変態道に強制連行
緊急事態発生。緊急事態発生。
下着泥棒の露出魔さんが目の前に現れました。しかも、うっとりした顔でどなたのか知らないパンツの香りを楽しみつつ。何を言っているか分からないと思うが、俺も何を言っているんのか理解できないんだよ。
「……あ、あんたが下着ウーマンだったんだな」
「ち、違います」
今さら否定しても遅いし。
口笛吹くの下手くそだな。全然鳴っていないぞ。
「だったら、何で下着姿なんだよ」
「しゅ、趣味よ」
「露出が趣味とかいろいろ終わっているだろうが」
「見られると興奮するのよ」
それはそれで色々と痛いんだが。
今のイーグレットさんの格好は下着のみ。花の刺繍で装飾された派手めに加え、少し肌が透けて見えるので目のやり場に困る。……と、普段の俺なら動揺したに違いない。
不思議と今の俺は、冷静に物事が考えられるほど落ち着いていた。……これが慣れと言う事か。
これでも認めないので、更に俺は指摘する。彼女が大事そうに握りしめている女性用のパンツを。
「なら、その手に持っている奴は何なんだよ」
「これは……。わ、私のよ。自分の匂いに酔いしれているのよ」
「……無理があるだろ、それ」
仮に自分の下着の匂いに酔いしれているなら、それはそれで終わっている。
しばし何も言わずに彼女の言い訳を待っていると、わなわなと肩を震わせて――。
――風穿
無言で攻撃を仕掛けてきやがった。この前見た魔法が俺の顔面目掛けて飛んでくる。
咄嗟に身体をひねって避けた自分の反射神経を褒めたいぐらいであった。
「避けるな!」
「無茶を言うなよ」
避けなかったら、風穴があいているわ。
不意打ちを避けられたイーグレットさんは親の仇を見るようなな目で睨みつけてくる。
「わ、私の秘密を知った以上、あなたには死んでもらう」
「ふざけるな。そんな事で殺されてたまるかよ」
「殺さなければ、私を脅して好き勝手に弄ぶんでしょ! 漫画みたいに。漫画みたいに!」
「漫画の読み過ぎだ! 大切な事だから二回言ったとでも言いたいのかよ」
たしか、下着ウーマンはシンディーさんの作品の大ファンであったな。
あの子の作品に女性を脅して事に及ぶものなんかあったっけか。
「とかなんとか言って、最終的にはピーしたり、ピーさせたり、強引にピーって言わせるんでしょ! いやらしい」
「何がだよ。自分で禁止用語みたいにピーって言ったりするんじゃない! いやらしいのはお前だ!」
自分の体を覆い隠す様に抱きしめて、威嚇する様はまるでこれから強姦される一歩手前って感じだな。……言っとくが、そんな気は一切ないからな。たとえ、お一人様遊びの後に火照った顔や体を見ても。し、しないったらしないからね。決して振りじゃないからな。
「とにかく落ち着け。これ以上、そんな魔法を使ったら誰か来るぞ。いいのか、あんたの正体がばれても」
「それは……」
危険性を考えてか、やっと冷静になってくれたようだ。
けど、未だに下着姿なんだよな。落ち着いたのなら、さっさと制服を身に着けて欲しい。
「と、とりあえず何か着ろよ。目のやり場に困るから」
「……変態」
「あんたに変態って言われたくないよ!」
――***――
急いで制服を身に着けたイーグレットさんは、未だに俺への怒りが冷めていないようで顔を真赤にさせながら言ってくる。
「……で、何であんたがここにいるのよ」
「ここに来たのなら理由は一つだろ?」
流石に堂々と用を足しに来たとは言えなかったので、言葉を濁して察してもらう様にした。けど、どうやら俺の言いたい事を悟ってくれる事は叶わなかったようだ。
「あんた、ここは女子トイレよ。まさか、隙を見て襲い掛かって「グヘヘ。今日からお前は俺の便器だ」とでもいうつもりだったの!?」
「んな訳ないだろうが! 自分で想像しときながら引くな。普通に用を足しに来たの。この学園は男子トイレがないと聞いたから、利用が少ない場所を教えてもらったの」
「とかなんとか言って、本当は――」
「しつこいぞ、あんた。お前こそ、こんな所であんな事をするなよ。普通に声が漏れていたぞ」
「う、ウソよ。ちゃんと声を抑えてやっていたのよ。聞こえる訳ないじゃない」
「あれで抑えていたのかよ」
普通に廊下まで聞こえて来ていたんだが。
「それで……。イーグレットさん、あんたが下着ウーマンでいいんだな?」
これ以上、話しが続くとさっきの様子をなかった事にされそうなので、話しをぶった切ってイーグレットさんに問い質す。
しばし、俺の質問に無言を貫いていた彼女であったが、俺の追及から逃れられないと思ってくれたらしく、大きなため息を一つして。
「そうよ、まさかこんな早くにバレるとは思っても見なかったわよ」
自分が下着ウーマンである事を認めてくれた。
「あー。なんで、他人の下着を盗むような事をしたんだ? この世界でも他人の物を盗んだら当然罪になるんだろ?」
「……そうね。下着を盗むことが罪である事は重々承知しているわ。けど、やめられなかったの。やめたくてもやめられなかったのよ」
「その理由、俺ごときが聞いてもいい話しなのか?」
直ぐに返事をしてはくれなかった。
少しばかり思案顔を見せたイーグレットさんは「いい機会かしら」とまるで自分に言い聞かせるように呟き「聞いてくれるかしら」と問い返してきた。
俺は黙って頷いて、彼女が話すのを待つことにする。
「わたし、男が嫌いなの」
「へぇ」
「……驚かないの?」
「そう言う人間がいても不思議じゃないだろ」
珍しいと思うが、驚く事ではない。
元の世界でも似た様な人はいる。
それに、この世界に暮らして今さらその程度の告白で驚くような神経は持ち合わせていない。
「……で、男よりも女に走っちゃった口なのか?」
うん、と首を縦に振って見せる。
さて、どうしたものかな。こう言ったデリケートな話しは正直苦手だ。励まそうにもどうやって励ませばいいのか分からないし、事情の何も知らない人間に励まされても余計なお世話と思うに違いない。
次の言葉を探している最中、イーグレットさんの方から話し始めてくれた。
「あなた、いまこの国にどれほどの数の男がいるか知っている?」
「具体的な数は知らないが、五十人前後と聞いたぞ」
「概ねあっているわ。この国の運命はその五十人の男の下半身にかかっていると言ってもいいわね」
「事実だろうが、ストレートに言うものじゃないぞ。少しオブラートに包めよ、少しは」
「だから、必然とその五十人の男は重宝される様になったの。彼らの命令は絶対だし、二十歳を過ぎれば、必ず一回は抱かれないといけない決まりが出来たのよ」
無視しやがった。
てか、何気に言っているがあまりにもひどすぎる内容だぞ。
「みんなは「早く抱かれたい」とか言っているけど、あんなの拷問もいいところだわ。知らないから、あんなに希望に満ち溢れた様な目が出来るのよ」
「あー。もしかして、イーグレットさん。あなたは……」
「残念な事にまだ処女よ。襲われて純潔を散らされそうになったけど」
「さいですか」
思っていた以上に重たい話しだ。
要するにどこの馬の骨か知らないが、そいつがイーグレットさんを襲おうとした。
それが切っ掛けで彼女は男と言う生き物が嫌いになり、同じ女に走ったと……重いな。
色事の問題に関して他人が突っ込むと余計に話しが大きくなると聞く。
「……けどさ、それならギルドとかに頼めばいいじゃないのか?」
男性が嫌いになったのは納得できた。
けど、だからと言ってそれを拗らせて女性の下着を盗む理由にはならないはず。
ギルドに頼めば似た考えの女性が相手をしてくれるのは、クスハさんと一緒に見学した事で分かっている。彼女がそのことを知らないはずはないと思うのだが。
「そこまでお金的に余裕はないのよ。特に私達みたいな就労学生はね」
「……なるほど」
プティーズになるには、多額の金が要りようであると聞いている。
リリスの様にお金に余裕がある人ならともかく、シンディーさんみたいに働いてプティーズになろうとする者達は遊ぶ金なんかないのかもしれない。
事実、目の前のイーグレットさんはそんな事に使うお金はないらしい。
「だからと言って、盗みはやめておいた方がいい。追いかけられるのも好きだと言っていたけど、いずれ痛い目にあうからな」
「分かっているわよ、そんなこと。けど、止められないのよ! 少しばかり我慢できても、そのうち禁断症状が出ちゃうのよ」
「……とりあえず、誰かに相談した方がいいんじゃないのか?」
「こんなこと、相談出来るならとっくに相談していたわ」
ですよねぇ。
親しい人間ほど相談しにくい内容であるし。
だからと言って、俺が的確なアドバイスを授ける事なんて出来ないよな。
「……まあ、今回の事は見なかったことにするから、さっさと授業に出ろよ。そろそろ、時間だと思うぞ」
なんだかんだで結構な時間を有したはず。時間を確認する手段がないけど、話しを打ち切る為に言ってみたら、現時刻を確認したイーグレットさんは動きを止める。
恐らくだが、脳内で彼女は戦っているのであろう。これからお楽しみを行う最中で会ったのに、俺と出会うイレギュラーと遭遇したことでお楽しみを取り上げられたのだ。この際、授業などほっといて、淑女の嗜みとやらを遂行したいと考えているかもしれない。
実際「けどなぁ」と悩んでいる声が聞こえる。推測通り、これから真面目に授業を出るか下着ウーマンとしてお楽しみを始めるか、迷っているのだろう。
「……ここまで来たら――」
答えが出たのだろう。
決意を秘めた眼差しを俺に向け、逃げない様に腕を掴み……は?
「仕方がないわ、毒を食らうなら皿までよ。一緒に来なさい」
「え、え、は? ちょっと待て、おい!」
何言っているの、何言っているの!?
まさか、この俺まで淑女のお楽しみタイムに巻き込むと言うのか!
「黙って付いてきなさい。今日から、あなたは下着ドロのアンダーマンよ」
「そんな名前を名乗るつもりは一切ないから。ちょっ、腕を抱きしめるな! あんた、男嫌いなんだろ? 離せ、離してくれ!」
こんな事になるならば、あの試練の場で耐えていればよかった。
鼻歌交じりで下着ウーマンに変身――制服を脱ぎだす――になったイーグレットさんに連れられながら、俺は泣く泣く彼女の手伝いをさせられる事になってしまった。




