クラスが変わっても同じようだ
ソニア・ミントス。現プティーズの一人であり、詳しい事は聞いていないが昨日の話しを思い出す限りではリリスの師であるらしい。
全身から金色の輝きを発しながら笑顔で手を振るソニアさんは、何も知らなければ救いの女神に見えたかもしれない。現状を招いた原因が彼女でなければ感涙しただろう。
……少し大げさかな。
比喩証言ではなく言葉通りに発光している彼女は、一歩また一歩と俺達の方へ歩み寄る。
そんな彼女に怯んでか、近くにいたクラスメイト達がソニアさんに道を譲る様に離れて行き、いつの間にか俺と彼女を阻むものが無くなっていた。どこのモーセさんだよ、とツッコミを入れても伝わらないだろうな。
「やっほぉ、シンヤ君。アカデミーに来ていると聞いて、愛に来ちゃった」
いま、会うのイントネーションが違ったように聞えたのは気のせいか?
「どうも、ソニアさん。わざわざご足労いただきありがとうございます。……それで、何か俺に用事でも?」
「あら、つれないわね。……ま、いいけどね。せっかくアカデミーに来たんだから、今回は私達のクラスに来ない? リリスのクラスに二回も来たなんて知れたら、確実に暴動が起こるわよ」
「そんな大げさなぁ」
こんな事で暴動が生じるのは、幾ら何でも過剰表現な気がする。
俺が「そうでしょ?」と念の為にリリスのクラスメイトに同意を求めたところ、誰も視線を合わすこと無く失笑するのみ。
え? ちょっと。そう言った態度を見せられるとソニアさんの言葉が本当だと真実度が増しちゃうんですけど。
「おおげさじゃないんだよね、これが。この前、あなたがリリスのクラスに来たとき、私のクラスがどうなったか知っている?」
いえ、と頭を振る。
「みんな、血涙を流しながら「後輩いびりじゃ」と息巻いて、特攻しようとしたんだよ」
「どこの般若様ですか、その方々は!?」
想像して身震いしてしまった。
たかが、俺なんかがアカデミーを見学した程度でそんな大事になるなんて誰が想像した事であろうか。
けど、よくよく考えてみると……。男が極端に少ないから、同時に出会える可能性も少ないと言えるのか。そんな中、わざわざ異性である俺がアカデミーに訪れたと聞いたら、ソニアさんの言った通りになってしまうのだろうか。
どこのアイドルさんだよ、そいつは。……トップアイドルさんもビックリしちゃうよ。
「異議あり! ちょっと、ソニア先生! 勝手に現れてシンヤを誘惑しないでくれません。彼は今日一日、罰ゲームで私に付き添う事になっているんです」
俺とソニアさんの間に割って入り、抗議するリリス。
クラスメイトがソニアさんの存在に委縮している中、平然と喧嘩を売るリリスの好感度が少しだけ上がる。……なに、好感度とか。ゲームじゃあるまいし。ピロリんなんて聞こえないからね。うん、キモイな俺。
「なにその罰ゲームって。てか、リリスいいの? 私達の関係が師弟関係ってばれても?」
「……は?」
ソニアさんの一言にクラス全員の素っ頓狂な声がハモった!?
指摘を受けたリリスは自分の失言に口元を押えたのだが、それが逆に本当であると証明してしまった。
嫌な沈黙が訪れる。クラス全員が視線で「どういう事だコラ!」とリリスに向けて説明の要求をしている。
「と、とにかく、シンヤは今日一日中、私から離れられないからそのお誘いはなしです。お引き取りください」
スルーした!?
自分に不利だと悟って、さっきの話しをなかったことにして続けちゃったよ。
「なにそれ? ちょっとリリス。昨日の今日で随分と手を打つのが早いんじゃない?」
「何の事だか知りません。言い掛かりもいいところです」
両者の間に火花がバチバチとぶつかり合っている幻覚が見えるんだが。
気のせいだよね。二人の後ろに毛を逆立て歯を見せている猫が見えるのは。
……これ、逃げた方が得策かな。後々リリスに文句を言われる可能性が高いのだが、このままここに居続けると確実に災いが降りかかると思うのだが。
「なんかザ☆修羅場って感じですね、シンちゃん」
「…………」
リリスとソニアさんの成行きを見守っていると、何故かうっとりした眼差しを向けるフィリアさんと黙々と修羅場シーンを描写しているシンディーさんによって両脇を固められていた。
てか、ザの後に星の形をしたエフェクトが発生したんですけど。それも魔法の効果なの? だとしたら無駄遣いだからやめた方がいいよ。
「あれ、どうにかならない?」
「どうにもなりません♪」
そんな声を弾ませて否定されても困るんだが。音符のエフェクトまで付け加えないで。
あと、シンディーさんや。描写に専念するあまり、無言で頭を振るだけの返答はやめて欲しい。
「……どうすればいいんだ、これ」
間に割って入って仲介すればいいのだが、そんな事をすれば伝家の宝刀「どっちの味方なのよ!」の名言が返されるのは目に見えている。素直に答えればリリスの味方をしたい所なのだが、ソニアさんを敵に回すと厄介になる事も容易に想像できてしまう。
結論、事の成行きを見守って流れに身を任せるのが一番被害に合わない対処法であると考えたのだが……。
「ちょっとシンヤ! あなたも黙っていないで何か言ってよね」
流れに身を任せるなんて甘ったれな事はさせてくれないらしい。
――***――
色々と話し合い、互いに納得する形で妥協していただく事になったのだが……。
「またこれか?」
もはや何度目かの光景に頭痛を感じずにいられなかった。
「す、すごい」
一緒に付いてきたリリスが俄然に広がる光景を見て感嘆の声を上げる。
確かにすごいの一言だが、一言なんだが……。
「どうしたの? 早く入ってよね、みんな一日千秋の思いで待っているんだから」
「……なんでみんな着替え中なの?」
教室のドアを開けると最初に飛び込んできたのは、まさかの果実の楽園であった。
開門一番に“ぷるるん”はないんじゃないかな。しかも、着替え中であり得ないポーズのまま固まっているとか間違いなく狙い澄ましているだろう。
……俺も成長したな。もはやこの程度であたふたする俺じゃないんだぞ。とある一部分があたふたなされておられるようだが。
「大方、事前に連絡してタイミングを見計らったんじゃないのかな」
「……言おうかどうか迷っていたんだが、何でお二人もついてきたの?」
「ジャンケンに勝ったから」
いやいや、そんな勝利のブイサインをなされても困るのですが。
あと、シンディーさん。無言で握り拳を突き出さないでくださいね。それは勝利のガッツポーズ的な意味ですか。
結局のところ、リリスVSソニアさんの口論の落としどころは、俺達二人がソニアさんのクラスに行くことで納まる形となった。そこになぜか当たり前の顔で付いてきたのがフィリアさんとシンディーさん。
俺達がソニアさんのクラスに行くと決まった時、リリスを除いたクラス全員が教室の隅っこで何かをしているのは分かっていたのだが、まさか同行を決める為のジャンケンであったとは……。
「どう、シンヤ君。お姉さんたちの鍛え上げられたこれらは……。好きなだけ見たり触ったり、ハッスルしてくれていいのよ」
「……とりあえず、目線を下げないでくださいね」
人の股間の様子を確認しながら言わないでいただきたい。
……少しはファンタジー展開を所望したいと願う俺は間違っているのだろうか。




