依頼主とご対面
さて、仕事を受注したのは良いがここから先、どのような行動をすればいいのだろうか。
受付のお姉さんの話では、渡された依頼書を通じて依頼主と連絡することが可能と言われたのだが、いかんせん使い方が分からない。
「イリスさん。この後どうすればいいか分かります?」
「そう言われましても……。申し訳ありません、私もお答え致しかねます」
唯一頼れる人間であるイリスさんに聞いてみたのだが、彼女もギルドを使用したのはこれが初めてのこと。よって、依頼書の使い方は知らないみたいだ。
「……あ。じゃあ、クスハさんに連絡は取れる?」
「メイド長にですか?」
「そうそう。あの人、私用で一度ギルドを使ったことがあると言っていたし」
「あのメイド長がですか?」
「あっと、邪推していると思うけど、決して想像しているような仕事内容じゃなかったからな」
危ない危ない。
他の人間に対してはできる女を演じている見たいだから、そんな事を知られてら彼女のイメージが崩れてしまいかねない。あの人が頻繁にギルドを使ってストレスを発散していたなんて知られたら、きっと俺に災いが降りかかるだろう。
「わかりました。一応、聞いてみます――」
クスハさんに念話で連絡を取ろうとした直後、依頼書が再び青白く光り始める。
『初めまして、依頼を引き受けた方ですか?』
既に書かれていた文字が消失したと思いきや、新しい文面が表示されている。
「これは……」
「どうやら、通信魔法の一種【メール】がかけられているみたいですね」
「メール? この世界にもメールなんてものが存在しているんだ!?」
「はい。これは特定の人物のみが使用を許されている制約が課せられているみたいですね」
「えっと、どうすれば相手に連絡が取れるんだ?」
本当ならばイリスさんに任せたいところであるが、制約が課せられているならば連絡をとれるのは俺しかいない事になる。
「簡単ですよ。これに触れて声を出すか、念じれば依頼主へ表示されます」
「そうなのか。とりあえずやってみるか」
言われたまま、依頼主へ返事をする。
『初めまして。今回依頼を担当させていただくクドウシンヤと申します』
念じる様に胸中で言葉を紡ぐと、考えた言葉の通り返信の文面が依頼書に表示された。
「できましたね、シンヤ様」
「あぁ。ありがとう、イリス」
初めての魔法の使用に少しばかり感動してしまう。
『それではクドウさん。依頼書通り、写生の協力をお願いしたいのですが、これからお時間の程はよろしいでしょうか? よろしければ、プティーズ・アカデミーの門前で落ち合いたいと思います』
『問題ありません。プティーズ・アカデミーの門前ですね? 了解致しました』
『具体的な仕事内容は合流してからお話しさせていただきます』
集合時間と特定の待ち合わせ場所は決まった。
あとは、依頼主と合流してレッツワーク。
想像していたギルドの仕事とだいぶ違う内容であったが、今は自分の生活費を稼ぐために精一杯頑張るとしよう。
***
俺達は早々と指定された待ち合わせ場所、プティーズ・アカデミーの門前にたどりついたのであった。指定された時間よりも少し早いけど、依頼主を待たせるよりかははるかに良い。
社会人になったら、時間は絶対に守ること。特に待ち合わせの際は十五分前には到着することを心がけることだ、とよく父親から口をすっぱくして言われたな。自分が母親とのデートに遅れて散々な目にあったから説得力がありすぎて怖かったのを覚えている。
「あれ? そこに見えますはクー君こと、クドウシンヤ君じゃありませんか?」
「……げ」
「なによ、その「げ」ってのは」
振り向くと昨日お会いした門番娘の一人がそこにいた。
あからさまに嫌そうな顔をされて気分を害したらしく、かわいらしい頬を膨らませて文句を言ってくる。
「こんにちは、ダイナさん。お仕事お疲れ様です」
「こんにちは、イリスちゃん。今日はどうしたの? 確か訪問申請はなかったよね」
「本日はシンヤ様のお仕事に同行させてもらっています」
「仕事? へぇ。何の仕事をしているの?」
「はい。シンヤ様はギルドに所属致しましたので――」
「おい、ちょっと待てイリスさんや」
慌ててイリスの口を塞いだのだが手遅れであったらしい。
ギルドと聞いてダイナさんは「へぇ」とにやにやと笑い始める。
「今日もクー君のパイハンドが唸る訳なのね」
「誰の手がパイハンドだ。それとそのクーってもしかしなくても俺の事だよな?」
「可愛いでしょ。あと、イリスちゃんが良ければイーちゃんって呼んでもいいかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
イリスさんには同意を求めたのに、どうして俺は強制的なんだろう。
「んで、クー君。ギルドの仕事ってやっぱりあれでしょ? そんなに触りたいなら、言ってくれればいいのに」
「まず、ギルドイコールあれと言う考えから離れてくれ。たとえその方程式が正しいとしても、俺が受けた仕事は至極真っ当な部類の奴だ」
「そんなこと言っちゃって。最終的には昨日の私達みたいに弄んじゃうんでしょ」
「人聞きが悪い。誰かに聞かれたら誤解されてしまうだろ! ねえ、イリスさん」
「えっと……」
おい。そこで気まずそうに視線をそらすな。
それとも何か。昨日の俺はダイナさんとユニスさんを弄んだように見えたのかい。
「そ、そんな事より、本日はダイナさんお一人なんですか? ユニスさんの姿が見えませんが?」
この子、あからさまに話題をそらしたぞ。
俺と結婚したいとかいろいろと言ってくれたのに、いざという時の扱いが辛辣すぎる。
「いま交互に休憩を取っているの。交代の時間までまだ半日あるからね」
「大変ですね。お仕事頑張ってください」
「ありがとね。昨日も言ったけど、今度一緒にご飯でも食べに行こうよ。勿論クー君も一緒にね」
「それでしたら、念話登録しませんか?」
「そうね。連絡手段を持っていた方が今後楽だものね」
どうやら今後の為に念話の登録、と言うものを行うらしい。話だけを聞く限りだと、仲のいい友人同士で電話番号の交換をしているようにしか聞こえない。
「それじゃあ私から始めるわね、イリスちゃん」
「はい、どうぞ」
お互いに了解を得た両者は念話登録の行動に移るのだが――。
「ちょっとストップ」
「ちょっと何をするのよ、クー君」
「なにをするも何も、何でダイナさんはイリスさんの口に指を突っ込もうとしたのさ」
「なにをって……。いま、この登録方法が流行っているの知らないの?」
「知るか、そんな流行り」
本当に次から次へとボケをかませてくれる、この世界は。
イリスさんの話では相手に自分の血液を取り込ませればいいとのこと。
今の今までは自分で指を噛んで出血した血を舐めてもらっていたんだが、今は相手に指を差し出して血を吸って貰うなんて行動が主流らしい。
聞くだけで痛くなる話だと思うのは、俺だけであろうか。
「けど、とっても良いと聞きますよシンヤ様。なんなら、シンヤ様もお試しになられますか?」
「あっ。それは良いね」
なんですと。それはつまり、お二方が俺の指をくわえると言う事か。
……はっ。思わず想像してしまった。
危ない危ない。何て夢にもあふれ、もとい! なんて危険極まりない行いだろう。
夜一人で想像していたらテクノブレイクになってもおかしくなかったかもしれない。
「えっと……。俺はいいや。それより、依頼者はまだかなぁ」
「あからさまに話題をそらしたね、クー君。いーわよ。私はイリスちゃんと登録しちゃうから」
二人が念話登録をしている間、俺は依頼主に現着したことを告げる。
そこそこ時間も潰せたし、今連絡をすれば丁度良いだろう。あまり早い時間に到着したことを連絡すると相手を慌てさせちゃうからな。
『お約束しました待ち合わせ場所に到着致しました』
『わかりました。私も傍にいますので、直ぐに向かいますね』
息をつく間もなく返信が来る。
と、同時に閉ざされているプティーズ・アカデミーの門がゆっくりと開かれるのであった。
「……へ?」
門番のダイナさんもこの時刻に門が開くとは知らされていなかったのだろう。自分の指をイリスさんの口に入れた姿のまま、目を丸くさせて固まってしまう。
「あの……」
門から登場した者は随分と可愛らしい御嬢さんであった。
恐らくイリスさんよりも若いかな。……いやいや、ナディアさんの例もあるからもしかしたら自分達よりも年上の可能性もあるのか。
「あなたは、シンディーさん? どうしたのですかこんな時間に?」
「……シンディー?」
その名前、昨日リリスから聞いたような気がするんだが。
「ちょっと仕事で……。先生にはちゃんと許可を頂いたから」
「仕事? まさか、ついに新作が完成するんですか。うわぁ。それは楽しみだな」
「う、ん。も、もう少しで完成するから。ま、待っててね」
「はい、楽しみにしています。シンシア先生」
「そ、その名前は、言わないで」
どうやらダイナさんとは顔なじみのご様子。
そのシンディーさんは俺の持っている依頼書を見るなり、目を大きく見開いた。
はて、と首を傾げる前に気づいてしまう。彼女の手には、俺が所有している仕事の依頼書と同様な物があることに。
「まさか、あなたが今回の依頼者さんですか?」
「は、い。ク、クドウさんで、ですよね。わ、わたしはシンディー・リシャール、です」
「初めまして、工藤伸哉です。本日のご用件を伺っても」
「あの、その……。実は」
魔法を使用してシンディーさんはある物を取り出す。
それは一冊の本であった。しかも、気のせいかある人物に見せられた本と題名が類似している気がする。
『勇者様と一緒』
大事なことだから二回言っておこう。
それは、気のせいか下着ウーマンに見せられたエロ本の題名と類似している気がする。
気がするというか、題名がまったく一緒な気がする。あくまで気がするだけだよな。
「私の新作のモデルになってくれませんか?」
どうやら、俺は選択肢を間違えてしまったらしい。
全ての選択が外れなんて運命の神様も意地悪な事をしてくれる。




