する。


「……懐かしいわね、あれ」

「普通の体育も行うんですね。……彼女達の来ている体操着に作意を感じますが」

「最初は名前を覚えてもらう意味で、体操着に名前を書くのが流行っていたのよ。最近では、新入生が行う通例となりつつあるわね」


 それはどこの名門スポーツ学校ですか?

 ある意味ではこの学園も似た様なものなんだけど。


「この学園に入ったら、まず基礎体力作りをメインでやらされるのよ」

「……まあ、普通でしょうね」


 体を動かす以上、体力作りは必要不可欠となる。

 最初に基礎体力作りをやるのは至極最もな事だろう。

 てか、いま走らされている子達って俺の記憶が正しければ十五歳ってことだよな。

 イリスさんの一つ上か同年代だと思うけど……みなさん、発育が良すぎませんかね。

 明らかに俺の二つ上だと思えない女性が数人ほどいるぞ。


「良いわね、あの子達」


 ……あ。

 コラ、まて。

 なに、後輩たちを変な目で見ている。


「まさか、あんた……」

「今日のターゲットはあの子達にするわよ」

「本気かよ。相手は後輩たちだぞ」

「だからいいのよ。あの子達とはあまり面識がないわ。今日のおかずはあの子達にしましょう」

「白昼堂々、舌なめずりしながらおかずなんて口にするな! ちょ、引っ張るな。逃げないから、無理やり連れて行こうとするな!」


 ……てかさ、どうやって下着なんか盗み出すんだ!?


――***――


「今回は電撃戦にするわ」


 ……は?

 電撃戦??

 電撃戦とは俺の世界では軍事理論の一つであり、奇襲と速力をフルに活用させ、迅速に戦線を突破し、任務を遂行させる作戦なんだが……。なんか、凄い嫌な予感が。


「作戦はこうよ。まずあんたが、みんなの前に飛び出してみんなの注目を浴びる」


 ……おい。


「注目が浴びている隙に、私が絶技お色直しで彼女達の下着を頂く。……どう、この作戦は。完璧でしょ?」

「ああ、完璧すぎる。あんたのバカさ加減にな!」


 性欲は人をダメにする、とよく言われているが本当の事であったようだ。

 まさか、イーグレットさんがここまでお祭り脳のお人であるなんて思いもしなかった。

 最初に会った時のキャラはどこに行った!? どの時点でキャラ設定が変わったんだよ。


「そもそもな! 盗むって、まさか脱がせた物を頂くのかよ」

「そうよ。洗い立ての下着を盗んだって、なんも楽しくもないじゃない」

「知るかよ。あんたと違って、俺はそんな事など一度もしたことないからな」

「なんですって!?」

「おい、待て。なんだ、その予想外だと言わんばかりに驚きやがって」

「だって、男って目の前に女性の下着があれば、たとえ火の中水の中草の中、森の中と迷いなくダイブするんでしょ?」

「んな訳あるか」


 だいたい、火の中水の中なら分かるが、草と森はどこから来たんだよ。

 土の中、雲の中と歌い始めるかと思ってしまったじゃないか。


「そもそも、お前の作戦だと俺は完全に囮じゃないかよ。お前が盗みを働いた後、どうやって逃げればいいんだよ」

「大丈夫大丈夫。捕まりそうになったら、キスの一つや二つしてあげれば簡単に自滅しちゃうわ。……中には燃え上がって、滾らせる子もいるでしょうけど」

「最後の方、小言で言ったつもりなんだろうが聞こえているからな。お前、俺を囮にして自分は逃げる腹積もりだろ」

「そうよ! それぐらいしか、役に立たないじゃないの。あんたは!」

「まさかの開き直り!? 役に立たないと思っているなら解放してくれよ。今回は見なかった事にするから」

「ここまで来て何を言っているのよ。あなたに下着の素晴らしさを教えようとしている私の変態心が分からないの!?」

「そんな話だっけか? てか、いらないよ。そんな変態心は」

「いいから、つべこべ言わずに来なさい。早くしないと授業が終わっちゃうでしょ」

「おい、まさか授業中にやるのかよ。ちょ、待て、待てよ! 今日で何回目だよ、このパターン!!」

「なんで「待てよ」の時だけ声色を変えたのよ」


 ……すみません、つい出来心で。


――***――


 授業が始まってから有に二十分が経とうとしている。

 けど、入ってまだ間もない彼女達は未だに長距離走に励んでいた。

 漸く学園のカリキュラムに身体がついて行ける様になって来たようで、未だに根を上げる者は見当たらない。

 初めの頃など、授業が終えた後は死屍累々の一言。満足に起き上がれる事も出来ず、筋肉痛に苦しむ事も少なくなかった。

 今では、定められた速度のまま並走している者達と談笑する余裕も出てきた。


「ねえ、聞いた? シルフィード先輩のクラスのこと」

「聞いた聞いた。今日も男の人を学園に連れてきたんでしょ。しかも腕組みで」

「その話し、知ってる! 先輩と同年代ぐらいの男の人なんでしょ」

「え!? それ、本当なの。だって、スイカップの最年少ってクロード様じゃないの!?」

「別の国から来たみたいよ。この前、働き口を探しにうちの店に来ていたよ」


 女性三人集まれば姦しい、と言われているが十名近くの女性が集まれば騒がしくなるのは必然。

 黙って彼女達の走りを見守っていた教師ナディア・エストックから最終通告がなされる。


「随分と楽しそうね、あなた達。そんなに楽しいなら、もう十周は余裕わね」


 訂正。

 最終通告ではなく、愛の鞭が先に放たれたようだ。

 当然、理不尽な罰に不平不満を零す彼女達であるが、娘と歳近い小娘に負けるナディアではない。


「あら、いいのかしら。その男の人に今度見学してもらえるように頼んであげようと思ったのに」


 驚愕的な言葉に全員の足が止まる。

 言われた言葉をゆっくりと反芻させ、理解する。

 ナディアの注意を無視して、クラス全員がナディアに向かって転移してくる。


「ちょ、ナディちゃん。それ本当!?」

「ナディちゃんと呼ぶな、私は教師だぞ」

「良いじゃない、ナディナディ。で、男の人が見学に来るって本当なのよね」

「だから、なれなれしく呼ぶんじゃない。私の事をそんな風に呼ぶのはあんた達ぐらいなものよ」

「そんな事より、答えてよ。ディーちゃん」

「本当よ、本当だから群がってこないで。ちょ、ちょっと誰よ。私の胸を掴んでいるのは! 良いから、さっさと――」


 百合の花が咲き綻ぶ最中、前方に砂塵が巻き上がる。

 何事かと視線を向け、全員が目を丸くさせる。

 ブーメランパンツでマッスルポーズを決め込む男は、なぜか血涙を流しながら名乗りを上げる。


「我が名はアンダーマン! 乙女の衣をはぎ取る者なり」


 直後、アンダーマンの背後から爆発が生じた。

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