二つ目の仕事へ
目覚めはあまりよくなかった。
たっぷりと睡眠時間もとって気持ちよく寝れたはずなのに、妙に疲労感が残っていると言うか全身が怠い。
それもこれも、本日もまた見てしまったあの夢が悪いと言えよう。
「ほんと、なんなのあれ。厨二すぎるだろあれは」
今回も見てしまった妙な夢。
夢の中の俺は巫女装束を身に着けた女性をお姫様抱っこしながら、初日に見たフリルドレスの女性と再び対峙していた。
巫女女性が気を失っているところを見る限り、何らかの理由で危機的状況から救っている最中なのだろう。ひと一人担いでいるにも関わらず、夢の中の俺はアスリート顔負けの身体能力を駆使して、フリル女性の攻撃を掻い潜る。
『まったく、前回といい今回といい邪魔しないで頂戴。その女を大人しく渡してくれるなら、再びあの世界に戻してあげてもいいのよ。なんならこの私も誑して見る? こう見えても色々とすごいのよ私』
『はっ。冗談きついな、あんた。俺があっちでやる事は全てやり尽くした。今度はあっちの為にもあんたの誘いに乗る訳にいかないんでね』
『……そう。幾ら言ってもその乳神なんてふざけた神様を護る訳ね』
『少なくとも自分の世界欲しさに神様を殺そうとするあんたに言われたくない。覚悟は良いな、罪科の神よ。今回はあんたが罪を裁かれる番だ』
我ながらどうしたのだろう。幾ら夢の中だとは言えキャラがブレ過ぎている。
一つ一つでも大変脅威だと思われる弾丸の雨に夢の中の俺は物怖じしない。まるで弾丸の軌道が見ていると思うほどの回避能力を見せ、確実に前へと進み罪科の神様と呼んだ女性に挑み続ける。
あと少しで罪科の神様にたどり着こうとした時、二人の間に割って入る者が現れたのだ。
『出たな、変態野郎』
『乳神様を返してもらうぞ、人間』
『はっ。あんたは彼女に振られたんだろ。女々しい男は嫌われるぜ、旦那。それに……。あいつが得るはずだったチート能力、返してもらうぞ。不倫の神』
内容が色々と痛すぎた。
神様と対抗できる俺とかありえないだろう。
***
「……はぁ」
「朝っぱらから溜息をつくなんてどうしたのシンヤ。そんなんだと幸せが引っ越ししちゃうよ」
「いや。少し夢見が悪くてな」
「ふーん。そうなの」
あまり興味がなかったのか、用意された朝食にばくつく。
朝練をしてからそのままこちらに来たのか、学園で見た練習着姿のまま食事をしている。
時折、流れる汗を首に巻いていたタオルで拭き取っている。
「リリス。今度からは練習の後は必ずシャワーを浴びるか着替えて来なさい。あまり褒められたものではないわよ、それ」
さすがにエリスさんも思うところがあったのか、娘のリリスに注意する。
「けど、シンヤはこっちの方がいいんだよね?」
「もしかしなくても、一昨日の事を言っているのか? あれはナディアさんが勝手に言った事だぞ。俺自身は匂いフェチではありません」
「えー。けど、汗が染み込んだタオルを受け取ったとき、密かに匂いを嗅いでいたじゃない? あれはどう説明するの?」
……なぬ。まさか気づかれていたとは思わなかった。
一昨日、汗だくになった女性達に囲まれたとき、不思議と嫌な気分にならなかったんだよな。あれがむさ苦しい男連中だったらさぞ汗臭かっただろう。
そんな彼女達の匂いに少し興味があったと言うか、堂々と「嗅いでください」と言われて魔が差したと言えばいいのか、まあなんて言うか俺も満更ではありませんでした、はい。
さて、どうやって誤魔化すべきだろうか。
「お嬢様。いま、シンヤさんは満更でもなかったけど、どうやってそれを誤魔化そうかと思案しているご様子です」
「んなっ。クスハさん、人の心を勝手に読まないでと言っているだろ!」
「申し訳ありません。魔が差しました」
「そんな事より、シンヤ。誤魔化そうとしていたってどう言う事よ。実は満更でもなかったんでしょ。終始しまりのない顔をしていたものね、あなたは」
言っていることは事実なので、返しようがなかった。
「あなた達。今は食事中よ。リリス、そろそろ時間だけどのんびりしていていいの?」
「……え。あ、もうこんな時間なの!? 今日は日直だから少し早めに行かないといけなかったのに」
「急がないと遅刻するわよ。嫌だからね、学年主任にお小言を貰うのは」
「わかっています。じゃあ、行ってきますね!」
朝から元気だな。
昨日も朝早くから練習して、夜遅くまで練習をしているんだよな。あいつ、いつか体を壊すんじゃないか。少しぐらいは休養を挟んで英気を養ってもいいと思うのだが。
「さてと、それじゃあ私もそろそろ行くわね。シンヤ君は今日もギルドに行くのかしら?」
「はい、そのつもりです」
結局、昨日のシンディーさんの件は中途半端で終わってしまったからな。
シンディーさんは「私のせいだから、気にしないでください」と言って、完了と言う形で終わらせてくれたけど。
追加で発注すると言っていたから、もし見かけたらまた受注してあげよう。
「あまり無理はしないでくださいね。下着ウーマンなんて物騒な人も出ていますから、なるべく単独で行動するのは控えてください。イリス、今日もシンヤ君について手助けしてちょうだい」
「はい。奥様」
「クスハは悪いけど、お昼になったらプティーズ・アカデミーに来てちょうだい。下着ウーマンの件で話しがありますので」
「承りました、奥様」
「それじゃあ、今日も頑張って行きましょう」
***
「さて、本日はどんな仕事をしようかね」
ギルドに辿り着いた俺達は、早速本日の仕事を物色し始める。相変わらず「えちぃのはいけません」的な内容がほとんどで、お目当ての仕事が見つけられずにいた。
「おや、そこにいるはクドウ君じゃないか。今日も元気にさかっている?」
「出会い頭の第一声がそれってあんまりでしょ、ミーナさん。そのセリフ、そっくりそのままお返ししますよ」
またもやミーナさんの後ろに、彼女の依頼主であろう女性達がいた。
この人、朝からまた仕事を熟すのだろうか。元気と言うかなんと言うか……。
「おはようございます、ミーナ様」
「おっはよう、イリス。昨日はお楽しみだったかな?」
だから、会って最初に言うことがそれってどうなのよ。
「あ、いえ。昨日もしていただけませんでした?」
「え、ほんと? ちょっとクドウ君。あなた、こんないい女がいるのに、手を出さないとかどうなのそれ。まさか、本当に不能なわけ?」
「んな訳ないでしょうが」
なんか似た様なやり取り、昨日もしたような気がする。
そりゃあ、確かにイリスさんは魅力的な女性だけど彼女の年齢を考えると行動に移すのはよくないだろ普通。
それに何度も言うが、一人抱いたら全員から責められるはず。そんなことしたら、腹上死エンドは免れないはず。そんな死に方だけは絶対に避けなくては。
「そんな悠長にしていると後で絶対後悔するわよ。誰かに取られても知らないからね」
この場合、誰かと言うのは他の男性だろうか。
それで彼女達が幸せになるのだったら、俺は喜んで祝福するのだが。
「……ほんと、絶対に後悔するわよ」
なんか彼女の言葉に重みを感じるのは気のせいだろうか。
もしかして、ミーナさんは似た様な経験を既にしているのかもしれない。
へらへら笑っていた表情がこの時だけ憂愁の影が差したような……。
「ま、私はこれで行くわね。もしよかったら私に依頼してちょうだい。二人ともたっぷりとサービスしちゃうわよ」
言うだけ言って、ミーナさんは自分の依頼主たちの元へ戻っていく。
あの人、わざわざ何をしに来たんだろう。
「えっと……。シンヤ様、そろそろ仕事を探しましょうか」
「そうだね。どれにしようか?」
「あれ? そこにいるはクーちゃん様とイリちゃんよね?」
再び、自分に見合った仕事を探そうとしたら、またもや別の者に声をかけられてしまった。
「……ん? 人違いじゃないですか」
「え、人違い? そんなことないよ。クーちゃん様でしょ。私が嫌だと言っても必要に攻めてくれちゃったクーちゃん様でしょ」
「往来する場所で、誤解を招くような言い方をするなユニスさん」
「……いや、誤解も何もあったものではないと思いますが、あれは」
「イリスさん、少し黙っていて」
事実だけど、そう言わないといけない状況だろ今は。
空気を読まないでツッコミを入れないでほしいものだ。
「こんにちは、ユニスさん。今日のお仕事は?」
「こんにちは、イリちゃん。今日はお休みを貰ったんだ。畑仕事をしている祖母が腰を煩わせて、今日と明日はその手伝いをするつもりなんだ」
ユニスさんのご祖母は数種類の作物を育てているらしい。
お手伝いとして何人か雇っているのだけど、司令塔にあたる祖母がいないと作業効率が格段に落ちるらしい。
今日と明日は収穫を主に行う予定のため、急遽己の仕事を休んで手伝いを買って出たとのことだ。
「けどね。やっぱりちょっと人手が足りないのよ。祖母みたいに畑のエキスパートじゃないから、今の人数だと収穫するのも大変なのよね。だから、こうして仕事を発注しに来たのよ」
「……なるほど。だったら、その仕事俺が受けてもいい?」
「ぇ。そりゃあ、嬉しいけどいいの? 自分で言うのもなんだけど、あまり割のいい仕事じゃないよ」
「いや、ほかの仕事と比べたら全然問題ないよ。むしろ助かったよ。ありがとう、ユニスさん」
「ふふ、なにそれ。変なクーちゃん様。じゃあ、指名発注にするから、受注お願いしますね」
「了解」
何とか本日も仕事にありつけられそうだ。
写生依頼、畑仕事の助成と異世界創作物のギルドものとしては色々とテンプレートに沿わない内容であるが、本日もお金の為に精一杯頑張ると致しましょう。




