授業に遅れました
左を向けば、ぷるん。右を向けば、ぷるるん。
前を向けても、後を振り返っても、周囲のどこを見渡してもぷるるんのるん、と言った頭の悪そうな擬音が聞えてくる。
なんだここは、これがいわゆる桃源郷と言うものであろうか。視線をどこに向けても上半身裸の女性、しかも自分と同年代ぐらいで可愛らしい女性しかいないのだ。男の理想郷と言っても過言ではないかも知れない。
「シンヤ様。なんで鼻を摘んでいるのですか?」
興奮して鼻血が出そうになっているの、言わせないで恥かしい。
なんて言えるか。
「イリス。シンヤさんはこの光景に興奮して鼻血が出そうなんですって」
「ちょっとクスハさん! 人の心を読むだけじゃなく、勝手に心情を暴露しないでくれ」
仕方がないでしょ。こんな大勢の女性の裸体を一度に拝めるなんて普通はありえないんだから。しかもみなさん、自分の事を気にする様子もなく普通に着替えはじめているし。
訂正。俺の視線に気付いて恥かしがるどころか、アピールする人もいたよ。
ちょっとやめて! どこで学んだのか知りませんが後首に手を回して上半身をのけぞるのはご勘弁を。その隣の人も、寄せて谷間を強調して前屈みにならないで。俺の体が前屈みになっちゃうから。口にして言えない場所がのけぞっちゃうから。
やばい。非常にやばい。幾ら俺の理性強度が優れていると言ってもこんな場所にい続けたらいつ屈折してしまうか分からない。座屈してしまったら後は崩壊あるのみなんだぞ、知らないのか。いま、それもいいなと思ってしまった俺に後で鉄拳を制裁しておこう。
「……な、なんで。どうしてこうなった」
「何でって……。午後からの授業は基本的に体を動かす授業ばかりだから、こうなるのは必然じゃない?」
「知らないよ。ちょっとリリス。お前、これを分って俺に参加させるように言ったんじゃなかろうな」
この場合、孔明の罠かと絶叫した方が良いのかな。言っても通じないか。
「何を言っているのか分らないけど、昨日さんざん見て揉んだのだから、そろそろ慣れて来ても良いんじゃない?」
「慣れるか!」
仮に慣れてきてしまったら、それはそれで男として色々とダメだろ。
「……さっさと、食事を済ますべきだった」
俺達が食事をしている間、リリスのクラスメイト達は相手にしてもらえないと察すると次の授業の為に準備を済ませようと行動を開始したのであった。
リリスが言うには午前中は座学で、午後は基本として体育のようだ。それ故に彼女達が制服から練習着に着替える必要があるのだが、この学園は基本として男は一人も存在しない。だからこそ、俺の世界のように女性用の更衣室など存在せず、普段から教室で着替えているらしい。
そうなのだ。彼女達は男の俺がいるにも関わらず、堂々と制服を脱いで練習着に着替えようとしているのだ。唐突に大勢の女性が上着を脱ぎだした時、思わず口に入れていた飲み物を噴出しそうになってしまった、何とか口を押えて噴出す事だけは押えたのだが。
「だったら、さっさと着替えればいいのに。何故、上半身のみ裸で手を止めているんだよ」
不思議な事に、下の方はさっさと着替えたかと思うと、それ以降一向に服を着ようとしない。もう、なんと言うかさっきから“ぷるんプルン”と擬音が鳴り止まないのだが。
「それは……。普段から見比べて自慢大会する傾向があったけど、ここまで停滞しているのは恐らくシンヤに原因があると思う」
「俺にか?」
やっぱり、男がこの場にいると着替えにくい――なんて考えるのはおかしいか。それなら、最初に誰かがリリスにでも伝えると思うし。
「シンヤ様。恐らくは、みなさん期待なさっているんですよ」
「期待? なんの?」
「それはその……。さっきのお話を思い出していただければ、お分かりいただけると」
「ふむ」
さっきの話と言うと……。え、おい。まさか。
「まさかと思うが、昨日みたいな事をやって欲しいと?」
「お察しの通りです」
「……マジかよ」
何て嬉しいお誘いか。
いやいや、こんなところでそんな事をしたら確実に煩悩塗れのサルになってしまうから。
強度の誇る俺の理性でも、直ぐに限界点を通り過ぎちゃうから。こんな事で限界突破を開眼させたくないよ。
「それで、どう致しますかシンヤさん」
「クスハさん。そのどう致します、ってどう言う意味で言っているんだい」
「決まっています。この状態で何もしない、何て選択肢があると思っていたんですか?」
「鬼か!? あんたは鬼なのか!? この場で昨日みたいな事をしろと? それは幾らなんで酷とは思わないのかよ」
「と、言われましても昨日は大勢の部下達の前で披露したと聞きましたが」
「あれは! あれは強要されたの。何もしなかったら襲われると思ったんだよ。貞操の危機だったんだよ」
「そうですか……。それなら、尚更実行する事をお勧めいたしますよ。むしろ、今の状態の法が危機的状況は高いと判断しますが」
「まさか。幾ら何でも……」
チラッと女性人を見ると、ほぼ全員がこちらに視線を投げ掛けている。慌てて目線を戻し、何事もなかったように振舞う。
「諦めたら、シンヤ」
「なに、嬉しそうな顔で言うんだよ。リリス、俺が男だと言う事を忘れたんじゃなかろうな。どんな草食系男子でもこの状況で肉食にクラスチェンジしないはずないだろ」
今でも悪魔の姿をした俺が「本望を解き放て」と囁いているんだぞ。天使の姿をした俺も「もう、本気を出すときだろ」と屈し始めているんだからな。
「けど、何もしないとそのうち、誰かに襲われるんじゃないかな?」
恐らくリリスの言葉は正しいのだろう。しかし、だからと言ってこの状況で昨日のようなことをしたら、確実に破断する。理性など完全崩壊しちゃう。だからと言って今の俺にどうこうできる対処法はない。
「……リリス」
「なに――」
俺はリリスが答えるよりも早く、自分の膝に座るように彼女の手を引張る。
「ちょっとシンヤ。いきなりひゃぅ」
両脇から手を回して、上着の上からリリスの胸を揉み始める。俺も多少ながら興奮していたのだろうか、昨日よりも揉み方が大胆な気がする。
「ちょ、ちょっと。何もいきなり――」
抗議の声を上げるが、そんな事は気にしない。
揉まなくてはいけない状況にあるならば、少なからず耐性を持っているリリスでないと高が外れてしまうはず。
俺から逃れようと抵抗するのだが、逆に興奮する潤滑材になってしまっている。初めはただただ握るように揉んだだけなのだが、次第に揉み方に遠慮がなくなっていく。
「ちょっと。なんだか昨日よりも上手くなっていない。あ、ちょっと。ね、ねえって」
「少し大人しくしてくれないか。ちゃんと揉めないだろ」
「だからって、こんな体勢で。あ、んっ。声が、声が出ちゃうから」
「今更何を言っているんだよ。揉まないとダメだといったのは、リリスだろ。俺は忠実にそれを行動に移しているだけだ」
「だからって。あ、待って待って。上着は、上着は脱がしちゃダメ」
「どうせ着替えるんだろ。いいじゃないか、脱がしても」
何をいまさら。
人をさんざん煽っておきながら、それはないだろうに。
しかも、脱ぎやすいように自分から両手を挙げているじゃないか。
リリスの上着を脱がせると彼女の小山が露に……。露になっている?
「リリス。お前、今日はノーブラだったの?」
「ち、違うわよ。これはたまたまで」
そんなたまたまがあってたまるかよ。
理性も良い感じで壊れ始めてきているようだ。もっとリリスの体温を感じたいが為に、自分の方へ引き寄せて、下から掬い上げるようにもみ始める。
リリスの声が徐々に増え始めてきた時、後ろから「いいなぁ」と声が聞える。声からして恐らくイリスさんのものだろう。
皮肉な事に彼女の声が崩壊しかかった理性を再構築させる事に成功したのであった。両手を動かしたまま、周囲の様子を確かめると全員が俺とリリスの行為を見ていた。
顔を赤くしながら、瞬き一つしないで注視しているもの。手で覆い隠しながらも、指の隙間から興味深そうに見ているもの。思わず、自分の胸に手を当てて生唾をのむもの。
全員が全員、興味津々に見続けていた。
……さて、そろそろ頃合かな。
「もう、いいか?」
「あ、ん。……シンヤぁ、少し強引過ぎるよぉ」
「そいつは悪かったな。ほら、涎を拭けよ」
「その前に。あの、離してくれないかな」
「おっと、そいつは悪かった」
柔らかくていい匂いがするから、未だに抱き寄せていたよ。
しかし、この体勢ってクセになりそうだな。
って、いかんいかん。煩悩退散煩悩退散と。
「今ので大きくなったかな」
解放されたリリスは自分の胸を掴み、変化がないかを確認する。どうやら、今のでサイズアップしたのではないかと考えているご様子だが、一ミリの変化など触ってわかるはずもない。
そんな彼女を跳ね除けて、数人の女性人が俺の下へ押し寄せる。
「あのあの、もしよければ私もお願いします」
「ずるいわよ。触るのならば私の方が大きいわよ」
「いーえ。やわらかさといえば、私です。さあ、お手をどうぞ」
……おい。
悪化しているじゃないか。
今のリリスの光景を見て、完全に感化されているようだ。どの子も実に素晴らしい果実をお持ちのようだが、これ以上続けたら絶対にやばい。
先遣隊の彼女達が動いた事を気にこの場にいたクラスメイト全員が始めの頃と同じ様に押し寄せてくる。違うとしたらほぼ全員が上着を脱ぎ去っていることだけ。
やばい。絶対にやばい。こんな大勢の女性に、しかも上半身裸と言うオプション状態で押し寄せられたら確実にやばい。
逃げなくては。けど、逃げる場所などどこにない。仮に逃げられたとしても、彼女達には魔法がある。瞬間移動でもされたら太刀打ち出来ない。どうする、どうするよ俺。
そんな絶望的な状況の中、学園全体に鳴り響く救いの鐘が鳴り響いたのであった。
午後の授業が始める鐘の音が。
『……あ』
一同、同時に声を上げる。そして気付いてしまう。
自分たちが午後の授業に遅れてしまったことを。




