創作種目
ナディアさんの言うとおり、創作種目は課題種目と違って実に見応えがあった。
課題種目と違い魔法が加わるだけで派手さが増し、次にどんなアクションが出るのだろうと言うわくわくする。
「エストックさん。魔法に気を取られてアスベスクがなっていません。足の爪先をまっすぐ伸ばす意識をしっかり持ちなさい」
「はい」
創作種目は課題種目と違い、個別指導のようでナディアさんが気になった生徒の元に近寄って今の様に指導を行うようだ。
「フィリアさんのダンスベースはバレエなんだな」
「……ばれえ? なんですか、それは」
上手く説明することなどできなかったので、イリスさんの質問に「俺の世界にも似た様な踊りがあるんだよ」と答える。
確かアスベスクなんて言葉もバレエにあったはず。意味はよく知らないが。
「水の造形魔法を使って上手く合わせていますね。お嬢様のスピードを生かした踊り方と違い優雅さがあります」
リリスのダンスはほんの少ししか見ていないから何とも言えないが、クスハさんの言うとおり一つ一つの動作がしっかりしている。構成の殆どが爪先立ちにも関わらず体の芯がぶれずにいた。
「それもそうだけど、創作種目は服装も自由なんだな。今の彼女の服装なんか完全にチュチュ姿だしな」
「個人パフォーマンスも兼ねています。服装は個人の私物を使っています」
創作系で驚いたのは踊りの初めに全員の服装が一瞬にして着替えられたところであろうか。一瞬にして服装がチェンジするものもいれば、踊りに合わせて一つ一つ服装が変わるものもいたし、気分は魔法少女が変身するシーンを目の当たりにした感じであった。
フィリアさんも最初の方は普通の練習着であったのだが、カプリオールと呼ばれる片足の足を振り上げながら、もう一方の足で踏み切って飛んだ直後に今の姿に変身したのであった。服装と一緒に髪型が変わったり、それ用のメイク姿に変わったので見た瞬間度肝を抜かされたが。
「ちなみにリリスの正装はチアリーダー姿なのか?」
「ちありーだが何を意味しているか分かりませんが、それは見てからのお楽しみですよ」
興味本心でリリスの正装を聞いたが、クスハさんにはぐらかされてしまった。
朝の練習の時を考えるとリリスの正装は身軽な格好だと推測できるのだが、彼女の言うとおりそれはお楽しみに残しておこう。
「皆さん、綺麗ですね。華やかでそれにとっても楽しそうです」
イリスさんの言うとおり、課題種目と違って創作種目を行っている彼女達は非常に生き生きしている。楽しそうに表情を綻ばせている事から直ぐに分かった。
まあ、一つだけ言わせてもらうと何人かは体のラインやら色んな所を強調させて扇情的な姿だったので非常に目の保養となって大変よろしかったです。
「ちなみにシンヤさんはどの方の服装がお好みですか?」
「そうだね。十五番の胸元が開いたミニドレスは個人的にって、何を言わせるんだよクスハさん」
思わず本音を言ってしまったではないか。
「なるほどなるほど。ああいった類の服装がお好みと」
「そうなんですか。……メモメモ」
「二人とも。俺の言葉を無視しないでよ。特にイリスさん、あんた何をメモっているんだ」
「い、いえ。何もメモってなんかいませんよ」
「嘘つくな。いま、魔法を使って手になんか書いていただろうが」
この二人油断も隙もあったものではない。
気を付けなければ、そのうち人の個人情報を余す事無く聞かれそうだな。気を引き締めなければ。
「そんな事より、シンヤ様。そろそろお嬢様の所に行きましょう」
「そんな事よりって。イリスさん、あなた何気にいい性格しているよね」
「はい?」
そんな「何のことやら」とあざとく小首をかしげても騙されないからな。
可愛いのは否定しないが。
「まあまあ。それより、お嬢様のお姿を見に行きましょう。そろそろ、体力も回復なされて練習を始めたと思いますし」
クスハさんに促されて渋々ながら会話を止めて、リリスの元へ歩み始める。
リリスは課題種目のせいで体力の殆どを消耗したのか、体力が戻るまで軽いストレッチをしながら体力の回復に勤しんでいた。彼女の所に居続けると直ぐにナディアさんの目に入ってしまうので今は離れていてね、と言われていたので今に至る。
「あっ。どうやら始めたようですね」
既に練習を始めていたのか、リリスは本番用の服装に着替えた状態で個人パフォーマンス用の演目を始めていたのだった。
「……なんでレオタード?」
リリスの本番用の服装は体操選手が着るようなレオタードであった。
白を基調とし、炎をイメージしたデザインが描かれていたレオタードと思わしき服装をしている彼女は朝の練習で拝見した踊りを始めている。
「そのレオタードって言うのも分かりませんが、踊りやすいように全身をフィットするような服装にしてみました」
「……え? あれってクスハさんがデザインしたの?」
どうやらリリスが今現在着ている奴はメイドインクスハであるらしい。
ちなみに、朝見た服装も彼女作とのこと。ここは流石メイド長と評した方がいいのだろうか。少し残念な部分もあるけど万能すぎませんかね。
「リリスさん。フロントスリップの時、頭が上がっています。それに目を瞑っていたら大変危険ですよ。あと着地してからの次の動作が遅いです」
ナディアさんの指導が入る。
フロントスリップとは恐らく前方宙返りの事を言っているのだろう。
てか、目を瞑っていたのかよ。それでよく今まで怪我することなく無事に済んだな。
「あと、魔法を発動するタイミングがバラバラです。少しはどうにかならないのかしら。あなたは個別の成績はいいのだから、もう少し頑張ればいいプティーズになれるのに」
「ど、努力します」
「そうしてちょうだい。次の発表考査も成績が悪かったら、進級も危ういですからね」
「……はい」
あまり芳しくないご様子。
こちらから見ていてもワンテンポ、いやツーテンポほど魔法と彼女の動きがずれているのが分かる。リリスが得意としている魔法は炎系統らしく飛ぶと同時に羽根を展開させて飛翔するイメージを作りたいのだろうけど、発動するタイミングがいつも飛んでから回転する直前なんだよな。そのせいで一番見せたい回転技が魔法で隠れてしまい、せっかくのアクロバティックな技が魅せれない。
一通り、彼女の演目をやりきった後、俺は元々リリスが用意していたタオルを投げて渡す。
「お疲れ。どうやらあまり上手くいっていないようだな」
「……ありがと。たはは、華麗に舞って魅了させちゃおうと思ったのに、恥ずかしいな」
受け取ったタオルで流れる汗を拭う仕草にドキッとしながらも、それを悟られないように次は水が入ったボトルを渡す。渡されたボトルにほんの少し口にしたリリスはそれをイリスに渡し、大きく深呼吸するように上体を反らしたのだった。
「やっぱ、少し難易度の高い技を入れすぎたかな。一回通しで踊っただけで疲れちゃうな」
「あんな迫力のある技を続ければ、誰でもそうなるさ。少し難易度の低い技を挟んで緩急をつけたらどうだ?」
技の構成を見た限り、リリスの踊りは激しすぎる。クスハさんが言った通りスピードを生かしたダイナミックな技の連続を基本構成としているが、それはいくらなんでも無謀すぎる気がする。
俺の世界の体操だって、大技は多くても三回で後は難易度を下げて体力を調整しているはず。やったことがないからよくわからないけど、回転技は思った以上に体力を消耗するはずだ。それを数えただけで軽く十回以上も組み込んだからそりゃあヘトヘトになるはずだ。
「そうなんだけど……。これぐらいしないと、私が目指すプティーズにはなれないと思うんだ」
「その志は立派だと思うが、今のままだと次の考査は危ういんだろ?」
「そうなんだけど、それは努力あるのみ。頑張って上手くなるだけよ」
そうは言うが、努力ではどうにもならない事もある。
志が高く向上心があるのは結構だけど、最大の欠点である魔法のタイミングをどうにかしないとどうにもならないと思うのだが。
……それを俺なんかが言っても説得力はないか。もし、彼女のやり方がまずかったらクスハさんが何か指摘するだろうしな。
「わかった。変な事を言って悪かったな。練習、頑張ってくれ」
「ええ。ありがとね、シンヤ」




