学習能力がないんだな
『いきなりだな、過去の俺。どうしたどうした? 随分と機嫌ななめじゃないか。もしかしてあれか? 失敗したの?』
開口一番に「死ね」と言って怒鳴り散らしたはずなのに、未来の自分は全く持って気にしていないご様子。
「……失敗って何をだよ」
『え? そりゃあ、初めては緊張するだろうから中折れとか?』
「俺に訊くなよ。てか、堂々とそんな言葉を使うんじゃねえ。大体、そういうあんたはどうだったんだよ」
『それは……。聞くな』
「ははん。なんだよなんだよ。そう言う自分こそ、失敗したんだろ? 初めては緊張してふにゃふにゃだったんだ」
『お前、それブーメランだからな』
「んなこと、分かっている。……何が悲しくて未来の自分自身とこんな話をしないといけないんだよ」
『だな。……ちょっとからかいすぎた、悪い。ところで、話しは変わるが、なんか随分疲れているな?』
「ハハ。声だけでそこまで察せるとか、未来の俺は凄いんだな」
『……あぁ。そう言えば言わなかったっけ。こっちはお前の姿もばっちり映っているんだよ』
……なぬ?
『まだパイの力は回復していなくってな。ほんのわずかな時間だけだが、そっちの様子を見るぐらいしか出来ないんだとさ。力が回復したらテレビジョンに映像を送る事も可能なんだが、それはもう少し待ってくれ』
「それは構わないが……。てか、見えているの? それで開口一番にあんなふざけた事を言ったわけ?」
『そうそう。ずいぶん疲労困憊のようだしな。こりゃあ、誰かに喰われたのかと思ったのだが、その様子だと違うそうだな』
「違う。……まあ、危うく襲ってしまいそうになったが、まだDTの称号は捨てていない」
『自分で言っていて悲しすぎだろ、それ。んで、何がどうしたんだ?』
「実は――」
今日起こった事の顛末を未来の俺に話した。包み隠さず正直に。
それを聞いた未来の俺は黙って聞きながら、所々に「ほぉ」とか「へぇ」など相槌をしていたのだが、強化薬の副作用でユニスさんを襲いかけた話しをしたら、今までの沈黙を破るかのように大爆笑し始めたのだ。
『あーはっはっはは! なんだよそれ、なんだよそれ! 薬の副作用で襲いかけたとか、媚薬が含んでいるドーピングってなんだよそれ! おかしすぎるだろ、スイカップ!!』
「笑うなよ。こっちは危うくマジで強姦するところだったんだぞ。ユニスさんも嫌がらなかったのが唯一の救いだけど、あんな形で脱童貞とかトラウマものだぞ。マジでへこんだからな、ダイラタントと戦い終えた後は」
『でも、その後すぐにメイドさん二人だろ? 随分と過去の俺さんは、俺と全く違った道を進んでいらっしゃる。この場合、リア充もげろと言うべきか?』
「うるさい! ……って、ちょっと待ってくれ。いま、違った道って言ったか?」
『ん? ああ、そうだな。俺の記憶上では、最初にバスト・ゲインが発動した相手はユニスさんじゃなくて、イリスさんだったし、初めて戦った魔物はダイラタントじゃなくって、ゴブリン種のゴブネドルだしな』
「つまり、どう言う事だ?」
『メインイベントは同じなんだが、その間のサブイベントが違うらしいぞ。俺が最初に選んだクエストはマッサージだったしな』
「は、なんだよそれ。だって、お前……。この前はそんなこと一言も――」
『大筋は同じなんだから、結局のところは同じだろ。……んで、バスト・ゲインを発動させたと言ったな? どうだった?』
「話しを無理やり替えられたが……。あの力はなんなんだ? なんか知らないが、俺が知り得ない技や知識と言った情報が一瞬にして入ってきたんだが」
それに加えて、強化薬を含んだ以上の力が加算されていた気がする。
突然の事態に思考を巡らす余裕がなかったと言え、曲芸ともいえるようなユニスさんの戦技【ジェットストリーム】を難なく使えたのはおかしすぎる。
あの時は、まるで長年掛けて習得した技の様に体が自然と動いたのだが、今やろうとしてもやり方が全く持って思い浮かばない。
『バスト・ゲインを使うと相手の能力をお互いに加算して共有する事が出来る。と、言えば理解できるか?』
「……どう言う意味だ?」
『既に予想はついているんだろ? 時間制限つきだけど、あれが発動すると条件をクリアした女性の能力をお前自身に加算されるんだよ。あと、お前自身の性能もその女性に加算される』
「つまり、俺自身とその条件をクリアした女性はお互いに性能が上がって、使える技能も共有する事が出来るって、考えればいいのか?」
『有体に言えばそう言うこと。中々チートな能力だろ?』
「それだけ聞くとそうなのだが、その条件ってなんなんだ? あの時、俺がしたことなんて――」
自分で言っておきながら、ものすごく嫌な気がしてならない。
あの時、俺自身は襲い掛かる性欲を無理やり抑制して、戦いに挑もうとしただけだ。
もし、それが条件となるならば、条件を満たすカギは――。
『条件は相手が本気に惚れたか、ってこと。よかったな、過去の俺。早々とユニスさんを攻略したらしいぞ』
「……へ?」
あれ? ちょっと予想外な返答が来たぞ。
てっきり、また性欲云々が発動条件だと戦々恐々していたのに、完全に予想を裏切られた。
「って、えぇええ! い、いま! 相手が本気に惚れたとか言わなかった!?」
『そうそう。一心同体みたいになる能力だからな。相手もお前の事を本気に想ってくれないと、発動する事が出来ないんだ。ちなみに、制限時間は胸を揉んだ回数ね』
「はぁああ! ちょ、ちょっと待て。いろいろ待ってくれ。なんだよそれ! 条件もそうだけど、制限時間を確保する条件も厳しすぎるだろうが。チートかもしれないが、無茶苦茶すぎるだろ、それ!」
『そう言われても、俺のバスト・ゲインもそうだったしな。文句ならそんな能力を付加した奴に言ってくれよ。誰か知らないが』
だからって……。
もし、今後あの能力が必要になった場合、俺の事を好きな人に協力を煽がないといけない事になるのかよ。しかも、制限時間を得る為に胸を揉んで? なにそれ、なんてムリゲーだよ。
「…………」
『まあ、そう落ち込むなよ。もともと、その世界は男が少ないんだから、その気になればハーレムルートなんて余裕だろ? 気軽に行けよ、気軽に』
「無理を言うな。ただでさえ、性欲と愛欲の区別がつかない世界なんだぞ。今のを聞いて、理性を保つ自信が無くなり始めたんだが」
『大げさに考えるなよ。自分の思った通りに動いてみな。難しく考えたって何も良い事なんてないんだから。自分の素直な気持ちを大切に行動すればいいよ、俺だってそうだったんだから……っと、そろそろパイの力も限界そうだから、今回はこれで切るな。ま、自分なりに頑張ってみる事だな、過去の俺』
「って、おい! ……またかよ」
今回も言いたい事だけ言って、勝手に切られてしまう。
まだ、色々と物申したい事はたくさんあったのだが、今回も終始相手のペースに呑まれてしまった。ほんと、学習能力がないな俺は。
「……はぁ。今のでなけなしの体力を全て持っていかれてしまった」
本当ならば、少しでもトレーニングをして体作りに勤しみたいのだが、もはや限界のようだ。……なんか、以前も似た様な事を言っている気がする。
ほんと、俺ってやつは学習能力がないんだな。




