再び学園へ
あれから悔しいのでもう一戦頼み込んでみたのだが、結果は散々であった。
どうにかしてリリスの動きを止め様と躍起になって動きまわってみたのだが、すんでの所で跳んで避けられ、魔法で攪乱されて一回も彼女を捕まえる事が出来なかった。
「……なあ、やっぱり行かないといけないのか?」
「一日言うことを聞くと言ったのは、シンヤの方だよ」
「そうだけど……」
その場の勢いで言うものではなかったと今さらながら後悔する。
冷静に考えれば俺が勝てる可能性などゼロに等しい。なぜ、考えもなしに俺は何でも言うことを聞くなんて無謀な提案をしてしまったのであろう。
「だからって、腕を組んでアカデミーに行くのはちょっと抵抗が――」
「約束よ、や・く・そ・く」
声を弾ませて約束と強調するリリスに何も言い返せなかった。
朝の鍛錬で交わした約束――勝負に勝ったものが負けた者を一日言うことを聞かせることが出来る――の件でリリスは「今日一日一緒に行動を共にすること」と命じたのだった。
何でも、クスハさんやイリスさんと一緒に一日行動を共にした事を気にしている様子。
「けど良いのか? また、俺なんかがアカデミーなんかに行っても」
「大丈夫、大丈夫」
何を根拠に、とツッコミを入れたい所であるが、考えなしに行動する奴ではない……はず。
「けど、彼女達には悪い事をしたな」
本当ならば本日お世話をしてくれるメイドさん達がいたのだが、彼女達は事情を話すと渋々ながら納得してくれたのであった。内心、面白くないと思っていたのか表情が強張っていたが、自分の感情を押し殺して恭しく頭を下げて「承りました」と引いてくれた。
先日の彼女達もそうだが、本日世話をしてくれるはずであった彼女達も今度お詫びも兼て何かしてあげようと、と思案している間にアカデミーに続く門前に到着したのであった。
「おはようございます、二人とも」
門を護る二人、ユニスさんとダイナさんに向けて手を振るリリス。彼女達も俺達の姿を確認すると手を振って――くれたのはダイナさんだけだった。
「おはよう、ダイナさん」
「おはようございます、リリス様。おはよう、クー君」
「おはよう、ダイナさん。それに……」
「…………」
視線をユニスさんへ向けると、彼女は慌てて明後日の方向に向いて視線を反らしてしまう。おそらく、と言うか明らかに先日のダイラタントの件を気にしているご様子。当然と言えば、当然か。薬の副作用とは言え、俺は彼女の事を――……。
「その……。おはよう、ユニスさん」
「お、おひゃようごじゃいます。……クーちゃんしゃま」
俺も多少声が上ずってしまったが、彼女の方はカミカミであった。頬どころか全身赤く染めあげてモジモジしている姿に悶えてしまいそうになったが――隣からどす黒い殺意によって桃色結界から強制離脱させられた。
殺意の正体は考えるまでもない。
どす黒い炎を背負っているリリスとダイナさんがいた。
咄嗟に俺とユニスさんは一歩後ろに下がって身構えてしまう。たった一回しか共同戦線を張っていないにも関わらず、熟練のパートナーの如く息の合った動きで構える姿にリリス達の背負う漆黒の炎が更に燃え上がる。
「ふ、二人とも……。随分と仲がいいんだね」
「ユーちゃん。これはどう言うことなのかな?」
「ち、違うのダイナちゃん。これには深い事情があって」
「そうそう、事情があったんだよ。だから、リリスも少し落ち着けって」
「おかしな事を言うね、シンヤ。私は至って落ち着いているわよ」
「ウソつけ! 落ち着いている人間が手に火球を生み出す訳ないだろうが!」
「だから、違うんですリリス様。事情を! 事情を聴いてください!!」
メラメラ、ゴゴゴと劫火を放出する二人に、先日のダイラタント戦の顛末を説明する。
「つまり、要約するとダイラタントが邪魔をしなければ、シンヤはユニスさんとやっちゃったのね」
「うら若き乙女が公の場で「やっちゃった」なんて口にしないでくれよ」
「けど、事実でしょ? 強化薬の副作用で邪魔がなければおいしくいただいたんでしょ」
「だから、もう少しオブラートに包んで! 言い方を少しは考えてよ。……まあ、ぶっちゃけてそうなんだが」
「あぅ」
昨日の事を思い出したのだろうか。
ユニスさんは今でも十分赤い顔を更に真っ赤に彩らせた頬を両手で抑えて、その場でしゃがみ込んでしまう。
「大丈夫、ユーちゃん」
ふるふる、と頭を振って否定する。
「そ、そんなにクー君はすごかったの?」
「思い出しただけで……あうぅぅぅ」
「ちょっ!? キャラが豹変しているのはこの際仕方がないとして、頭から湯気が! 湯気が噴出していますよ! とりあえず、水を! 水を彼女にあげて!!」
――***――
「まさか、あのユニスさんがあんなに乙女ちっくになるなんて……。シンヤ、恐ろしい子ね」
「冷静に考えたら、今になって恥ずかしくなったんだろうな。薬のせいとはいえ、今度、ユニスさんには謝らないといけないかな」
なんか、謝罪とかお詫びばかりだな俺。
まだ、この世界に慣れていないとはいえ、一日にどれだけの人に迷惑をかければ気が済むんだろうか。
「その時は二人っきりで会わない事をお勧めするわよ。きっと、まともに顔を合わせることなく時間が過ぎちゃうと思うから」
まさかと笑い飛ばしたい所であるが、あそこまで赤面した彼女の顔を思い出すとあり得ない話しじゃないのかもしれない。
「……どう、少しはこの世界にも慣れた?」
まだ時間に余裕があるのか、門を潜り抜けた俺達は移動魔法を使わずにリリスの教室へ向かっている。時間に余裕がある時は運動も兼ねて歩いて向かうのが習慣となっているようで、今日はいつもよりも随分と早い時間に屋敷に出たので歩く事にしたらしい。
「そうだな……。まだまだ、知らない事ばかりだけど、みんな優しいから困る事は少ないかな」
「それはよかった。……それで、今まで会った人の中で、一番好みだったのかユニスさんだったわけ?」
「……へ?」
なぜに、そんな話になってしまうんだろうか。
「確かにユニスさんは可愛いものね。シンヤが気に入るのも分からなくないけど――」
「待て待て! ちょっと待て! なんでそんな話に飛躍する。そりゃあ、確かに彼女は魅力的である事は否定しないが、それを言うならリリスや屋敷のみなさんだって十分魅力的だからな」
なんだなんだ、なんだこれは。
その話は薬の副作用で、とちゃんと説明したはずなのに、何で蒸し返す様に責めてくるんだ。
「……なあ、もしかしなくても妬いちゃったりしてる?」
「ばっ! ち、違うもん。シンヤは何を言っているのよ。私が嫉妬をするなんて勘違いにも甚だしいよ! 断じて妬いてなんかいないもん!」
いや、その口調で言われても……。
語尾にもん、とか言うやつ初めて見たぞ。空想上の人物しか言わない妄想語尾と思っていたんだが、可愛いから指摘は一切しないでおこう。
けど、ここまで動揺していると言うことは、彼女は俺に少なからず好意を抱いてくれているのかな……。それはそれで、少しうれしいかな。
「……あ、シンディーおはよう」
「おはようございます、リリ……スっ!?」
自分達よりも先に登校していた人物、見知った友人を見つけたリリスが彼女の元へ駆け寄り朝の挨拶を交わす。対してシンディーさんも返礼し、いるはずのない俺の顔を見て――慌てて視線を明後日の方向へ向ける。
……あれ? なんか、ついさっき見た様なデジャブ感が。
「……たはは、おはよう。シンディーさん」
「お、お、おは、よう……ございます。クドウさん」
「……あれ? 二人とも面識があったの?」
「最初の仕事の依頼人が彼女だったんだよ。シンディーさん、その節は大変お世話になりました」
「あ、いえ。こちらこそ。……その、できればまた、お手伝いしてくださるとうれしいです」
「もちろんです。可能な限りお手伝いさせていただきますよ」
ジャンルとしては成人男子本だけど、描画力は確りとしているし物語構成も充分魅力的。
数少ない娯楽の一つだろうし、モデルになった作品には大変興味がある。……と、言っても、先日やった事と言えば壁ドンとか服を脱ぐとか、いわゆるそっち系ばかりだったけど。
「……へぇ。シンディー、シンヤに何を依頼したの?」
「そ、それは……」
「なになに? 友達の私にも言えない事なの」
「えっと、あの……。その」
「まあまあ、プライベートの事だからあまり詮索しない方がいいよ、リリス」
「プライベート? シンヤ、まさか――」
「言っておくが、リリスが考えているような桃色展開は一切なかったからな」
「最後まで言わせてよね」
「言わせたら、お前は最後まで暴走するだろうが。こんな所でいざこざになるのは御免だぞ」
言い難そうにしていたのでフォローを入れると、あからさまに「ほっ」と安堵の胸をなでおろした。
この様子だと自分が作家であることをリリスに話していないのかもしれないな。
話しを続けるとボロが出るかもしれないから、さっさと話題を変えて誤魔化すのが無難だな。
と、思っていた矢先、先に話しを切り出したのはシンディーさんの方であった。
「そうそう。さっきそこで小耳を挟んだのだけど、DP戦に優勝したらクドウさんと結婚できるって本当なの?」
「……へ?」
なにそれ、どう言うこと!?




