畑仕事は繊細です
ユニスさんの畑の手伝いクエストを引受けた俺達は仕事場まで向かうのだが。
「なあ、何で走っているんだ俺達は?」
「わ、分かりません。け、けど、ユニスさんが言うには魔法は使ってはいけないそうです」
いざ、仕事場まで移動魔法を使って向かうと思ったのだが、ユニスさんが「魔法は使っちゃだめだからね」とまさかの魔法禁止令が下されたため、俺達は現場まで走ることを余儀なくさせられた。
てか、早い。ユニスさんマジ早すぎ。あの子、鍛練だからと言って仕事用の鎧を装着したまま走っているのだが、全く追いつく気がしない。
「イ、イリスさんは大丈夫?」
「は、はぃ。大丈夫です」
と、口では言っているけど、明らかにしんどそうだ。
そりゃあ、走るたびに二つの果実が盛大にブルンブルンと上下に揺れたら走りにくいだろうけど、少し体力がなさすぎじゃないか。
「二人とも遅いよ。そんなんじゃ、畑につく前に日が暮れちゃうよ」
「無茶言うな。大体、畑ってどこにあるんだよ!? ここから、どれぐらいなんだ?」
「えっと……。まあ、このペースで走れば三十分ぐらいかな?」
三十分も走るのかよ。
涼しい顔で言っているが、俺達にしてみれば今のペースを持続して走り続けるのは至難の業だぞ。ああ、クソ。こんなんだったら、こんな仕事受けなければよかった。
「な、なあ。なんで移動魔法を使っちゃダメなんだよ」
「うちはそう言う決まりなんです!」
「な、何で!?」
「話す体力があるならキビキビ動いてください!」
「無茶苦茶にもほどがあるだろ!」
結局のところ、それから三十分程度走らされる羽目になってしまった。
俺達がユニス家の畑に辿り着いたときには、二人とも体力がそこを付き完全にばててしまったのだった。
……こんな仕事が続くようだったら、俺も今後は鍛練を始めないとやばいかもしれない。
***
「二人とも、大丈夫?」
「だ、大丈夫、な、わけ、ないだろうが」
つ、疲れた。これほどまで走り続けたのはいつ以来だろうか。
体育の長距離走だってこんなに走った覚えはないぞ。
隣で膝をついて呼吸を荒げているイリスさん等、滝の様に汗を流しているし。
「だらしないわね、二人とも。そんなんで畑仕事が出来ると思っているのかな」
「だ、大体、何で魔法を使っちゃダメなんだよ。まずはそこを教えろよ」
そもそもの原因はユニスさんが魔法を禁止したからだ。
移動魔法を使えればこんな風に体力が底をつく事もなかったはず。
「ああ、それね。それは――」
彼女の説明だと作物を育てる時は魔法の使用は一切禁止されているとのことだ。
理由は定かではないが、魔法を使う事で作物に影響され味と品質に多大な影響を及ぼすとのこと。
その為にユニス家では魔法を一切使わないで作物を育てるため、安易に魔法を頼らない生活を余儀なくさせられているらしい。
「そ、それならば、移動手段の一つや二つ確保すればよかったんじゃないか」
「お金がかかるじゃない。節約できるところは節約しなくっては」
言っていることはもっともだが、それで仕事にならなかったら本末転倒な気がするぞ。
「イリスさん、平気?」
「ご、ごめんなさい。少し平気じゃないかもです」
確かに顔色が少し悪い気がする。
「ユニスさん。俺は大丈夫だから、イリスさんに水をくれないかな? イリスさんは体調がよくなるまで少し休んでいてよ」
イリスさんの様子を見て「確かに気分が悪そうね」と気づいたユニスさんは、水を取りに行く為に再び駆け出す。
あれだけ走ったにも関わらず、ちっとも疲れた様子が見えないのは素直にすごいと思った。
「す、すみません。足を引っ張っちゃって」
「なにを言っているんだよ。そっちは屋敷の仕事だって控えているんだろ? だったら、今は体力を回復する事だけ考えなよ」
「そ、そうさせてもらいます」
運動した影響で体が熱くなっているのは分かるけど、スカートをバタつかせて涼を得ようとするのはやめてほしい。見えそうで見えない絶妙な力加減でバタつかせるものだから、ついつい視線が彼女の太腿辺りに動いてしまう。
お、お願いユニスさん、早く来てくれ。早く来ないと俺の理性が徐々に腐食されちゃうぞ。
***
「それじゃあ、早速仕事をお願いするわね」
ユニスさんと合流した俺は、一旦イリスさんを置いて仕事場に向かうことにした。
イリスさんはユニスさん達の仲間が介抱してくれるとの事で、あとの事は彼女達に任せる事にする。あのまま、イリスさんの姿を見てたら理性が限界突破してしまいそうだったから個人的には非常に助かった。
「ここが仕事場ね」
連れられた場所は普通の畑であった。
見た限りでは紫色のキャベツらしき物ぐらいしか分からなかった。おそらく大半が大根を初めとした根菜類なのだろう。
「それで、仕事の内容をまだ聞いていなかったけど、俺は何をするの?」
「あぁ。それもまだだったね。クーちゃん様には収穫した作物類を倉庫に移送してほしいの」
簡単に言えば力仕事であった。
先ほども言ったが、作物を育てるのに魔法を使うのはご法度。故に収穫した作物類を持ち運ぶのも自力で行わくてはいけないとのこと。
「そう言う事ならお安い御用さ。んで、その収穫物はどこに?」
あそこに、と収穫物がある場所を指差す。
彼女の指先にあるであろう収穫物を確認すると、そこには山の様に置かれていた収穫物があった。
「……あ、あはは」
流石に苦笑いせざるを得なかった。
幾ら俺が男でも、あれだけの数を熟すのは骨が折れる。
それに移送先は先ほどイリスさんがいた場所らしい。ここからあそこまで、軽く十分は超えていた気がするのだが。
「それじゃあ、頑張ってね」
自分の仕事を行う為に、ユニスさんは自分の持ち場へ行ってしまわれる。
……てか、これ。まさか俺一人でやらせる気なのだろうか。
***
単純な力仕事はしんどい上に直ぐ飽きが来てしまうからつらいとよく言うが、それは本当の事であった。
紫色のキャベツらしき物――休んでいるイリスさんからシャベツと教えてもらった――を既に七回ほど往復しているのだが、一向に数が減る様子がない。
それにシャベツは、一個一個は軽いのだが、まとめて持ち上げられそうな数はせいぜい十個程度。十個も持つとそこそこの重量感になる。
「よっこいしょ」
なるべく傷が付かないようにシャベツを置き、今度は大きさ別に仕分けする。
シャベツは大きさによって値段が変動するらしい。
その為に小中大と大きさ別に仕分けして、出荷するらし。
「……ふぅ」
額から流れる汗を裾で拭う。本当ならタオルで拭きたいところであったが、そんなものは用意していない。今度からはタオルなど必須アイテムは仕事で得られたお金で購入しようと心に決めたのであった。
「なんじゃ、お主は」
仕分けが終わって次のシャベツを取りに戻ろうと踵を返すと、怪訝そうな目つきで俺をにらむ婆さんがいた。
「えっと……」
「なんじゃ。若いのに耳が悪いのかね。お主は何者かと聞いている」
「失礼しました。ユニスさんに仕事を頼まれた工藤伸哉と言います」
「ほぉ。確かにユニスからギルドに依頼を出すと聞いたが、お主がそうなのかい」
「はい。未熟ながらお手伝いさせていただきます。それでは、仕事がありますので私はこれで」
一礼して、お婆さんの横を通り過ぎる。
口ぶりからして、このおばあさんがユニスさんの言っていたご祖母なのだろう。
しかし、ご高齢にも関わらず威圧感がはんぱないな。何て言うか、この人と対面しているだけで体力がごっそり持っていかれるような……。
このばあさん、只者ではないな。
「お主、中々面白いものを纏っているな」
「……どう言う意味です?」
問い返した後に、このおばあさんが俺の身に着けている服に付いて仰っているのだろうと気づく。けど、お婆さんが次に告げる言葉に俺は言葉を失う事になる。
「お主、蛮勇召喚で呼ばれた人間じゃろ?」




