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下着ウーマンよ、変態じゃありません

 午前の授業は普通の座学と聞いていたが、実技系統をのぞいたらこの世界の学問レベルはあまり高くない。

 読み書きに限っては一般教養と定められているので誰でも扱えるらしい。

 けれど、理系分野はひどかった。数学は算数レベルで止まっており、物理学や生物学はほとんど言っていいほど学ばれていない。

 掛け算と割り算で頭を悩ませているソニアさんのクラスメイト達を見て、思わず「ウソでしょ!?」と目を疑ったほどだ。

 その後、八つ当たりと言う形で二桁の掛け算を解かされたが、まあこの程度の掛け算など高校生の俺が解けないわけがあるまい。ささっと答えを記入した所、算数担当の教師が「は、はやっ!? しかも、合っているし」と驚愕なされたのであった。

 その間、リリス達三人組は三ケタの足し算と引き算に苦しんでいたとか。


「シンヤ君。これが分からないよ?」

「またですか、ソニアさん。……これ、和・差・積・商の複合問題じゃないですか。……これの何が分からないんです?」

「全部」


 渡された課題を解き終わった直後、ソニアさんが合掌しながら「お願い!」と教えを乞うて来る。別に嫌だとは思わないけど、まだ教えた一問以外、全くと言っていいほど問題が解かれていなかった。……もしかして、この人は頭がよろしくないのだろうか。


「……えっとですね。基本的に計算は積と商を優先して計算してください。積と商を計算した後に和と差の計算を行います」

「さっきから思っていたんだけど、その積とか商、和や差ってなに?」

「そっから!?」


 基礎の基礎から話さないといけないのかよ。


「和差積商って知らない? 四則演算の総称で――」


 言って、途中で説明を止める。

 だって、和差積商と言った時点でソニアさんの頭上に?マークが乱舞しているのが見えたから。


「……とりあえず、和は足し算、差は引き算、積は掛け算、商は割り算と覚えていればいいですよ。……加算減算とか言っても分からないだろうし」

「そうなんだ。じゃあ、この問題は掛け算と割り算を先にやればいいのね」

「平たく言えばそうなります」

「分かったわ。ありがとね」


 解き方が分かったからか、意気揚々と問題に取り組み始める。

 鼻歌交じりに問題を解き始めるソニアさんと入れ違いにリリスがやってくる。問題用紙を持って近寄った所から、恐らく何か分からない問題でもあったのだろう。


「シンヤ、この問題分かる?」

「えっと……。普通の割り算だよね、これ。何が分からないの?」

「その問題、完全に割り切れないのよ。どうやって解くのよ」

「……あぁ、そう言うこと」


 言われて納得する。

 どうやら、リリスは割っても割り切れないあまり数字に頭を悩ませているようだ。

 けど、それは杞憂である。何せ、この世界では小数計算を使わないのだから。


「いや、それは問題ないよ、あまり数字ありの割り算だから」

「じゃあ、どうやって答えればいいの?」


 既に途中計算は終わっているらしい。

 けれど、最後の答え方が分からないようで、求めた数字を出し終わって中断されている。

 ここまでやっていればいいかなっと思って、その後に書くべき答えを付け加えた。


「これが答え方ね。分かった?」

「うん。これで他の問題もばっちり出来るよ」


 そう言うなり、他の問題も瞬く間に解いてしまう。

 リリスは何気にハイスペックなんだよな。ただ、不器用なだけで頭脳や身体能力は高いんだし。……まあ、料理は出来ないし胸が小さいと言う欠点はあるが。


「いま、変な事を考えなかった?」

「変な勘ぐるいはやめていただきたい」

「ふーん……あっと。あとこれも教えてくれないかな?」

「はいはい」


 指差す別の問題を見て、俺はなるべくわかりやすい用に説明を始めた。

 初めは面倒だと思ったが、人にものを教える事で楽しんでいる俺がいたりする。将来、教師を目指すのも悪くないかもしれないな。


――***――


 時間はあっという間に過ぎて行き、現在はお昼休み。リリス達同学年組とソニアさん、そしてなぜか無理やり連れて来られたメリッサさんと昼食を取る事になった。


「なんで、私も同行しないといけないわけ」

「まあまあ、メリッサさん。朝の決着もまだだし良いじゃないの。それに、他の人を誘ったら暴動が起こるわ」

「……そうね。それには同意するわ」


 昼休みに入る直前、俺はソニアさんのクラスメイトの方々から「一緒に昼食を取りませんか?」と誘われていた。それはもう、ほぼ全員のお姉さま方から。

 嬉しい悲鳴であるのは間違いないのだが、昼食よりも別の目的を持ったお姉さま方がいたので、少々テンパり気味になってしまった。彼女達も俺が揉めば大きくなるであろう魔法の手を持っている事を知っていたようで、ご自慢の果実を強調させて誘って来るのだ。

 そこから逃げ出す言い訳として「知り合いと昼食を取る事にしました」と謝罪し、脱出したのである。


「選り取り緑で良いご身分ね。よく体が持つわね、あなた」

「言っときますが、えっと――」

「メリッサ・イーグレットよ。好きに呼んで構わないわ」

「じゃあ、イーグレットさんで。言っときますが、俺はあなたがご想像しているような事は、一度もした事がありませんからね」

「……は?」


 そこで信じられない、と怪訝されても困るのですが。


「面白くない冗談ね。後ろの彼女達とは貫通済みなんでしょ?」

「貫通って!? 女性がそんな事を口にするものではありません。一度たりともしたことありませんよ」

「そうなの?」


 そこで俺よりも、リリス達に訊かないでくれませんかね。知り合って間もないとはいえ、俺ってそんなに信用がない様に見受けられるのかよ。


「この三人の中では、リリス以外は何もされていないと思います。そうよね、リシャールさん」

「えっと……」


 フィリアさんの問いにシンディーさんが答えに詰まらせる。

 何かに勘付いたリリスは俺の方を見やり「どういう事?」と詰め寄ってくる。


「どう言う事って、言われても……」

「違うの、リリス。クドウさんに色々とやっていただいただけで」


 そこで照れたりなんかしたら誤解されちゃうでそ、シンディーさん。

 そりゃあ、壁ドンを初めとした恥ずかしい事はしたかもしれませんが、それでも青筋を浮かばせておられるリリスが想像しているような事は一切していませんよね。半裸になったときだって、一瞬でノックダウンしたじゃありませんか。


「ちょっと、シンヤどういう事よ。あれだけ、俺は紳士だ。エロ大魔神ではないと言っておきながら――」

「そんな事は言っていない。それに俺は紳士だ。決して想像していたような事はしていない」

「シンちゃん、私だけ除者にするなんて、ひどくない!?」

「だから、勘違いですって」

「私も胸しか揉んでもらっていないんだけど?」

「ソニアさんまで参戦しないでください。ですから、誤解なんですって。ちょっとシンディーさん、誤解を解いて! 俺はあなたに手を出していませんよね、性的な意味で」

「へ? 出しましたよね、手は」

「そう言う意味で言っていないでしょ! ちょっと、わざとか!? わざと言っているんだな、あなたは」


 ちゃんと性的な意味で、と後付したにも関わらず壁ドンで手を出したよね、と言い返すのはわざとしか考えられないんだけど。天然で言った訳じゃあるまいな。


「……結局、男なんてどいつも一緒なわけね」

「だから、誤解なんですってば!」


 シンディーさんがなさっている仕事を隠したまま誤解を解くのに苦労して、唯一楽しみにしていた昼食を取る事が出来なかった。……はぁ、お腹すいたな。


――***――


 皮肉な事に昼食を抜いたおかげで、恒例のぷるるん祭りが開催されても動揺する事無く平然としている事が出来た。

 みんな、男の俺がいるにも関わらず平然と着替え始めるんだから頭が痛くなるってものだ。流石は二つも年上の魅力的な女性なだけあって、色々と心臓に悪い。興奮しすぎて、いずれ心臓が破裂しちまうんじゃないかな。

 これ以上この場にいたら、別の意味で爆発してしまいそうなので――。


「リリス、ちょっと用を足して来るから、少し出ているな」

「いいけど、男子トイレなんてないよ」

「マジで? それは考え付かなかったな」


 言われてみれば、ここは女子高みたいなところだ。男の教師もいないようだし、男性用のトイレがない事は予想できたはずだ。ぷるるん祭りに当てられて、冷静さを欠いてしまったのかもしれないな。こんな簡単な事に気づけないなんて。


「我慢できないなら、人が少ない場所を教えるけど……どうする?」

「……お願いいたします」


 これから、このような事態が起こらないとは限らない。

 逃げ道を確保できるならば確保したい。

 リリスに「今日の夜はたっぷりとね」と言う交換条件をのんで、教えてもらった場所へ遁走する事にした。


――***――


「こっちで良いのか?」


 リリスが魔法で生み出した炎の小鳥さんの案内に従って歩き続けるのだが、既に五分ほどは歩いたであろうか。目的のトイレまで結構距離があるので、戻る事も検討に入れた矢先、目当てのトイレを示すプレートが目に入る。


「ありがとな。ここで少し待っていてくれ」


 小鳥にお礼して、いそいそとトイレの中へ入る。咄嗟の言葉であったが、トイレを前にして本当に催してしまったようである。そう言えば、学園に入ってから一度も行っていなかったな。

 いざ、出すものを出さんと勇んで行ったのだが――。


「はぁはぁはぁ……。もうダメ、もう辛抱できないわ」


 明らかに興奮なされているイーグレットさんの姿を見て、回れ右したのであった。

 てか、あの人。いま、女性用の下着の匂いを嗅いでいなかったか。


「もうダメ。もういいよね、もういくから」


 艶めかしい声が外にまで聞こえてくる。

 人が少ない場所とは言え、誰かに聞かれていい部類の内容ではないはず。

 外に誰かいますよ、と知らせるべきかと悩んだとき。


「はぁはぁ。……れ、レッツ変態!?」


 ……はい?

 いま、おかしな単語が耳を劈いて行ったんだけど。き、聞き間違えだよね。


「さぁ、今日も元気に淑女の嗜みを……あ」


 困惑している間に、ハッスルなさっていたであろうメリッサさんが出てきた。

 気まずい。何て声をかけてよいのか分からず、嫌な静寂の時が続く。

 だって仕方がないだろ。あのイーグレットさんが、イーグレットさんが……。


「……へ、変態ウーマンだ」

「下着ウーマンよ! 間違えないで!!」


 むしろ間違っていた方が良かったと思います。

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