独り占めはご法度ですって
「それで、これはいったい何の騒ぎなわけ?」
場の騒動を収めたエリスさんが騒動の原因であるリリスとソニアさんに問い質す。
エリスさんのお叱りを受けた二人は気まずそうに視線を反らし、中々話そうとはしない。これでは話しが進まないので、事の顛末を話そうとすると、先にクスハさんが説明し始めた。
「……なるほどね。ソニア、気持ちは分からなくはないけど、彼は私のお客様でもあるのよ。幾ら歳の近い男の子が欲しいからと言って、私のお客様を横取りするような行いは感心しないわね」
「申し訳ありません、エリス様。しかし、学園のみんなが言っております。歳の近い男の子を独り占めするのはずるいと」
「その考えで言うと、あなたも彼を独り占めしようとしているのは問題じゃないの?」
エリスさんの返しに言葉を詰まらせる。
「で、ですが! 彼は揉む事で胸を大きくさせる能力を持っているとの話ではないですか。それが本当だとするならば、一人の人間に独占させるのは些か問題がでるのではありませんか? それに、男を独占した女は例外なくダメになると言われています。リリスはただでさえ成績がよろしくありません。彼女の為にもご一考してはいかがでしょう」
「そうねぇ」
腕を組んで思案する。
ソニアさんの言葉にも一理あると思われたのだろう。
事の張本人である俺の意思を無視して話しが進むのはよろしくないが、ここで話しを挟んでも火の粉が飛び散るのが目に見ている。
「シンヤ君はどう思う?」
と、発言を控えていたにも関わらずこっちに話しを振ってきたよ。
「どう思う? とは」
「いまあなたに選べる選択は三つだと思うわ。一つ目は今まで通り、ここで暮らすこと。あなたがここで暮らしたいと言うなら、歓迎するわ。二つ目は他の人の所へ行くこと。恐らく、一人の所に長く住むことはないと思うから大変だと思うけど、それならそれで不憫がない様に調整するわ。三つ目はあなた専用の屋敷を設ける事だけど、こっちはあまりお勧めしないかな。何が起こるか分かったものではないし……」
「なるほど」
どの条件も破格だと思うが、そのどれを選んでもエリスさんに多大な負担がかかるだろうな。
……まあ、でも。ここは考える必要はないかな。答えは既に決まっている事だし。
「エリスさんが良ければ、俺はシルフィード家にお世話になりたいと思っています。その気持ちは変わりありません」
「そう……。ですって、ソニア」
勝ち誇ったようにソニアさんに告げる。
「まぁ、でもあなたの気持ちも分からなくはないわ。それで、シンヤ君。私に一つ考えがあるのだけど、どうかしら?」
「どうかしら? と言われましても、その考えを聞かないと返答できないのですが」
「そうだったわね。週に三回、シンヤ君にはプティーズ学園に通ってもらいたいの。それが私の考えよ」
「……はい?」
俺があの学園に通うの?
「それならいいでしょ、ソニア。順番通りクラスごとにシンヤ君を派遣させるから、それで妥協してくれない?」
「それは中々のお考えかと思いますが、それでもシルフィード家に居候させることに不満を感じない人はいませんよ」
「そうねぇ。……じゃあ、いっそのこと、実力行使で決めましょうか」
「……と、言いますと?」
「発表考査の二月後、臨時のデュエルパフォーマンスバトル、DP戦を決行しましょう。学年毎に優勝者を決めます。シンヤ君には申し訳ないけど、一月毎に優勝者宅に移住してもらう事に致しましょう。……それなら文句ありませんか?」
「それは公平なやり方と思いますが、よろしいので? 最初の意向と随分変わっていますが」
「だって、仕方がないでしょう。こうでもしないと強硬手段に出る人達がいる事でしょうし。シンヤ君には悪いけど、それは目を瞑ってもらう事にしてもらうわ。良いよね、シンヤ君」
「……仕方がありませんね。まあ、これに関してはリリスに頑張っていただく事にしましょう」
隣で「ちょっと!」と抗議するリリス達がいたが俺達はそれを無視して話しを進める。
みんなの言いたい事は分かるけど、ここで彼女達の話しを聞いていたら、またさっきの二の舞になりかねない。俺だって言いたい事は多々あるんだが、そこは仕方がないと妥協することにする。俺にとってデメリットは全くもってないし。枯れると言う点を除けば。
「理解が早くて助かるわ。と、言う事だからソニア。今日の所は大人しく帰ってもらえるかしら」
「え? 揉む話しはなしなんですか!?」
「あなたねぇ……」
思わず額に手を当てて困り顔を見せる。
チラッと俺の事を見て「どうするの?」と訴えるエリスさんに肩をすくめて見せる。
「……わかりました。では、ソニアさん。申し訳ないですが俺の部屋に来ていただけませんか?」
「あら、自室に案内してくれるの? なんだかんだ言ってシンヤ君もやる気満々だったんだ」
「なんでそんなに嬉しそうにしてくれるのか分かりませんが、誤解しないでくれませんか。あなたの為を思って場所の移動を提案したんですよ」
「別にこの場で揉んでいただいても大丈夫よ。あなたの自慢の揉みテクは誇るべきことだし」
それ、褒めてくれているんだと思うけどちっとも嬉しく思えないな。
揉みテクが凄いと言われて嬉しいと思う男っているのかい? 元の世界では何の役にも立たない無駄な技術だし。
「できれば、ここでやった方がいいと思うよ、シンヤ君。あなたの部屋でやるとなると、この子達が黙っているとは到底思えないし」
と、言ってリリス達を指差す。
彼女達は先ほどのやり取りに不満が大いにあるらしく、俺でも分かるぐらいぶすっとした顔で睨んでいた。てか、リリスとイリスさんが頬を膨らませるのは分からなくもないけど、クスハさんも頬を膨らませて睨みつけるなんて……。ちょっと可愛いじゃないか。
「わかりました。……では、ソニアさん。早速ですが、初めても?」
「あ、ちょっと待ってね」
何を思ったのか、ソニアさんは上着を脱ぎだし――……。
「って、何で上着を脱いでいるんですか!?」
「……え。だって、揉むなら直接揉んだ方がいいに決まっているでしょ?」
「し、知りませんよそんなこと。別に上着の上からでもいいじゃないですか」
「いやよ。せっかく初揉まれなんだから、直接の方がいいじゃない」
だからって……。
あなたのその見事なお山はある意味凶器に等しいんですよ。一目で大きいと分かるそれは、どこのエロゲーのキャラと言いたいほどのレベルなんだぞ。
そんな体格の女性が上着を脱ぎ、下着も脱いでご自慢の胸肉を露わにさせるなんて……。あ、やばい。油断していたら鼻血が吹き出しそうだ。
「さあ、始めましょうか」
上半身裸のまま、腰に手を当てて胸を張るのはやめていただきたい。
わざとなのか、わざとなんだよね。強化薬の副作用が切れて本当に良かったよ。未だに残っていたら、この瞬間跳びかかって襲っていたね、うん。
* * *
「……もうダメ、マジきつい。誰かいっそのこと殺してくれ」
今日の最大の難関、現プティーズの一人であるソニアさんの胸を揉むミッションを終えた俺は、ベッドに向かってダイブして身を預ける。
「あぁ、鍛錬しないと……。今日の事を考えると筋トレぐらいしないとダメだよな」
このまま身をベッドに預けて夢の中に突入したい所であるが、今日の事を思い出すと寝るに寝られなかった。まあ、眠れない理由は他にもあるのだが。
「マジですごかったな、あれ。イリスさんの胸もすごかったけど、柔らかさと言うか、なんというか……。あれで母乳体質とか反則じゃねえ。って、何を思い出しているんだよ。忘れろ、忘れろ!」
自分の頭を両手で叩いてソニアさんの件を忘れようと努力するのだが、意識すればするほど鮮明に思い出してしまう。特に揉む毎に吹き出す白いあれは反則だ。
「って、またぁ!」
もういやだ。完全に毒されているよ、俺。
まだ、この世界に来てそれほど経っていないはずなのに、長年いるみたいな錯覚を感じてしまうのはなぜなんだよ。もはや、揉む事が当たり前になっている自分が本当に嫌だ。
「……筋トレしよう」
このまま黙って横になったら、絶対にソニアさん達の事を思い出して寝付けないのは目に見えている。ユニスさんやメイドさん達二人と合計四人の胸を揉んでしまったのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
心頭滅却すれば火もまた涼しいと言う事だし……。なんか言葉の使い方が違う気がするが、まあとりあえず体を動かして、思い出さない様に努力しよう。
「まずは握力を鍛えよう」
今回、鍬を振って分かったことであるが、武器を振るうのに握力が重要であることを身に占めたのであった。特に支点の位置で握られている左腕の握力が大切だと感じた。素人目線の浅慮な考えかもしれないが、己の感覚に従って握力を鍛える事にする。これなら、体が疲れていたとしてもお手軽にできるしね。
「えっと……。テレビだと道具がない時は確か――」
記憶にある握力の鍛え方を思い出しながら、いざ始めようとした時、俺の携帯電話が鳴り響いた。
「…………」
このタイミングの悪さ、もしかして狙って鳴らした訳ではないだろうな。
俺は、未だに鳴っている携帯電話を取り出して受信のボタンを押す。
『……あ、もしもし、過去の俺? 俺だよ俺。ようやく童貞を捨てる事が出来たかい?』
「……死ね、未来の俺!」
あまりの能天気な声に苛立ちを覚えてしまい、電話に向かって怒鳴り散らしてしまった。




