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鳴らないはずの電話

 久々に体を動かしたせいか、風呂から上がった俺は自室に真直ぐ向かった。

 本当ならば体を鍛える為に筋力トレーニング等を始めたいと思っていたのだが、思っていた以上に畑仕事はハードであった。疲労感が溜まっている今の体で下手に動かしたらきっと怪我をしかねないので、今日の所はゆっくり体を休める事にした。


「……けど、今日は色々とあったな」


 毎日が新鮮なため、驚かされる日々である事は間違いないのだが、今回は特に考えさせられる一日であったと思う。ただ資金集めの為に始めた仕事のはずが思いがけない情報が手に入った事はうれしい限りであった。


「いい機会だから、少し頭の中を整理してみるか」


 今日は予想もしなかったリリスのバストアップのお陰で邪魔が入る事はない。

 なにせ彼女が夕食時に「夜遅くにシンヤに訪問する人は私の許可を取ること」と指示を出してくれたのだ。最初は今回の件で「自分もお願いします」とメイドの誰かが押し寄せてくると思ったのだが、リリスもそれを予見していたらしく箝口令を敷いてくれた。

 ゆっくりと一人で過ごせる時間を確保した為、今日はこれまで得られた情報を自分なりにまとめて見る事にした。


「……と言っても、謎が解決したっと言うよりも、更に謎で上塗りされたって感じだけどな」


 今日まで得られた収入としたら、記憶を継承していると自称しているカレルさんと邂逅できたことであろうか。

 蛮勇召喚で得られるはずであった能力が低スペックである理由が判明出来た事は個人的に大きいはず。けど、異能封じの蛇なんて物騒なものが付与されている謎は残ってしまったが。


「結局、あれの発動条件ってなんなんだ? 前回は一ミリであったのに、今回は五ミリとか……。何を基準として効果の差が生まれたんだろう」


 異能封じの件やバトルユンボの件も気になるところであるが、今回一番気になる事と言えば自分に備わっている異能、揉めば胸が大きくなる力であった。ここ数日、はっきりと言って人生の全ての運やモテ期を消費したに違いない。あれほど多くの女性、しかもどの子も魅力的な女性と来たものだ。そんな子達の胸を揉んでいた時でも今日起こった現象は見られなかった。


「リリスと彼女達で何か違ったものでもあったかな?」


 リリスと彼女達の差と言えば、最初に思い浮かぶのは胸の大きさであろうか。リリスには悪いけど、ほかの子達はみんな立派なものを持っていた。


「まさか、一定以下の大きさの子しか反応しない力なのか?」


 だとしたら、俺の手は丘の様な胸の持主にか効果が発揮しない残念ハンドになってしまう。誰だよ、ちっぱい専用のちっぱいハンドって言ったやつは。俺もそう思ったけど、あえて言わなかったと言うのに……。けど、それが本当ならとことん残念な能力だな、これ。


「待て待て、そう考えを纏めるのは早計過ぎるだろう。あとは、あとは……」


 あれ?

 これ以外に違いがあるような原因が思いつかない。

 まさか、揉み方の違いな訳あるまいし、あと考えられるのは――。


「時間か?」


 しかし、揉む継続時間が理由ならば、最初に発動した時のあれはどう説明するべきだろうか。初めてリリスと出会ったとき「契約完了」とか聞こえてきたから、初めの一発はサービスで発動したとでも言うのか?

 ……いやいや、そう物事を軽々しく考えていいものだろうか。しかし、他に理由らしい理由が見当たらない。


「……ダメだ、お手上げだ」


 考えた所で答えが得られないのは知っていたけど、謎を謎のままにするのはすっきりしない。だからと言って明確な解答を教えてくれる人は誰もいないのだ。問題が問題なだけに色々と試して検証する訳にもいかないし……。


「……はぁ。俺、これからどうなるのかな?」


 さっきは勢いでリリスに抱く宣言なんかしちゃったけど、それで子供なんか出来てしまったら俺……どうすればいいんだよ。


 ――プルルルル


 問題の解決から気持ちの整理へ思考が変わったとき、聞き慣れた着信音が部屋中に響き渡る。


「……な、んだと?」


 慌てて音のした方――部屋に備えられていた机に視線を向けると、机に放置していた携帯電話が鳴っていたのであった。


「なんで!? どうして……」


 あり得ない。

 この世界で携帯電話が鳴るなど普通に考えてもあり得ない現象だ。

 タイマーセットをした記憶もないので、携帯電話が鳴るはずがないのだが……。


「……非通知設定?」


 未だに鳴り響く携帯電話と取って、表示された番号を確認するのだが相手が非通知設定をしている為に確認することは出来なかった。

 ツーコールなっている間、取るか取らないか迷ったが、誰がどうやって自分の携帯電話に掛けたのか気になって、電話に出たのであった。


「……もしもし?」

『ようやく出たか。ずいぶん出るのが遅かったな?』


 電話をかけてきた人物は男のようであった。


「悪いが、そっちは誰なんだ? どうやって俺の携帯電話にかけてこれた?」

『おいおい。そんなに一気に聞かれても答えられないよ。少し落ち着けって、な』

「落ちつけられるか。誰なんだ、あんた。良いから答えてくれ」

『……はぁ、やれやれ。昔の俺って、こんなに余裕がなかったのかね』


 ……は?


「ちょっと待て。あんた、何を言って――」

『まぁ。正直、今のあんたに言っても納得しないと思うが、自己紹介といこうか。初めまして、俺。俺は工藤伸哉。簡単に説明するならば、俺は今のお前が体験している事を済ませた未来の俺だよ』


 未来の俺、だと?


「ふざけるな! 未来の俺って言われて納得する訳ないだろうが!」

『だろうな。俺も最初はそうだったから。けど、事実だよ。そっちに来てから変な夢を見なかったか?』

「変な夢だと」

『そっ。元の世界で可笑しな神様と戦っている俺とか……』

「……まさか」


 心当たりはあった。こっちにまだ数日足らずだが、ほぼ確実に似た様な夢を見ている。

 もし、こいつがその夢の事を言っているならば……。


『あれ、今俺が体験している現実だから。そして、多分お前もこれから体験することになるぞ』

「ちょっと待ってくれ。意味が分からない。あれが現実に起こっている事だと。どうして、何で!?」

『理由は分からないけど、恐らく同じ時間軸に工藤伸哉と言う存在が二人いるから、繋がりやすくなっているんじゃないか?』

「聞かれても、逆に俺が知りたいよ、それ」


 訳が分からない。

 そもそも、こいつが言っている事は本当の事なのか。

 仮にこいつが未来の俺だとして、何の理由で過去の俺に……。


「……なぁ。あんた、未来の俺って言ったよな?」

『はぁ? さっきそう言っただろ。もう耄碌しちゃったのかよ、過去の俺は』

「いや、だっておかしいだろ。俺が元の世界に戻れたら、呼ばれた直後の時間に戻るんじゃないのか?」

『いや、だから今の俺がいるんだろ。俺はそっちで役目をはたして、召喚された直後の時間軸に戻されたんだから』


 つまりあれか?

 俺がこの世界に呼ばれた事で、同じ時間軸に工藤伸哉と言う存在が二人同時にいる事になってしまったと、そう言う訳なのか?


「にわかに信じられない話だが、分かった。あんたが未来の俺だとしよう。それで? なんで俺に連絡した。そもそも、どうやって連絡出来たんだよ」

『どうやって、は夢を見ていたお前なら推測できるんじゃないか? なにせ、こっちにはそっちの世界の神様がいるんだからよ』

「こっちの世界の神様? それって、乳神様の事か?」

『そうそう。乳の神で名はパイって言うらしいぜ? 安直だよな、名前。俺はその乳神様の力を借りて、こうして連絡しているってわけだ。それは理解出来たな』

「……あぁ」

『んじゃ、もう一つの質問である“なんで”の方を答えるとしますか。俺がなんで連絡したかと言うと、これからの指針を示してやろうと思ってな』

「指針、だと?」

『そ。訳分からず、そっちの世界に連れられてどうすればいいか分からないだろ? まさか、シルフィード家に引き籠ってのんびり暮らすなんて馬鹿な考えはしていないよな』

「少しは考えたけどな」

『まぁ。滅多に体験できない事だから、引き籠ったり、世界を見て回るなんて選択をとってもいいけど、とりあえずは体を鍛える事をお勧めするぞ。その、色んな意味で』

「色んな意味でか?」

「そ。色んな意味で」


 自称未来の俺さんは激しい運動を余儀なくさせられる体験をしまくったのだろうね。

 この場合、リア充爆発しろと罵るべきなのか。未来に俺も似た様な体験をするのか、と喜ぶべきなのか、複雑な気持ちだ。


『あと、お前の能力の“バスト・ゲイン”なんだが……』

「バスト・ゲイン?」

『……ぁ。まだ知らないんだっけ? ごめんごめん、今のは忘れて』

「いや、無理だろ。もしかして、女性の胸を揉むと大きくなる能力が“バスト・ゲイン”なのか?」

『えっと……。まあ、これぐらいは言ってもいいか。答えは半分イエスで半分ノーだ。ちなみにお前が言っている能力は、煩悩を抑えながら一定時間揉み続けると、欲求が魔力となって相手の体に注ぎ込むってやつね』

「……えっと、それって」

『平たく言うと、ムラムラしたら魔力になって女性の体に注入しちゃうんだよ、その能力。だから、欲求が大きいほど効果が上がって、バストアップって流れになるわけ。OK?』

「残念にもほどがあるだろ、その能力。なに、つまりあれか? 俺が今日発動したのは、欲求不満で爆発しちゃったって訳か? 魔力と言う形で」

『……あぁ。そう言えば、今日だっけか。初めてちゃんと能力が発動したのって。ま、あれだけ我慢すれば、爆発するのも致し方がないんじゃないか?』


 のんきに「みんな、いい子で魅力的だもんなー」とのたまう。

 正直な話し、ほんのわずかだけど知りたい情報が聞けたのは僥倖だが、あまり知りたくない情報であった。この情報はリリスを初めとした女性陣に知られる訳にはいかなくなってしまった。どうにかして隠し通さなくては……。


『どうにかして隠し通そうと考えているかもしれないが、クスハさんがいる時点で難しいと思うぞ。それよりも今は体力をつけ、しっかりと柔軟して、体作りをすることをお勧めする。いずれ来るであろう戦いに備えて、な』

「戦い?」

『おっと。少し喋りすぎちゃったな。また、かけるから取り敢えず死ぬんじゃないぞ、過去の俺』


 と、言いたい事を言ったら、通話が切れてしまった。


「ちょっ! まだ、聞きたい事が山ほどあるんだよ。もしもし、もしもし!」


 どうにかして連絡を取ろうとかけなおしてみるのだが、さっきまで平常に動いていた携帯電話は「バッテリー切れです」と表示され、直ぐにシャットダウンされてしまった。

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