レッスンだけじゃありません
授業に遅刻した罰として、担当の教師が彼女達に対して死刑宣告「抜き打ちのテスト」宣言をしたのであった。当然「えー」と批判の声が上がるのだが、遅刻をした負い目から渋々ながらテストの準備をし始める。
「なんで、私達まで……」
「仕方がないよ、リリス。一緒に付いてきてしまったんだから。ほら、ディーちゃんも黙々と準備を始めているよ」
「…………」
俺と一緒に来た三人も抜き打ちテストの対象者となっていたらしく、泣く泣くであったが準備を始めている。気のせいか、シンディーさんが機嫌よく道具を出しているように見えるのだが……。
「それじゃ、皆さん準備はできましたね。今日はこの三つの品を作っていただきましょう」
指パッチンで浮かび上がった品々を見て目を丸くする。
お題の品は宣言通り三つであった。
「作り手によって千差万別の卵焼き。応用が利く奥深い料理」
ネギやウィンナーを入れたりするとおいしいよね。
出汁巻き卵は大好物の一つだったりする。
「お手軽、栄養満点。卵に具材を投入した卵スープ」
子供の頃、野菜が嫌いであった俺の為に細切れに切ってよく飲ませてくれたっけ。
風邪の時に飲んだ玉子酒の味は中々忘れられないな。
「必須習得課題料理、あなたの味で胃袋を掴め。王道の肉じゃが」
最近「肉じゃがよりもカレーライスの方が好きです」なんて奴も多いけど俺は断然肉じゃが派である。これも作り手によって多種多様に仕上がると思われるが、肉じゃがを美味しくつくってくれる女性は個人的に惹かれるものがあるよね。
「ちなみに、今回は特別審査員としてクドウ・シンヤ君にお願いいたしております。彼の胃袋を掴んだら、あれも掴める可能性もありますので頑張ってねキラーン」
おい、調理担当の教師さんよ。最後の最後でなに下ネタを言っちゃっているの。
フィリアさんもさりげなく「キラーン」なんて効果音を付け加えないで! 油断も隙もあったもんじゃないな、あの子。
「みなさん、準備は良いですか!」
「はい!」
「任せてちょうだい」
さっきの教師さんの一言で周囲の空気が変わった気がする。
瞳に炎を宿した生徒さん達は驚くべき速さで調理を進めていく。
「ふふ、効果抜群ね。頑張ってね、工藤君。もしよかったら本当に掴ませてあげてね」
満足げにやる気に満ち溢れた生徒達を見ながら、とんでもない発言をする教師の頭を叩いたのは悪くないと思う。
――***――
戦慄が走る、駆け上がる。「危険だ、総員退散せよ」と俺の理性が退避命令を下している。
たしか、本日のメニューはお手軽料理であったはず。それなのに……。
「なに、これ?」
「なにって、卵焼きよ」
「これが卵焼き!? なんで色が赤いの? なんか血生臭いんだけど」
「それは……」
「ちょっと、後ろのあなた! その手首はどうしたんだ!?」
「……隠し味です」
「隠せてないから! 誰か治療を!! 回復魔法をかけてあげて!!」
料理に自分の血を入れるなんて何を考えているんだよ。
……せっかく作ってくれたからほんの少しだけ食したけど、血の味しかしないし。
「だらしないわね。卵焼きも満足に作れないのかしら!」
「そう言うあなた方も、なんですか、この卵スープは? 色んな具材が沢山入っていますが……」
「精の付く材料をたくさん入れてみました! これで今日はグフフフ」
「……却下」
「ああん」
そう言うテーマに基づいて料理をしたのなら試食したのだが、料理の傍らに精力活性剤とラベルが貼られた空瓶が転がっているのんだもんな。
これがテストであることを忘れているな、あなた方は。
「次は……。リリス達か。料理、できたの?」
「失礼ね、シンヤ。シンディーの実力をバカにしないでちょうだい」
「リリスとフィリアさんは出来ないわけね」
「当然です」
そこで胸を張られても困るんだけどな。
料理はフィリアさんとシンディーさんの手によって配膳される。
「へぇ……。見た目、普通だね。これ、全部シンディーさんがやったの?」
「は、はい。独り暮らしなので、これぐらいは」
「素直においしそうだよ。では、いただきます」
三品、口に入れて味を確かめる。
「うん、三品とも普通だね。これならいいんじゃないかな?」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、後ろでハイタッチしている二人は不合格で良いと思います」
手を取り合って喜びを分かち合うリリスとフィリアさんが絶句する。
なんで、と抗議してきたが当然だろ? あなた方は調理中、シンディーさんに押し付けて何もしなかったんだから。教師に訊いて、全部知っているんだぞ。
「はぁ……。我が弟子ながら情けない」
「今度はソニアさんの……。あの、何で全て虹色なんですか?」
ソニアさんを筆頭としたグループの料理は全て虹色に輝いていた。
「え? カラフルで良いかなって思って魔法で」
「……不合格」
「ちょっと! 食べもしないで不合格なんて失礼よ。ちゃんと試食して!」
「料理に魔法を使った時点で失格です! さっき、教師から注意されたでしょ。食材に魔法をかけるのは禁止ですって」
「だからって、食べもしないで不合格にされるのは横暴よ。ちゃんと食べてよね、せっかく作ったんだから」
「……泣き落とそうとしてもダメです。これは失格」
「ぶー」
ぶー垂れるぐらいならば普通に作ってくればよかったのに。
これは教師さんの余計なひと言が悪影響を及ぼしているな。
予想通り、皆さんは料理に一工夫加えようとして失敗なされている。
薬や唾液、性を増幅させるものなどは害がなければいいのだが、自身の体を御皿に見立てた女体盛りとか、口移しで食べさせそうとするのはやめていただきたい。
てか、最後の二つは料理が普通であっただけに、余計な事をした事で評価が低くなってしまったじゃないか。非常にもったいないぞ。
「さて、最後のグループは……。あれ? あなたは確か」
「メリッサ・イーグレットよ。随分と災難だったわね」
「工藤伸哉です。メリッサさんはお一人で調理なされたんですか?」
周りを見渡しても、彼女のグループと思われる者達は見当たらなかった。
俺の予想は当たっていたらしく「そうよ」と頷いて、メリッサさんはご自身が作った料理のそれを配り始める。黄金に輝いた料理の数々を。
「お、おぉ!」
それはまるで、料理漫画に出てくるような登場シーンであった。
黄金色に輝く玉子焼きと玉子スープ。
食欲をそそられる香りを爆発させる肉じゃが。
「あと、食材が余ったからこれも出すわ」
「なんと!?」
さらにさらに、お皿の上でプルプル震える黄金のお山プリンまで出てきやがった。
料理は得意だ、と言っていたがレベルが違いすぎる。これは得意の二文字だけで言い表していい腕前じゃないぞ。
「……見ていないで食べたらどうなの」
「す、すみません! では、いただきます」
皆と同様に最初は玉子焼きを口に頬張り、頬張り……。
「は!? いつの間にか玉子焼きが溶けてなくなりやがった!」
「驚く事じゃないでしょ。ほら、スープと肉じゃがも残っているんだから」
大げさね、と苦笑するメリッサさんに促されるまま、残りの料理も口にする。
う、うまい。これは……。他の皆さんに悪いけど、次元が違いすぎる。
「……うまい、うますぎる! この卵スープも肉じゃがも、どれをとっても絶品すぎる。それにこのプリンも最高だ。これは得意と誇っていいレベルだよ。てか、お店を出してお金を取っていいレベルだよ!」
「そ、それはありがとう」
リリスの屋敷で作られている料理も美味いのだが、何と言うか高級レストランで食しているような味わい。
それに比べてメリッサさんの料理は家庭的な味付けに近い。御袋の味に飢えていたのだろうか。メリッサさんの料理をかみ締める事に、母親の料理が恋しくなってしまう自分がいた。
あまりにもガツガツと食べたものだから、肉じゃがの芋が咽喉につまってしまったようだ。胸を叩いて咽喉のつかえを取り除こうとするのだが、中々芋が飲み込めないでいた。
「ほらほら、そんなに勢い良く食べるから。……これで流しちゃいなさい」
水を受け取り、一気に飲み干す。
やっとの事で咽喉のつかえが取れたので――。
「まだ、食べるの!?」
残っていた彼女の料理に手を伸ばしたら驚かれた。
美味しさのあまり、メリッサさんの料理だけは完食してしまったようだ。
……ゲプ、調子に乗って食べ過ぎた。お腹いっぱい。




