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どうやら、彼女達は男という生き物を多大に勘違いしているご様子。男の出生率が減って同い年の男がいない故に仕方がないと言えば仕方がないのだが、彼女達の偏った知識はすさまじいものであった。
彼女達曰く、男と言う生き物は一日に最低三回は発散しなくては生きていけないらしい。それを聞いたとき「こいつら何を言っているんだろうか?」と口をあんぐりさせて程だ。
「なんか、母様から聞いていたのと随分違うな」
近くにいた女性が、俺の返答を聞いて思ったことを口にする。そりゃそうだ。あなたが言ったような三日三晩続けてハッスルできる男などいるはずがない。いたら俺が弟子入りしたいぐらいだよ。
それもこれも、全ては彼女達の母親に当たる人物達が悪いようだ。今の三回発散と言う件も実母から聞いたそうだ。実の娘になんて事を言うんだよ、と激しく説教したいと思ったのは初めてかもしれない。
「……なあ、いい加減にこの拷問をどうにかしてくれないか?」
ある方面に特化された質問の数々に色々と我慢の限界が来ている。俺の隣で「なるほどなるほど」と感心したように頷くリリスに訴えると彼女は「え、もう?」と驚愕の声を上げるのだった。
「もう、じゃないよ。いったいどれだけ質問攻めにあっていると思うんだよ。しかもある方面に一点突破とか。流石に引くぞ、マジで」
「そう言われても、同い年の男の子ってシンヤしかいないから、こうなるのも当然と言えば当然だと思うけどな。むしろ、脱がされないだけいいんじゃない?」
「ぬがっ……。ちょっと待て。幾ら何でもそれはないだろうが」
想像するだけで恐ろしい。
もしも、目の前の女性陣に襲われたら衣服を死守する事は難しいだろうな。彼女達は魔法という手段を持っているんだし。だからと言って、大人しく脱がされるわけには行かない。こんな大勢の前で脱いでしまったら、確実にトラウマになってしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない。
「一応釘を刺しているけど、大人しくしていないと危ないよ。みんな、異性に興味津々だし」
いま「かく言う私も」って小声で漏らしただろ。聞えているんだからな、何気に地獄耳なんだからな。
だいたい、リリスは昨日の風呂場で見ているじゃないか。俺が嫌だといっているにも関わらずエリスさんと協力して羞恥心を煽るような格好をさせたくせに。リアルで「お婿さんにいけない」と思う日が来るとは思わなかったぞ、おい。
「リリス、後で覚えていろよ」
「そんなことよりも、彼女の質問に答えてあげたら?」
「くっ。……えっと、あれ? キミは確か」
次の質問者に見覚えがあった。確か皆が自己紹介の一番乗りを巡って争っている中で、爆弾の言葉を投下させてあっさりと一番槍を得た彼女であった。
たしか、彼女の名前は……。
「フィリア・エストックさんだよね?」
「はい。覚えていただいて嬉しいです」
自分の名前を覚えてくれていた事に嬉しく思ったのか、満面な笑顔で返された。背中越しに大輪の華が咲いたように見えたのは眼の錯覚だろうか。
「……まあ、あんな爆弾を投下されたらね」
むしろ、忘れたくても忘れられないぐらいだ。あんな唐突に「リリスの胸を揉んだの?」と聞かれて記憶に焼きつかないわけがない。
「その……。さっきはすみませんでした。どうしても、得意げに自慢するリリスが言っていた男の人とお話ししたかったので」
「得意げに……?」
え、なに?
つまり、彼女が爆弾を投下したのはリリスに責があったと言う訳なのか。
「はい。何でも揉まれた事で一ミリ大きくなったとも言っていましたけど……。あの、本当なんですか?」
その問いに俺が「はい、そうです」と答えられると思っているのだろうか。
「フィー。まだ信じていないの。ちゃんと規定の測定魔法を使ったんだから、本当の事ってあれほど言っているじゃないの」
「けど、リリーちゃん。測定魔法だって万能じゃないんだから、誤診があっても不思議じゃないと思うけど」
「誤診じゃないわよ。本当に一ミリ大きくなったんだから。ねえ、シンヤ」
いやいや、そこで俺に同意を求めるのは激しく間違っていると思いますが。
「ねえ、と言われてもなあ」
何もそんな事でムキにならなくてもいいじゃないか。それに一ミリなんて大して変化していないと思うのは俺だけか。周囲の女性陣も「一ミリだって」何て言いながらクスクス笑っているし。
「まあ、彼女の胸を揉んだ揉んでいない、と言う話しの答えは「揉んだ」ですけどね」
「え!? それは本当だったんだ」
「……フィー。それも嘘だと思っていたの?」
心外だ、と言いたげに眼を細めるリリス。
「だって、普通はそう思うよ。今までそんな話し、聞いたことないし」
うん。それについてはこちらも同意見である。本当かどうかまだ判明できていないところであるが、俺が揉むと大きくなる作用が働くなんて誰が思い至るところであろうか。
そんな意味不明な能力を得たところで、使い道はこれぽっちもないと言うのに。
「ねね。やっぱり、自分で揉むのと違うって本当なの?」
「そうね、それは本当だったよ。なんて言うか、自分で触るよりも――」
ちょっと待って。
異性がいる前でピロートークを始めるのは待って欲しい。あんたら、どう言う神経しているのさ。けれど、俺が幾ら「やめろ」と声を上げても、彼女達のピロートークは止まらない。むしろ、興味心身で二人の会話を聞いていた多くの者達がリリスを取り囲む。
「なんか、凄い事になっていますね」
周囲の者達がリリスの元へ集まってきたのを見計らって、クスハさんとイリスさんが傍まで近寄ってきた。
「そう思っているなら、助けてくれても良かったんじゃないか?」
「そういいながらも、内心では嬉しそうな声を上げていたじゃないですか」
……やっぱり聞かれていたか。
人の心の声を聞き取れるとかチートもいいところだよな。
けど、ここで動揺を見せたらクスハさんの思惑通りになってしまう。この人、時折だけど人をからかう事があるからな。
「彼女らの男性に対する見識は、正直に言って問題ありまくりだぞ。まさか、クスハさん達も似た様な印象を持っていないでしょうね」
昨日は普通に接していたと思うけど、内心では何を考えているか分らない。まさかと思いたいが、この二人も男はケダモノだと思っていないだろうな。
「え、違うんですか?」
予想的中だったようだ。イリスさんが眼を丸くさせて言ってくる。まあ、彼女は目の前の学生さん達と同様に母親から変な常識を教えられた一人だからある意味、この反応は正しいのかな。
「違うに決まっている。俺がケダモノだったら、真先にイリスさんを襲っている」
「そうなんですか。てっきり、今日あたりにでも来ると思っていたのですが」
そこで残念そうな顔をしないでくれ。
「でも、シンヤさん。何だかんだ言ってやってしまっていますよね。もしかして押しに弱いとか?」
「……さあ、どうだか」
クスハさんの指摘に「そうなんだよね」と同意する訳にはいかない。彼女の言うとおり、何だかんだ良いながら女性の胸を揉んでしまっているのだから、きっと押しに弱いんだろう。
自分の世界で女性に迫られる様な体験をしていないから、どう対処して良いかわからないのだから仕方がない、というのは言い訳にならないかな。ならないだろうな。
そんなくだらない事を考えていると、俺のお腹から盛大に「グゥ」と音が鳴る。慌ててお腹を押えるのであったが、逆にそれがいけなかったのだろう。腹の虫がなったのを聞いて、クスハさんとイリスさんは「ぷっ」と小さく息を漏らす。
「そう言えばお昼、まだでしたね。イリス、シンヤさんの分は用意したのでしょう」
「もちろんです。お二人の分も確りと用意させていただきました」
いそいそと昼食の準備を開始するイリスさん。
「たくさん作ってもらいましたので、一杯食べてくださいね。もしよければ、感想などをお聞かせ願いますと嬉しいです」
はにかみながら、昼食を準備し終えた彼女の言葉に対して素直に喜ぶ事が出来ないのは何故だろうか。けど、机に並べられた昼食の数々は食欲をそそられるものばかり。見たことのない食材などもあったが、きっとこちらの世界ならではのものなのだろう。
「これはまた、随分と思い切った事をしましたね、イリス」
並べられた食材を見て、苦笑しながら言うクスハさんの言葉に「えへへ」と恥かしそうに笑い返すイリスさん。
はて。思い切ったことと言う言葉に引っ掛かりを感じるのだが、気のせいだろうか。
「さあさあ、遠慮しないでたくさん食べてください」
いそいそと近くにあった椅子を用意して、座るように促してくる。俺は彼女の催促に従い、昼食が用意された席に座った。
「では、遠慮なく」
用意されたフォークを使い――この世界には箸は存在しないそうだ――昼食を口にする。シルフィード家の食事でも思ったことだが、料理を作った人の腕は相当のものであった。一口で食べられる大きさに切り分けており、飽きない様に味付けに工夫がされていて美味しい以外の感想が思いつかなかった。
「だからね。私は思うんだけど……。って、シンヤ。何一人で勝手に食べているのよ?」
今の今まで話しに会話を咲かせていたリリスがこちらの状況を見て話しかけて来る。
「勝手にって……。え、なに? まさか、まだ食べていなかったわけ?」
「当たり前よ。シンアを迎えに行ってから、ずっと話していたんだから食べる暇なんてなかったわよ」
「それじゃあ、さっさと食べた方が良いんじゃない? 午後も授業があるんだろ。食べないと大変だぞ」
「し、仕方がないじゃないの。……こんなにクラスメイトと話したの初めてなんだし」
最後の言葉は聞かなかった事にしてあげよう。けど、なに? リリスってもしかして人付き合いが苦手……って感じはしないな。今の今まで生き生きとしたし。話している最中も物凄く楽しそうに見えたのだが。
「……そこは色々あったんですよ。ですから、あまり触れないでください」
「だから、俺の心情を聞き取るのやめてくれませんか、クスハさん。まあ、もとより詮索をするつもりなんてありませんよ」
「ありがとうございます、シンヤさん」
クスハさんのお礼に対して「どう致しまして」と心の内で返礼する。
「二人してなにこそこそ話しているの?」
「いや、何も」
「そうです。お嬢様は気にする事ではありませんので」
リリスの言葉に俺とクスハさんが同時に答える。そんな俺たちの態度にリリスは怪訝な表情を浮かべながら、俺の隣に陣取って昼食を食べ始めるのであった。
「って、俺達と一緒に食べるよりもクラスメイトの子達と一緒に食べて来いよ」
「みんな、既に食べ終わっているわ。食べていないの私だけなのよ」
「そうか。……しかし、なんだ。この学校ってめちゃくちゃ広いんだな。入ったとき、腰を抜かすかと思ったぞ」
「まあ、魔法を使った創作ダンスをメインとしているから、敷地は広くないと色々と困るのよ。私達は転移魔法が使えられる様に設定されているから、移動も苦にはならないし」
やはりと言うか、たまに失敗して損害が生じる事も少なくないらしい。リリスが言うには結界を展開させればそのような問題も減るとのことだが、それだと限られた時間と人数しか鍛錬に当てる事が出来ないとのこと。結界を維持させるだけでも魔力は大幅に減るようだ。以前までは分担して練習をしていたようだが、それだと練習する時間が大幅に削られるのは明白。そこで、改善策として上げられたのが空間を切り離すと言う離れ業を行使したらしい。
「けど、ここまでの力技を使うのだって簡単なはずじゃないだろ? いったいどこの誰がこんな事を?」
「この魔法を編み出して使ったのは奥様です」
「奥様って、エリスさんが!? す、凄いな。あの人、そんなに凄い人だったんだ」
昨日のあの人を見る限りではそこまで凄い人だとは思いもしなかったよ。
「ホントよね。ちょっと胸が大きいからってこんなに凄い魔法を使えるのだから。……はぁ」
自分の胸を確認して思わず溜息をするリリス。母親のエリスさんが大きい山をお持ちにも関わらず、自分の胸が母親の半分にも満たない事に落胆しているのだろう。
落ち込む彼女に対して下手に声をかけるのは愚策。最悪の場合、こんなところで屋敷と同じ事を強要される可能性も否めない。沈黙は金と言う言葉もあるので、俺は黙々とイリスさんが用意してくれた昼食を食す事にした。
そんなとき、理事長でありリリスの母親のエリスさんに俺達の授業参観を申請しに行った一同達が戻ってくる。何故行く時は転移魔法で戻る時はドアから入室したのか問いたいが、今は些細な問題だ。
「あ、おかえり。どうだった?」
申請組みの期間にいち早く気付いた生徒が訊くと彼女達はブイサインを決めて「許可を貰ってきたよ」と満面な笑みを浮かばせて言ったのだった。




