姦しいだけです
「……お待たせして申し訳ありません。では、お話しをお聞かせ願おうか」
一度混乱した状況の中、話しがまとまらないと判断した俺は一度クールダウンを設ける事にした。お客様が見えているのに汗臭い格好のまま応対するのは失礼だと言って、湯浴みを行った後、改めて話しの席に着いたのであった。
これで幾分かリリス達が冷静になってくれると期待したのだが、場の空気は依然として重たいままであった。
「では、私の方から。先ほどは挨拶もなく申し訳ありませんでした。私はソニア・ミントス。僭越ながらプティーズをやらせていただいております」
少しは冷静さを取り戻してくれたのであろうか、先ほどとは打って変わって物腰が柔らかい対応を行うソニアさん。俺も状況をリセットする意味で、改めて自己紹介を行う事にした。
「改めまして、工藤伸哉です。せっかくご足労していただいたのに、留守にして申し訳ありませんでした。何でも、この俺に用事があるとか?」
「ええ、そうですわ。シンヤ君とお呼びしても?」
「お好きにどうぞ。代わりに俺の方もソニアさんと呼ばせて頂きます」
「結構ですわ。それで、先ほども言ったけど、あなたは人の胸を大きくする能力をお持ちとか」
「そうみたいですね。なんでか、そんな能力が備わっているようです」
「やっぱりそうなの。よければ、今この場で見せてくれません? もちろん、私の胸で」
おいおい、このお蝶夫人……いや、ドリル夫人はいきなり何を言い出すのやら。
いやまあ、さっきも揉めとせがんで来たのだから、驚くようなことではないけど。
「ソニア先生、シンヤは仕事で疲れているんです。無理を言ったらいけませんよ」
俺が答えるよりも早く、隣に座っていたリリスが察するように答える。
「さっきも思ったけど、何の仕事をしているわけ? リリスが言うには、あなたはこの家でお世話になっているのよね」
「そうですね、その通りです」
「それなのに仕事をしているわけ?」
「仰っている意味が分かりかねますが……」
「いえね。普通、男が女性の家でお世話になっていると聞くと、子作りに専念するんじゃないの? 先輩から聞いた話だからよく知らないんだけど」
「この国に来て日が浅いのでよく知りませんが、俺が元々いた世界は居候の身で女遊びに明け暮れるのを良しとは致しません。ですから、先ほど仰っていた種馬の自覚など毛頭ありませんよ」
「なるほどね。……けど、女性に興味がないわけじゃないのでしょ? 聞くところによると、今日も二人ほど手籠めにしたと聞くし」
「手籠め、ですか?」
……はて、思い当たる節がないと言おうとしたのだが、それよりも早くクスハさんが補足説明をする。
「ミランダとオリヴィアの事を仰っているんですよ」
「……あぁ、彼女達の事か。てか、手籠めとか人聞きの悪い」
どっちがミランダさんでどっちがオリヴィアさんか分からないけど、今日の担当を請け負ってくれたメイドさん達の事を言っているようだ。
「そう? 二人に今日の事を報告してもらったけど、二人ともなんて言ったと思う?」
「報告ってお前……」
心配してくれたのか分からないけど、どうやら俺の行動はリリスに筒抜けのようだ。
報告を聞いて面白くないと感じたのか、リリスはぶすっとした表情で言う。
「二人とも口々に「すごかった」と頬を赤らめて言ったのよ。それだけならまだしも、今度一緒に出掛ける約束もしたそうじゃない」
「それは、二人には俺の仕事を押し付けるようなことをしたから、お詫びとお礼の意味も兼て……。てか、今の話でどうやって手籠めにつながる」
二人の胸を揉んだことは事実だから反論の余地もないが、それはソニアさんを除いたこの場にいる全員に行っているし……。うん、冷静に考えると男として最低な部類だな俺って。
「確か二人はこんな事も言っていたわね。妙に鼻息も荒かったし、固くなったあれを押し付けられたって」
「あれは!」
あの二人、いったいどこまで詳細に話したんだよ。
し、仕方がなかったんだ。あのときは未だに強化薬の副作用が残っていたのだから。ただでさえ今この場にいる全員と比べても負けず劣らずの容貌の持主なんだぞ。そんな二人の胸など揉んだら、そうなってしまうのは当たり前なんだよ。
なんて言い訳出来たらいいのだが、そんな事を口にしたら自分の首を絞めるんだろうな。何せ、その強化薬は俺の手元に一個残っているんだから。
「あれは?」
「……俺だって男なんだ。ただでさえリリスやクスハさん、イリスさんの胸を揉んでいるのだから何かの拍子にタガが外れる事だってあるんだよ」
「つまり、今まで我慢をしていたわけなのね?」
「悪いですか、ソニアさん」
「悪いわね。さっきも言ったけどこの国は男が少ないのよ。スイカップの未来を護る為にもあなたには子作りに励んでもらわないと。なんなら、あなたの童貞。私がもらってあげようか?」
「いえ、結構です」
「即答なのね。そんなに魅力がないのかな?」
「魅力があるなしの話ではありません。俺は好きな人じゃなければ、そんなことは致しません」
「けど、女性の胸は揉むのね?」
「し、仕方がないじゃないですか。揉まないと襲われそうなんですし。一種の防衛策です」
もういやだ。
そろそろ誰か助けてくれませんかね。
そんな俺の事を察したのか定かではないが、リリスが会話に割って入ってきた。
「ソニア先生、話が脱線しております。本題はシンヤをミントス家に迎えたいって話だったはずです」
「そうだったわね。まあ、端的に言うとあなたの力で私の胸を大きくさせて欲しいのよ」
「先生はクラスEじゃないですか。今のままでも充分魔力は足りるんじゃないですか?」
「今のままならそれでもいいんだけど、私は上を目指したいのよ。その為には更に高等魔法を習得したいのよ。けど、高等魔法を習得するには最低クラスGは必要になるのはリリスも知っている事でしょ?」
「それはそうですが……。それでしたら、最初に言ったと思いますが、シルフィード家に転移してくればいいじゃないですか。前もってお伝えしてくだされば、ちゃんとシンヤに話を通しますよ」
「いやよ。せっかく歳の近い男の子がいるんだから、楽しみたいじゃない」
なにそれ。要は俺の力でソニアさんの胸を成長させればいいってこと?
しかも、あわよくば揉む以外の過激な、それこそお子様は見てはいけません的な展開に発展させたいって言っているのか、このドリル夫人さんは。
話しを纏めると俺を電動マッサージ機にさせたいってところか。……俺に鼻血による出血多量で死ねと仰るんですね。
「そ、そんな理由でシンヤを渡せる訳ないでしょ。シンヤはシルフィード家でお世話するって約束したんですから!」
「なによ、リリス。独り占めはよくないわよ。……もっとも、あなたの貧相なそれで彼が満足するとは到底思えないけどね」
ある部分――まあ、リリスの胸部を見て冷笑する。ソニアさんの視線の先が自分の胸に向けられているのを察したリリスは、俺の腕を取って体を押し付ける。
「男を知らないソニア先生に言われたくなんかありません」
「あなただって、似た様なものでしょ。むしろ同じ屋根の下に住んでいるのに求められないとか女としてどうなのよ」
「失礼な。これでも私は何回も求められたんです。昨日だって嫌がる私に無理やり――」
あ、バカ。
「ちょっとお嬢様。今の話しは本当ですか!?」
「それは私も初耳ですよ」
ほら見た事か。
今の発言でこの場を見守っていたイリスさんやクスハさんが反応したじゃないか。
リリスの一言により、一気に場がヒートアップしてしまう。興奮して頭に血が上るのは良いのですが、俺を挟んで話しを続けないでほしい。
「弟子の癖に師匠より先に男を知るなんていい度胸をしているじゃないの、リリス」
「それだけ私に魅力があったってことですよ」
もはや売り言葉に買い言葉と言ったところか。お互いに意地を張り合いだして場が収集つかなくなっている。この場からさっさと逃げたい所なのだが、未だに腕にリリスが抱きついている。
だからと言って、二人の成り行きを見守れるかと思いきや――……。
「シンヤ様。お嬢様を求めたなら、私も求めてくださりますよね」
「そうですよ、シンヤさん。まさか、お嬢様だけとか言いませんよね」
完全に誤解しているイリスさんとクスハさんが詰め寄り、もはやカオス状態。
……どなたか、この状況を収めてくれる救世主様はいらっしゃいませんか。
「ただいま。……何をしているの、あなた達?」
この状況でエリスさんがご帰宅とか……。
俺、救世主を求めていたよね。嬉々と火に油を投じる人など、今はお呼びではありませんよ。




